◆ データコンバータのうちで、ディジタルデータをアナログ信号に変換するのが、DA コンバータ です。DA コンバータの機種を、図 6.4-12 に示します。
種類 | 原理 | 特徴 |
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ラダー抵抗形 | 抵抗による分圧 | 高速 |
F/V 変換形 | パルス周波数を電圧に変換 | 低速、伝送に適する |
PWM 形 | パルス幅変調 | 低速、高精度可 |
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(1) ラダー抵抗形は、最も一般的な機種です。ラダー(梯子)形に接続された、抵抗ネットワークによって、電流を分流し、その電流を、与えられたディジタルコードにしたがって、加算します。その加算されたアナログ電流出力が、DA コンバータの出力になります。
(2) F/V 変換形は、パルス列が、入力です。そのパルス周波数に比例した電圧が、出力になります。すなわち、F/V 変換形 DA コンバータのディジタル入力は、ディジタルコードではなく、パルス周波数です。
(3) PWM 形は、一定周期のパルス波形が、入力です。そのパルス幅が、アナログ値に比例します。
◆ ラダー抵抗形 DA コンバータ (梯子形 DA コンバータ 、R 2R 形 DA コンバータ )を、図 6.4-13 に示します。
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ラダー抵抗形の名は、抵抗ネットワークが、梯子の形をしていることから、名づけられたものです。R の抵抗値を持つ抵抗 R と、その 2 倍の 2 R の抵抗値を持つ抵抗 2R とが、図のように、梯子形に組まれています。
ラダー抵抗形 DA コンバータの製品例を、示します(データシートは、ここをクリック)。
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ラダー抵抗形 DA コンバータは、図 6.4-14 のように接続して、使用します。図の基準電源 は、定電圧源です。
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2R の各抵抗から、図の下方に向かう電流は、図の右端 O1 を流れる電流を I とすれば、その左側の抵抗は 2 I となります。以下、順に左に、2 倍の電流が流れます。左端の抵抗に流れる電流は、2(n-1) I です。
アナログスイッチで、切り替えていますが、どちらに切り替えても、グラウンドレベルに接続されていますから、電流値は変わりません。
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アナログスイッチは、DA コンバータ入力の、ディジタルデータ(2進数)の各桁の値によって、それぞれ、切り替えられます。DA コンバータの各桁の入力が 1 のとき、スイッチは右側に、0 のとき左側に、切り替わります。
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図の IOUT1 側に流れる電流値は、図の IOUT1 側に切り替わったアナログスイッチの電流値を合算した値です。これは、図のディジタルデータに比例した値であり、この電流値が、DA コンバータの出力です。
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ラダー抵抗形 DA コンバータのアナログ出力が、電圧ではなく、電流になっているのは、電流の方が、回路が、簡単になるからです。電流だと、図のように、加算は、単に電流出力を、配線で まとめるだけで済みます。加算器を使用する必要が、ありません。
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アナログ出力が、電流値で差し支えないなら、この電流値を、使用します。しかし、一般には、電圧値が欲しい場合が多いので、図の I/V 変換器 (IV 変換器 )で、電流を電圧に、変換します。
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(理想)オペアンプの入力インピーダンスは無限大ですから、I/V 変換器の、反転入力に流入する電流は、そのまま、抵抗 R に流れます。オペアンプの出力電圧は、R I となりますから、電流 I は、電圧 R I に変換されます。
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図 6.4-13 の、VREF IN入力(基準電源入力)に、基準電源を接続する代わりに、変数としての電圧 Vv を入力すると、DA コンバータの出力は、Vv と DA コンバータの入力データとの積になります。すなわち、DA コンバータを利用した、掛け算が可能です。このように、掛け算として使用することができる DA コンバータを、マルチプライング DA コンバータ といいます。
◆ 図 6.4-14 に示した、基準電源は、ラダー抵抗側が、グラウンドに対して、マイナスになっています。DA コンバータの出力は、反転増幅器になっていますから、電圧出力は、ゼロからプラスにスウィングします。このように、グラウンドレベルから、1 方向だけに、電圧が振れる方式を、単極性出力 (ストレートバイナリ )といいます(図 6.4-15)。図は、4 ビットのストレートバイナリの例です。
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図で、MSB、LSB というのがあります。2 進数で、最上位のビットのことを MSB 、最下位のビットおことを LSB といいます。
