電気と電子のお話

7. 信号と信号線

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7.1. 信号の概要

7.1.(1) 信号とは

◆  信号については、コラム 4.2-2 で、ノイズと対比させて、欲しい信号の名で、説明しました。しかし、きちんとした定義は、まだ、していません。
ここでは、信号について、もっと、掘り下げて、考えて見ましょう。信号 は、信号の言葉を使用する、目的と場所によって、異なリますが、たとえば、図 7.1-1 のように、定義されます。最も一般には、(3)の信号機の意味で使用されていますが、本来の信号の定義は、図 7.1.1 の、(1)または(2)でしょう。

[図 7.1-1] 信号の定義

信号の定義


◆  図 7.1-1 で、情報という言葉が出てきました。言葉の定義が続きますが、情報 の定義を、図 7.1-2 に示します。

[図 7.1-2] 情報の定義

情報の定義


◆  図 7.1-1 の定義や、コラム 7.1-1 に示したように、信号は、電気の信号には、限りませんが、ここでは、主に、電気の信号について、お話を進めます。なお、これまでにも、既に、信号のことについては、随所で触れています。
◆  信号は、どこかで発生し、どこかを伝わって、信号を受けるところに、影響を与えます(図 7.1-3)。

[図 7.1-3] 信号は、発生し、伝わり、影響する

信号は、発生し、伝わり、影響する


◆  信号は、また、欲しい必要な信号と、不要または有害な信号とに、分けられます(図 7.1-4)。この、不用、とくに有害な信号を、ノイズ と呼んでいます。しかし、欲しい信号も、ノイズも、信号であることに変わりは、ありません。ある 1 つの信号が、特定の用途に対して欲しい信号であると同時に、他に対しては、有害なノイズとして働くことがあります。というよりも、欲しい信号が、同時に、他に対して有害なノイズであることの方が、むしろ、普通です。

[図 7.1-4] 欲しい信号とノイズ

欲しい信号とノイズ

欲しい信号とノイズ


◆  信号は、図 7.1-3 に示したように、どこかで発生し、どこかを経由して、受ける場所に伝わります。この、信号が伝わる経路は、必ずしも、信号線 (伝送路 、信号を伝えるために設けられた経路、たとえば電線)であるとは、限りません。無線放送が、あることからも、分かるように、電波(電磁波)などの形で、空中を伝わります。
◆  また、電気の信号だけでなく、光ファイバ伝送などの形で、光も、信号の伝送も利用されています。電気、光以外にも、たとえば、超音波も、リモコン などに、利用されています。



[コラム 7.1-1] 信号のいろいろ

★ 信号 とは、要するに情報を伝達する手段です。現在では、電気信号を使用することが、大半です。歴史的には、信号を長距離に伝達する手段の工夫が、通信技術につながっています。
★ 古くから有った長距離信号の伝達手段は、「のろし 」(下図左)です。ただし、のろしは、のろしが上がっているか、否かの、1 ビットの情報しか、送れませんし、信号を作るのに、手間と時間が、かかります。
★ フランスのシャップは、腕木式の通信機 を開発しました(下図右、1791 年)。腕木式通信機 では、腕木の角度を複数設定し、その複数の角度を信号とすることによって、複数の情報を送ることが、できます。しかし、高々、数ビットです。

のろし         シャップの腕木式通信機

★ その後、産業革命 が起こり、新しい技術が次々に、開発されました。

産業革命の歩み

★ 上の図には、載っていませんが、通信機では、1809 年に、ドイツのゼンメリンクが、電気分解によって発生する泡を信号に利用した、電解式電信機 を作っています(下図左)。これは、発生する泡の時間間隔で、文字を表しています。
★ モールスは、1835 年に、時間の長短を信号に利用した、モールス符号 を使った、電信機(下図中)を開発しました。
クックとホイートストンは、文字を直接示すことができる、5 針式電信機 を 1836 年に開発しています(下図右)。分かり易さの点では 5 針式が優れていますが、キー 1 つあれば良い、という簡単さから、モールス符号方式が生き残りました。

