◆ 同軸ケーブルは、高周波用のケーブルです。その用途によって、各種あります。最も身近なものは、テレビ用の同軸ケーブルでしょう。テレビのアンテナからテレビまでの配線は、以前は、フィーダ (梯子フィーダ )を、使用していましたが、最近では、同軸ケーブルが多いと思います。(図 7.2-22、図 7.2-23)。
◆ 同軸ケーブルは、上記のほか、用途によって各種ありますが、汎用的な製品は、JIS の製品です。その特性インピーダンスによって、75 Ω 系 (図 7.2-24)と、50 Ω系 (図 7.2-25) とがあります。75 Ω系とは、特性インピーダンスが 75Ωの製品系列、50Ω系は、特性インピーダンスが 50Ωの製品系列です。テレビ用同軸ケーブルは、75Ω系です。
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同軸ケーブルの周波数特性は、図 7.2-7 に示しました。同軸ケーブルの減衰量は、高い周波数まで、周波数の平方根に比例します。同軸ケーブルは、その特性インピーダンスによって、50 Ω 系と75 Ω 系の 2 種類があります。
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特性インピーダンスというのは、電線(プリントパターン等も含む)に固有のインピーダンスで、通常の意味のインピーダンスとは、若干、異なります。電線の特性インピーダンスについては、後に説明します。電話ケーブルのインピーダンスは、600 Ω である、などといいますが、これは、電話ケブルの、特性インピーダンスのことです。
★ 電線に限らず、全ての特性は、実物で実測するのが、最も確かです。しかし、長い、しかも、その都度長さが異なる、電線の特性を、いちいち、実測するのは、容易ではありません。コンピュータによるシミュレーションが有効です。
電線だけの、シミュレーションモデルは、各種あります。しかし、いろいろな回路を電線で接続したシステムの解析ができることが、必要です。すなわち、回路シミュレータの中で使うことができる、簡単なシミュレーションモデルがあれば、便利です。
★ 電線の周波数特性は、周波数特性ですから、交流に関する性質です。電線の直流抵抗が、無視されたモデルです。しかし、周波数が低い範囲では、直流抵抗による電圧降下を、無視することは、できません。直流抵抗を考えに入れた、シミュレーションモデルが必要になります。
★ また、電線の周波数特性には、本文に示したような、振幅特性だけでなく、遅れがあります。実際にシミュレーションを行うと、この遅れを無視したモデルでは、実際の波形と大きく異なってしまいます。
しかし、直流抵抗と、遅れとの両方を考慮した正確なモデルを作ることは、簡単ではありません。そこで、ちょっと、インチキですが、次のようなモデルを作りました。
★ 図で、T-LINE が、遅れのモデルです。LMODEL は、周波数特性(振幅のみ)のモデルです。この周波数特性モデルには、電線の直流抵抗を、下記の形で、含んでいます。
★ この電線のモデルを使用した、シミュレーション波形の 1 例を示します(電話ケーブル;0.65φ、400m)。この波形は、実際の電線で行った実験の波形と、振幅、波形、遅れ、共に良く一致しています。
★ 電線のシミュレーションの詳細については、このホームぺじの別の講座、「データ伝送基礎講座」4.2. を参照してください。
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電線を伝わる信号にも、反射の現象があります。光の反射については、7.1.(2-B-c) に示しました。
電気が電線を伝わるのは、電線中を、電子が移動することによります。電流は、電子の流れです(図 7.2-26)。しかし、この、電線中の電子の移動は、かなり、遅いのです。電気の導体中には、原子核と電子(自由電子)とが、沢山あります(図 7.2-27)。電子が移動するとき、電子は、電界によって加速されますが、原子核や、他の電子とぶつかり合います。このため、ある一定の速度に、押さえられて、しまうためです。
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しかし、電気の信号は、この電子の移動速度よりも、遥かに速く進みます。信号は、一定値では、ありませんから、交流信号です(パルス波形も広義の交流です)。直流では、電気の流れは、電子の流れ,そのものです。しかし、交流信号は、電子自体の移動ではなく、波動として進みます。電気に関する波動は、既に電磁波として、紹介しました。このときは、空中を伝わる電波として、お話しました。実は、電線中でも、電気信号は、電磁波として伝わります。
