◆ 「電気」、「電子」と言う言葉は、日常誰もが口にする言葉です。
電気 という言葉から、連想するのは、電線を伝わってきて、電灯 を灯したり、モータを回したりする 電気 があります(図 1.1-1)。
◆ 乾燥した季節に、ドアのノブに触ってショックを受ける、静電気を思い浮かべる人も、いるでしょう。
また、電子 と言うと、テレビやパソコンを思い浮かべる人も多いと思います(図 1.1-2)。
◆ しかし、それでは一体、電気 とは、どんなものか? 電気 と 電子 とでは、どう違うのか? と問い詰められると、うまく答えられない人が、多いのではないでしょうか(図 1.1-3)。
◆ もともとは、電気 という言葉が用いられてきました。電子 という言葉が使われるようになったのは、最近のことです。
結論から言えば、電気と電子は同じものです。
最初に、現象として、電気 が発見され、後に、その現象が、電子 と呼ばれる微小な粒の、仕業であることが分かったのです。
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しかし、私たちは、電気 と 電子 の言葉を、なんとなく、使い分けています(図 1.1-4)。とくに、電気工学 、電子工学 と、工学の字をつけたときは、図のような、使い分けをすることが多いと思います。しかし、この「お話」では、電気/電子 の言葉は、図 1.1-4 の使い分けは、していません。
◆ ある物質 を段々小さく分けていったとき、たどり着くのは分子です。分子 は、その物質が、その性質を保ったままで、分けることができる、最小の粒(単位)です。しかし、その分子は、複数の原子 から成り立っています。
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たとえば、水の分子(H2O)は、水素原子 2 個と、酸素原子 1 個とから、できています(図 1.1-5)。
◆ 原子を、さらに細かく見ると、原子核 と、その原子核の周りを回っている 電子 とに分けられます(図 1.1-6)。
◆ 電子 は、電荷を持った、微小な粒です(図 1.1-7)。
◆ 電荷 とは、物質や、原子、電子 などが持っている電気量のことです。物質には、質量があります。同様に電気には、電気量 があります(図 1.1-8)。物の多い/少ないは、質量で定量的に表すことができます。同様に、電気量は、電気の多い/少ないを、定量的に表します。
◆ 電子 の電荷は、ー(負、マイナス)です。電気には、± があります。最初に電気の ± を定義したときは、電子 が電気の素であることは、まだ知られていませんでした。
電気には ± の 2 種類が有ると、主張したのはフランスのデュフェイです。その、デュフェイが定義した電気の ± が、そのまま、現在の電気の ± になっています。後に、電子 が発見され、電子が何物であるかが、分かったら、電子 は、マイナスだった、というわけです。
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これに対して、凧を挙げて、雷が電気であることを、実験で実証したフランクリン(図 1_1-9)は、電気の素は 1 つであると主張しました。
◆ フランクリンは、帯電は、摩擦によって電気流体が移動した結果であると、考えたのです。彼は、次のように主張しました、「ガラス電気(正電気)は電気流体が過剰であり、樹脂電気(負電気)は電気流体が不足している。電気は生成したり消滅したりしない」。
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フランクリンが定義した、電気の ± は、現在の定義と逆ですが、電気の素(彼のいう「電気流体」)が 1 つであるということは、彼の考え方の方が、正しかったわけです。
◆ 電子は、図 1.1-6 に示したような、原子核の周りを回っているもの、だけではありません。原子の 1 番外側を回っている電子は、原子の外に飛び出しやすい性質を持っています。この、原子から飛び出した電子は、金属などの、電気を良く通す物質の中を、自由に動き回ることができます。
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これを、自由電子 と呼んでいます(図 1.1-10)。図で、小さい - の ○ は電子、大きい + の ○ は自由電子を失った金属の原子です。金属は、結晶 となっていますから、原子は、きれいに整列しています。
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金属などの、電気を良く通す物質を、電気の導体 と言います(図 1.1-11)。電気の導体中には、自由電子が沢山あります。この、沢山の自由電子が、動き回ることができる、と言うことが、電気を良く通すことができる、と言うことです。
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一方、プラスチックのような、電気を通さない物質を、電気の絶縁体 (不導体 )と言います。絶縁体には、自由電子は、ほとんどありません。したがって、電気を流すことができません。
◆ ただし、導体/絶縁体といっても、ディジタル的に、通すか/通さないか、ということでは、ありません。アナログ的な、通しやすさがあります。物質が電気を通す、通しやすさは、物質の抵抗率 で表されます(図 1.1-12、さらに多数の物質のついて示した図が、ノイズ対策講座 5.(1-A)の図.2にあります)。
