電気と電子のお話

4. 半導体の働き

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4.4. パワー素子

4.4.(1) パワーエレクトロニクス


◆ 半導体は、情報の担い手として、活用されています。しかし、エネルギーの担い手としても、重要な地位を占めています。半導体を、パワーの制御に利用する分野を、パワーエレクトロニクス と呼んでいます(図 4.4-1)。

[図 4.4_1] パワーエレクトロニクス

パワーエレクトロニクス

◆ パワーエレクトロニクスで利用する半導体素子が、パワー素子 です(図 4.4-2)。この中で、MOS は、小信号用と区別して、パワー MOS FET とも呼んでいます。

[図 4.4-2] パワー素子

パワー素子(1)


パワー素子(2) パワー素子(3)


4.4.(2) 各種のパワー素子

4.4.(2-A) サイリスタ

4.4.(2-A-a) 逆阻止 3 端子サイリスタ

◆ サイリスタ は、似たような構造を持つ数種類の素子の総称です。その中で、代表的なものが、逆阻止 3 端子サイリスタ (SCR )ですが、これを単にサイリスタと呼ぶことも多いのです(図 4.4-3)。外形は、トランジスタと同じです。構造は、図の(1)ですが、図の(2)のように考えることができます。すなわち、npn と pnp のトランジスタを 2 つ組み合わせた構成です。

[図 4.4-3] 逆阻止 3 端子サイリスタ

逆阻止 3 端子サイリスタ

◆ サイリスタは、スイッチ用であり、比例増幅はできません。また、スイッチング時間が、トランジスタよりも、1 桁以上遅いので、スイッチング時のパワーの損失が大きくなります。
(a)は、オフの状態です。オフのときに、アノードカソード間に電圧が掛かった状態で、ゲート に、短時間、電圧を加えると、サイリスタが、オンになり(b)、電流が流れます。この、短時間、ゲートに電圧を加えて、サイリスタをオンさせることを、トリガ といいます。
◆ 一度オンになって電流が流れ始めると、ゲート電圧をオフにしても、サイリスタは、そのままオンの状態を続けます。電流を切るためには、強制的に電流を切る必要があります。アノードに、負電圧(逆バイアス)を掛ければ、電流が切れ、スイッチはオフに戻ります。
強制的に電流を切るための回路を、転流回路 と呼びます(図 4.4-4)。オン/オフの制御を必要とする用途では、転流回路を必要とすることも、サイリスタの欠点です。
ただし、4.4.(2-A-c) に示すように、交流の制御は、簡単です。

[図 4.4-4] 転流回路

転流回路(1) 転流回路(2)
4.4.(2-A-b) G T O

◆ 転流回路を使用しないで、ゲートの制御で、電流を切ることが可能な、サイリスタがあります。これを、GTO (ゲートターンオフ SCR )といいます(図 4.4-5)。GTO は、ゲートに、プラスのパルスを入れればオン、マイナスのパルスでオフになります。

[図 4.4-5] G T O

G T O
4.4.(2-A-c) 交流のオンオフ

◆ サイリスタは、商用電源などの、交流スイッチとして、便利に使用できます(図 4.4-6)。図の(1)は、逆阻止 3 端子サイリスタによる交流スイッチです。

[図 4.4-6] 交流のオンオフ

_交流のオンオフ(1) _交流のオンオフ(2) _交流のオンオフ(3) _交流のオンオフ(4)

◆ 図の(2)は、スイッチ動作の説明図です。
逆阻止 3 端子サイリスタのアノードカソード間に交流電圧を掛けると、交流の半サイクル毎に、順バイアスと、逆バイアスとを繰り返します。
順バイアスの期間に、逆阻止 3 端子サイリスタをトリガすれば、その半サイクルの期間だけ、逆阻止 3 端子サイリスタは、オンになります(図(2)の期間 1 )。
一定の期間、ゲートに電圧を掛け続ければ(図の(2)の期間 3〜7)、その期間の、全ての正の半サイクルで、逆阻止 3 端子サイリスタは、オンになります。
◆ 図の(3)に示すように、逆阻止 3 端子サイリスタを 2 個を、逆向きに並列接続すれば、図の(4)に示すように、スイッチ(a)のオンオフによって、交流の、両方向の制御が可能になります。ゲートに加える電圧は、パルスではなく、連続したハイまたはローです。したがって、転流回路は不要です。

