電気と電子のお話

6. アナログ IC

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6.4. データコンバータ

6.4.(4) AD コンバータ

6.4.(4-E) AD コンバータの周辺回路

6.4.(4-E-a) 概   要

◆  AD コンバータは、単独で使用されることは少なく、通常、その周辺回路を利用します(図 6.4-41)。

[図 6.4-41] AD コンバータの周辺回路

AD コンバータの周辺回路

◆  AD コンバータは、複数のアナログ入力を、切り替えて、1 台の AD コンバータで処理することが多く、その切り替えスイッチを、マルチプレクサと呼んでいます。
アナログ入力の信号レベルは、いろいろありますから、この信号を、AD コンバータの入力条件に合わせて、変換する必要があります。この変換を受け持つのが、シグナルコンディショナ です。
◆  AD 変換の出力は、ディジタル回路へ出力します。ディジタル回路は、一般に、アナログ回路と比べると、ノイズが多いのです。この、ディジタル回路のノイズが、AD コンバータや、さらには、アナログ回路に、影響をおよぼします。この影響を防ぐために、通常は、アナログ回路とディジタル回路とは、基板を別基板にするなどの対策を施します。やむをえず、アナログ回路と、ディジタル回路とを、同一基板に搭載する場合にも、少なくとも、基板内で、エリアを分けます(図 6.4-42)。図の基板は、ネットワークが、バス (図 6.4-43)になっています。バスは、データの共用伝送路です。

[図 6.4-42] プリント基板内の部品配置

プリント基板内の部品配置


[図 6.4-43] ネットワークの各種形態

ネットワークの各種形態

◆  AD コンバータは、入力がアナログで、出力がディジタルです。IC を 2 つに割って分けるわけには行きません。基板上は、アナログ回路と、ディジタル信号回路との、境界の所に設置することになります。
図 6.4-41の絶縁は、ディジタル回路からアナログ回路へのノイズを遮断するためのものです。


6.4.(4-E-b) マルチプレクサ

◆  (アナログ)マルチプレクサ は、複数のアナログ入力を、1 点の出力に切り替える、切り替えスイッチです。アナログ信号の切り替えですから、スイッチは、アナログスイッチです。アナログマルチプレクサ IC の例を示します(図 6.4-44)。半導体のマルチプレクサを使用できない用途に対しては、機械式接点のスイッチを使用します。
◆  半導体マルチプレクサも、オン抵抗 (スイッチオン時の抵抗)は十分に低く、オフ抵抗 (スイッチオフ時の抵抗)は十分高いのですが、機械式接点のスイッチと比べると、劣ります。また、半導体ですから、耐電圧 (耐圧 )も高くありません。
これらの点が、不充分なときは、機械式接点にします。

[図 6.4-44] アナログマルチプレクサ IC の例

アナログマルチプレクサ IC の例

◆  マルチプレクサのスイッチング方式は、コモンモードノイズの大きさによって、次に示す、3 つの方式があります(図 6.4-45)。
図の(a)は、全てのアナログ入力およびアンプが、共通のグラウンドに接続されています。不平衡ですから、コモンモード電圧に対する耐性は、ありません。(c)は、共通のグラウンドを使用しないで、各入力毎個別配線されています。平衡ですから、複数の入力相互間にコモンモード電圧があっても有効です。(b)は、擬似平衡形と言います。複数の各入力相互のコモンモード電圧に対しては効果がありません。しかし、複数の入力相互間のコモンモード電圧が無く、複数の入力が、全体としてグラウンドレベルから隔たっているときは、擬似平衡が、有効です。

[図 6.4-45] マルチプレクサのスイッチング方式

マルチプレクサのスイッチング方式(a)_    マルチプレクサのスイッチング方式(b)_    マルチプレクサのスイッチング方式(c)_
6.4.(4-E-c) サンプルホールド回路

◆  サンプルホールド回路 については、概要を、6.4.(2-B-c)に示しましたが、ここでは、さらに詳細に解説します。サンプルホールド回路は、コンデンサ電荷が蓄えられて、電圧が保持されることを応用した回路です(図 6.4-46)。そのタイムチャートは、図 6.4-47 です。非ホールドの状態(追従状態)では、スイッチ S は、オンであり、サンプルホールド回路の出力 Vo は、入力 Vi に、追従しています。サンプルホールドは、スイッチ S を、オフにすることによって、実行されます。スイッチ S のオフにより、コンデンサ C の電荷が保持され、出力電圧 Vo も一定値にホールされます。スイッチ S が再びオンになることによって、出力 Vo は、追従状態になります(図の Vo → Vi)。