なお、数が、10 進数や、BCD のときは、最上位を MSD 、最下位を LSD といいます。
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基準電源の極性を反対にすれば、スウイングの方向は逆ですが、やはり単極性の出力です。これに対して、出力が、プラスマイナス両方向に振れるものを、両極性出力 (オフセットバイナリ )といいます。
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DA コンバータ自体の回路構成は、図 6.4-14 のままで、基準電源の電圧値を、DA コンバータの出力スウィング範囲の、ちょうど 1/2 になるように、決めれば良いわけです。このときの、出力コードを、図 6.4-16 の「オフセットバイナリ」に示します。
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この図では、2 の補数コードというのが、出てきました。次々と、新しい用語が出てきて、ややこしいですが、これも説明しておかなければなりません。
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2 の補数 というのは、マイナスの数の、表現方法の一つで、コンピュータでは、最も普通の数の表現形式です。2 の補数を使うと、正負の数を含む算術演算が、簡単にできるからです。
ここでは、2 の補数による計算方法は、示しません。単に2 の補数そのものの、説明に、とどめます(図 6.4-17)。
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ラダー抵抗形 DA コンバータの出力には、グリッチ と呼ばれる現象があります。ラダー抵抗形 DA 変換器では、値を変えるとき、スイッチを切り替えます。このスイッチの切り替えに伴って、ノイズが発生します。これを、スイッチングノイズ といいます。DA コンバータにおける、このスイッチングノイズのことを、とくに、グリッチと呼んでいるのです。グリッチは、「小さな欠点」という意味の普通名詞です。
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その言葉のとおり、グリッチは、有っても差し支えない場合も、多いのですが、有害なときもあります。有害なときは、グリッチを、除去する必要が、あります。
グリッチは、DA コンバータの出力値を大きく変えるときは、あまり、目立ちませんが(図 6.4-18)、出力値の変化幅が小さいときは、相対的に目立ちます(図 6.4-19)
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グリッチの除去は、最も簡単には、ローパスフィルタを使用します。ただし、グリッチを十分に取り除くためには、時定数の大きなフィルタが必要ですから、遅れが大きくなります。
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グリッチの除去に際して、遅れが小さいことが、要求されるときには、グリッチ除去回路として、サンプルホールド回路を使用した回路を使います。サンプルホールド回路 (サンプリングホールド回路 )は、AD コンバータでも、使われている回路です(図 6.4-20、サンプルホールド回路の詳細は、6.4.(4-E-c)参照)。サンプルホールド回路は、変化している値を、ある時点で、一時的に、保持する回路です。
◆ このサンプルホールド回路を利用した、グリッチ除去回路 を、図 6.4-21 に示します。DA コンバータの入力を切り替えるとき、まず、サンプルホールドし、グリッチが無くなった時点で、ホールドを解除します。
◆ 以上、ラダー抵抗形 DA コンバータの周辺回路 を、まとめて示すと、図 6.4-22 のようになります。DA コンバータの機種によっては、これらの周辺回路を内蔵したものが、あります。
[図 6.4-22] ラダー抵抗形 DA コンバータの周辺回路
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F/V 変換形 DA コンバータ は、F/V 変換器 (周波数電圧変換器 )を、そのまま、DA コンバータとして、使用したものです。F/V 変換形 DA コンバータでは、ディジタル信号として、周波数を使用しています。
一般の DA コンバータのディジタル信号は、2 進数ですから、この意味では、一般の DA コンバータとは、ちょっと、異なります。
FV 変換器で使用している信号は、もっと具体的にいうと、パルス周波数信号 です。パルス周波数信号は、パルス列です(図 6.4-23)。パルス列信号 は、図に示した例のように、いろいろな使い方ができます。
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F/V 変換器は、パルス速度 (単位時間当りのパルス数)を測って、パルス周波数に比例した電圧を出力します。
この、パルス周波数信号などの、パルス数 またはパルス数をベースとする信号は、ノイズに強いことが、特徴です。
ディジタル量を表す、最も一般的な符号は、2 進数などの数を表す符号です。このような符号は、ノイズで誤動作たとき、図 6.4-24 のようになります。同じ 1 ビットの誤動作であっても、LSB の誤動作と、MSB の誤動作とでは、その影響が、全く異なります。
[図 6.4-24] 一般的なディジタル符号がノイズで誤動作したとき