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ただし、電線中では、電磁波が真空(空気)中を、伝わる速度よりも、遅くなります(真空中の約 0.6 倍)。これは、電磁波の速度が、周囲の媒体の、誘電率によって、変わるからです。すなわち、電磁波の進む速度を V、周囲媒体の比誘電率を ε、真空中の光速を c とすれば、V = c / √ε の関係があります。
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誘電率は、物質によって変わりますから、必ずしも 0.6 倍では、ありませんが、高性能が要求される電線では、絶縁体にポリエチレンを使用します。ポリエチレンは、誘電率が低いという意味で、優れた絶縁材料 です。
信号が電線を伝わる速度は、ポリエチレン絶縁の場合は、真空中、すなわち光速の、約 0.6 倍です。電線の絶縁体には、ビニールが多く使用されています。ビニールは、安価で、優れた絶縁材料ですから、広く使用されています。しかし、ビニールの誘電率は、あまり低くありません。ビニール絶縁電線では、誘電率が高いので、速度は、もっと遅くなります。この意味で、ビニールは、高周波には適しません。ビニールは、この他の点でも、高周波には、適さない性質を持っています。
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電線にも、インピーダンスがあります。したがって、電線に電流が流れれば、電圧降下が、起こります。しかし、電線の場合には、そのインピーダンスは、通常のインピーダンスとは、若干異なります。
◆ 電線には、特性インピーダンス と呼んでいる特性があります(図 7.2-28)。図に示すように、一端が無限に長い電線を考えます。無限長ですから、その直流抵抗は無限大です。しかし、電線には、抵抗成分だけで無く、インダクタンス成分と、キャパシタンス成分があります(7.2.(3-A-a))。したがって、交流電圧を掛ければ、電流が流れます。
◆ 電圧を掛けると電流が流れるのですから、インピーダンスを考えることができます。このインピーダンスの大きさは、それぞれの電線(その種類、線径など)によって決まる固有の値です。このインピーダンスのことを、その電線の、特性インピーダンスといいます。なお、無限に長い電線と、言いましたが、それは、説明の都合からであって、有限長さの電線であっても、特性インピーダンスは、その電線に固有の値として、存在します。
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さて、ここで、特性インピーダンスが等しい電線を接続してみましょう。接続は、理想的に行います。この場合は、当然のことですが、接続しない 1 本の電線と、全く同じです。
太さや、構造が異なった、電線を接続したときも、それらの、特性インピーダンスが等しければ、一本の電線と異なりません。
◆ では、特性インピーダンスが異なる電線を、互いに接続した場合は、どうでしょうか(図 7.2-29)。特性インピーダンスが、異なる境界で、信号の一部は透過し、残りは反射します。
◆ この現象は、光ファイバにおける、信号の透過、反射と同様です。ただし、光の場合には、2〜3 次元の空間であったのに対して、電線は、1 次元ですから、電線の方が単純です。
電線における、透過と反射の大きさは、上流側の電線の特性インピーダンスを、Z1、下流側の電線の特性インピーダンスを、Z2 とし、
・ ・ ・ (1)
のように、m を定義すれば、電圧反射係数 および、電圧透過係数 は、
となります。
◆ 特性インピーダンスが、互いに等しいときは、Z1 = Z2 ですから、m = 0 となり、(1) 式から、反射は起こらず、全て透過することが分かります。また、特性インピーダンスの差が大きいほど、反射が大きくなります。
◆ 電線の端(出口側)を、オープンにします。このことは、特性インピーダンスが無限大の電線を繋いだことと同じです。すなわち、(1) 式において、Z2 = ∞ ですから、m = 1 となり、100 % 反射します(図 7.2-30)。図で、V(IN) は入り口の電圧、V(OUT) は出口の電圧です。電圧の大きさは、変化していません。信号が電線を伝わる速度による分の、遅れが発生しています(7.2.(4-A-a)参照)。なお、この波形は、シミュレーションによる波形です(シミュレーションは コラム 3.2-1、電線のモデルは コラム 7.2-2 参照)。
