電気と電子のお話

7. 信号と信号線

line


7.2. 信号線の特性

7.2.(4-D) アナログ回路における反射

7.2.(4-D-a) 概   要

◆  アナログ回路においても、当然、反射 の現象があります。アナログ回路でも、信号がステップ状に変化する、トランジェントな現象があります。この場合は、ディジタル回路と同様な、リンギングが発生します。ただし、通常、回路終端条件が、ディジタル回路と異なりますから、必ずしも、同じような、信号波形になる、ということ、ではありません。
◆  アナログ回路では、オペアンプを使用することが多いので、ここでは、オペアンプ回路を中心に、お話を進めます。オペアンプ回路は、一般に、出力はローインピーダンス、入力はハイインピーダンスです(図 7.2-54)。図は、オペアンプが直接つながっています。非反転増幅器では、図の通りです。反転増幅器では、増幅器の入力は、抵抗ですが、その入力抵抗(Zi)は、かなりのハイインピーダンス(たとえば 10 kΩ)です。

[図 7.2-54] 一般的なオペアンプの接続

一般的なオペアンプの接続<

◆  この条件は、リンギングの条件に当てはまります。しかし、汎用オペアンプを、通常の使い方をしていて、リンギングが問題になることは、ほとんど、ありません。この理由は、オペアンプの周波数特性にあります。典型的な、オペアンプの増幅率の周波数特性を、図 7.2-55 に示します。オペアンプは、ユニティゲイン周波数以上の周波数では、増幅器として動作しません。電線の長さから決まる、リンギング周波数が、オペアンプのユニティゲイン周波数よりも高いシスデムでは、リンギングが問題になることは、ありません。

[図 7.2-55] オペアンプの増幅率の周波数特性

オペアンプの増幅率の周波数特性

◆  しかし、高速のオペアンプや、高周波の増幅器を使用すると、リンギングが発生します。

7.2.(4-D-b) 定在波とは

◆  アナログ回路におけるリンギングの問題では、定在波を考える必要があります。定在波 (定常波 )は、一種の波です。波には、横波と、縦波とがあります(図 7.2-56)。横波 は、波が進む方向と、振動の方向とが垂直な波です(たとえば海の波)。これに対して、縦波 (粗密波 )は、波が進む方向と振動の方向とが同じです(たとえば音波)。

[図 7.2-56] 波には横波と縦波がある

波には縦波と横波がある

縦波

◆  一般の波(波動)は、横波、縦波、いずれであっても、進行するように見えます。これを進行波 といいます。図 7.2-57 の(a)は、進行波が電線中を進んで行く状態を示しています。

[図 7.2-57] 進行波と定在波

進行波 定在波_

◆  これに対して、定在波は、進行しないように見える波です(図 7.2-57 の(b))。弦楽器(たとえばバイオリン)の弦の振動は、定在波です。管楽器(たとえばトランペット)の管の中の空気の振動(これは残念ながら目には見えません)も、定在波です。
◆  定在波は、信号が、その両端で反射することによって、発生します。この様子は、動画で見た方が良く分かるので、次の「定在波」のリンクをクリックしてください。戻るときは、ブラウザの「戻る」で戻ってください。「定在波」
◆  定在波は、その両端の条件によって、いろいろな形のものが、あります(図 7.2-58)。また、ビニールの板を使った実験を、図 7.2-59 に示します。ただし、代表的な、いくつかケースを示したものであり、網羅したのではありません。上に示した動画も、いくつかのケースを示すものです。図 7.2-58 と動画とは、同じケースではありません。

