電気と電子のお話

6. アナログ IC

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6.1. オペアンプ

6.1.(1) アナログ IC の概要

6.1.(1-A) アナログとディジタル

◆ 私たちは、アナログの世界に住んでいます。長さ、時間などは、全てアナログです。しかし、石を、1 個、2 個と数えることから、人間は、数を覚えました。は、ディジタルです。
長さ、時間などの、アナログ量は、連続量 です。連続 とは、繋がっていて、切れ目が無いことです。これに対して、ディジタルは、間が空いています(図 6.1-1)。ディジタル量は、桁数を大きくすれば、合い隣る数の間は、いくらでも狭くすることができます。しかし、それでも、埋め尽くすことは不可能です。

[図 6.1-1] アナログ量とディジタル量

アナログ量とディジタル量

◆ 電気の最小単位は、電子です。したがって、1 つ、2 つと、数えることができます。この意味では、電気は、ディジタル量です。しかし、私たちが、日常接する電気は、電子の数で数えるには、あまりにも、数が多すぎます(図 1.1-7 参照)。電気の量は、実用上は、アナログの連続量と考えなければなりません。
◆  電気の量の、代表は、電流と、電流を流すための力となる、電圧です。そして、この、電圧と電流の関係が、抵抗(交流では、インピーダンス)でした。これらは、全て、アナログ量です。
◆  インピーダンスは、複素数で表現される、2 次元量です。複素数もまた、アナログ量で、表すことができます。
◆  アナログ量は、2 つの量を、相互に比較して、その大小を比較することが、できます。たとえば、棒の長さは、並べてみれば、比べることが、できます。しかし、アナログ量は、その絶対値を、定量的に表現すことは、できません。
◆  アナログ量の絶対値を表現するためには、ディジタル量である、数に頼る必要があります。たとえば、アナログ量である長さを、1.25 m のように表します。
アナログ量を、計測するときには、誤差の問題が、発生します(コラム 3.2-5 参照)。
◆  ディジタル IC などでは、アナログである、電圧値を使用して、ディジタル値を表現します。このディジタル値の表現には、2 値ディジタル を使用しています。
すなわち、電圧が、所定のスレッシホールド電圧よりも高いか、低いかで、1 ビットを表します。
◆  ただし、原理はそうですが、単純な、スレッシホールドではなく、ノイズマージンを設けています。このノイズマージンが存在することが、ディジタル信号を、ノイズに強くして、使いやすいものにしているのです。
◆  ディジタルの表現が 2 値であることが、デイジタル回路を単純化しています。原理的には、複数の電圧レベルを使用して、多値で、ディジタル値を表現することもできます。しかし、この、多値ディジタル (図 6.1-2)は、2 値ディジタルに比べて、回路が複雑になります。ノイズマージンも小さくなりますから、耐ノイズ性も悪くなります。

[図 6.1-2] 2 値ディジタルと多値ディジタル(6 値)

2 値ディジタルと多値ディジタル(6 値)

◆  この理由から、ディジタル回路には、専ら、2 値が使用されています。回路で直接取り扱う数も、2 進数です。しかし、私達が、日常取り扱う数は、10 進数です。10 進数は、回路上は、2 進数をベースとした、BCD で表します。カウンタの IC にも、2 進カウンタ 10 進カウンタ とがあります。

6.1.(1-B) アナログ IC の種類

◆  さて、アナログ IC (リニア IC とも言います) は、いろいろありますから、分類も、簡単ではありませんが、一応、図 6.1-3 のように、分けることができます。
データコンバータ は、アナログディジタル、ディジタル→アナログの変換ですから、アナログとディジタルの両方に、またがっていますが、通常は、図のように、アナログ IC に分類されます。
コンパレータ は、用途は、オペアンプと異なりますが、オペアンプ IC をコンパレータとして使用することも、できますから、オペアンプに含めて分類することも、あります。

[図 6.1-3] アナログ IC の種類

アナログ IC の種類

◆  電源リニア IC は、電源関係の IC です。電源は、アナログ/ディジタルを問わず、全ての回路を動作させるのに、必要です。監視 IC の、リセット IC は、パワオンリセット用の IC です。ウオッチドッグタイマ は、マイコンなどの、コンピュータの動作を監視して、異常を検出し、その異常を回復する IC です。 汎用リニア IC は、最も、アナログ IC らしい IC です。オペアンプ IC も、ここに分類されます。