電解式電信機    モールスの電信機    5 針式電信機


モールス符号

★ モールス符号の記号方式は、図からも分かるように、文字によって、符号長さが異なります。使用頻度が高い文字に、短い符号を割り付けることによって、伝送効率が高くなるように、工夫されています。
★ このモールス符号を日本に導入したとき、カナ文字が追加されました。しかし、カナ文字を導入したときには、上記のような、伝送効率の工夫は、意味を失っていたので、カナ文字には、そのような細工は、されていません。
★ 似たようなことは、キーボード のキー配置にも、あります。下図は、パソコンなどに使用されている、キーボードです。

キーボード

★ キー配置は、打ちやすさだけでなく、いろいろな要因が、からんでいますから、単純ではありません。また、現在多く使用されている、ローマ字のキー配置(クワティ配列 といいます)が、このキー配置は、ベストであるとは、言いかねます。
が、とにかく、タイプライタを、日本に導入したときも、カナ文字が、必要になりました。最初に作られた、カナ文字のキー配置は、覚えやすさに基づいて決められました。ただし、現在用いられている、JIS のキー配置は、これとは異なります。
★ 最近では、モールス符号は、それほど多くは、使われていません。ASCII や、JIS などの文字コードが、使用されています(下図は、JIS の文字コードです)。

JIS の文字コード

★ これらの文字コードは、1 文字のビット数が、一定(7〜8 ビット)です。ASCII は、アメリカの国家規格です。その中で、文字コードが、規定されています。当然ながら、この ASCII コード と、国際規格の、ISO、日本の JIS の、ローマ字の文字コードは、一致しています。ただし、例外があります(下記)。

例外

★ 日本の文字コードには、かな文字コードのほかに、2 バイト/文字の、漢字コードもあります。
旗で表す信号には、手旗信号 (下図左)、信号旗 (下図右)などがあります。手旗信号は、旗を持った、2 本の腕の方向の組み合わせによって、文字(ローマ字またはカナ)を表します。信号旗は、旗の色と模様によって文字を表します。通信が発達した現在では、その必要性は、少ないでしょうが。

手旗    信号旗_

★ 日露戦争で、旗艦三笠が掲げた Z 旗は、あまりにも有名ですが、その旗の模様を知っている人は、少ないと思います。なお、Z 旗を掲げてた意味は、「Z は、(最後の文字なので)後が無い」、ということらしいです。それを、「皇国の興廃この一戦にあり」の名文句に翻訳したものです。
★ この、日本海海戦では、「敵艦見ゆ」の無線の報告も、有名です。当時、日本海軍では、全ての艦に、最新式の無線設備を、装備し終わったところでした。日本海海戦の勝利は、この情報によるところが、大です。
★ かつて、「海を制するものは世界を制する」と言われましたが、「情報を制するものは世界を制する」と置き換えても良いのではないでしょうか。





7.1.(2) 信号の種類と経路

7.1.(2-A) 概   要

◆  信号の種類と、その経路の概要を、図 7.1-5 に示します。図は例示ですから、実際には、もっと多くの種類と経路があります。

[図 7.1-5] 信号の種類とその経路(例示)

信号の種類とその経路


◆  また、1 つの経路を、多重化 して、複数が利用する方式が、あります(図 7.1-6)。図は、周波数多重化 (周波数分割多重化 )の例です。互いに、周波数帯域が異なる複数の信号が、同一伝送路上に混在するときは、周波数帯域の差を利用して、フィルタ(バンドパスフィルタ)によって、分離して取り出すことが、可能です。

[図 7.1-6] 多重化する(周波数多重化の例)

多重化する(周波数多重化の例)


◆  多重化は、この、周波数多重化の他に、空間分割多重化と時分割多重化とがあります。空間分割多重化 は、信号の経路を、必要なチャンネル数だけ用意する方式です。この方式は、当たり前の方式ですから、通常多重化とは、呼びません。
時分割多重化 (タイムシェアリング )は、時間差によって多重化します(図 7.1-7)。図では、送信データ 1、送信データ 2、送信データ 3 の 3 チャンネルを多重化しています。時分割多重化では、図からも分かるように、n チャンネル多重化するためには、n 倍の伝送速度が、必要です。ここで、伝送速度 とは、信号を送る速度のことで、単位は ビット/秒です。

