電気と電子のお話

6. アナログ IC

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6.1. オペアンプ

6.1.(4) オペアンプの機種と特性

6.1.(4-A) 概   要

◆  オペアンプは、アナログ IC です。外形は、トランジスタや、ディジタル IC と、変わりません。最近では、ディジタル IC と同様なパッケージが多くなっています(図 6.1-31)。

[図 6.1-31] オペアンプのパッケージ

オペアンプのパッケージ

◆  ディジタル IC にも、信号レベルや、プロパゲーションディレイなどの違いによって、幾つかのファミリがあります。しかし、その種類は少なく、選定も、比較的簡単です。これに対して、アナログ回路は、信号レベルや、その速度は、様々です。さらにまた、信号の必要精度 (許容誤差)の要求の違いにも応じる必要があります。
◆  理想オペアンプが、実際に得られるなら、これらの要求に、全て応じることができます。しかし、現実オペアンプの性能は、限定されています。
オペアンプは、いろいろな目的、用途に使われますから、その要求性能も、使用目的や用途によって、様々です。この様々な要求に対応するために、オペアンプには、特性が異なる多くの機種が存在します。
◆  オペアンプでは、要求に見合った機種の選定が重要です。大は小を兼ねますから、要求性能が低い用途に、高性能のオペアンプを使用することは、可能です。しかし、オペアンプは、その性能に応じて、価格が大幅に異なります。適切な機種を選定しないと、経済性がありません。
◆  外付けの補償回路 を使用することによって、オペアンプの特性を、改善することも、できます。ただし、外付けの補償回路を利用するコストが、適切な高性能オペアンプを使用するよりも、高くなると、意味がありません。
◆  オペアンプの特性は、いろいろあり、製品性能はその組み合わせになります。したがって、オペアンプの分類は、簡単ではありませんが、一応、オペアンプの機種を、大分類的に、示します(図 6.1-32)。図中の、汎用オペアンプ は、かなりの範囲に使用可能で、低価格、入手容易な、機種です。
◆  なお図には、各種の特性が記されていますが、各々の特性については、次の 6.1.(4-B) を参照してください。

[図 6.1-32] オペアンプの機種と用途

オペアンプの機種と用途


◆ IC(アナログ/ディジタル共) は、広く使用されている、機種(形番)の製品では、幾つかのメーカーから、同一形番で、同じ仕様のものが出されています。最初に出された製品をオリジナル といい、後から別のメーカーから出されたものを、セカンドソース と呼んでいます。
◆  セカンドソースは、仕様が同じですから、互換性があるはずです。しかし、しかし、アナログ IC では、仕様が同じであっても、メーカーによって、微妙な違いがあります。完全互換とは、言えない場合があります。とくに、オーディオでは、音質の差となって、現れるようです。

6.1.(4-B) オペアンプの現実特性

6.1.(4-B-a) 入   力

◆  オペアンプの機種をうまく選定したり、適切な補償回路を使用することによって、オペアンプは、実用上、理想オペアンプとみなして、回路を構成することができます。ただし、信号の入出力範囲がありますから、その、オペアンプの、許容入出力範囲で、使用する必要が、あります。
汎用オペアンプでは、電源電圧が ± 15 V で、許容入出力電圧は、± 10 V です。
◆  また使い方によっては、正常時には、入力電圧範囲が許容値に入っている場合でも、非正常時に異常電圧が掛かる恐れがある場合があります。非正常時であれば、異常電圧が掛かっても差し支えないと思われますが、オペアンプの機種によっては、異常電圧入力によって、素子が破壊されるものが、あります。このような機種では、非正常時に、異常電圧が掛かる恐れがある場合には、入力保護回路 が必要です(図 6.1-33)。

[図 6.1-33] オペアンプの入力保護回路の例

オペアンプの入力保護回路の例

◆  理想オペアンプ入力インピーダンスは、無限大です。当然、現実には、無限大はありえませんから、有限の値になりますが、十分に大きな値です。図 6.1-34 は、オペアンプ入力部の等価回路です(等価は、コラム 2.1-7等価回路参照)。

