★ 広義の信号 は、欲しい信号と、この欲しい信号を妨害するノイズ (雑音 )とに分けられます。
★ これまでのお話では、信号は、きれいなものであるとして、ノイズのことには触れませんでした。しかし、実際にはノイズがあります。ノイズによって、誤差や誤動作が発生します。
ノイズは、絶対値でも評価されますが、より一般的には、信号 S とノイズ N との比、S/N が使用されます。S/N は、
で、定義されます。しかし、より一般には、S/N を、dB で表します。
★ ノイズは、通常、電力で評価します。多くの場合、ノイズを、電力で考えるのが合理的です。しかし、信号は、電圧で表すことが普通ですから、ノイズも、電圧で評価する方が、良いこともあります。
★ ディジタル信号の場合は、ノイズが大きいと、ゼロが 1 に、1 がゼロ化けるという誤動作につながります。
下図で、大きなノイズは、誤動作 になっています。図で、スレッシホールド電圧 (スレッショルド電圧) というのは、ディジタル信号が 1 になるか、ゼロになるかの、境界を示す電圧のことです。すなわち、電圧がスレッシホールド電圧よりも高ければ 1 と判定し、低ければゼロと判定します。図の、小さなノイズは、スレッシホールド電圧を超えていませんから、誤動作にはならず、無害なノイズです。
★ アナログ信号では、ノイズは誤差になります。アナログ信号は、誤差とノイズとを、きちんと識別することができません。したがって、ノイズと誤差とが加算された結果としての、信号(下図)が、許容誤差を超えたとき、それを誤動作と、判定することになります。
★ このノイズはさらに、狭義のノイズとサージ とに分けられます。
★ すなわち、サージとは、強烈なノイズです。
ただし、素子には、強いものもあれば、弱いものもあります。したがって、この定義では、ノイズとサージとを、うまく分けることができません。
電子回路に対するノイズとサージは、実用上次のように分けています。
★ サージは有害ですから、サージの発生を防ぐ必要があります。発生したサージの電流を逃がして、サージ電圧を抑える素子を、サージアブゾーバ といいます。
★ 電子機器や電子回路では、サージはもちろんのこと、ノイズも、極めての重大な問題です。ノイズ対策 を、十分に施すことが、必要です。ノイズ対策技術は、設計から、実装までの、広い範囲にまたがる技術です。
正しく動作する回路を作ることにも、技術が必要です。しかし、単に正しく動作するだけでは、真の実用回路ではありません。ノイズによって、有害な誤差や、誤動作を、引き起こさない回路を、設計、製作することが、重要です。
★ このホームページでは、ノイズの問題について、別の WEB 講座「ノイズ対策技術」で詳しく解説しています。
★ システム(このお話では、システムとは、電子回路を意味することが多いと思いますが)には、線形 (リニア )システムと、非線形 (ノンリニア )システムとがあります。線形とは、変数が直線で表現されれることです。式で表せば、変数を x と y として、
y = a x + b
で表せるものが、線形です。そして線形でないものは、全て非線形です。非線形の代表が、曲線です。
★ 電気の現象は、少なくとも、半導体のお話に入るまでは、線形でした。ただし、唯一の例外が、コラム 2.1-8 にありました。
電気は目に見えないという点では、水と比べて分かり難い現象です。しかし、逆に、水には各種の非線形性があります。この意味では、電気は、水に比べて分かりやすいのです。
★ 半導体のお話に入ると、とたんに、非線形がでてきました。ダイオードの特性は、直線ではありませんから、非線形です。
★ 線形なシステムは、分かりやすく、理論的にも簡単に取り扱うことができます。これに対して、非線形なシステムは、各種各様な性質を持っており、どのような非線形であるかによって、取り扱い方が異なります。
非線形なシステムは、非線形のままで取り扱うことが面倒ですから、線形で近似することが、行われています。曲線で表される非線形は、その曲線に接線 を引くことによって、線形近似 することができます。
★ 接点から離れたところでは、近似した直線と、元の曲線との差が大きくなりますが、接点に近いところでは、良い近似になります。逆にいうと、近似とは、近似する範囲を決めて、その範囲の中で、誤差が小さければよい、ということです。
入力 X の値が、大きい範囲で、曲線が水平になることを、飽和 といいます。
★ ダイオードの場合には、ダイオード全体を通して、1 つの直線で良い近似をすることは不可能です。このような場合には、折れ線近似 を使用します。ダイオードの折れ線近似は、目的・用途によって、各種の近似の程度があります。
★ 緑は、順方向電圧も、降伏電圧も無視した、最も簡略な近似です。青は、順方向電圧だけを考えたモデルで、順方向電圧は一定です。橙は、青に降伏電圧を加えたものです。そして、赤が順方向電圧、および降伏電圧が、一定ではないことまで、加味したものです。
★ 最も詳細な近似である赤は、電流の値によって、電圧が変化しています。これは、抵抗の性質を持っていることを意味します。このような場合を、さらに一般化して、考えて見ましょう。
★ 図で黒は、電圧と電流との関係が複雑に変化する素子の電圧/電流の関係です。この素子が P 点で動作する場合を考えます。通常の素子であれば、電圧を増加すれば、電流も増加します。しかし、この素子は逆で、電圧を増やすと電流は減少します。このような現象を負性抵抗 といいます。
★ 負性抵抗は、不安定な現象です。したがって、実際には P 点を中心として動作することはありません。ここでは、特性曲線上を安定して動作するとすれば、どうななるかを、考えてみます。
★ P 点の抵抗値は、どのように考えれば、良いでしょうか。1 つは、原点と P 点とを結ぶ緑の線と考えることができます。抵抗の本来の定義(オームの法則)は、この緑線です。しかし、オームの法則は、線形のシステムで成立する法則ですから、そのまま非線形の系に適用することはできません。電圧の変化とそれに対応する電流の変化は、緑線とは無関係です。
★ そこで、別の抵抗の定義のしかたとして、P 点に引いた接線の傾斜を、抵抗と考えます。この場合は、電圧を増やすと電流は減少しますから、負性抵抗という現象を良く表しています。
★ このように、動作点 P において、電圧/電流曲線に引いた接線の傾斜で、抵抗を定義したとき、その抵抗のことを、動作抵抗 といいます。
ダイオードの順方向電圧と降伏電圧は、図の赤線のようになります。これらは、動作抵抗を考えれば、良いわけです。
★ 一般に半導体は、大きな温度係数 を持っています。すなわち、半導体の各種の特性値は、温度によって、大きく変化します。これは、一般論としては、半導体の大きな欠点です。しかし、この性質を逆用して、ダイオードを、温度センサ として、使用することができます。
下の図は、ダイオードの順方向電圧が、温度によって、変化することを示しています。
★ したがって、下記の回路によって、温度を計測することができます。
★ ダイオード温度計 は、独立したセンサとして、使用する他に、IC に組込んで、IC 内部の温度を計るのに、利用されています。
★温度センサの話がでたついでに、センサ (センサー )一般についても、説明します。
人間は、目で見る(視覚 )、耳で聞く(聴覚 )、手などで触る(触覚 )、鼻で嗅ぐ(嗅覚 )、舌で味を感じる(味覚 )の、5 感 を持っています。第 6 感もありますが、これは、ちょっと、別物です。
★ センサは、人の 5 感を、人工的に実現するものです。
★ センサは千差万別と、もじって呼ばれるほど、多種多様ですが、人の 5 感との対応で分類すれば、下記のようになります。下記の表では、電気抵抗変化、電圧変化、電流変化のことを、単に「電気」と記してあります。