[図 7.1-7] 時分割多重化

時分割多重化


7.1.(2-B) 電気信号と電線

7.1.(2-B-a) 電線の概要

◆  電気信号の、最も一般的な経路は、電線 です。電線は、信号の伝送だけでなく、電力の輸送にも使われています。ここでは、電線について、信号の伝送だけでなく、電力の輸送も含んで、解説します。
◆  電線の用途は、いろいろですから、電線には、多くの種類があります。したがって、系統的に分類することは、できません(図 7.1-8)。図 7.1-9 の左側は電線の構造上の分類、図の右側は電線の、用途からの分類です。

[図 7.1-8] 電線のいろいろ

電線のいろいろ

[図 7.1-9] 電線の種類

電線の種類       電線の種類


◆  ケーブル 図 7.1-10 右)は、絶縁電線 (図 7.1-10 左)を複数束ねて、それをシース (鎧装 がい装 )で被覆したものです。図で、線心 (線芯 )とは、1 本の絶縁電線のことです。

[図 7.1-10] 絶縁電線(左)とケーブル(右)

絶縁電線    ケーブル



7.1.(2-B-b) 電力用電線

◆  電力用電線 の用途を、図 7.1-11 に示します。

[図 7.1-11] 電力用電線の用途

電力用電線の用途


◆  送電用電線
   架空送電線 を、図 7.1-12 に示します。

[図 7.1-12] 架空送電線

架空送電線


   電力ケーブル を、図 7.1-13 に示します。

[図 7.1-13] 電力ケーブル

電力ケーブル


   配電用電線 は、電線自体ではなく、その、敷設状況を示します(図 7.1-14)。

[図7.1-14] 配電用電線の敷設状況

配電用電線の敷設状況


◆  配線用電線
   図 7.1-15 は、建築物、設備配線用の電線です。

[図 7.1-15] 建築物、設備配線用の電線

建築物、設備配線用の電線


◆  電灯、動力には、一般に交流が使用されます。交流には、単相交流 3 相交流 とがあります。3 相式の各相は、互いに、120 °((2/3)π) 位相が異なった、3 つの正弦波から成っています。(図 7.1-16)。

[図 7.1-16] 3 相交流

単相交流 3 相交流

その単相 交流は、さらに、単相 2 線式 と、単相 3 線式 とがあります(図 7.1-17)。一般家庭においても、エアコンなどの、大きな電力を使用する機器は、単相 200 V を、使用するほうが、有利です。
◆  ただし、既に配線されていないときは、配線工事が必要です。100 V だけしか、利用しない場合でも、単相 3 線式を使用した方が、配線の利用効率が高くなります。

[図 7.1-17] 交流の配線方式

交流の配線方式

◆  その他の配線用電線の例を、図 7.1-18 に示します。

[図 7.1-18] その他の配線用電線

その他の配線用電線



7.1.(2-B-c) 通信用電線

◆  通信用電線 の分類を、図 7.1-19 に示します。

[図 7.1-19] 通信用電線

通信用電線


◆  電話ケーブル (通信ケーブル )は、電話用のケーブルです。しかし、電話をはじめとする通信の用途には、光ファイバケーブル (光ファイバ )を、多重化してして、使用することが多くなっています(図 7.1-20)。この、光ファイバに対して、銅の電線を使用した回線のことを、メタル回線 と言います。

[図 7.1-20] 電話ケーブル(左)と光ファイバケーブル(右)

電話ケーブル(左)と光ファイバケーブル(右)

◆  光ファイバケーブルを使用した、光ファイバ伝送 では、利用する信号は、光の強さ です。光の強さは、電気における、電圧に相当します。光ファイバケーブルの原理を、図 7.1-21 に示します。光ファイバケーブルは、図に示すように、互いに屈折率 が異なる 2つの透明な媒体(図では屈折率 n1 と n2)を、2 重円筒の形にしたものです。外側の(中空な)円筒をクラッド 、内側の円筒をコア といいます。

[図 7.1-21] 光ファイバケーブルの原理

光ファイバケーブルの原理


◆  光は、互いに屈折率が異なる界面を透過 するときは、一部の光は屈折 して透過し、残りは反射 します(図 7.1-22 (a))。しかし、屈折率が大きい方から、小さい方に透過する場合には、光の入射角が、所定の角度よりも小さいと、図の(b)に示すように、透過する光はゼロとなり、100 % 反射します。この現象を、全反射 と言います。そして、上記の所定の角度のことを、臨界角 と呼んでいます。

