電気と電子のお話

6. アナログ IC

line


6.3. 電   源

6.3.(1) 電源の概要

◆  電子回路を動作させるための、 電源 装置について、解説します。電子回路が動作するためには、エネルギーを必要とします。その電力を、電子回路に供給する装置が、電源装置 です。
電子回路の多くは、電圧が一定の直流電源で動作します。この、直流電源は、バッテリを使用するか、または、交流(AC)の商用電源から、DC 電源装置によって、作ります(図 6.3.1)。一般に、モバイル (携帯端末 )は、バッテリを使用し、据置形機器 は、商用電源で動作します。

[図 6.3-1] 交流(AC)の商用電源から作る

交流の商用電源から作る

◆  商用電源には、各種の強電機器がつながっています。電気は、エネルギーとして利用することと、情報処理に使用することの、2 通りの用途があります。電気をエネルギーとして利用する分野を強電 、情報処理に利用する分野を弱電 と呼んでいます。ただし、最近では、強電/弱電の言葉は、あまり用いられないようです。電力機器 /情報機器 と呼ぶことも、多いようです。
◆  強電機器が出す、サージノイズによって、商用電源は、汚染されています。図 6.3-2 は、ごく一般的な商用電源に乗っているサージの実測例です。なお、最近は、パワーの制御に、インバータが多く使用されています。また電子機器の電源として、スイッチングレギュレータが使われています。これらのインバータや、スイッチングレギュレータは、サージ/ノイズの発生源です。図 6.3-2 は、インバータや、スイッチング電源が、多用される以前のデータです。現状は、もっと、サージ/ノイズが多い筈です。

[図 6.3-2] AC 電源線のサージ実測例

AC 電源線のサージ実測例

◆  サージアブゾーバ(図 6.3-1)は、サージ電流を逃がして、サージ電圧を押さえる素子です。電源ラインフィルタは、AC 電源専用のノイズフィルタです。
DC 電源装置 は、図 6.3-1 に示したように使用する方式(図 6.3-3 の (a))のほか、各種の使い方があります(図 6.3-3の(b)、(c))。ただし、この図では、サージアブゾーバからスイッチまでの、表記を省略してあります。

[図 6.3-3] DC 電源装置の各種の形態

DC 電源装置の各種の形態

◆  図の(a)が、最も一般的な形態です。この方式では、安定化 DC 電源 を、各プリント基板に配ります(図 6.3-4)。

[図 6.3-4] 安定化 DC 電源を各基板に配る

安定化 DC 電源を各基板に配る

◆  図 6.3-3 の(b)(c)に示した形態は、これを組み合わせて、図 6.3-5 のように、使用します。非安定化 DC 電源 を、各基板に配り、基板毎に、電圧を制御します。

[図6.3-5] 非安定化電源を各基板に配る

非安定化電源を各基板に配る

◆  図で、DC/DC は、DC/DC コンバータ の略です。DC/DC コンバータは、直流を別の種類の直流に変換します。ここでは、非安定化 DC 電源を、安定化 DC 電源に変換しています。すなわち、DC/DC コンバータは、図 6.3-3(c)に該当します。

6.3.(2) 電源ラインフィルタ

◆  電源ラインフィルタ (AC 電源ラインフィルタ )は、電子機器外部の AC 電源ラインから、侵入してくるノイズ/サージと、DC 電源装置から、外部に向かって放出されるノイズ/サージの、両方向に対して有効なフィルタです(図 6.3-6)。DC 電源装置は、スイッチングレギュレータを使用することが多いので、大きなノイズ発生源です。

