電気と電子のお話

7. 信号と信号線

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7.1. 信号の概要

7.1.(2) 信号の種類と経路

7.1.(2-D) シールド

7.1.(2-D-a) 静電シールド

◆  ストレキャパシタンスや、相互インダクタンスによる、クロストークが問題になる場合には、シールドによって、クロストークを押さえることが、できます。シールド (遮蔽 )は、電気の導体、または磁性体を、互いにシールドしたいものの間に挿入することによって、相互の結合を、断ち切る手段です(図 7.1-35)。
別の表現をすれば、シールドとは、空中を伝わる電波などを、阻止する手段です。なお、図に示すシールドは、静電シールド (静電遮蔽 )と呼ばれるものです。

[図 7.1-35] 静電シールド

静電シールド

◆  静電シールドは、電界をシールドします。すなわち、ストレキャパシタンスによる結合を、阻止します。図の(a)は、A と B とが、ストレキャパシタンス C1 によって結合していることを、模型的に表したものです。
(b)は、シールドのために、A と B との間に電気の導体を挿入した図です。図では、線のように書かれていますが、実際には、面です。理想的には、無限大の広がりを持つ面です。
シールドは、グラウンドされている必要があります。
◆  もし、シールドが完全であれば、図の(c)のようになりますから、A から B または、B から A に電圧や電流は伝わりません。すなわち、A から X への電流は、コンデンサ C2 を通して X に流れますが、その電流は全て、グラウンドに流れます。B へは、電流は流れません。B から X への電流も同様です。
◆  もし、X 点がグラウンドされていないときは、図の(d)のようになりますから、シールドの効果はありません。シールドの不完全さは、図の(e)のように、モデル化することが、できます。図の(a)の C1 よりもはるかに小さい値ですが、キャパシタンス C4 による結合が存在します。
◆  静電シールドでは、ありませんが、グラウンドプレーンも、静電シールドに近い効果があります(図 7.1-36)。グラウンドプレーンの、すぐ傍にある帯電体は、電気力線の多くが、グラウンドを通るので、帯電体相互間の電気力線は、少なくなります。帯電体を、できるだけ、グラウンドプレーンに密接して、沿わせることによって、この効果が、高まります。
電子機器の筐体 が、金属などの導電性の材料であり、その筐体がグラウンドされているときは、配線を、筐体に沿わせることが、有効です。

[図 7.1-36] グラウンドプレーンのシールド効果

グラウンドプレーンのシールド効果

◆  多層基板には、グラウンドプレーンの層があります。多層基板には、いろいろな特徴がありますが、グラウンドプレーンが、シールドの役目を果たしていることも、多層基板の有利な点の 1 つです。そして、多層基板では、信号線のパターンは、グラウンドプレーン(または、グラウンドプレーンと同等の効果がある、電源のプレーン)に、密着しています。


7.1.(2-D-b) 磁気シールドと電磁シールド

◆  磁界も、磁気シールド によって、シールドすることができます(図 7.1-37)。磁気シールドは、磁性体(透磁率 が大きい材料)によって、シールドの対象を囲みます。磁気シールドによって、磁力線は、磁気シールドの内部には、入りません。

[図 7.1-37] 磁気シールド

磁気シールド

◆ 高周波においては、磁性体を使用しないで、電気の導体によって囲むことで、磁界をシールドすることができます(図 7.1-38)。これは、電磁誘導(コラム 7.1-3 参照)によるものです。電気の導体を切る磁力線の強さが変化すると、それによって、電気の導体に、渦電流 が流れます。この渦電流によって発生する磁力線は、元の磁力線を打ち消す方向ですから、シールドになります。

[図7.1-38] 高周波では導電体で磁界をシールドできる

高周波では導電体で磁界をシールドする

◆  上記のシールドを、電磁シールド といいます。磁気シールドと、電磁シールドとの違いを、図 7.1-39 に示します。

[図 7.1-39] 電磁シールドと磁気シールドの違い

電磁シールドと磁気シールドの違い

◆  建物や部屋全体をシールドした、試験設備を、シールドルームといいます(コラム 7.1-4)。



[コラム 7.1-3] 電磁誘導

★ 電磁誘導は、電気と磁気に関する、誘導 の現象です。
誘導とは、文字と通り、誘い、導くことです。
★ 誘導尋問は、相手の回答を、予め自分が予定していた内容になるように導きます。

