電気と電子のお話

4. 半導体の働き

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4.3. トランジスタ

4.3.(1) トランジスタとは

◆ ダイオードは、半導体の性質を活用して、いろいろな用途に応用することができます(4.2.(2))。しかし、増幅作用はありません。半導体の、真の活躍の場は、やはり増幅にあります。この増幅作用を持った素子が、トランジスタ です(図 4.3-1)。

[図 4.3-1] トランジスタ

トランジス

◆ トランジスタは、また、スイッッチングに使用されます。スイッチ作用は、ダイオードにもありますが、ダイオード・スイッチは、普通の意味のスイッチではありませんでした(4.2.(2-B))。トランジスタは、通常の意味での、かつ高速なスイッチが可能です。
◆ トランジスタは、単体だけでなく、IC に集積されて、さらに便利に、利用されています。 現在の、半導体技術 は、トランジスタを中心に、展開されています。
◆ トランジスタは、いろいろな機種が開発されています(図 4.3-2)。図から分かるように、トランジスタの言葉は、広義と狭義とがあります。単に、トランジスタというと、狭義のものを指すことが多いのですが、広義の意味でも、使われています。広義の意味で使うときは、通常、xx トランジスタのように、その種類の名を頭に付けます。したがって、単にトランジスタと呼ぶときは、多くは、狭義と思って差し支えありません。このお話でも、以降、トランジスタの言葉は、原則として、狭義です。

[図 4.3-2] トランジスタの種類

トランジスタの種類

◆ ここでは、先ず、狭義のトランジスタ、すなわち、バイポーラトランジスタについて、解説します。トランジスタには、npn 形 と、pnp 形 とがあります(図 4.3-3)。n 形半導体p 形半導体を、n p n、または、p n p の順に接合したものです。端子は、図に示すように、コレクタ (記号 C )、ベース (記号 B )、エミッタ (記号 E )の 3 つあります。

[図 4.3-3] npn 形と pnp 形

npn形 pnp形

◆ 図記号では、矢印によって、エミッタであることを表し、さらに矢印の向きによって、npn と pnp との区別を示します。

4.3.(2) トランジスタ(広義)の種類

4.3.(2-A) バイポーラトランジスタ

◆ バイポーラトランジスタ は、いろいろな使い方ができます。ここでは、トランジスタの基本動作を示します。なお、npn 形と、pnp 形は、電流の向きは、互いに逆になりますが、同様な動作をします。したがって、npn 形を例にとって解説します(図 4.3-4)。

[図 4.3-4] npn トランジスタにおける電子と正孔の流れ

npn トランジスタの電子の流れ

◆ 図の(a)は、ベース(B)にプラス、エミッタ(E)にマイナスの電圧を掛けた状態です。これは、ダイオード順方向電圧を掛けたのと同じですから、電流が流れます。すなわち、エミッタ(E)からベース(B)に電子が注入されます。しかし、多数の電子は、ベースから注入される正孔と、合体できないで、ベース(B)に溜まっています。
◆ このとき、(b)のように、コレクタ(C)〜ベース(B)間にも、図のように電圧が掛かっていると、ベース(B)に溜まっていた電子のほとんどは、コレクタのプラスの電圧によって、引き寄せられ、薄いベース層を横切り、コレクタ(C)〜ベース(B)間の pn 接合を通りぬけて、コレクタ(C)に達します。すなわち、電流が流れます。
◆ エミッタ電流 を、IE とすれば、このエミッタ電流 IE の一部分は、ベース電流 IB となりますが、残りは、コレクタ電流 IC となります。このとき、コレクタ電流 IC の大きさは、ベース電流 IB よりも、はるかに大きな値です。
この現象が、トランジスタの、増幅作用です。
◆ 以上の現象を、整理して、定量的に示したのが、図 4.3-5 です。図で、コレクタ電流 IC は、ベース電流 IB の hFE 倍になっています。すなわち、トランジスタの増幅作用は、ベース電流によって、コレクタ電流が増幅されるのですから、電流増幅作用です。hFE のことを、トランジスタの、電流増幅率 といいます。

[図4.3-5] トランジスタ各部の電流

トランジスタ各部の電流

◆ トランジスタの構造は、npn または、pnp ですから、対称です。それにも関わらず、コレクタ/エミッタという区別があります。動作原理の上では、確かに対称です。しかし、所定の特性を出すために、寸法的には、非対称になっています(図 4.3-6)。また、エミッタは、コレクタよりも不純物の濃度が、はるかに高くなっています。