[図 6.3-6] 電源ラインフィルタの効用

電源ラインフィルタの効用

◆ 電源ラインフィルタの、いくつかの回路例を、図 6.3-7 に示します。

[図6.3-7] 電源ラインフィルタの例

電源ラインフィルタの例

◆  AC 電源ラインからの、AC 電源ノイズ (商用電源ノイズ )は、コモンモードが支配的です。したがって、コモンモードにも、有効なフィルタになっています。図の各 C2 と C3 との中点が、グラウンドにつながっています。この構成のフィルタが、コモンモードに有効なフィルタです。C1 は、ノーマルモードのみに効く、フィルタです。
◆  ただし、このグラウンドは、AC 電源ラインからの、コモンモード電圧が、そのコモンモード発生源まで戻る、戻り道になっている必要があります。電流は、回路を構成しなければ、流れて くれません。
たとえば、機器の筐体が浮いているときに、この機器の筐体をグラウンドとしたときは、AC 電源ラインからのコモンモードノイズに対する効果は、ありません。
◆  (a)(b)(e) に示した L(インダクタ)は、コモンモードチョーク (バラン 伝送用トランス )と呼ばれる素子です。構造は、トランスと同じですが、接続方法が異なります(図 6.3-8)。

[図 6.3-8] コモンモードチョーク

コモンモードチョーク

◆  コモンモードチョークは、図に示すように、ノーマルモードに対しては、磁束が打ち消されますから、インダクタンスは、ゼロです。それに対して、コモンモードに対しては、磁束が加算されますから、インダクタとして働きます。DC 電源電圧は、コモンモードチョークにとっては、ノーマルモードですから、素通しです。コモンモードのノイズに対しては、バッチリ、インダクタとして動作します。
◆ トランスも、ノーマルモードの信号を通しますが、原理的には、コモンモードを通しません。コモンモード電圧を阻止するという点では、コモンモードチョークと似ています。しかし、細かく見ると、相違があります(図 6.3-9)。図中の、絶縁については、コラム 6.4-2 を参照してください。

[図 6.3-9] トランスとコモンモードチョークの比較

トランスとコモンモードチョークの比較

◆  図から分かるように、トランスとコモンモードチョークの、具体的な特性は、ちょうど反対になっています。目的、用途によって、使い分けます。
◆ コモンモードチョークは、コモンモードに対しては、インダクタとして働きます。そのインピーダンスは、周波数に比例して高くなります。したがって、高い周波数に対して、効果が大きくなります。
トランスは、原理的には、その実用範囲では、周波数特性を持ちません。しかし、実際には、トランスに存在するストレキャパシタンスのために、高周波の信号が通ってしまいます(図 6.3-10)。

[図 6.3-10] トランスのストレキャパシタンス

トランスのストレキャパシタンス

◆ ストレキャパシタンス (浮遊容量 )とは、回路図上には書かれていないのに、実際には、存在するキャパシタンスのことです。すなわち、ストレキャパシタンスは、回路図に無い回路です。
たとえば、2 本の並行するプリントパターンは、回路図上は、互いに独立ですが、実際には、ストレキャパシタンスなどにより、結合しています(図 6.3-11)。

[図6.3-11] 並行する 2 本の信号線

並行する 2 本の信号線

◆  トランスとコモンモードチョークとの、両方の特性を必要とするときは、両者を併用します(図 6.3-12)。

[図 6.3-12] トランスとコモンモードチョークを併用する

トランスとコモンモードチョークを併用する

◆  電源ラインフィルタの特性例を、図 6.2-13 に示します。図の(イ)は、各種フィルタの一覧です。ただし、この資料は、少し古いものです。最近は、IC 自体が高速化しています。電源ラインフィルタも、より高い周波数まで、効果があるように、なっています(たとえば、図の(ロ)

[図 6.3-13] 電源ラインフィルタの特性例

(イ) 一   覧

電源ラインフィルタの特性例

(ロ) 特 性 例

電源ラインフィルタの特性例

◆  で、インレット形というとは、インレット形ラインフィルタ と呼ばれる機種です(図 6.3-14)。インレット形ラインフィルタは、電源コネクタと、電源ラインフィルタとが、一体になった製品です。