[図 7.2-58] 定在波のいろいろ

定在波のいろいろ


[図 7.2-59] ビニール板による実験

ビニール板による実験     ビニール板による実験     ビニール板による実験     ビニール板による実験

◆  定在波では、端からの距離によって、振動の振幅が異なります。振幅が最大のところを、といいます。振幅が最小の場所をと呼びます。端は、一般に腹、または節です。弦の場合には、両端が固定ですから、両端が節です。電線の場合には、端がオープンのときは端が腹、端がショートのときは端が節です。
◆  図 7.2-58の(a)(図7.2-59 の左端)は、たとえば、図 7.2-54 のオペアンプ接続のときに見られる波形です。図 7.2-54の左端は、ローインピーダンスですから振幅がゼロ、図 7.2-54の右端はハイインピーダンスですから振幅は最大となります。
◆  図 7.2-58の(b)(d)は、両端が開放の管における音波に見られる波形です。
この図 7.2-58 の(b)、の波形は、図 7.2-60 の、バスのときにも、見られます。このバスでは、両端はレシーバですからハイインピーダンス、中央はドライバですからローインピーダンスです。ドライバがバスの中央ではなく、どちらかの端から 1/4 のところにあれば、(d)の波形になります。
図 7.2-58の(c)は、図 7.2-59の左から 2 番目に対応します。
図 7.2-58の(e)は、弦における波形、すなわち図 7.2-59の左から 3 番目の波形です。
図 7.2-59 の右端の 2つは、図 7.2-58 には示されていませんが、両端が固定で、その左、すなわち図 7.2-58 (e)の 2 倍および 3 倍の周波数のものに対応します。

[図 7.2-60] 中央にドライバがあるバス

中央にドライバがあるバス
7.2.(4-D-c) 共   振

◆  定在波は、その条件によっては、共振を引き起こします。共振が発生する条件は、電線の長さが、信号の 1/4 波長のときです。その奇数倍の周波数でも、共振します(図 7.2-61)。図の記号などは、図 7.2-57 と同じです。

[図 7.2-61] 共振する

共振する

◆  共振時の最大振幅は、レシーバ入力インピーダンスが十分に高い条件では、ドライバ出力インピーダンスを Zs、電線の特性インピーダンスを Zc とすれば、
     Zc / Zs
となります。電線の長さ方向の位置に対する振幅の大きさは、図 7.2-58 に示しました。
◆  信号を高い精度で伝えるためには、共振の影響が無視できる条件であることが、必要です。
オペアンプの動作速度が遅くて、定在波が発生しない条件であれば、共振もありません。
共振が発生し得る条件のときは、共振によって生じる誤差が、許容誤差の範囲に、収まっていれば、良いわけです。図 7.2-62 は、図 7.2-61 の低い周波数の範囲を拡大した図です。この図には、ゲイン(振幅)だけでなく、フェイズ(位相)も示してあります。フェイズは、電線中の位置に関係無く、一定です。これは、定在波の特徴です。

[図 7.2-62] 低い周波数部分を拡大する

低い周波数部分を拡大する

◆  信号を、最も多く利用するのは、電線のレシーバ側の端です。かつ、ここが最悪条件になっています。このレシーバ側の端における、電線の長さ、信号周波数、および誤差の大きさの関係を、図 7.2-63 に示します。図から、誤差を 1 % に押さえるためには、信号周波数が 1 MHz なら電線長さ 4 m 程度まで引くことができます。通常のオペアンプ回路は、無終端で良い場合が多いことが分かります。10 MHz のときは、無終端では 4 cm 位しか、引くことができません。高周波の信号は、終端する必要が多いのです。

[図 7.2-63] 信号周波数、電線長さ、誤差の大きさの関係

信号周波数、電線長さ、誤差の大きさの関係


7.2.(4-D-d) 終端による誤差

◆  ここで、終端に関連して発生する誤差について、触れておきます。精度が問題になるアナログ回路で必要な事柄です。
終端は、反射を無くし、リンギング定在波を押さえるのに、重要な役割を果たしています。しかし、反面、終端することによって発生する誤差もあります。この誤差は、2 つあります。
1 つは、ドライバレシーバ系のレシーバ端における、信号源負荷分圧誤差です(図 7.2-64)。

[図 7.2-64] 

