電気と電子のお話

5. ディジタル回路

line


5.2. ディジタル IC

5.2.(1) ロジックファミリ

5.2.(1-A) 概   要

◆ ディジタル IC は、論理演算を実行する IC です。IC は、トランジスタや、抵抗コンデンサなどからなる、電子回路を、1 つのチップの上に集積したものです。論理演算を実行する回路を、ディジタル回路 といいますから、ディジタル IC は、ディジタル回路を IC 化したものと、いうことができます。
◆ 1 つのチップに、どれだけの素子を集積するかによって、IC は、図 5.2-1 のように分けられます。なお、図の LSI 以上、GSI までを、一括して、LSI と呼ぶことが多いようです。現在のところ、GSI は、まだありません。実際に作られているのは、ULSI までです。

[図 5.2-1] 集積度による IC の分類

SSI 小規模集積回路 素子数 100 以下
MSI 中規模集積回路 素子数 100〜1,000 個
LSI 大規模集積回路 素子数 1,000〜10 万個
VLSI 超大規模集積回路 素子数 10 万〜1,000 万個
ULSI 素子数 1,000 万〜10 億個
GSI 素子数 10 億個以上


◆ 歴史的には、まず、1958 年に、SSI が作られました。したがって、IC の歴史は、50 年に満たないのです。この、最初に作られた、ディジタル IC は、バイポーラトランジスタを使用した、TTL と呼ばれるロジックファミリです。最初に TTL が作られてから以降、次々に、新しい機種の IC が作られてきました。これらの、IC の機種のことを、(汎用)ロジックファミリ (ファミリ )と呼んでいます(図 5.2-2)。ただし、図に示すように、頭に名前を付けて呼ぶときは、XX シリーズ のように呼びます。

[図 5.2-2] 汎用ロジックファミリ

汎用ロジックファミリ

◆ 汎用ロジックファミリは、IC の、名称、電気的特性、外形、ピン配置などが、標準化されています。そして、同じロジックファミリに属する IC は、内部構造や、電気的特性(動作スピード、消費電力、入出力電圧など)が揃っています。
同じロジックファミリに属する IC は、その IC を相互接続して、回路を組むことが容易です。特別な理由が無い限り、同じロジックファミリの IC で回路を組むのが良いでしょう。
◆ ロジックファミリは、に示したように、ECLTTLCMOSBI-CMOS の 4 種類に大別されます。

5.2.(1-B) 品   種

5.2.(1-B-a) E C L

◆ ECL は、バイポーラトランジスタで作った、最も高速のファミリです(動作速度 : 1〜3 ns)。しかし、他のファミリと比べて、電源電圧や、入出力 (入力出力)の信号レベルが、大きく異なります。このため、使い難く、特殊な用途以外には、使われていません。
したがって、具体的な説明は、省略します。

5.2.(1-B-b) T T L

◆ (ノーマル )TTL は、TI社 (テキサスインスツルメンツ社)によって開発された、最初の IC ファミリです。電源電圧は、5 V で動作します。その後、技術の進歩によって、より高速なファミリ(S シリーズ AS シリーズ )や、消費電力が少ないファミリ(LS シリーズ )、さらには高速かつローパワー(低消費電力)のファミリ(ALS シリーズ )が、誕生しました(図 5.2-3の TTL ファミリ)。これらのファミリは、過去に、最も多く使われた一連のファミリです。しかし、最近では、ほとんど、CMOS が、また、高速用には BiCMOS が、使われています。
◆ TTL に限らず、IC は、形名 (形番 )で呼ばれます。図 5.2-3 には、形名のつけ方も記載されています。

[図 5.2-3] ファミリ各種

ファミリ各種(1) ファミリ各種(2)
5.2.(1-B-c) C M O S

◆ 最初に開発された、CMOS ファミリは、RCA 社が開発した、4000 シリーズ (図 5.2-3 のCMOS ファミリ中の 1 つ)です。4500 シリーズ は、モトローラ社が、4000 シリーズに追加した機種です。
ただし、RCA 社は、その後、半導体部門からは、撤退しています。TI 社が、現在でも、半導体製品の雄であるのと、好対照です。
◆ 4000 シリーズは、電源電圧が、3〜18 V と、広い範囲で動作するなど、大きな特徴がありますが、動作速度が遅いため、現在では、特殊な用途にしか使われていません。
現在多く使われているCMOS ファミリは、形番、ピン配置、動作速度などが、TTL と互換性がある、HC シリーズ です。HC シリーズよりも高速な AHC シリーズ 、HC シリーズよりも高速かつ電流駆動能力が高い AC シリーズ もあリます。
上記の各ファミリは、信号レベルについては、TTL との互換性が、ありませんが、信号レベルについても、TTL と互換性を有する、HCT シリーズ や、ACT シリーズ もあります。
◆ CMOS は、TTL と比較して、消費電力が大幅に低いことから、現在では、ディジタル IC の主流になっています(図 5.2-4)。電源電圧も、TTL よりも広い範囲で動作します。ただし、最近では、電子回路の高速化が進んでいます。高速の用途には、CMOS よりも高速に動作する、BiCMOS が用いられます。

[図 5.2-4] CMOS ファミリの仕様

CMOS ファミリの仕様
5.2.(1-B-d) BiCMOS

◆ BiCMOS は、同一のシリコン基板上に、バイポーラトランジスタと、CMOS とを集積した IC です(図 5.2-5)。BiCMOS は、バイポーラの高速性と、CMOS の低消費電力という、両者のもつ特長を両立させた素子です。IC の入力段とロジックの部分は、CMOS で構成して、低電力とし、出力段に、バイポーラトランジスタを使用して、高速、かつ高い駆動能力を、持たせてあります。
BiCMOS には、BCT シリーズ と、さらに高速の ABT シリーズ とがあります。

[図 5.2-5] BiCMOS ファミリの仕様

BiCMOS ファミリの仕様(a)
BiCMOS ファミリの仕様(b)
5.2.(1-B-e) 低電源電圧用のファミリ

◆ CMOS は、原理的に、電源電圧を変えて使用することができます。しかし、ディジタル IC の電源電圧は、TTL が 5 V であったことから、CMOS でも、実際に使用する電源電圧は、5 V が多く使用されてきました。
◆ 最近では、電源電圧を、3 V または、3.3 V で動作させることが多くなっています。同じ素子を、電源電圧を変えて使用すれば、低い電源電圧の方が、動作速度は遅くなりますが、電力消費量は少なくて済みます。
一方、素子自体を高速にするためには、信号電圧の振れ幅を小さく設計するのが有利です。すなわち、低電源電圧 用の IC の方が高速に動作させることが可能です。
3〜3.5 V 低電源電圧用の CMOS および BiCMOS シリーズを、図 5.2-6 に示します。LV-A シリーズ LVC シリーズ LVT シリーズ ALVC シリーズ ALVT シリーズ AVC シリーズ の各機種があります。

[図 5.2-6] 低電源電圧ファミリの仕様

低電源電圧ファミリの仕様
CMOS ファミリの仕様

◆ なお、最近では、汎用ロジック IC を使用して、ロジックを組むこと自体が、少なくなっています。
システムのロジック自体は、どんどん複雑になっています。しかし、複雑な、システムのメインになる、ロジックは、LSI を使用します。または、マイクロコンピュータ(マイコン)を使って、ソフトウェアでロジックを組みます。汎用ロジック IC を使用することは、あまり、ありません。
◆ このことから、上記の、BiCMOS などの IC は、汎用ロジック IC ではなく、バス用の IC になっているものがあります。バスについての説明は、後になります。

_

目次に戻る     前に戻る     次に進む