電気と電子のお話

2. 電流と電流を流す回路

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2.1. 電気を流す力とそれに抵抗する抵抗


2.1.(2) 抵抗とは

2.1.(2-A) オームの法則にしたがう

◆ 水圧が掛かった水路に水を流すと、水路の持つ抵抗によって、水の流量が制限されます。水路の抵抗は、水路の太さに依存します。水路の太さが太いほど、水路の抵抗は小さくなります。
同様に、電圧が掛かった 2 点間に流れる電流は、値が制限されます。この電流を制約するものが、電気抵抗 です(図 2.1-9)。
◆  抵抗には、いろいろな抵抗がありますが、通常、単に抵抗 というと電気抵抗のことを指します。そして、電気以外の抵抗に、たとえば、熱抵抗 のように、その名前を冠します。

[図 2.1-9] 電気抵抗とは

電気抵抗とは

◆ 抵抗の両端に電圧を掛けたとき、その電圧と、抵抗に流れる電流との、関係については、有名な、オームの法則があります。クーロンの名は、この「お話」で初めて知ったという人でも、オーム の名は知っていた人が多いと思います。
「オームの法則を理解すれば、それで、電気のことは、分かったことになる」 と言われているほど、重要、かつ基本的な法則です。
オームの法則 は、抵抗を R とし、抵抗の両端に掛かる電圧を、それぞれ Va および Vb、抵抗に流れる電流を I とするとき(図 2.1-10)、式 2.1-1 で、表されます。図のギザギザ(印)は、抵抗を表す回路図記号です。


[図.2.1-10] 抵抗の式

抵抗の式

          抵抗の式 ・ ・ ・ ・ (2.1-1)

◆ 抵抗の単位は、[Ω オーム ] です。



[コラム 2.1-4] 法則と定理の違い

★ 前に、クーロンの法則が、でてきました。今度は、オームの法則です。電気の現象には、「法則」が多いようです。一方、「定理」と呼ばれるものがあります。「定理」と「法則」とでは、どこが違うのでしょうか。
★ 「定理 」とは、証明することができるものを、いいます。ピタゴラスの定理は証明できます。

ピタゴラスの定理

★ これに対して、「法則 」とは、物理などで、実験的に成り立つ規則性のことを、いいます。したがって、法則は、社会現象でも、成立します。たとえば、ハインリッヒの法則があります。重大な問題の陰には、ちょっとした問題が沢山あるという法則です。ハインリッヒの法則を、失敗に適用したものが下図左、事故時の負傷者に当てはめたものが下図右です。半導体における、ムーアの法則(半導体の集積密度は、18〜24箇月で倍増する)は、良く知られている法則ですが、これも経験則です。

ハインリッヒの法則を失敗に適用したもの     事故時の負傷者に当てはめたもの

★ 「定理」は、証明できなければなりませんから、数学の世界です。電気の現象で、その現象に、直接定理が成立することは、ほとんど、考えられません。
★ しかし、「定理」と呼ばれているものが、絶対かというと、必ずしも、そうではありません。定理や法則には、その定理や法則が成立する条件があります。この条件から外れれば、成立しないのは、当然です。
しかし、しばしば、この条件を忘れてしまいます。そこに、常識を破る事実が、出現するわけです。
★ たとえば、高校生の実験で、「定理覆す大発見? 永久磁石で鉄球浮遊」 ということで、新聞記事になりました。これも、種を明かせば、定理に裏付けられている現象です。コロンブスの卵、のようなものです。

永久磁石で鉄球浮遊     その原理





2.1.(2-B) 抵抗の素子 抵抗器

◆ 電気の分野に限りませんが、ある特性が存在すれば、その特性に対応するハードウェアが存在します。
抵抗の特性を実現するハードウェアが、抵抗器 です。ただし、抵抗の場合、ハードウェアである、抵抗器のことも、略して 抵抗 と呼んでいることが多いのです。したがって、どちらを指しているのか、判然としないことがあります。
抵抗器の外観の例を図 2.1-11 に示します。一番下は、集合抵抗といい、複数の抵抗を、1 つのパッケージに入れたものです。

[図 2.1-11] 抵抗器の外観の例

抵抗器の外観の例(1)
抵抗器の外観の例(2)
抵抗器の外観の例(3)


[コラム 2.1-5] 標準抵抗

★ 一口に標準と言っても、標準 にも、いろいろあります。たとえば、時刻 のように、あらゆるものの、基盤になる標準もあります。時間は、SI 単位で決められています。
時刻の標準は、以前は、イギリスのグリニッチ天文台 の天体観測を基準にしていました(GMT )。現在は、協定世界時 (UTC )が用いられています。協定世界時は、原子セシウム133 による原子時計 を基に定められています。
実際に私達が使う標準の時刻は、電波時計 です。

通信総合研究所     電波時計の送信

 長さ の標準は、SI 単位では、クリプトン86 が発する光の波長ですが、以前は、メートル原器 が使われていました。質量は、国際キログラム原器 という、実物です。化学物質 の標準は、精製された物質そのもが標準です(下図右)。

メートル原器     標準物質

★ 抵抗器の抵抗値は、規格 (JIS 日本工業規格 )によって標準化されています。抵抗値は、標準数 と呼ばれる値を使用しています。標準数は、等比数列を丸めたものです。抵抗値は、標準数 × 10n です。
抵抗値だけでなく、精度(許容誤差)も標準化されています。基本的には、E3、E6、E12 ・・の順に、精度が高くなっています。

標準数

★ 許容誤差は、次の通りです。

抵抗の許容誤差

★ 抵抗は、寸法が小さいものが多いので、抵抗や許容誤差の値を、文字でなく、色で表します。これを、カラーコード といいます。E24 列以下に対応する、4 色帯 と、E96 列に対応する 5 色帯 とがあります。

カラーコード見本


カラーコード(4色帯)

カラーコード(5色帯)





[コラム 2.1-6] 水の抵抗

★ このお話では、目に見えない、電気の流れを、目に見える、水の流れで例えています。水流 にも、水流に対する抵抗があります。しかし、抵抗に関しては、電気の抵抗の方が簡単です。
水路における水流の抵抗 は、もっと複雑です。流速 によって、流れの状態が変化し、それに応じて、抵抗の値が変わるからです。電気の抵抗は、電流の値に関わらず一定です。ただし、[コラム 2.1-8] のような、例外もあります。
★ 水泳 では、水の抵抗が、問題になります。空気や水の抵抗は、粘性抵抗 と呼ばれる抵抗ですが、水の粘性抵抗は、空気の粘性抵抗の約 19 倍です。
水泳では、水の抵抗が少ないような、泳法 が優れた泳法です。水泳における水の抵抗は、水路よりも、さらに複雑です。

水の抵抗(1)     水の抵抗(2)


水の抵抗(3)     水の抵抗(4)

★ 水泳における、水の抵抗の大きさは、水着 によって支配されます。競泳用の水着は、水の抵抗が小さくなるような生地が使われています。昔は、水着よりも、人の肌の方が、抵抗が小さかったのですが、今では、競泳用の水着の方が、優れています。
ところで、水の抵抗は、表面が滑らかだから小さい、とうものではありません。鮫の肌は、鮫肌の言葉があるように、ざらざらしています(下図)。この鮫肌が、水の抵抗を小さくするのに適しているのです。鮫の体形は、流線形ではありません。それにも関わらず、高速で泳げるのは、鮫肌のおかげです。

鮫肌



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