◆ 図の波形は、細いパルスに対するものです。ステップ状の入力(過渡特性)に対しては、図 7.2-31 のようになります。この図は、実際の電線による実験波形です。信号の立ちあがり、立下りの部分には、凸凹がありますが、この現象は、図の下に説明してあります。
[図 7.2-31] ステップ入力に対する波形(電線の出口 オープン)
◆ このように、反射は、一般に、電線の入り口と出口の、両方で発生します。図 7.2-30 の波形は、反射が出口だけで起こり、入り口では発生しない条件の、ときのものです。
◆
次に、電線の出口をショートして見ましょう(図 7.2-32)。電線の出口をショートしたのですから、出口の電圧 V(OUT) は、変化しません。
◆ この現象を、反射の立場から、眺めてみます。ショートは、インピーダンスがゼロです。(1) 式で、Z2 = 0 ですから、m = -1 です。したがって、図 7.2-33 のように、説明されます。
[図 7.2-33] ステップ入力に対する波形(電線の出口ショート)
◆ 電線の出口では、入り口から来た波形と、反射波とが打ち消しあって、電圧がゼロになっています。しかし、反射波が発生しているのですから、その反射波は、入り口の方に戻ります。図 7.2-32 には、その波形(極性が反対のパルス)が、現れています。
◆ 今度は、電線の端に、電線の特性インピーダンスと等しい値の抵抗を、接続してみます(図 7.2-34)。特性インピーダンスと呼んできましたが、実は、通常は、電線の特性インピーダンスは、抵抗成分だけです。電線に、その特性インピーダンスと等しい抵抗(インピーダンス)を接続したということは、その電線が、無限に長く延びて入ることと、等価です。
[図 7.2-34] 端に電線の特性インピーダンスと等しい抵抗を繋ぐ
◆
このように、電線の端に、電線の特性インピーダンスと等しい値の抵抗を接続すると、電線の端における反射を防止することができます。
電線の端に、電線の特性インピーダンスと等しい値の抵抗を接続することを、終端 といい、動詞として、終端する のようにも、使用します。そして、その抵抗のことを、終端抵抗 と呼びます。
★ 終端とは、要するに、端っこです。何でも、端っこは、終端です。たまたま、電線の端っこでは、端っこの処理をする必要があることから、終端という、用語となったのでしょう。
私達にとって、なじみの深い終端は、終端駅(終点)でしょう。一時、流行した映画の題名から、終着駅と呼ばれましたが、また元の、呼び方に戻ったようです。
★ さて、電線では、反射を無くすためには、終端処理が必要ですが、光ファイバ伝送でも、同様です。ただし、光ファイバ伝送では、端に置くのではなく、光ファイバの途中に、光アイソレータと呼ばれる素子を挿入します。この光アイソレータ によって、端で反射してきた光を、阻止します。図で、偏光子というのがあります。この偏光子で、端からの反射光を阻止します。偏光については、コラム末の、[偏光について]を参照してください。
★ ここで、光ファイバ伝送に使用する、その他の主な素子についても、簡単に、説明しておきます。下図左は、光分岐結合器です。電気では、分岐、結合は、単に電線を枝分かれ、させるだけで、簡単です。したがって、バス構成が多く使用されています。しかし、光ファイバ伝送では、バス構成にするためには、分岐結合器が必要です。バス(下図右)を構成するのは、大変です。
★ バスを構成する代わりに、多数を分岐結合することができる、光スターカプラを使用してツリー形のネットワークを組むか(下図左)、またはループ形のネットワークを組みます(下図右)。図で、ST は、ネットワーク中の伝送装置で、通常、ノードと呼ばれています。単純なループ形のネットワークは、図のように、データが 1 方向だけに回りますから、制御が簡単です。
★ 最も普通に使われている LAN は、電気式ですが、ネットワークの形は、トリーです。
[偏光について]
★ 普通の自然光では、光の振動は、任意の方向に一様に分布していて、時間に対しても、不規則な振動をしています。これに対して、振動方向の分布が不均一で、ある特定方向に振動する光の強度が、他の方向に振動する光の強度よりも強いものを、部分偏光 といいます。部分偏光は、自然光が、物体から反射されるときに、発生します。直線偏光 は、偏光面が、一つの平面に限られる偏光 です。
★ 偏光フィルタ は、偏光を作るフィルタです。偏光フィルタの効果を、見てみましょう。自然光が、物体から反射されるときに偏光が発生するのですから、この反射を、偏光フィルタを通すことによって、防ぐことができます。下図左は、偏光フィルタ無しの写真、下図右は偏光フィルタを掛けたときの写真です。