電気と電子のお話

2. 電流と電流を流す回路

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2.2. 電気には直流と交流がある


2.2.(4) エネルギーを蓄えるリアクタンス

2.2.(4-D) コイルとトランスについて

2.2.(4-D-a) 磁気を蓄えるコイル

◆ コイル (インダクタ )は、コンデンサと並ぶ、もう 1 つのリアクタンスで、インダクタンスを利用するように作られた素子です(図 2.2-30)。

[図 2.2-30] コイル

コイル コイル

◆ 導体電流が流れると、右ネジの法則にしたがって、磁力線が発生します。リング状の導体に電流が流れると、磁力線は、図 2.2-31 に示す向きになります。

[図 2.2-31] リング状の導体に発生する磁力線

リング状の導体に発生する磁力線

コイルの場合には、図 2.2-32 に示すように、コイルの 1 つ 1 つのリング状導体の磁力線が、合算されて、強い磁界を作ります。コイルに電流を流して、磁力線を発生させることを、励磁 といいます。

[図 2.2-32] コイルが作る磁界

コイルが作る磁界

◆ コイルによって、磁界が発生しているということは、磁界の形でエネルギーが蓄えられているということです。コンデンサでは、電荷が蓄えられると説明しましたが、これは別の形で表現すれば、コンデンサでは、電界の形で、エネルギーが蓄えられているということです(図 2.2-33)。この意味で、コンデンサとコイルは対応します。

[図 2.2-33] コンデンサは電界の形でエネルギーを蓄える

コンデンサは電界の形でエネルギーを蓄える

◆ コイルの作用を見てみましょう(図 2.2-34)。直流に対しては、何も無いのと同じです。しかし、交流に対しては、抵抗と同様に、電流を妨げる作用があります。ただし、リアクタンスですから、エネルギーの損失はありません。

[図 2.2-34] コイルの作用

コイルの作用(a) コイルの作用(b)

◆ 磁気電気とは、類似性があります(1.3.(1)参照)。コンデンサキャパシタンス C に対応するものが、コイルにおける、インダクタンス L です。コイルにおける電圧 v と電流 i の関係は、
     インダクタンスの定義   [H ヘンリー ]
です。コンデンサの式と、ちょうど逆になっています。
コンデンサのキャパシタンス C が、電極間の物質の誘電率 ε によって大きくなったのと同様に、コイルのインダクタンスは、周囲の物質の透磁率 μ によって増大します。
磁気においては、磁界強度 H があります。磁界強度と類似のものに、磁束密度 (磁束 ) B があります。
     B = μ H
の関係があります。
なお、説明しませんでしたが、静電気にも、磁束密度 B に、対応する、電束 D があります。電界強度を E、誘電率を ε とすれば、
     D = ε E
です。
◆ コイルは、ベクトルで表すと、電圧 v に対して、電流 i が 90°遅れます。このことは、インダクタンスの式から、推定できます(図 2.2-35)。動画を示します(戻るときはブラウザの戻るを使用)。

[図 2.2-35] コイルでは、電流が 90°遅れる

コイルでは、電流が 90°遅れる

この図も、位相の関係だけを、示す図です。


[コラム 2.2-6] コイルのいろいろ

★ コイルも、電気のコイルだけではありません。コイルは、巻く、または巻いたもの、の意味です。
小さなものでは、カーボンマイクロコイルがあります。最近話題になっている、カーボンナノチューブ(下図)は、ナノメーターオーダーの寸法で知られている、微細構造です。

カーボンナノチューブ

★ カーボンマイクロコイルは、カーボンナノチューブよりは大きいですが、マイクロメータ オーダーのカーボンのコイルです(下図)。右巻きと、左巻きとがペアになっています。

カーボンマイクロコイル

★ カーボンマイクロコイルよりも、ぐっと、大きくなって、コイルバネがあります。名の通り、用途は、バネです。

コイルバネ

★ 薄い鋼鈑は、製鋼所から、コイルの形で出荷されます。これは、ずいぶん大きなコイルです(下図左)。

鋼板のコイル          電磁石のコイル

★ 電気のコイルにも、大きなものがあります(上図右)。クレーンで、ものを吊るときの電磁石のコイルは、かなりの大きさです。電磁石 は、コイルに電流を流すことによって得られる磁力線を、磁石として利用したものです。
これに対して、普通の磁石は、永久磁石 といいます。 超伝導の装置(下図)も、大きなコイルです。超伝導 とは、超低温(絶対 0°付近)で、ある種の物質の電気抵抗がゼロとなる現象です。