◆ これに対して、パルス周波数信号では、1 ビットの誤りは、一般的なディジタル信号において、LSB が誤動作したときと、等価です。常に、最低桁にしか、影響を与えません。
FV 変換器 の動作原理を、図 6.4-25 に示します。
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FV 変換器の入力パルス列のパルス幅 t は、一定ではありません。これを、図のタイマによって、一定パルス幅にし、かつ図の基準電流源によって一定電流値のパルスに整形します。そして、このパルスを、図のオペアンプ回路に入力します。
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このオペアンプ回路は、ローパスフィルタです。したがって出力 Vo は、リップルが除去されて、入力パルスの周波数に比例した、平滑な電圧になります。図では、出力 Vo は、誇張して、凸凹になっていますが、実際には、十分に平滑化します。
なお、図のスイッチトキャパシタは、スイッチトキャパシタフィルタのことです。
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PWM 形 DA コンバータ は、パルスのデューティ比が出力になります(図 6.4-26)。デューティ比それ自体は、アナログ量ですが、そのままでは、波形はパルスです。FV 変換器と同様に、信号を平滑化することによって、アナログ信号に変換することができます。
基本的な構成は、FV 変換器と同じです。FV 変換器が、パルスの幅が一定で、パルス周波数が、変数であるのに対して、この PWM 形 DA コンバータでは、パルス周波数が一定で、パルス幅が変数になっています。この点が、異なるだけです。
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DA コンバータには、各種の誤差があります。DA コンバータの精度に関する用語の解説を兼ねて、以下に、示します。
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DA コンバータの、理論上の出力電圧と、実際の出力との誤差を、ゲインエラー といいます。Vmax : コードがオール 1 のとき、すなわち、最大値のときの、実際の出力、 Vfs : 理論上の最大出力、 とすれば、ゲインエラーは、
(( Vmax ー Vfs )/( Vfs )) × 100 %
です(図 6.4-27)。
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オフセット (オフセット電圧 )(上図)は、単極性出力においては、入力がオールゼロのときの出力電圧のことです。これを、ユニポーラオフセット といいます。
これに対して、バイポーラオフセット は、両極性出力において、入力が、(10・ ・ 00)のときの出力電圧です。
◆ 理想直線(入力がオールゼロのときの出力電圧と、入力がオール 1 のときの出力電圧とをつなぐ直線)と、実際の出力電圧との最大のずれΔV の、理論上の出力電圧 Vfs に対する割合を、相対精度 (非直線性 )といいます(図 6.4-28)。
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この相対精度に関連して、微分非直線性と、単調性とがあります。
微分非直線性 は、入力データを 1 LSB の大きさだけ変化させたときの、出力の変化量のことです。微分非直線性がぜろであれば、出力は、1 LSB 分ずつの大きさで変化します。もし、+1/2 LSB の誤差があれば、出力変化は、1 LSB ではなく、2/3 LSB の大きさになってしまい、微分非直線性が発生します。
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入力データを増加したとき、出力が増加するか、または変化しない性質を、単調性 (モノトニシティ )といいます。もし、減少する場合は、単調性がないといいます。微分非直線性が、± 1 LSB を超えると、単調性が失われます。
★ コンバータ のお話です。コンバータの元は、動詞のコンバートです。要するに、「変えること」です。しかし、漢字で表現すると、換算、改造、転向、変換、転換、兌換、唱導、折伏など、いろいろになります。
コンバータを、グーグルで検索すると、言葉(方言)のコンバータが、上位に並びます。これは、フィルタの名でも呼ばれています。このフィルタについては、[コラム 3.2-3] フィルタのいろいろ で紹介しました。
★ コンバータは、また、製鉄の転炉 (下図左)、原子炉の転換炉 (下図右)などの意味でも使われています。
★ ワープロは、従来は、各種のワープロ専用機が使われていました。最近では、ワープロは、パソコンのソフトウェアを利用することが多いと思います。ワープロ専用機は、現在では、廃機種になったものが、多くなっています。
すでに廃機種になっているワープロ専用機で作った、古い文書を、パソコンで利用するための、コンバータもあります。
★ パソコンでは、ハードウェアのインターフェースも、陳腐化が進んでいます。パソコンのインターフェースは、現在、USB が主流です。RS232C などの、古いインターフェースを持つ、パソコンは、少なくなって、きています。RS232C インターフェースの周辺機器を、USB を介して接続することができる、コンバータもあります。
★ 強電の分野では、変流機 は、交流〜直流のコンバータです。最近では、変流機は、IGBT などの半導体の製品が使用されますが、昔は、回転変流機 でした。左下は、現存する国内唯一・最古・舶来の回転変流機です。熊本市電(右下)は、この電気で走っています。