[図 6.3-14] インレット形ラインフィルタ

インレット形ラインフィルタ

◆  電源ラインフィルタは、ある装置に使用したときには効果があった機種が、別の装置では、あまり効かないということが、あります。これは、フィルタ一般の性質として、フィルタの特性は、フィルタ単体だけでなく、フィルタの信号源負荷の特性が、影響することにあります(コラム 3.2-8 参照)。
◆  電源ラインには、多くの雑多な負荷が接続されています。電源ラインの特性は、電源ライン単独ではなく、電源ラインに接続されている、負荷の特性を含んでいます。ということは、電源ラインの特性は、その場所に依存して、大きく、ばらついている、ということです。同じ場所であっても、電源ラインに接続されている負荷が、オン/オフすれば、電源ラインの特性は、そのオン/オフに伴って、変化します。
◆ 電源ラインフィルタは、このような、負荷を想定して、できるだけ、広い範囲で、良いフィルタ効果が得られるように、設計されています。しかし、当然、万能ということは、不可能です。したがって、電源ラインフィルタは、実際に、その場所(AC 電源と負荷)で、使って見ないと、効果が、確認できません。

6.3.(3) DC 電源装置

6.3.(3-A) シャントレギュレータ

◆  DC 電源装置の方式は、大きく 3 つに分けられます(図 6.3-15)。

[図 6.3-15] DC 電源装置の方式

方   式原   理特   徴 欠   点
シャントレギュレータツエナダイオード 簡単 / 低ノイズ効率最低
シリーズパスレギュレータ抵抗成分による電圧降下 簡単 / 低ノイズ効率低
スイッチングレギュレータパルス化し その平均電圧 効率高複雑 / 高ノイズ


◆  シャントレギュレータ は、簡単ですが、効率が低く、ごく小容量の用途にのみ用いられます(図 6.3.-16図 6_3_17)。図 6.3-15 で、シャントレギュレータの原理が、ツエナダイオードとなっています。これは、ツエナダイオードを使用している というのではなく、ツエナダイオードのような使い方をするという意味です。
レギュレータ は、フィードバック制御装置 の別名です(フィードバック制御は、コラム 6.3-1 参照)。
シャントレギュレータの製品例のデータシートを示します(データシート)。

[図6.3-16] シャントレギュレータの原理

シャントレギュレータの原理


[図 6.3-17] シャントレギュレータの回路

シャントレギュレータの回路


6.3.(3-B) シリーズパスレギュレータ

◆  シリーズパスレギュレータ (シリーズレギュレータ )の原理は、非安定化 DC 電源を、トランジスタ等によって、電圧を下げ、その電圧降下量を、制御することによって、出力電圧 Vo を一定に保ちます(図 6.3-18)。

[図 6.3-18] シリーズパスレギュレータの回路

シリーズパスレギュレータの回路

◆  シリーズパスレギュレータは、DC 電源装置の形で、製品化されたものの他、モジュール (回路をブロック化したもの)、IC があり、プリント基板に搭載して、使用することが、できます(図 6.3-5 参照)。プリント基板搭載形の代表的な製品に、3 端子レギュレータ と呼ばれるものが、あります(たとえば、データシート)。

6.3.(3-C) スイッチングレギュレータ

◆  シリーズパスレギュレータは、簡単ですが、損失が大きく、効率が低いことが、欠点です。これを改善した方式が、スイッチングレギュレータです。スイッチングレギュレータ は、オンオフ制御をおこない、そのデユーティを制御することによって、出力電圧を制御します。すなわち、スイッチング制御です。オンオフ制御は、損失が小さく、効率が高いことが特徴です(図 4.4-25 参照)。
◆ ただし、電源は、その機器や装置にとっては、大電力です。それを、オンオフしますから、ノイズが大きいことが欠点です。スイッチングレギュレータが出すノイズは、負荷側、AC 電源側の、両方向です(図 6.3-19)。さらに、放射による、放射ノイズがあります。

[図 6.3-19] スイッチングレギュレータが出すノイズ

スイッチングレギュレータが出すノイズ

◆  AC 入力側に出るノイズは、AC 電源ラインフィルタによって、取り除きます。DC 出力側へのノイズは、スイッチングレギュレータ内部にフィルタが入っていますが、負荷がアナログ回路の場合など、低ノイズが要求される場合には、さらに外付けのフィルタで、補う必要があります(図 6.3-20)。
しかし、それでも不充分な場合があり、スイッチングレギュレータでなく、シリーズパスレギュレータを、使用しなければならない、場合があります。