信号源と負荷による分圧

◆  もう一つの誤差は、終端抵抗の抵抗値が、適正な終端値、すなわち、電線の特性インピーダンスの値から、外れたことによる誤差です。これには、いろいろな要因が絡んできますので、一概には言えません。一応最悪値と考えられるものを、示します(図 7.2-65)。

[図 7.2-65] 終端抵抗の適正値からのずれと誤差の関係

終端抵抗の適正値からのずれと誤差の関係

[コラム 7.2-4] オーディオと定在波

★ 筆者はオーディオマニアではありませんから、よく分かりませんが、オーディオ の世界では、定在波が、大きな問題になっているようです。定在波の存在が、オーディオシステムの周波数特性を、悪くするからです。
音は、3 次元ですから、定在波も、3 次元で考える必要があります。
★ オーディオマニアが、まず第 1 に凝るのが、スピーカーです。スピーカー は、普通矩形のボックスですが、これを梯形にすると定在波の影響を、改善できるようです。

スピーカー写真     スピーカー構造

★ オーディオを聴くリスニングルーム も、問題になります。リスニングルームに要求される条件は、下記の 3 つです。
     (1) 遮音 が良いこと
     (2) 音の響き方が適当であること(最適な残響 時間)
     (3) 有害な音響現象がないこと
★ 上記の第 3 の条件の有害な音響現象の原因も、3 つあります。
     (a) 定在波
     (b) フラッターエコー
     (c) 焦点、死点
★ フラッターエコ ーのエコー は山彦のことですが、鳥の羽ばたきのようなエコーがフラッタエコーです。向かい合った2 枚の反射性平行壁の間で、音が何回も往復することが原因です。日光東照宮の鳴き竜 は、このフラッタエコーです。
★ 焦点 死点 は、凹面状の壁や天井によって、その焦点のところに音が集中したり、またはその逆に音の小さいところ(死点)ができる現象です。
★ そして、定在波の現象です。
部屋の大きさが、定在波の周波数に関係します。下図は、音の高さ 波長の関係です。部屋は、天井高さ 4 m 以上、広さ 12 畳以上、床材は石材かフローリングが良いとされています(畳や絨毯は良くありません)。一般の住宅で、このような部屋を確保することは、なかなか、困難でしょう。実際には、リスニングルームは、6 畳が多いようです。

音の高さと波長の関係

★ 定在波を減らすためには、平行な平面を作らないことが有効ですが、これまた、難しいことです。要するに、理想的なリスニングルームを作ろうと思ったら、建物を建てるときに、部屋を設計する必要があります。
★ 下図左は、あるリスニングルームの配置、右は、その部屋の伝送特性を、測定した結果です。61 Hz のところに、大きなディップが発生しています。これが、定在波の影響です。

リスニングルーム     周波数特性

★ これは、別のリスニングルームの例です。波形の上側は左側のスピーカ、下側は右側のスピーカです。

リスニングルーム     周波数特性

★ さらに別の例です。伝送特性の波形はありませんが、定在波の値は、図の右側です。

リスニングルーム(3)     定在波の周波数

★ 以上のように、定在波はありますが、ここに示した例では、とくに、定在波による大きな障害は、無いようです。
なお、コンサートホール (ホール )は、寸法が大きいので、問題になる定在波は、存在しません。





[コラム 7.2-5] 分   岐

★ 分岐とは、枝分かれすることです。先ずは、その、分岐が無くなったというお話です。名鉄(名古屋鉄道)竹鼻線は、江吉良駅で、羽島線を分岐しています。ところが、竹鼻線は、江吉良駅から先が、廃線になりました。したがって、分岐が無くなったわけです。
★ 分岐していた、羽島線が、生き残って、本線だった、竹鼻線の方が、廃止されたのです。下の写真で、真っ直ぐに伸びている方が、廃線になった、竹鼻線です。廃線になったので、車止が、あります。