超伝導の装置





2.2.(4-D-b) 電圧を変えるトランス

◆ トランス (変圧器 )は、トランスフォーマー の略称ですが、ほとんど、トランスの言葉が使用されています。トランスの原理は、2 つのコイルがあって、その一方(1 次側 )のコイルに流れる電流によって生じた磁束が、他方(2 次側 )のコイルを通過し、その磁束によって、2 次側のコイルに、電圧が誘起されることです(図 2.2-36、詳しくは、コラム 2.2-7)。1 次側に加える電圧 e1 によって誘起される 2 次側の電圧 e2 は、巻線比 に比例し、1 次側巻線数を N1、2 次側巻数を N2 とすれば、
     e2 = (N2 / N1 ) e1
となります。

[図 2.2-36] トランス

トランスの原理

◆ トランスでは、1 次側と 2 次側の関係を、相互インダクタンス M といい、2 次側電圧を e2、1 次側電流を i1 とすれば、
     相互インダクタンスの式
で、表されます。
また、このとき、1 次側、2 次側は、それぞれ、コイルとしてのインダクタンス L1、L2を持っており、これを、自己インダクタンス といいます。自己インダクタンス L1、L2 と、相互インダクタンス M との関係は、
     自己インダクタンスと、相互インダクタンスとの関係
です。ここで、k は、結合係数 です。理想的には、1 次側で発生した磁束が、100% 2 次側を通りますが、現実には、漏れ磁束 が発生します。1 次側で発生する磁束が、すべて 2 次側のコイルを通れば、結合係数 k は 1 です。しかし、2 次側コイルを通らない、漏れ磁束が存在しますから、k≦1 となります。
◆ 交流は、トランスを使用することによって、簡単、かつ自由に電圧を変えることができます。このことが、交流を使いやすくしている大きな理由です。

[コラム 2.2-7] トランスの原理

★ トランスは、大から小まで、各種あります。下図左は電力用の大形トランス、右は、海外旅行用の小形トランスです。

電力用の大形トランス       海外旅行用の小形トランス

★ トランスは、電磁誘導の原理を応用したものです。コイルの中の磁界を変化させると、そのコイルの中に電流を流そうとする力(起電力)が発生ます。この現象を、電磁誘導といいます。
★ この電磁誘導によって発生する起電力は、その起電力によって流れる電流が、コイル内の磁束の変化を妨げようとする方向です。これを、レンツの法則 と言います。すなわち、下図左側のように、磁界を変化させたときの、誘導電流 (電磁誘導によって発生する電流)は、図の右側のようになります。

磁界を変化させたときの誘導電流

★ トランスは、電磁誘導を利用しています。
トランスの 1 次側コイルに流れる電流(交流)によって、右ネジの法則の方向に発生した、交流的に変化する磁束は、トランスの 2 次側コイルを通ります。そして、その 2 次側コイルを通った磁束の変化が、電磁誘導によって、トランスの 2 次側に、電圧(交流)を発生します。

トランスの2次側に発生する電圧




[コラム 2.2-8] 送電と配電

★ 発電所 で発電した電力は、送電システムと、配電システムによって、需要家に送られます。左は水力発電所 、右は原子力発電所 です。

_水力発電所       _ 原子力発電所

★ 以下に、発電所から、需要家までの、系統を示します。このうち、発電所から、配電用変電所 までを、送電 といい、それ以降を配電 といいます。発電所から、需要家にいたるまでの間に、それぞれに都合が良い電圧に変圧して送られます。

送配電システム(1)
送配電システム(2)

★ 簡単に変圧できるという点では、送電と配電は、交流が便利なのですが、最近、直流を使用する、直流送電 も、行われるようになってきました。
直流送電は、最大電圧が小さく絶縁が容易であること、導体利用率がよく、電力あたりの電流が小さいため電圧降下・電力損失が小さいこと、などの特徴があるからです。
また、交流と直流との相互変換が、容易になったという、技術的な背景があります。





[コラム 2.2-9] 磁気探傷と磁性アタッチメント

★ 何事も、漏れるということは、良くないことです。しかし、その漏れを利用して、傷を探すという方法があります。磁気探傷法 と呼ばれるものです。もっとも、傷と言っても、人間の傷ではなく、機械(鉄製品)の傷です。
子供の頃、磁石の上に紙を敷いて、その上に鉄粉(または砂鉄)を乗せて遊んだことがあると思います。鉄粉は、磁力線の方向に整列します。

磁力線の方向に整列する鉄粉

★ この原理を利用したのが、磁気探傷です。検査対象(鉄製品)を磁化します。傷があると、そこから磁束が漏れ出します。鉄粉を使って、漏れ磁束を、観測することができます。磁気探傷装置の一例を示します。

磁気探傷装置

★ 大型の機械は、小さな探傷装置には入りません。下図ようなやり方もあります。

大型機械の磁気探傷

★ もう 1 つは、人体に関する話題です。義歯で使われる、磁性アタッチメント です。磁性アタッチメントは、義歯を固定するのに用いられます。人体で使用しますから、漏れ磁束が少ないように、工夫されています。

磁性アタッチメント(図) 磁性アタッチメント(写真)




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