電気と電子のお話

6. アナログ IC

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6.2. その他のアナログ IC

6.2.(1) コンパレータ

6.2.(1-A) コンパレータとは

◆  コンパレータ は、2 つのアナログ入力電圧の大小を比較し、その結果を、1 か 0 かのディジタル値で出力する IC です(図 6.2-1)。したがって、コンパレータの入力は、アナログ回路であり、コンパレータの出力は、ディジタル回路です。この意味では、コンパレータは、1 ビットの、A/D コンバータです。

[図 6.2-1] コンパレータの動作

コンパレータの動作

◆  オペアンプフィードバックを掛けずに、裸で使用すれば、コンパレータと、ほぼ同様な動作をします。したがって、コンパレータ IC の代わりに、オペアンプ IC を使用することができます。ただし、オペアンプ IC は、コンパレータ専用 IC よりも動作速度が遅く、出力電圧の振れ幅をディジタル IC の振れ幅に調整する回路が必要になることも、あります。この点では、コンパレータ IC を使用する方が、便利です。
◆  コンパレータ IC の例を、図 6.2-2 に示します。上が汎用、下が CMOS です。

[図 6.2-2] コンパレータ IC の例

コンパレータ IC の例(1)

コンパレータ IC の例(2)


◆  コンパレータ LM339 のデータシートを示します(ここをクリック)。
コンパレータの出力は、オープンドレイン(CMOS の場合)または、オープンコレクタ(TTL の場合)、ものが多いのです。
◆  オープンコレクタ は、オープンドレインと同様なもので、TTL のものをいいます(図 6.2-3)。アナログ回路の電源と、ディジタル回路の電源は、別系統になっている場合が多いので、それに対応できる、オープンコレクタ(またはオープンドレイン)出力の方が、便利です。
なお、オープンコレクタ(またはオープンドレイン)出力であることを、図記号で示すには、図に示した * のように、オペアンプ記号の△の先端に、) を付けて、表します。

[図 6.2-3] オープンコレクタ出力のコンパレータ

オープンコレクタ出力のコンパレータ

6.2.(1-B) コンパレータ回路

◆  図 6.2-2オフセット電圧の値から分かるように、コンパレータは、感度が高いことが特徴です。しかし、この感度が高いことが災いして、コンパレータでは、発振と称する現象が起こります。しかし、発振と呼んでいるだけであって、発振ではありません。低周波の信号に、高周波のノイズが乗っている場合に、そのノイズによって、正常に動作しているものが、発振のように見えるのです。
◆  いずれにしても、振動的な現象は、好ましくありません。これ対する対策は、コンパレータ回路に、シュミットトリガ特性を、持たせることです。図 6.2-4 は、その実験回路です。上側の回路は、単純なコンパレータで、下側は、シュミットトリガ特性を持たせた回路です。シュミットトリガ特性は、正のフィードバック回路によって、作っています(正のフィードバックは、図の 100k * 印の抵抗によって作っています)。

[図 6.2-4] コンパレータの実験回路

コンパレータの実験回路

◆  ポジティブフィードバック(正のフィードバック)は、ネガティブフィードバックとは、反対の性質を持っています。ネガティブフィードバックは、系を安定させる方向に働きます。これに対して、ポジティブフィードバックは、系を不安定にする傾向があります。ポジティブフィードバック回路では、一旦動作が始まると、反対の極限まで動作が進行します。そして、極限まで、動作すれば、それ以上は動けません。すなわち、安定します。その結果として、シュミットトリガ動作なります。
◆  図 6.2-4 の回路の動作波形を、図 6.2-5 に示します。シュミットトリガ動作によって、振動的な波形が無くなっているのが、分かります。

[図 6.2-5] コンパレータの動作波形

コンパレータの動作波形

◆  ただし、シュミットトリガの幅だけ、感度が落ちています。ディジタル IC のシュミットトリガであれば、感度が落ちることは、全く問題ありませんが、コンパレータでは、問題になります。波形が振動的にならない範囲で、シュミットトリガの、ヒステリシスの幅を、できるだけ狭く押さえることが必要です。また、アナログ回路ですから、スレッシホールド電圧の絶対値も決めなければなりません(図 6.2-6)

[図 6.2-6] コンパレータ回路の設計

コンパレータ回路の設計(1)    コンパレータ回路の設計(2)