江吉良駅

★ 配管にも、分岐があります。配管そのものだけでなく、水栓にも、分岐水栓 があります。下図は、食器洗い乾燥機用分岐水栓です。

食器洗い乾燥機用分岐水栓

★ さて、電気信号は、電線の、特性インピーダンスにしたがって、電線を通過して行きます。その電線が分岐 すると、どうなるでしょうか。
★ 下図において、電線の特性インピーダンスを、Z0 とします。信号の分岐点を、上流側から見ると、下流側は、並列接続ですから、インピーダンスは、1/2 に見えます。
すなわち、分岐点では特性インピーダンスが、変化していますから、分岐点で反射が起こります。
★ この、反射と透過の大きさは、反射の式に従います。電圧反射係数は -1/3、電圧透過係数は 2/3 です。その透過分の電流は、下流側の各々の電線に、等分に分かれて、進みます。当然、分岐後の電圧は、低くなります(下図)。

_一般の分岐

★ 次に、バスの場合を考えて見ましょう。
バスは、一般に、多数の分岐があります。その、一つの分岐を、下図に示します。バス線および分岐線の、特性インピーダンスは、Z0 とします。

_バスにおける分岐

★ 上図において、信号は、(1)で、分岐点に到着します。分岐点では、反射分(2)と、透過分(3)(4)に分かれて進みます。(4)で、信号は、分岐の他端に、到着します。この分岐の他端は、インピーダンス R で終端されています。ただし、通常は、適正終端では無く、R≫Z0 の場合が、多いでしょう。
(4)は、R で反射して(5)を経て、分岐点に戻り、分岐点で、(6)(7)(8) に分かれます。結果として、分岐では、信号が、減衰しながら、枝を、繰り返し、往復します。
★ この分岐における波形を、下図に示します。図で、各波形のところにある数値は、入力ステップ幅に対する、出力の平衡値です。
条件によっては、リンギングが発生していることが、分かります。

_バスにおける波形(計算値)

★ 上図は、計算値です。実測波形例を、下図に、示します。

_実測波形

★ 上記のような、波形歪みを、無くすためには、枝の長さを、実用上、ゼロにするのが、最も簡単な方法です。
★ 通常、電子回路は、プリント基板に収容されています。複数のプリント基板は、カードラック (サブラック 下図左)に収められ、バスで信号のやり取りを行います。下図右は、プリント基板を収容したサブラックです。

_カードラック       _プリント基板を収容したサブラック

★ カードラックの奥には、一般に、マザーボード を設けます(下図左)。マザーボードには、プリント基板を挿入するための、コネクタと、その、コネクタを結ぶ、バスがあります。
★ マザーボードのバスは、各基板毎に分岐しますから、多数の分岐ができます。単なる分岐では、分岐のために、信号が鈍ってしまいます。これを防ぐために、各分岐のところに、バッファを挿入します(下図右)。

_マザーボード       _バッファを挿入する

★ なお、マザーボードの言葉は、一般には、パソコンマイコンの、プロセッサを搭載しているボード(下図左)のことを指します。
★ バスの枝の長さは、短いに、越したことはありませんが、長く引きたいことも、あります。枝の長さを、どの程度延ばすことができるかの、目安を示します(下図右)。ただし、目安ですから、条件によっては、さらに長く引くことも、できますし、逆に短くしなければ、ならないことも、あります。

_パソコンのマザーボード       _分岐長さの目安





[コラム 7.2-6] コネクタ

★ コネクタ は、電線と電線、または電線と電気機器とを接続するための、電気部品です。コネクタの基になる言葉は、コネクションですが、コネクションには、私的なつながり、縁故関係、手づる、いわゆる コネ という意味もあります。
★ 縁故というと、就職を思い浮かべますが、下の写真は、犬が入社して、辞令を貰ったという、お話です。

犬の入社式

★ さて、コネクタは、用途、種類ともに、多種多様です。コネクタの、いくつかの、写真を、示します。

各種コネクタ

★ 配管 にも、コネクタがあります。配管では、継手 と呼んでいます。配管継手の、いろいろを、を示します。

配管継手


_

目次に戻る     前に戻る   次に進む