[図 6.1-34] オペアンプ入力部の等価回路(反転増幅器)

オペアンプ入力部の等価回路(反転増幅器)

◆  図で、Ri は、オペアンプ単体(すなわちフィードバックを掛けないとき)のノーマルモードの等価入力インピーダンス、ZCM は、コモンモードの等価入力インピーダンスです。
オペアンプ回路(図では、反転増幅器)の等価入力インピーダンス Zi は、
     Zi = Ze // ZCM
です(// は、並列合成の記号)。ここで、Ze は、等価入力インピーダンス Ri に起因する、成分です。
◆ 理想オペアンプでは、Ri の両端の電圧はゼロです。しかし、現実オペアンプでは、Ri の両端には、電圧(Vi ー V-)が掛かり、電流 I が流れます。すなわち、
     (Vi ー V-) = Ri ・ I
ここで、反転側の電圧 V- は、出力電圧 Vo からフィードバックが掛かっていますから、
     V- = (R2 / (R1 + R2)) ・ Vo
です。
◆  オペアンプ単体(すなわち、フィードバックを掛けていないとき)の増幅率を、開ループ利得 (オープンループゲイン )といいます。理想オペアンプの開ループ利得は、無限大です。現実オペアンプでは、無限大ではなく、有限の値を持ちますが、非常に大きな値です。
◆  オペアンプの開ループ利得を Ao とすれば、
     Vo = Ao (Vi ー V-)
ですから、フィードバックを掛けたときの、等価インピーダンス Ze は、
     Ze = Vi / I ≒ (Ao ・ R2 ・ Ri) / (R1 + R2)
となります。
◆  増幅器全体としての増幅率((R1 + R2) / R2)が、あまり大きくない範囲では、オペアンプ単体のインピーダンス Ri に比べて、等価インピーダンス Ze は、非常に大きな値になります。

6.1.(4-B-b) オフセット電圧

現実オペアンプ で、問題になる特性の、第 1 は、オフセット電圧 です(図 6.1-35)。

[図 6.1-35] オフセット電圧

オフセット電圧

◆  図に示したように、理想オペアンプでは、Vo = A (V1 - V2) です。これに、一定の誤差電圧 Vos が加算された形になります。この Vos が、オフセット電圧です。
このオフセット電圧に起因して、図 6.1-36 に示す反転増幅器では、出力の誤差は、
     Vo = ((R1 + R2) / R2) ・ Vos = Vos / β
となります。ここで、β = R2 / (R1 + R2) のことを、オペアンプの帰還率 といいます。
信号の増幅率と同じ割合で、オフセット電圧も増幅されますから、信号の増幅率が高いほど、オフセット電圧の影響も、大きくなります。

[図 6.1-36] オフセット電圧による出力誤差

オフセット電圧による出力誤差

◆  オペアンプの機種によっては、オフセット電圧を補償するための、オフセット補償回路 を、内蔵しているものもあります。この場合は、補償用の端子に可変抵抗を接続します(図 6.1-37)。オフセット補償回路を、内蔵していないものは、 図 6.1-38 に示すように、外付けの補償回路を設けます。
◆  ただし、オフセット電圧が、小さい機種を使用すれば、オフセット補償回路は不要です。可変抵抗器自体、および、調整のためのコストを考えると、オフセット電圧が小さい機種を選ぶ方が、よい場合も、多いでしょう。

[図 6.1-37] オフセット補償回路内蔵形

オフセット補償回路内蔵形


[図 6.1-38] オフセット補償回路外付け

オフセット補償回路外付け


6.1.(4-B-c) バイアス電流とオフセット電流

◆  現実オペアンプでは、6.1.(4-B-a) に示した入力インピーダンスのほかに、バイアス電流 を考える必要があります(図 6.1-39)。図に示すように、バイアス電流は、電圧に依存しない、ほぼ一定の電流成分です。

