電気と電子のお話

7. 信号と信号線

line


7.1. 信号の概要

7.1.(2) 信号の種類と経路

7.1.(2-E) 電   波

7.1.(2-E-a) 信号は空中を伝わる

◆  信号は、電線の中だけだけでなく、空中を伝わります。クロストークは、信号が空中を伝わる 1 例です。クロストークの、原因は、並行して走る線間では、ストレキャパシタンス(コラム 7.1-2 参照)、ループが重なり合ったときは、相互インダクタンスが(図 7.1-33 参照)、その、主な原因です。
また さらに、信号は、電波 (電磁波 )の形で、広い空間を伝わります。
◆  この、信号が空中を伝わるということは、一方では、放送 (図 7.1-40)や無線(ワイヤレス、無線通信 )の形で、便利に使われています。しかし他方では、ノイズも電気信号ですから、空間を伝わります。ノイズが空間を伝わるということが、電気信号 は、ノイズに弱い、という問題を引き起こします。

[図 7.1-40] 放   送

東京タワー   
東京タワー
   NHK
N H K

◆  相互の距離が短いときは、伝わる信号は、ストレキャパシタンスや、相互インダクタンスの形を取ります。しかし、長距離では、信号は、電磁波(電波)の形で伝わります。
ここでは、電磁波について、説明します。

7.1.(2-E-b) 電磁波

◆  信号源に近いところでは、信号源が電圧とみなされるときは、外界に対して、信号は、主に電界の形(ストレキャパシタンス)で、影響を及ぼします。信号源が電流と考えられるときは、外界に対して信号は、主に磁界の形(相互インダクタンス)で、影響を及ぼします(図 7.1-41)。どちらかが支配的で、他方を無視できる場合もありますが、同時に、両方を考えなければならないことも、あります。

[図 7.1-41] 信号源に近いところでは

信号源に近いところでは

◆  ところが、距離が離れてくると、信号源が、どちらであっても、電界と磁界の影響が、等しくなってきます。それと同時に、信号は、波動 (波)の性質を持つようになります。
海の波は、ある方向進みます。海岸に近いところでは、波は、海岸の方向に向かって進みます。しかし、海の水自体は、波と共に進んで行くのでは、ありません(図 7.1-42)。水自身は、進みませんが、波は、一定の速度で進んでいるように見えます。
◆  電磁波も、波の 1 種ですから、海の波と、同様です。

[図 7.1-42] 海の波の動き

海の波の動き

◆  電磁波の進む速度は、世の中で最も高速です。光も、電磁波ですから、通常、光速 と呼ばれており、約 3 × 108 m/s (30 万 km)です。「光陰矢の如し」といいますが、光と矢では、速度の桁が、全く桁が違います。
◆  電磁波は、電波を含み、電波より短い波長(高い周波数)の方に、光(赤外線〜可視光線〜紫外線)〜X 線〜ガンマ線と、広い範囲にまたがって存在します(図 7.1-43)。波長 は、波が、1 周期分進む距離のことで、波長 λ (m) と、周波数 f (Hz) とは、
     λ = (3 × 108/ f
の関係があります。

[図 7.1-43] 電磁波の分類

電磁波の分類

◆  電波とは、正確には、図に示した電波の範囲をいい、法律(電波法 )で、電波と定義されています。
◆  周波数が高くなると、電波は、次第に、光の性質を帯びてきます。低い周波数では、電波は、物体を回り込みます。この回り込みの現象を回折 といいます(図 7.1-44)。周波数が高くなり、マイクロ波になると、光に近づき、直進性がでてきます。
電子レンジは、マイクロ波を利用しています(コラム 7.1-5)。

[図 7.1-44] 回   折

回折
7.1.(2-E-c) 電波の伝播

◆  私たちは、地球上、地球の裏側とでも、無線による通信を行っています。このような、回り込みは、回折では、説明がつかない大きな回りこみです。このような、電波の回り込みに、大きく関わっているのが、地球の電離層の存在です。電離層 (図 7.1-45)とは、上空の大気が、太陽光の影響によって、電離 (イオン化 )している、層のことです。イオン化とは、本来中性である原子分子をプラスまたはマイナスに帯電させて、イオンにするることです。電離しているということは、電気の導体になっていると言うことです。電気の導体は、電波を反射します。

[図 7.1-45] 電 離 層

電離層は電波を反射する


◆  電離層は、太陽光が、関係しているので、変動があり、昼と夜とでは、違いがあります。
長波(LF、図 7.1-43)は、回折によって、地表に沿って進みます。
◆  中波(MF、図 7.1-43)は、昼は、電離層の D 層(図 7.1-45 の D)によって吸収されますから、到達距離は短いのです。しかし夜は、D 層が無いので、電離層の E 層(図 7.1-45 の E)で反射されます。中波(普通のラジオ放送)が、夜になると、昼は聞けなかった、遠方の局の放送を、受信できるのは、この理由によります。
◆  短波(HF、図 7.1-43)は、D 層を通過して、E 層、F 層(図 7.1-45 の F)で反射されます。このため、大地と間で反射を繰り返し、地球の裏側まで届きます。
電離は、自然現象ですから、安定ではありません。この不安定によって、交信状況が変動するのが、フェージング と呼ばれる現象です。
◆  超短波(VHF、図 7.1-43)、極超短波(UHF、図 7.1-43)は、電離層による反射が、ありません。したがって、交信は、ほぼ見通し個所に限定されます。