[図 4.3-6] トランジスタ構造の例

トランジスタ構造の例

◆ 逆接続しても、動作はします。動作はしますが、電流増幅率が大幅に低くなってしまいます。

4.3.(2-B) 電界効果トランジスタ(FET)

◆ 電界効果トランジスタ (FET 、以下電界効果トランジスタは FET と書きます)は、歴史的には、バイポーラトランジスタよりも古い存在です。FET には、接合形と、MOS とがあります。まず、接合形 FET (JFET )について、解説します。FET には、n チャンネル と、p チャンネル とがあります。n チャンネル FET は、基板 n 形半導体、p チャンネルは、基板がp 形半導体です。n チャンネルを例に、示します。p チャンネルは、n チャンネルにおける、電子を、正孔と読み替えれば良いわけです。
◆ FET には、図 4.3-7 に示すように、ゲート (G )、ソース (S )、ドレイン (D )の、3 つの端子があります。

[図 4.3-7] 電界効果トランジスタ(n チャンネル)

電界効果トランジスタ

◆ 図のように、ゲートに逆方向電圧を掛けると、逆方向ですから、ゲートに電流は流れません。しかし、ゲート電圧を変えることによって、空乏層の大きさが変化します。すなわち、ドレイン〜ソース間の電流の通路の幅が変化するので、ドレイン〜ソース間の抵抗が変化することになり、ドレイン〜ソース間の電流値を変えることができます。
◆ バイポーラトランジスタが、電流で電流を制御しているのに対して、FET は、電圧で電流を制御していることになります(図 4.3-8)。増幅という言葉は、同じものの幅を広げることですから、電圧で電流を制御しているのは、増幅の定義には当てはまりません。しかし、結果として、微小な電力で大きな電力を制御しているのですから、電力の増幅には、なっています。常識的には、増幅と呼んで良いでしょう。図から分かるように、電圧が低い範囲では、リニアに変化し、電圧が高くなると飽和します。

[図 4.3-8] FET の電圧と電流の関係

FET の電圧と電流の関係

◆ 電子は正孔よりも移動度が大きいのです。正孔の移動も、電子が移動した結果として起こっているわけですが、自由電子自身の自由な動きに比べると、間接的である分、移動性が劣ります。すなわち、電子の方が、正孔よりも、電流が流れやすいのです。
このため、n チャンネル FET は、p チャンネル FET よりも、チャンネルの抵抗を小さくすることができます。この理由もあって、n チャンネルは、p チャンネルよりも、品種が多く、より広く使用されています。
◆ バイポーラトランジスタでは、キャリアは、電子と正孔の両方です。これに対して、FET では、n チャンネルでは電子、p チャンネルでは正孔であり、どちらか一方だけです。
この、キャリアが、電子または正孔の、どちらか一方だけであるということを、ユニポーラ と呼んでいます。バイポーラトランジスタのバイポーラ とは、キャリアが、電子と正孔の両方あるということから、名付けられたものです。

4.3.(2-C) MOS FET

◆ FET には、接合形の他に、MOS FET があります(図 4.3-9)。MOS FET にも、n チャンネル(nMOS )と、p チャンネル(pMOS )があり、図は、n チャンネルです。MOS FET は、ゲート(G)と基板との間に、絶縁体があり、その絶縁体によってゲートと基板が、隔てられています。以下、n チャンネル MOS について、説明します。

[図 4.3-9] MOS FET

MOS FET MOS FET(a)

◆ ゲート(G)に電圧を掛けていないときは、電流は流れません(図の左側)。ゲート(G)に、プラスの電圧を掛けると、静電誘導によって、正孔は、ゲート(G)から遠ざかり、その結果として、ゲート(G)に沿って、電子が集まった層ができます(図の右側)。この層の電子は、ソースドレイン間の電圧によって、移動します。すなわち、電流が流れます。
◆ MOS には、エンハンス形 (エンハンスメント形 )とデプレッション形 とがあります(図 4.3-10)。ソースとゲートの電圧が等しいときに、ソース〜ドレイン間に電流が流れるものを、デプレッション形、電流が流れないものを、エンハンス形といいます。また、その中間のものがあり、これをエンハンス+デプレッション形 といいます。