[図 6.3-20] 外付けのフィルタで補う

外付けのフィルタで補う

◆  一般に、ノイズは、ノーマルモードよりも、コモンモードの方が、多い傾向にあります。スイッチング電源が出すノイズも、コモンモードが支配的ですから、図に示すように、コモンモードフィルタを併用します。
◆  コモンモードノイズは、コモンモードのままであれば、通常は、害はありません。しかし、不平衡な回路では、コモンモードは、ノーマルモードに化けます(図 6.3-21)。プリント基板内の電源回路は、通常、不平衡回路です。したがって、スイッチング電源の出力は、十分に、コモンモードをカットしておく必要があります。

[図 6.3-21] 不平衡ではコモンモードはノーマルモードに化ける

不平衡ではコモンモードはノーマルモードに化ける


6.3.(3-D) 基準電源

◆  計測などの用途で、精度の高い電圧を、必要とする場合があります。通常この用途では、正確が電圧が得られれば良く、大きなパワーは、必要ありません。
このような用途に使用するのが、基準電源 です。あまり高い精度を要求しない場合には、シャントレギュレータを使用することが、できます(たとえば、精度 ±4 %)。
◆ 精度を必要とする場合には、基準電源 IC を使用します(たとえば、精度 ±1 %)(図 6.3-22)(IC のデータシートはここをクリック)。

[図 6.3-22] 基準電源回路

基準電源回路



[コラム 6.3-1] フィードバック制御

★ フィードバックの、フィードは、食物を与える、養う、などの意味です。

飼育

★ フィードバックの言葉は、製品などを発売したときに、その反響を得ること、などにも、使われています。
ここでは、フィードバック制御について、簡単に説明します。フィードバック制御の詳細については、別の講座「自動制御の基礎と実際」を参照してください。
★ 自動制御 は、そのやり方によって、大きく 2 つに分けられます。

自動制御の種類

★ シーケンス制御 は、たとえば、全自動洗濯機の制御です。

全自動洗濯機の制御

★ フィードバック制御 は、水をヒータで加熱して、一定の温度に制御することを、例に取ると、次のようになります。

温度制御の例

★ この制御系 を、信号の流れとして、抽象化して表すと、

抽象化した制御系_

★ となります。ここで、上図の用語は、下記の通りです。

制御対象 コントローラが制御する対象で、ここでは、温水装置です。
目 標 値
(設定値 )
コントローラの役割は、制御変数の値を、制御して、
ある値にすることです。
制御変数を、ある値にしたい、その、したい値が、目標値です。
ここでは、温度を何度にしたいかの値で、
温度設定用つまみで設定します。
制御変数 制御対象となる変数で、ここでは、温水温度です。
外   乱 放っておくと、制御変数の値を変化させてしまう、要因です。
操作変数 制御のために操作する変数です。
当然、制御変数の値を、変化させる能力を、
持っていなければ、なりません。
操作変数を、操作することによって、
外乱のために、制御変数が変化してしまうのを、押さえます。
偏   差 目標値と制御変数との差です。
コントローラは、偏差をゼロにするように、働きます。
判断 コントローラの入力である、偏差から、
出力である、操作変数の値を導く、ロジックです。


★ フィードバック制御の効果を、下図に、示します。赤は、外乱で、ステップ状の外乱が発生した例です。自動制御をしないと、制御変数は、青のように変化して、しまいます。自動制御することによって、黄色のように制御され、外乱の影響を打ち消して、偏差をゼロにします。

フィードバック制御の効果

★ 図から分かるように、フィードバック制御を行っても、一時的に、偏差が発生することは、避けられません。
なお、制御演算式(図の判断の内容)の優劣によって、制御応答波形、したがって制御成績が、異なります。

★ 自動制御系の、設計や解析には、伝達関数を利用することができます。

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