4.4.(2-A-d) トライアック

◆ 図 4.4-6 (3)の回路を、一つの素子に集積したものを、トライアック といいます(図 4.4-7)。

[図 4.4-7] トライアック

トライアック

◆ トライアックを応用した製品に、調光器があります(図 4.4-8 (a))。トライアック自体は、オンオフ動作ですが、トライアック使用して、連続的に調光することができます。回路図(b)で、ダイアック は、2 つのダイオードを、互いに逆向きに接続したものです。ダイアックは、印加された交流電圧が、ある値を超えると、鋭いパルスを発生します。このパルスで、トライアックをトリガします。
従来は、電圧を連続的に可変にするには、スライダック (c)が必要でした。

[図 4.4-8] 調 光 器

調 光 器(1) 調 光 器(2) 調 光 器(3)

◆ 調光器 の動作を、図 4.4-9 に示します。図 4.4-8 (b) の抵抗 VR を調整することによって、トライアックがオンになる位相を変えています。このことから、この制御方式のことを、位相制御 と呼んでいます。

[図 4.4-9] 調光器の動作

調光器の動作

◆ 図の中に、ゼロクロスという言葉がでてきました。ゼロクロス というのは、電圧が、ゼロの点を過ることをいいます。この電圧がゼロの点を過る瞬間に、スイッチングを行えば、オンオフによる損失が無く、ノイズの発生も防げます。これを、ゼロクロススイッチ (ゼロボルトスイッチ )といいます(図 4.4-10)。ゼロクロススイッチの製品例を、図 4.4-11 に示します。この製品は、スイッチ付きのテーブルタップ で、そのスイッチが、ゼロクロス回路になっています。

[図 4.4-10] ゼロクロススイッチ

ゼロクロススイッチ

[図 4.4-11] ゼロクロススイッチの製品例

ゼロクロススイッチの製品例

4.4.(2-B) I G B T

◆ IGBT (ゲート絶縁形バイポーラトランジスタ 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ )は、サイリスタGTO→IGBT の順に進化してきた素子です(図 4.4-12)。IGBT は、MOS で制御された、バイポーラトランジスタと考えることができます。高速かつ大容量の素子です。

[図 4.4-12] I G B T

 I G B T

◆ たとえば、電車は、従来は GTO でしたが、最近は、ほとんど、IGBT に代わっています。昔よりも、電車の走行音が静かになったのは、GTO が、IGBT に代わったことが、その理由です。新幹線は、もちろん、在来線や私鉄も、多くは、IGBT を使用しています(図 4.4-13)。IGBT を使用することによって、より、きめ細かな制御が、可能です。電車の制御方式を、図 4.4-14に示します。

[図 4.4-13] IBGT を使用している

電車(1) 電車(2)


[図 4.4-14] 電車の制御方式

電車の制御方式

◆ 図の説明はしませんが、制御性能の違いは、図を見れば、推察できると思います。


4.4.(2-C) リ レ ー

4.4.(2-C-a) 概   要

◆ リレー (または電磁開閉器)は、半導体製品ではありませんが、便宜上、ここで説明します。また、接点の取り扱いについても解説します。
リレーと同じ用途に用いる、半導体製品が、SSRです。
リレーは、電磁石によって動作するスイッチです(図 4.4-15)。

[図 4.4-15] リ レ ー

リ レ ー(1) リ レ ー(2)

◆ リレーをトランジスタで駆動する回路の例を、図 4.4-16 に示します。

[図 4.4-16] リレー駆動回路

リレー駆動回路

◆ リレーは、鉄心入りのコイルですから、大きなインダクタンスを持っています。コイルの電流がオフになるときは、電流が急速に減少します。この電流の急変は、大きな起電力を発生します。これは、サージです。このサージは、トランジスタを破壊する恐れがあります。の、サージ吸収用ダイオードは、このための対策です。電流オフ時の起電力による電流は、このダイオードにバイパスされますから、大きな電圧の発生を防ぎます。
このサージ対策は、トランジスタに限定されません。大きなインダクタンスに流れる電流を、急速にオフにしようとするときには、必要な対策です(図 4.3.20)。

4.4.(2-C-b) 接点

◆ リレー接点 は、その動作によって、4 種類に分けられます(図 4.4-17)。

[図 4.4-17] リレー接点の種類

リレー接点の種類

◆ リレーを含み、全て接点は、オン/オフするときに、ばたつきの現象があります。これを、チャタリング (バウンス )といいます(図 4.4-18)