[図 4.3-10] エンハンス形とデプレッション形

エンハンス形とデプレッション形

◆ MOS には、CMOS と呼ばれる機種があります。CMOS は、nMOS と pMOS とを組み合わせたものです(図 4.3-11)。図は、CMOS インバータ と呼ばれるものです。インバータは、デイジタルのハイとローとを反転させる回路です。
ただし、図 4.3-12 に示した、CMOS の特性は、特性をシャープにするために、インバータを 3 段接続したものの特性です。1 段では、角が丸くなります。それを、3 段増幅することによって、特性が、シャープになっています。

[図 4.3-11] CMOS インバータの回路、構造

CMOS インバータの回路、構造


[図 4.3-12] CMOS インバータの特性

CMOS インバータの特性(a) CMOS インバータの特性

◆ CMOS は、最初に作られた頃は、動作速度が遅いことが欠点でした。しかし、最近では、高速なものが作られています。CMOS は、IC に集積することが容易です。大半の IC は、CMOS を使用しています。


[コラム 4.3-1] ドレインのあれこれ

★ FET(電界効果トランジスタ)には、ソースドレインゲートがあります。ソースは源、ドレインは、排出、そしてゲートは門ですから、文字通りの意味を持っています。
さて、そのドレインですが、ドレインには、(酒・グラスを)飲み干すという意味があります。しかし、この後述べるように、あまり良い意味では無いことが多いので、乾杯のことは、ドレインとはいいません。

乾杯

★ 通常ドレインというと、排水を意味します。屋上やバルコニーなどのドレインを受けるのが、ルーフドレインです。

ルーフドレイン

★ ドレインを受ける器具をトラップといいます。写真(下)の下水管が、P トラップと呼ばれるトラップです。多分その形状から付いた名前でしょう。

P トラップ

★ トラップは下水を受けますから、詰まりやすく、それを掃除するのが、ジェットドレイン排水溝クリーナー、ドレインクリーナなどと呼ばれる製品です。機械的に掃除する代わりに、薬剤を使う方法もあります。

ジェットドレイン排水溝クリーナー    ドレインクリーナ

★ 下の左側は、逆に、トラップを塞いで、シンクに水を溜めるもので、ドレインストッパーといいます。右は、ノンドレインの、窓用空調機です。冷房時に、ドレイン発生しないようになっていますから、ドレイン配管が不要です。

ドレインストッパー      ノンドレイン窓用空調機

★ ドレインは、水とは限りません。下の左は、真空中のオイルドレインを除去するトラップです。右は、水中のオイルドレインを除去する装置です。

オイルのドレインを除去するトラップ    オイルセパレータ





[コラム 4.3-2] デプレッション

★ MOS FET には、エンハンス形デプレッション形があります。エンハンスは、増す、強めるの意味があります。デプレッションは、弱める、押し下げるなどの意味があります。
このデプレッションの言葉は、使用する分野によって、いろいろな意味になります。地理の分野では、平坦な盆地を意味します。

盆地

★ 不況は、通常デフレーションですが、デプレッションにも、不況という意味が、あります。
この不況は、3 つに分類されます。
○ 景気後退(リセッション) : 一つの景気循環内の、緩やかな不振期
○ 不況(デプレッション) : 景気と景気の谷間
○ 恐慌(クライシスまたはパニック) : 不況の著しい状態で、信用の崩壊、金融危機が加わるのが普通
★ ただし、必ずしも、上記の分類どおりに、名が付けられては、いないようです。
1873 年に、ウィーンの株式市場が暴落し、これをきっかけに、その後、世界的に、1896 年まで、価が下がり続けるという大不況がありました。これは、グレート・デプレッションと呼ばれています。
★ また、1929年に、ニューヨーク証券取引所での、株の大暴落をきっかけに、世界は大恐慌時代に陥りました。しかし、アメリカのガラスメーカーは、不況にもかかわらず、アールデコ調や繊細なデザインの色グラスを次々に発表し、一大ブームを巻き起こしました。これは、「デプレッション・グラス」の名で、呼ばれています。
作られた年代から言って、骨董品にはなっていませんが、愛好品として、取引されています。

デプレッション・グラス

★ 医学用語では、デプレッションは、うつ病のことです。

うつ病(1) うつ病(2)
うつ病(3)
うつ病(4) うつ病(5)

★ うつ病は、周囲から、たるんでいる などと言われますが、れっきとした病気です。うつ病に効く薬もあります。そして、良い専門医にかかることが重要です。
★ この「お話」は、電気、電子に関する、やさしい解説です。「電気、電子の勉強をしたいが、難しくて」 という人が、うつ病にならないための、妙薬であることを、願っています。



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