[図 6.1-39] バイアス電流

バイアス電流(a)    バイアス電流

◆  バイアス電流は、それ自体では、誤差を生じません。しかし、反転増幅器の場合、オペアンプの入力には、抵抗(またはインピーダンス)が接続されています。バイアス電流が、この抵抗を流れることによって、発生する電圧降下が、誤差になります。
◆  反転増幅器では、図 6.1-40 に示すように、オペアンプ入力のプラス側に、抵抗 Rc を挿入することによって、この誤差を減少させることが、できます。

[図 6.1-40] バイアス電流の補償

バイアス電流の補償

◆  バイアス電流 Ib1 と Ib2 は、等しくは、ありませんが、近い値を持っています。オペアンプのプラス入力側に、抵抗 Rc を挿入すれば、この抵抗 Rc には、バイアス電流 Ib2 が、流れ、IB2 × Rc の電圧が発生します。
抵抗 Rc の値を、オペアンプのマイナス入力側の入力抵抗と等しくとれば、バイアス電流に起因する誤差を、大略補償することが、できます。
◆  オペアンプの両側のバイアス電流 Ib1 と Ib2 との差 Ios = Ib1 - Ib2 のことを、オフセット電流 といいます。
抵抗 Rc を設ける場合には、オペアンプの誤差は、バイアス電流の代わりに、オフセット電流を考えれば、よいのです。抵抗 Rc を設けることによって、オペンプの誤差は、大幅に、軽減されます。
◆  このバイアス電流に起因するオフセットも、図 6.1-37 に示した方法、すなわち、オフセット補償抵抗によって、打ち消すことができます。しかし、この補償抵抗は、オペアンプ内部の回路のアンバランスを補償するものです。これを外部の補償に使用することは、好ましくありません。したがって、これによる補償を前提にして、補償抵抗 Rc を省略することは、避けた方が、良いでしょう。
◆  非反転増幅器では、バイアス電流が、信号源インピーダンスを流れることによる、誤差が発生します。信号源インピーダンスが、非常に大きいときは、バイアス電流をバイパスさせる経路を、作る必要が、あります。

6.1.(4-B-d) 周波数特性

◆  現実オペアンプ開ループ利得には、周波数特性があります(図 6.1-41)。図から分かるように、周波数が低い範囲では、1 次フィルタで、近似されます。周波数が高くなると、位相は、1 次フィルタよりも、遅れが大きくなります。

[図 6.1-41] オペアンプの周波数特性

オペアンプの周波数特性

◆  オペアンプの周波数特性において、ゲインが 0 dB または、それ以下になると、増幅作用がなくなります。ゲインが、ちょうど 0 dB になる周波数のことを、ユニティゲイン周波数 といいます(図 6.1-42)。ユニティゲイン周波数は、オペアンプの高周波特性を示す、指標です。ユニティゲイン周波数が高いほど、高周波まで、増幅器として、使用することができます。
◆  開ループ利得が、1 次フィルタの特性、すなわち、ー 20 dB/decの傾斜を持っている部分では、「利得」と「周波数」の積は、常に一定です。この積のことを、利得帯域幅積 (ゲインバンド積 GB 積 )といいます。

[図 6.1-42] ユニティゲイン周波数

ユニティゲイン周波数

◆  オペアンプは、開ループでは、使用しません。フィードバックを掛けて、使用します。オペアンプに、フィードバックを掛けた、実使用状態では、どうなるでしょうか(図 6.1-43)。図で A0 は、直流における開ループ利得、βは帰還率です。そして、A0 ・ β を、ループ利得 といいます。