6.1.(2) 理想オペアンプ

6.1.(2-A) オペアンプとは

◆  アナログ回路 の基本は、増幅です。トランジスタには、増幅作用があります。トランジスタの増幅作用を利用して、トランジスタ増幅回路を組むことができます。しかし、トランジスタには、各種の非線形性があります。トランジスタによって、線形性の高い増幅器を作ろうとすると、各種の非線形性を補正するために、複雑な回路になってしまいます。この複雑な回路を IC 化して、誰もが使えるようにした、増幅器が、オペアンプです。
◆ オペアンプ (OP アンプ )は、オペレーショナル アンプリファイア (演算増幅器 )の略ですが、フルネームで呼ばれることは少なく、通常、オペアンプ(OP アンプ)と呼んでいます。
オペアンプの図記号を図 6.1-4 に示します。図に示すように、オペアンプの電源は、単電源方式 と、2 電源方式 とがあります。いずれの場合も、信号は、反転入力端子 非反転入力端子 の 2 入力で、 出力は、1 出力です。
◆  入出力信号の電圧範囲は、ほぼ、電源電圧の範囲ですが、一般のオペアンプでは、電源電圧範囲よりも、若干狭くなっています。汎用オペアンプでは、±15 V の電源電圧で、入出力信号電圧範囲は、±10 V です。
信号電圧が、グラウンド(GND)を中心に、プラス/マイナスに振れさせる必要がある場合には、2 電源方式が必要です。

[図 6.1-4] オペアンプの図記号

オペアンプの図記号

◆  単電源方式には、レイルトウレイル (レールツレール )と呼ばれるものがあります。信号の入出力を、電源電圧範囲一杯に振れさせることができる機種のことです。
◆  オペアンプは、名前は、増幅器ですが、完成された増幅器ではなく、増幅器を構成する要素です。外付けの、抵抗と組み合わせて、増幅器を構成します。
また、リアクタンス素子(主にコンデンサ)と組み合わせることによって、フィルタなどの、周波数特性を持たせた回路を構成することができます。
外付け素子と組み合わせて、増幅器を構成する方式に、2 種類あります(図 6.1-5)。反転増幅器 非反転増幅器 です。また、非反転増幅器の一種ですが、その特殊形として、バッファがあります。バッファ は、増幅率が 1 ですから、増幅作用はありませんが、ロジックファミリバッファと同様な目的、用途に使用されます。

[図 6.1-5] 反転増幅器と非反転増幅器

反転増幅器と非反転増幅器
インピーダンス

◆  このように、抵抗やリアクタンス素子と、増幅回路とを、組み合わせたものを、アクティブ回路 (フィルタの場合、アクティブフィルタ)といいます。これに対して、抵抗やコンデンサなどだけで構成した回路を、パッシブ回路 (フィルタなら、パッシブフィルタ)といいます。図は、オペアンプを使用した回路ですが、アクティブ回路は、トランジスタ回路で組むこともできます。
◆ さて、反転増幅器、非反転増幅器のどちらを見ても、出力信号が入力に戻る経路があります(図の Zf)。この出力を入力に戻すことを、フィードバック (帰還 )といいます。このフィードバックは、出力を反転して加えています。このことから、ネガティブフィードバック (負帰還 )といいます。ネガティブフィードバックは、自動制御にも広く使用されている技術です(講座「自動制御の基礎と実際」参照)。ネガティブフィードバックは、システムを安定させる効果があります。オペアンプ回路も、フィードバックを有することによって、安定した動作が可能です。

[注] 伝達関数を使用すれば、フィードバック回路は、非フィードバック回路に、換算することができます(コラム 3.1-1(17))。

◆  オペアンプは、アナログ回路において、容易に、理想特性を持った回路を構成する手段です。ディジタル回路においては、ディジタル IC を使用することによって、論理演算を、ほぼ、理想的に実現することができます。ただし、100% 理想的にすることは不可能です。ディジタル IC において、現実特性を考慮する必要がある第 1 は、遅れ(伝播遅延時間)です。そして第 2 は、ファンアウトです。これらの、特性値が満足できるような、ファミリを選択する必要があります。
◆  オペアンプは、アナログ用の IC ですから、ディジタル IC よりも、特性が複雑です。また、目的用途によって、重視しなければならない、特性項目が異なります。この要求に対応するために、オペアンプは、多くの機種があります。オペアンプでは、目的用途に合った、機種の選択は、ディジタル IC よりも大変です。

6.1.(2-B) 理想オペアンプの特性

◆  現実のオペアンプは、いろいろな特性を持っています。しかし、理想特性をもつ、理想オペアンプ を、考えることが、できます。細かな性能を検討する場合は別ですが、多くの場合、オペアンプ回路を検討するのは、オペアンプを、理想オペアンプと見なして、検討すれば、十分です。先ず、理想オペアンプとして検討した上で、必要に応じて、現実オペアンプとしての特性について、検討します。
◆  理想オペアンプの特性を考えるのに先だって、抵抗コンデンサなどの、パッシブ回路を構成する、パッシブ部品 の理想特性を、考えて見てみましょう。代表的なパッシブ部品である、コンデンサとコイルの現実特性を、コラム 3.2-5 に示しました。
◆  これらの素子は、周波数特性を持ち、周波数が低い範囲では、ほぼ理想の特性を持っていますが、周波数が高くなると、コンデンサは、インダクタに、インダクタはコンデンサに、化けて、しまいます。この現象は、定性的には、全て、同じ傾向にありますが、機種によって、ほぼ理想的な特性を持つ、周波数範囲が異なります。実際の部品の使用周波数範囲で、理想に近い特性を持つ機種を選択することによって、実用上、支障無く使用することができます。
また、部品には精度があり、目的用途にマッチした精度のものを選定します。