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抵抗率は、正確には、体積抵抗率 と言います。物体の抵抗値は、物体の形に依存しますが、抵抗率は、形には依存しない、物質固有の値です。
◆ 抵抗率が、導体と絶縁体との、ちょうど中間にある物質を、半導体 といいます。半導体の中には、単に抵抗率が中間である、と言うだけでなく、特殊な性質を持つものが、あります(たとえばシリコン)。この特殊な性質を利用して作られた素子が、ダイオードや、トランジスタなどの、半導体素子 です。電子技術 と呼ばれているのは、この半導体素子、および半導体素子の応用に冠する技術です。
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この「お話」の中心は、電子回路です。そして、電子回路の主役は、半導体素子です。しかし、この章を含み、第 3 章までのお話は、半導体のお話に、たどり着くための、予備的なお話です。半導体、そして電子回路自体のお話は、その後になります。
◆ 絶縁体には、自由に動ける自由電子は存在しません。しかし、2 つの絶縁体を、こすり合わせると、一方の物体から、他方へ電子が移動します。その結果として、それぞれの、物体では、電気量のアンバランスが生じます。これを帯電 と言います(図 1.1-13)。
◆ 帯電した絶縁体の電子は、動くことができません。このような、動くことができない電気を、静電気 と言います。正に帯電した絶縁体と、負に帯電した絶縁体とを、電気の導体でつなぐと、負に帯電した余分な電子は、導体を通って、正に帯電した絶縁体に流れ込みます。これを、静電気放電 と呼びます(図 1.1-14、図 1.1-15)。放電の結果として、電気は互いに打ち消し合います。これを中和 と言います。
◆ 人体は、電気の導体です。セーターを脱ぐときに、バリバリ音を立て、ショックを感じたり、ドアのノブに触れたときに受けるショックは、静電気放電が人体を通過するときのショックです。この電圧は、数千 V(ボルト)から、1 万 V に達することがあります(このホームページの別の講座「ノイズ対策技術」3.(4-B)参照)。静電気放電は、人体だけでなく、電子部品 にも、大きな影響を及ぼします。静電気放電が、電子部品を通ると、電子部品を、破壊させることがあります。
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私たちが使うテレビや、パソコンなどの電子機器に入っている電子部品は、静電気放電によって破壊されないように、保護されています。しかし、裸の半導体部品は、十数 V の放電で、簡単に壊れます。半導体部品よりも、人間の方が、はるかに強いのです。
◆ 静電気放電の、最も強烈なものが雷 です。このお話では、雷については、振れません。ノイズ対策 3.(2)、3.(3) を参照してください。
◆ さきに述べたように、電気の導体には、自由電子、すなわち動ける電子が沢山あります。したがって、大量の電子の流れを作ることができます。この、電子の流れが、電流 です(図 1.1-16、図 1.1-17)。動けない電子が、静電気ですから、動電気という言葉あっても良さそうですが、この言葉は、使われていません。
◆ 最初に示したように、私たちは、電気を、多くの用途に利用しています。静電気の応用(1.2.(1-B))を除けば、これらはすべて、電子の流れ、すなわち電流を利用しているのです(図 1.1-18)。用途は、多岐にわたりますから、例示です。
◆ 電流が、エネルギーの担い手になっているときは、電流のエネルギーを、他のエネルギーに変換して、それを、利用していることになります。
電流は、電線 によって、容易に運ぶことができます。電気は、エネルギーの運搬手段として、非常に優れた性質を持っています(図 1.1-19)。
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現代の産業は、電気をベースにして成り立っています。この理由は、いろいろあるでしょうが、電気がエネルギーの運搬手段として優れていることも、大きな要因です。
◆ 電気と並んで、広く使われている、もう 1 つのエネルギー源として、ガソリン などの、石油系燃料 があります。石油系燃料も、原油などの大量輸送には、パイプライン が使われていますが、末端の輸送は、タンクローリー、さらには手で容器を運ぶなど、電気に比べると、はるかに不便です(図 1.1-20)。これと比べてみると、電気がエネルギーの運搬手段として、優れていることが、よく分かります。
◆ なお、電線を引くことができないもの、たとえば、携帯用の製品では、電池 が利用できます。最近では、従来の電池とは全く原理が異なる、燃料電池が、使われ始めています。
◆ 電子は、情報の担い手としても、優れています。部品間を、配線 でつなぐことによって、きめ細かに、情報を集めたり、情報を配分することができます。その典型が、プリント配線基板 です。図 1.1-21 は、部品を実装したものです。図 1.1-22 は、部品実装前の基板(一部分)ですから、配線の様子が良く分かります。なお、図は、同じものでは無く、別の基板です。
◆ プリント配線基板よりも、もっと激しいのが、IC (集積回路 )です(図 1.1-23)。小さなシリコンのチップ (小片)の上に、複雑な回路が組み込まれています。最近では、テレビの回路全体を、ワンチップ(1 つのチップ)に集積することができます。これによって、手のひらテレビや、携帯電話に組み込んだテレビが可能になりました。