[図 6.1-43] フィードバックを掛けたとき

フィードバックを掛けたとき

◆  フィードバックを掛けたときの、増幅器としての利得を、閉ループ利得 といいます。閉ループ利得は、外付け抵抗の値によって決まります。
図から分かるように、閉ループ利得が高くなるほど、周波数帯域が狭くなります。逆にいうと、閉ループ利得の周波数帯域を、同じにするためには、高い閉ループ利得のときほど、より、ユニティゲイン周波数の高いオペアンプを使用する必要があります。
◆  交流増幅器においても、同様です(図 6.1-44)。図の、Ri、Ci、Rf、Cf は、図6.1-10 参照

[図 6.1-44] 交流増幅器

交流増幅器
6.1.(4-B-e) スルーレート

◆  オペアンプ出力の変化速度には、限界があります。この変化速度の限界のことを、スルーレート (スリューレート )といいます。出力の振幅が小さいときは、スルーレートの制約に引っかかりません。出力の振幅が大きいときに、スルーレーが、問題になります。スルーレートの制約のために、波形が歪んだ例を、図 6.1-45 に示します。

[図 6.1-45] スルーレートによる波形歪み

スルーレートによる波形歪み

◆  スルーレートだけでなく、セトリングタイム が問題になる場合があります(図 6.1-46)。セトリングタイムは、信号が許容誤差範囲に、収まり続けるようになるまでの、時間です。図に示すように、信号が振動すると、信号の立ち上がりが速くても、セトリングタイムの規定誤差範囲に収まるまでの時間が長くなり、このために、セトリングタイムが長くなる場合があります。

[図 6.1-46] セトリングタイム

セトリングタイム
6.1.(4-B-f) 電源の影響

◆  オペアンプの出力電圧は、電源電圧の影響を受けてはならないはずです。しかし、実際には、電源電圧の変動が、出力を変化させます。この電源電圧の変動が、出力に影響を与えない程度を、電源電圧リジェクション といいます。
この電源電圧リジェクションは、通常は、電源の直流的変動に対しては、十分に、良い値を持っています。しかし、高周波の電源電圧変動に対しては弱く、ほとんど筒抜けになってしまいます(図 6.1-47)。したがって、電源には、高周波成分を含まないようにする必要があります。この対策として、パスコンを使用します(コラム 6.1-6 参照)

[図 6.1-47] 電源電圧リジェクションの周波数特性の例

電源電圧リジェクションの周波数特性の例
6.1.(4-B-g) コモンモードの影響

理想オペアンプは、コモンモード電圧に影響されません。しかし、現実オペアンプは、コモンモード電圧の影響を受けます。コモンモードに対する強さが、コモンモードリジェクション です(図 6.1-48)。コモンモードリジェクションの特性は、電源電圧リジェクションと同じ傾向があります。

[図6.1-48] コモンモードリジェクションの周波数特性の例

コモンモードリジェクションの周波数特性の例
6.1.(4-B-h) 温度特性

◆  以上説明した各種特性値は、すべて、温度によって変化します。すなわち、温度係数 を持っています。温度が変化すれば、特性値は変わります。このため、補償回路を組んで、現実特性を補償しても、温度が変化することによって、誤差が発生します。
温度による特性の変化を、温度ドリフト といいます。温度ドリフトは、大きな値ではありませんが、精度を要求する場合には、無視できません。

6.1.(4-B-i) 発振現象

◆  発振 とは、外部から力を加えることなく、信号が、周期的に増減を繰り返すこと、すなわち、波形が、振動 する、現象です(コラム 6.1-7 参照)。
発振現象を利用して、信号を振動させる回路が発振回路 、その、デバイスが発振器 です。
◆  しかし、発振は、勝手に発生する、有害な発振もあります。この有害な発振には、持続的な持続振動もありますが、過渡的な、減衰振動のものもあります(図 6.1-49)。意図しない発振を起こさせないようにすることが必要です。図で、赤色が発振、緑色が減衰振動です。水色と桃色が、非振動波形ですが、水色の波形には、行き過ぎ (オーバーシュート )があります。

[図 6.1-49] 発振と減衰振動

発振と減衰振動

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