[図 7.1-22] 光の屈折と反射

光の屈折と反射 光の屈折と反射


◆  光ファイバケーブルでは、入射光(入射波)が、臨界角よりも小さくなるように、光を透過させます。光は、全反射を繰り返し、反射による損失なしに、光ファイバケーブルのコアの中に、閉じ込められて、光が進みます。
ただし、光が透過することによる、透過損失 は存在します。しかし、光ファイバ伝送では、光の透過損失が、十分に小さい材質(通常は、高純度の石英)を、使用しています。したがって、長距離の伝送が、可能です。
光ファイバ伝送については、コラム 7.2-3 を参照してください。また、このホームページの別の講座にも、光ファイバ伝送についての、詳しい解説があります。
◆  同軸ケーブル を、図 7.1-23 に示します。外側導体と中側導体との、軸が一致していることから、同軸ケーブルの名が付きました。高周波信号に適した特性を持っており、高周波用に使用されます。

[図 7.1-23] 同軸ケーブル

同軸ケーブル    同軸ケーブル


7.1.(2-B-d) 機器用電線

◆  図 7.1-24 は、電気機器配線用電線 です。屋内の電気機器に使用される、各種コードや、モータなどの電源の引込みに用いられる口出線、また配電盤、制御盤および信号機器等の内部に配線される機器内配線用電線、通信機器相互を接続する機ひも等の、種類があります。


[図 7.1-24] 電気機器配線用電線

電気機器配線用電線


◆  図 7.1-25 に、電子通信機器用電線 を示します。

[図 7.1-25] 電子通信機器用電線

電子通信機器用電線

◆  LAN 用ケーブル (LAN ケーブル ローカルエリアネットワーク用ケーブル)を、図 7.1-26 に示します。LAN は、ローカル(工場構内やビルなど)のネットワークの伝送用として、多く、使用されています。LAN 用ケーブルは、このネットワーク伝送 用の目的に特化したケーブルです。

[図 7.1-26] LAN 用ケーブル

LAN 用ケーブル


7.1.(2-B-e) 輸送用電線

◆  輸送用電線 は、自動車、航空機、船舶などに使用する電線です。これらは、いずれも、内部に発電機をもち、発電しながら電気を使用しています。また、これらは、激しく運動する、精密な機械です。故障を起こさないよう、その性能を最高度に発揮させる、専用の特殊な電線を、必要としています。
◆  自動車用電線 は、それを使用する車種に応じて、予め、組み立てた、ワイヤハーネス (自動車組配線 ハーネス 束線 )を使用します。ハーネスは、自動車に限らず、機器内部の配線に、広く使用されています(図 7.1-27 左)。図の右は、船用電線 です。

[図 7.1-27] ワイヤハーネスと船用電線

ワイヤハーネスと船用電線


7.1.(2-B-f) 巻   線

◆  これまで紹介してきた電線は、電気エネルギーあるいは電気信号を目的の場所まで送り届ける役目の電線です。
電線のうちには、直接電気の伝達に関係なく、機械エネルギーを電気エネルギーに変換し(発電)、あるいは電気エネルギーを機械エネルギーに変換する(モータ)ために、コイル状で使用するものがあります。これを巻線 (コイル )といいます(図 7.1-28)。
巻線は、大は発電所から小は腕時計まであらゆる電気機械、通信機器および電子応用機器の主要な材料として極めて広い範囲にわたって使用されています。

[図 7.1-28] 巻線を使用した製品

巻線を使用した製品


7.1.(2-B-g) EM 電線ケーブル

◆  環境に配慮し、耐燃性を持つ電線を、EM 電線ケーブル といいます。EM 電線ケーブルは、下記の特徴を有します。
   (1) 被覆材に、ハロゲン元素を含まないため、有害なハロゲン系ガスを発生しない
   (2) 鉛などの重金属を含まないので、土壌汚染がない
   (3) 燃焼時の発煙量が少ない
   (4) 腐食性ガスを発生しない
   (5) 耐熱温度が高いため許容電流を大きく取れる

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