6.2.(1-C) ウィンドウコンパレータ

◆  入力電圧が、特定の電圧範囲の中に収まっているか、どうかを判定する回路を、ウィンドウコンパレータといいます(図 6.2-7)。

[図 6.2-7] ウィンドウコンパレータ

ウィンドウコンパレータ

ウィンドウコンパレータ

◆  上側のコンパレータで、ウィンドウの上限 VU を、下側のコンパレータで、ウィンドウの下限 VLをチェックします。
◆  入力電圧 Vin が、2 つの設定値 VU と VL の間にあると、Q1out、Q2out 出力は、共に H レベルであるから、AND ゲート出力は、H レベルになります。しかし、入力電圧が、VU〜VL 以外の電圧であると、Q1out、Q2out 出力の、どちらかは、L レベルになりますから、AND ゲート出力は、L レベルになります。

6.2.(2) アナログスイッチ

◆  アナログスイッチ IC は、アナログ信号を、電子的に、オンオフする IC です(図 6.2-8)。

[図 6.2-8] アナログスイッチ

アナログスイッチ

◆  アナログスイッチ IC の例を、図 6.2-9図 6.2-10 に示します。図から分かるように、アナログスイッチは、ロジックファミリの機種としても、存在します。アナログスイッチの、ロジックファミリの機種は、アナログ IC に属するものよりも、安価であり、性能を問題にしない用途に用いられます。
アナログスイッチ AD7510 のデータシートを示します(ここをクリック)。

[図 .6.2-9] アナログスイッチの例(その 1)

アナログスイッチの例(その 1)


[図 6.2-10] アナログスイッチの例(その 2)

アナログスイッチの例(その 2)

◆  アナログスイッチ応用製品に、切り替えスイッチとして働く、アナログマルチプレクサ があります(図 6.2-11図 6.2-12)。74HC4051 は、ロジックファミリの機種です。

[図 6.2-11] アナログマルチプレクサ(8 点用)

アナログマルチプレクサ(8 点用)


[図 6.2-12] アナログマルチプレクサの例

アナログマルチプレクサの例

◆  アナログスイッチの構成素子は、FET または、CMOS です。
FET は、単体でも、アナログスイッチとして利用できるものがあります。FET は、スイッチオン時の抵抗が低く、入力信号を、ほとんど減衰なく、通過させます。オフ時は、その抵抗値が十分高く、入力と出力とは切り離させます。
ただし、メカニカルのスイッチと比べれば、オン抵抗は大きく、オフ抵抗は小さいので、用途によっては、その値が問題になります。

6.2.(3) アナログ演算 IC

◆  アナログ演算 IC は、アナログ入力信号の演算を行う IC です。
各種の演算は、ディジタルが得意とするところです。したがって、多くは、アナログ信号をディジタルに変換し、ディジタル演算(通常は、マイコンなどのコンピュータによる演算)を行います。必要ならその演算結果を、アナログに戻します(図 6.2-13)。しかし、簡単な演算の場合は、アナログ信号のままで、アナログ演算を行うことがあります。

[図 6.2-13] 通常はディジタル演算を行う

通常はディジタル演算を行う

◆  加減算 は、通常のオペアンプ回路で行うことができますから、アナログ IC は、乗除算 を行います(図 6.2-14)。

[図 6.2-14] アナログ演算 IC の例

アナログ演算 IC の例

◆  (1) 乗算
乗算 は、2 つのアナログ入力を Vx と Vy、出力 を Vout とすれば、下記の演算を行います。
     乗算

ここで、Vref は、ディメンジョン係数 といい、通常は 10 V です。出力の符号(正/負)が、正しく出力できるものを、4 象限の乗算器 といいます。
◆ 
(2) 除算
除算 は、分子の入力信号 Vz と、分母の入力信号 Vx に対して、下記の演算を行います。
     除算
Vref が、10 V のとき、Vz ≦ Vx ならば、Vout は、10 V 以下です。Vx は、単一極性です。この値hが、ゼロに近いと、出力は、非常に大きな値になり、意味を持ちません。Vz は、正または負の 2 極性です。出力が、Vz の極性に依存するので、2 象限の除算 といいます。
◆  (3) 2 乗、平方根
2 乗 は、
     2 乗
を計算して、その結果を出力します。平方根は、下記を、実行します。この計算は、1 象限で行われます。
     平方根


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