7.1.(2-E-d) 利用周波数の割当

◆  電波は、空間を伝わります。この空間は、人類共有の場所です。この共有の空間を、有効に利用する必要があります。互いに電波が届く範囲では、周波数が等しい電波は、単純に使用すると、混信します。周波数多重化によって、空間を共用します。
しかし、最近の、電波の利用は、急速に伸びています。単なる周波数多重化だけでは、間に合いません。この需要に応えるために、技術的には、2 つの方向が、あります(図 7.1-46)。

[図 7.1-46] 電波需要の拡大への対応

電波需要の拡大への対応

◆  図で、スペクトラム拡散方式というのは、ディジタル信号を、拡散符号と呼ばれる信号によって、元のディジタル信号よりも、広い帯域に広げます。その広い帯域の信号を送信し、受信側で、元のディジタル信号に、復元する方式です(図 7.1-47)。スペクトラム拡散方式では、拡散符号を使用することによって、帯域が重なっていても、復元することができます。

[図 7.1-47] スペクトラム拡散方式

スペクトラム拡散方式

◆  電波を有効に利用するために、電波の利用は、電波法によって、規制されています。従来の規制では、新しい需要に対応できなくなったので、規制の内容は、改正されています。電波の周波数割当を、図 7.1-48に示します。ただし、微弱な、特定の電波は、自由に使用できます(図 7.1-49)

[図 7.1-48] 電波の周波数割当

電波の周波数割当


[図 7.1-49] 主な免許不要の電波

主な免許不要の電波 主な免許不要の電波


特定小電力無線


◆  図のほかに、免許なしに、ユーザーが利用できるものに、携帯電話や、ワイヤレス LAN などで使用される、5.2 G Hz 帯があリます。LAN (ローカルエリアネットワーク )は、事業所構内、ビル内、家庭内などで使用されている、通信 ネットワークです(図 7.1-50)。ワイヤレス LAN は、この LAN のワイヤレス版です。

[図 7.1-50] L A N

L A N


L A N



7.1.(2-E-e) 携帯電話  

◆  電波の用途は、極めて多岐にわたっています。ここでは、1 例として、携帯電話について、解説します。ただし、携帯電話そのものの、お話ではなく、電波の立場から、眺めたものです。
携帯電話 のシステムは、多数の基地局 から成り、基地局相互間は、有線です。基地局と、各電話機とが、無線でつながります(図 7.1-51)。各基地局がカバーする範囲を、セル といいます。

[図 7.1-51] 携帯電話のシステム

携帯電話のシステム

◆  市街地では、電波が、ビルなどに当って、反射したり、回折したり、するために、携帯電話機は、多重に電波を受けます(図 7.1-52)。

[図 7.1-52] 市街地では、多重に電波を受ける

市街地では、多重に電波を受ける

◆  多重に電波を受けると、干渉によって、電波が強くなったり、弱くなったりします。干渉 とは、図 7.1-53 に示す現象です。

[図 7.1-53] 干   渉

干渉

◆  この干渉のために、場所によって、電波が強いところと、弱いところとができます(図 7.1-54)。図で、λ は、電波の波長です。このような場所を、自動車などで、高速に移動すると、フェージングが発生します。

[図 7.1-54] 移動に伴う受信入力レベルの変化

移動に伴う受信入力レベルの変化

[コラム 7.1-5] 電子レンジ

★ 電子レンジ は、「チン」の愛称で使われている、マイクロ波の、応用製品です。発振周波数は、2,450 MHz で、図 7.1-42 の表からは、ちょっと、周波数が外れていますが、マイクロ波に分類されます。マイクロ波の発振器を、マグネテロンといいます。
ちなみに、この 2,450 MHz の周波数は、LAN などにも使用されています。

電子レンジ(写真)       電子レンジ(イラスト)

★ 電子レンジのマイクロ波は、マグネトロンの先端にあるアンテナから、放射されます。この電波は、食品中の水の分子を振動させ、摩擦熱を発生します(下図右)。したがって、食品の内部から加熱します。一般の調理では、食品を外部から加熱しますから、この点が大きく異なります。

摩擦熱

★ この加熱方法は、調理済食品の再加熱に便利なことから、先ず、この用途から使われ始めました。現在では、電子レンジ用の料理が、各種あります。
ただし、電子レンジに不適当なものも、あります。卵は、その代表的な食品で、ゆで卵を作ろうとすると、破裂することが、よく知られています。殻付きの栗や銀杏も、同様です。破裂しやすい食品を、左下に示します。