[図 4.4-18] チャタリング

チャタリング

◆ チャタリングは、有っても差し支えない用途もありますが、たとえば、パルスの数を数える場合などでは、誤動作になります。このような場合には、チャタリングによる誤動作を防ぐ必要があります。チャタリングを消す、チャタリング防止回路が、図 4.4-19 です。まず、ローパスフィルタ(図の LPF)で、チャタリングを消します。しかし、そのままでは、信号の立ち上がりが鈍っています。これをシュミットトリガで、整形します。シュミットトリガというのは、鈍った信号を、シャープなディジタル信号に整形することができる素子です。

[図 4.4-19] チャタリング防止回路

チャタリング防止回路

◆ 接点入力は、マイコンなどの、コンピュータに取り込むことが、多くなっています。この場合には、チャタリングを消さないで、そのまま入力し、コンピュータの、ソフトウェア(プログラム)で、処理する方法があります(図 4.4-20)。図で、サンプリングとは、一定時間毎に、信号を、コンピュータに、取り込むことです(図の↓印)。サンプリングし、コンピュータに取り込んだ信号を、コンピュータのメモリ(記憶装置)に保持しておきます。このメモリに保持された信号は、チャタリングが除去されています。このメモリに保持した信号を利用します。

[図 4.4-20] ソフトウェアによるチャタリング除去

ソフトウェアによるチャタリング除去
4.4.(2-C-c) 絶   縁

◆ リレーの効用の 1 つに、絶縁があります。ここで絶縁 とは、電気的には絶縁されているが、信号は伝わるという意味です(図 4.4-21)。絶縁の言葉は、もともとの、抵抗が実用上無限大であるということの意味と、ここに示す意味との、2 通りの意味があります。
図に示すように、信号は、上流から下流に伝わります。しかし、途中に、非電気の信号が入りますから、上流と下流とは、電気的には、絶縁されています。絶縁の目的は、主にノイズ対策です(絶縁の詳細は、ノイズ対策講座 19 章参照)。

[図4.4-21] 絶縁とは

絶縁とは

◆ リレーは、電気〜(磁気〜接点)〜電気 という変換を利用した絶縁です。

4.4.(2-D) S S R

◆ SSR (ソリッドステートリレー )は、リレーを、半導体に置き換えて、無接点化 したものです(図 4.4-22)。(a)は小形の IC タイプ、(b)は大形です。(c)は大形のものの回路例です((b)の回路ではありません)。

[図 4.4-22] S S R

S S R(1) S S R(2) S S R(3)

◆ リレーは、接点を使用していますから、寿命があり、故障対策が必要です。SSR は、定格内で使用する限り、寿命は半永久的です。またチャタリングもありません。
リレーの代わりですから、絶縁されています。絶縁は、フォトカプラを使用しています。フォトカプラ は、発光ダイオードと、フォトダイオードとを組み合わせた絶縁で、電流〜光〜電流の変換を行っています。
また、ゼロクロス回路 を内蔵しています。ゼロクロス回路は、ゼロクロス点を検出し、それによって制御を行う回路です。
バリスタ は、サージを吸収するサージアブゾーバの代表的な素子です(図 4.4-23)。バリスタは、ツエナダイオードを 2 個、互いに逆方向に、直列接続した特性を持っており、電圧の振幅を制限する素子です。

[図 4.4-23] バリスタの特性

バリスタの特性

[コラム 4.4-1] いろいろなリレー

★ リレーは、中継する、中継ぎするの意味です。電気のリレーも、その意味を持っています。
リレーにも、いろいろあります。ホームページにも、各種のリレーがあります。その中の一つに、花リレーがあります。花をテーマとして、いろいろな人のホームページをリンクしようと言うものです。

花リレー

★ 花リレーは、WEB の特徴を活かして、誰もが参加できる企画ですが、実施したリレーを公開したWEB ページも、多くあります(下図)。

JR乗車リレー

★ リレーといえば、なんといっても、競技のリレーでしょう。運動会といえば、リレーが付きものです(下左)。そして、リレーの華は、駅伝です(下右)。

リレー競争    駅伝

★ オリンピックの聖火リレーも、見逃すことができません。オリンピックの聖火リレーは、1936 年のベルリンオリンピックで初めて実施されました。ギリシャで採火された聖火は、ブルガニアや、ハンガリーを経て、ベルリンに運ばれました。
東京オリンピックでは、約 23,000 km の道程を、100,713 人が、リレーしました(下左)。東京オリンピックは、テレビ放送にとっても、新しい幕開けでした。初めて、衛星によって、世界に放送されたのです。

聖火リレー(1)    聖火リレー(2)

★ 右上は、長野オリンピックの聖火リレーです。写真の当日は、記録的な大雪だったそうです。



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