[注] ただし、ノイズの問題が、あります。通常、ノイズは、実際の部品の使用周波数範囲よりも、高周波です。ノイズ対策用部品は、ノイズの周波数帯域を、カバーする、必要があります。

◆  オペアンプも、これと同じことです。
特殊な場合を除いては、目的用途にマッチしたオペアンプの機種を選定すれば良いのです。適切に選定されたオペアンプは、理想特性を持つ、理想オペアンプとして、取り扱うことが、できます。
◆  この意味では、現実オペアンプの特性を、知る必要は、ありません。しかし、適切なオペアンプの機種を選ぶために、現実オペアンプの諸特性を知っておくことが、必要です。
◆  ここでは、まず、理想オペアンプについて、考えます。オペアンプは、外付け回路を付けて使用しますが、理想オペアンプ自体の特性は、図 6.1-6ようになります。

[図 6.1-6] 理想オペアンプの特性

理想オペアンプの特性

◆  理想オペアンプの増幅率 A は、図に示すように、無限大です。また、理想オペアンプの入力インピーダンス Zi は無限大で、入力端子に電流は流れません。出力インピーダンス Zo はゼロ、すなわち電流をいくら取り出しても、出力電圧は変化しません。
◆ 理想オペアンプの増幅率が、無限大であるということは、外付け回路を加えて組んだ、増幅回路においては、増幅器自体の特性を無視することができ、外付け素子の特性だけで、その増幅回路の特性が決まる、ということを意味します(図 6.1-7)。すなわち、理想化によって、オペアンプ自体の特性を、無視することが、できます。

[図 6.1-7] 理想オペアンプによる反転増幅器

外付け抵抗だけで増幅率が決まる

◆  しかし、現実には、オペアンプの増幅率が、無限大ということは、あり得ません。たとえば、106 というような、非常に大きな値です。
オペアンプの増幅率 A を無視しないときは、図の反転増幅器の特性は、次のように計算されます。
において、電圧 Vi- は、抵抗 Rs とRf との分圧点です。また、Vo = A ・ Vi- ですから、

      増幅の式

◆ となります。
ここで、増幅率 A → ∞ とすれば、図 6.1-7 に示した関係が、得られます。図において、電圧 Vi- = Vi+ です。すなわち、Vi- は、グラウンドレベルです。ということは、Vi- は、接地されていないにも関わらず、グラウンドレベルだということです。このことを、仮想接地 といいます。このことは、Vi+ と、Vi- とが、仮想的にショートされているということでもあります。仮想短絡 (バーチャルショート イマジナリショート )と言います。
◆  非反転増幅についても、ほぼ同様です(図 6.1-8)。非反転増幅器のときは、図の式からも分かるように、増幅率は、1 よりも大きくなります。

[図 6.1-8] 理想オペアンプによる非反転増幅器

理想オペアンプによる非反転増幅器


[コラム 6.1-1] 連   続

★ 連続とは、繋がっていることです。ただし、繋がっている、ということの、具体的な意味は、いろいろです。
連続小説 の連続は、話の筋は繋がっていますが、紙面の上では、切れ切れになっています。

紙面の上では切れ切れ

★ テレビドラマにも、連続ものが、いくつも、あります。

テレビドラマの連続もの

★ 数学上の、連続、不連続 も、ほぼ、常識的な、連続の概念と一致します。ただし、数学ですから、厳密です。
また、単に連続であるだけでなく、曲線が滑らかであるというためには、さらに、微分可能 の条件が必要です。ここで、微分可能とは、

       微分可能とは

が、ただ一つの有限の値を持つことをいいます。
★ 下図左は 連続と不連続との違いを示したものです。

連続と不連続     微分可能と微分不能

上図右は、連続という条件の下で、微分可能と微分不能とを示します。図の微分不能は、微分が全く不可能というのではなく、横軸 x を増加させたときと、減少させたときとで、x0 における微分値が、異なるという意味です。



[コラム 6.1-2] バーチャル

★ バーチャルは、「仮想の」の意味で使われています。しかし、辞書によると、「(名目上はそうではないが)実質上の」という、仮想とは逆の意味もあるようです。
★ 最近、インターネット は、誰もが使うものになってきました。「インターネットは、バーチャルである」とも言われています。インターネットの掲示板などで、実名でなく、ハンドルネームでやり取りすることから、そのように言われているのかも知れません。
★ そのインターネットで、バーチャルショップ があります。物理的な店舗を開いていないという意味で、バーチャルですが、取引は実際に行っています。下図左は、あるバーチャルショップのメニューです。メニューをクリックすると、商品の写真(右)が出てきます。購入したい商品を選択(クリック)して、購入手続きに進みます。

バーチャルショップのメニュー       バーチャルショップの商品

★ 光学では、バーチャルは、虚像のことです。下図は、虫眼鏡(凸レンズ)を使った実験です。左が虚像、右が実像です。

虚像と実像


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