破裂しやすい食品      用意するもの

★ 電子レンジで、ゆで卵を、うまく作る方法が、あります。用意するものは、上図右です。卵を、アルミホイルで完全に包み、コップの中にいれます(下図左)。これを電子レンジで、加熱すれば、でき上がりです(下図右)。加熱時間を調節すれば、半熟から、固ゆでまで、自由です。
アルミホイルで包むのは、卵の中を直接加熱しないためです。マイクロ波は、アルミホイルで遮蔽されますから、周囲の水だけを加熱します。したがって、本物のゆで卵と、同じように、外から、加熱されます。

卵を、アルミホイルで完全に包み、コップの中にいれる      でき上がり

★ 電子レンジで使用する容器には、制約があります。電子レンジで使用できる容器は、次のようなものです。

電子レンジで使用できる容器 電子レンジで使用できる容器

★ 電子レンジに関しては、アメリカの、「猫チン裁判」が、あります。アメリカの、ある町の、おばあさんが、犬を飼っていました。この犬をシャンプした、おばあさんは、濡れた犬の毛を乾かそうとして、電子レンジで、乾かすことを、思い付きました。早速、犬をレンジに入れて、「チン」。可愛そうに、犬は、死んでしまいました。
★ なんと、この、おばあさんは、電子レンジの、メーカーに対して、損害賠償を請求したのです。「電子レンジに、猫を入れないで下さい」と注意書きがなかったのが悪い、という主張です。さらに、驚いたことにこの老婦人の訴えは認められ、損害賠償がされたということです。
★ この話の犬が、猫にすり替わって、「猫チン裁判」として、有名になりました。ただし、この話は、もともと、作り話らしいのです。本当に有ったことであれば、裁判の記録があるはずですが、どこを探しても、ありません。話の筋書きも、いくつか、違ったものが、あります。
しかし、何でも裁判に訴えるという、アメリカなら、有っても、おかしくはない、話として、多くの文献に載っています。



[コラム 7.1-6] 無線 LAN

★ 無線というと、昔は、アマチュア無線 を思い浮かべたものです。当時は、一般の人が利用するものでは、ありませんでした。しかし、今では、気軽に、誰もが使うものに、なっています。

レジャーに使う       レジャーに使う       レジャーに使う

★ 無線通信を、有線通信と比較すると、下図のように、なります。

無線通信と有線通信との比較

★ 無線は、通常は、電波による、通信のことですが、広義には、空間を利用して、電線無しに行う通信、全てを指します。たとえば、電波以外にも、光(含む赤外線)や、超音波などが、使われています。光の場合は、光空間伝送と呼ばれています。光は、光ファイバケーブルを使った、光ファイバ伝送もあります。

光と電波と光ファイバ

★ 無線は、従来は、長距離伝送の手段でした。しかし、最近では、配線の煩わしさを避けるために、近距離でも、無線が、多く、使われています。
その、代表的なものの 1 つが、無線 LAN (ワイヤレス LAN ) です。無線 LAN は、LAN を無線化したものです。
★ LAN は、元々、屋内での、通信手段として、発展してきました。屋外、とくに、公共の場では、携帯電話が、使われてきました。携帯電話は、通話を目的として、作られたシステムですが、最近では、メールなどの、やり取りにも、多く使われています。しかし、そのため、ディジタルデータの通信は、高速では、ありません。高速の用途には、無線 LAN が、使われます。
★ 公共の場所で、LAN を利用する目的で、無線 LAN の、アクセスポイントが、駅などに設けられています。

無線 LAN のアクセスポイント

★ 屋内では、無線にする必然性は、ありませんが、有線の配線は、面倒です。とくに、移動が頻繁な用途には、屋内でも、無線 LAN が適しています。最近は、オフィスのネットワークは、勿論のこと、家庭内 LAN にも、無線 LAN が、多くなっています。
★ 無線 LAN は、3 種類あります。それぞれ、長所、欠点が、あります。なお、図の 11a は、図の下部に示すように、改正されています。

無線 LAN の比較


無線 LAN の比較

★ 無線 LAN は、電波を使用しますから、屋内で使用しても、電波が、屋外に漏れ出して、傍受される恐れが、あります。傍受を防ぐために、通信内容を、暗号化するなどの、措置が必要です。
★ 家庭内の使用なら、秘密情報は、無いと思われるかも、知れません。しかし、インターネットで、買い物をするときに、クレジットカードの番号を送ったりします。また、何かの暗証番号を送ることも、あります。通常は、このような場合には、自動的に、暗号化してくれます。しかし、一応は、注意した方が、良いでしょう。
★ 無線 LAN は、単独でも使用しますが、有線の LAN や多重伝送を併用したシステムが、多く用いられています。

有線の LAN や多重伝送を併用したシステム


有線の LAN や多重伝送を併用したシステム
_

目次に戻る     前に戻る     次に進む