[図 6.4-46] サンプルホールド回路

サンプルホールド回路


[図 6.4-47] サンプルホールド回路のタイムチャート

サンプルホールド回路のタイムチャート


◆  サンプルホールドに関する用語を、図6.4-48 に示します。

[図 6.4-48] サンプルホールドに関する用語

サンプルホールドに関する用語

TA : アパーチャタイム (HOLD → スイッチが開き終わるまでの時間)

アパーチャジッタ (アパーチャタイムの不確定さ)

TC : アクイジションタイム (SAMPL → 出力が確定するまでの時間)

CT : チャージトランスファ (スイッチが持キャパシタンスによる電荷注入)

FT : フィードスルー (HOLD 中の入力信号の通りぬけ)

HD : ホールドドループ (漏れ電流のよる放電のために発生する電圧降下)


6.4.(4-F) AD コンバータに関する用語

◆  既に説明した、DA コンバータマルチプレクササンプリング定理サンプルホールド関係の用語を除いて解説します。

6.4.(4-F-a) 変換時間

◆  変換時間 (コンバージョンタイム )は、変換開始のパルスを印加してから、変換作業が完了して、出力データが、そろうまでの時間です。通常は、AD コンバータから、EOC 信号が出力され、変換終了を通知してくれます。
トータル変換時間 は、AD コンバータ以外の、マルチプレクサ、サンプルホールドなどを含む、AD 変換システム全体が、動作を開始してから、出力を完了するまでの時間です。

6.4.(4-F-b) サンプルレート

◆  単位時間当りの、データ収集回数(変換回数)を、サンプルレート といいます。単位は、Sample / s ですが、Hz を使用することも、あります。

6.4.(4-F-c) 量子化誤差とミスコード

量子化誤差 は、量子化に伴って発生する誤差です(図 6.4-49)。ミスコード は、本来出力されるべき、所定のコードが抜けて、出力されない現象です。

[図 6.4-49] 量子化誤差とミスコード

量子化誤差 ミスコード



[コラム 6.4-2] 絶   縁

★ 絶縁とは、縁を断つということですが、その縁には、いろいろあります。
おっかない方では、やくざの世界の、絶縁があります。このやくざの世界では、絶縁に類する言葉に、破門、除名、除籍があります。絶縁と破門、除名は、やくざの世界からの追放を意味し、除籍は、本人からの申し出によって、組織から脱退することの、ようです。

やくざ

★ さて、電気の絶縁 ですが、普通の意味の絶縁と、ノイズ対策の 1 つの方式としての絶縁との、2 通りの意味があります。普通の意味の絶縁は、さらに、次のように分けられます。

機能絶縁 機器の機能のためにのみ必要となる絶縁。
機能絶縁は感電からの保護を与えないが、発火の可能性を低減することはある。
基礎絶縁 感電に対する基本的な保護を与える絶縁。
破壊された場合、感電の危険を生ずる可能性がある。
付加絶縁 基礎絶縁が破壊した場合の感電に対する保護を与えるため、
基礎絶縁に追加して設けられる独立した絶縁。
二重絶縁 基礎絶縁と付加絶縁の双方から成る絶縁。
強化絶縁 二重絶縁によるものと同等以上の感電に対する保護を与える単一の絶縁。


★ ノイズ対策としての絶縁は、絶縁機能を利用して、極めて大きなコモンモードノイズを除去する手段です。
ノーマルモードの信号は、電気〜非電気〜電気の 2 重変換によって、上流から下流に伝わります。しかし、コモンモードノイズは、変換されませんから、絶縁によって、阻止されます。

絶縁の原理

★ この絶縁は、具体的には、下記の 3 種類が、代表的です。

絶縁の代表的な3機種


★ 上記 3 種類の絶縁に関する概要と、比較を、次に示します。

    フォトカプラ トランス リレー
伝える信号 直流〜交流 *) 交流のみ オン/オフのみ
直線性 悪い 良い 無い
用途 主にディジタル アナログ/ディジタル ディジタル
動作速度 主に中速
高速も可
超高速可能
低速は寸法大
低速
平衡性 不平衡 平衡 平衡
電源供給 必要 不要 必要

*) 直流に重畳した交流であって、電流の方向が変化しない範囲の交流


★ 上記の 3 種類の絶縁手段では、直流ないし低周波において、高い直線性を持たせることは、できません。直流ないしは低周波における用途に対しては、絶縁増幅器 (絶縁アンプ アイソレーションアンプ )を使用します。絶縁アンプは、絶縁機能を内蔵した、増幅器です。回路図記号の絶縁増幅器の図記号は、左下図のものを使用します。

絶縁増幅器(記号)    絶縁増幅器(構成)


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