裁判所

たとえは、車の事故における、事故の目撃者の証言において、
★ (1) 「あなたの目の前で、激しく衝突しましたね、その時スピードはどのくらい出ていましたか」と聞いたときの目撃者の証言と、
★ (2) 「あなた目の前で車が接触事故を起こしたんですね、どのくらいの速度でしたか」と聞いたときとの証言とでは、答えに、差が出ます。
多くの場合、(1) の質問に対する答えの方が、高い数値になるでしょう。この場合、(1)の、「激しく衝突」という言葉から、高い数値が、誘導されたことに、なります。
★ このように、ある特定の答えを誘導する尋問が、誘導尋問です。法廷では、誘導尋問を行うことは、認められません。相手方が、誘導尋問を行ったと判断したときは、異議の申し立てを行います。

★ さて、電磁誘導 とは、一口にいうと、コイル電流を流すと、コイルは電流が流れている間、電磁石になり、逆に、コイルに磁石を近づけると、コイルに電流が流れる現象です。発電機や、電動機(モータ)は、この電磁誘導を、利用したものです。
★ 電磁誘導について、もう少し、具体的に説明しましょう。
フレミング左手の法則 という、法則があります。左手を、下図左のようにすると、電磁誘導における、磁界の方向、電流の方向と、動く方向が分かります。下図右は、モータの回転の原理を示す図です。この図に、フレミング左手の法則(下図左)が、適用されます。

フレミング左手の法則 ;フレミング右手の法則 モータの回転に適用した例

★ 序に、フレミング右手の法則も、示しておきました(上図中)。磁界の中で、電気の導体を動かすと起電力が発生します。フレミング右手の法則は、これらの関係を示します。

★ 渦電流 についても、説明を補足しておきましょう。
電気の導体(非磁性体)を磁石の間に置きます(下図左)。電気の導体を磁力線が貫きます。
電気の導体を左の方に動かすと、磁石に近づく部分は磁力線が多くなり、遠ざかる部分では少なくなります(下図左中)。
電磁誘導によって、渦電流が発生しています(下図右中)。この渦電流によって発生した磁力線が加わったために、元の磁力線が、増減したのです。
その結果として、電気の導体が動くのを妨げようとする力が働きます(下図右)。

_電気の導体(非磁性体)を磁石に間に置く _磁力線 _渦電流 _働く力

★ 以上のことから分かるように、渦電流は、変化を妨げるように、発生します。




[コラム 7.1-4] シールドルーム

★ シールドは、もともと、盾のことです。多分それから、派生したのだと思いますが、何らかの意味で、遮るものは、シールドです。シールドの対象によって、いろいろなシールドがあります。左上は、床の防音シールド です。右上は、ガラスの表面に貼るシールドで、ガラスを強化し、破壊したときも、破片が飛び散るのを防ぎます。左下は、断熱シールド です。そして、右下が、オートバイ用ヘルメットのシールドです。

防音シールド    ガラスを強化するシールド

断熱シールド         ヘルメットのシールド

★ トンネルなどの工法に、シールド工法 があります。周囲の土をシールドしながら掘り進みます。下は、シールド工法によって作られた、地下鉄です。

シールド工法によって作られた、地下鉄

★ 現代は、ワイヤレス (無線 )の時代です。私たちの周りには、様々な電波が飛び交っています。電波に関する測定をしょうと思っても、この飛び交っている電波がノイズになって、正確な測定を、することが、できません。
★ 電波に関する測定を行うためには、外界からの電波を遮断した、電波フリーの部屋が必要です。また逆に、内部で行った実験で、不法な電波を、外界に出すことも、防がなければなりません。
上記の目的のために作られた部屋を、電磁波シールドルーム (電磁シールドルーム シールドルーム 遮蔽室 )といいます。

電磁波シールドルーム

★ 写真で、床を除く壁面と天井は、碁盤目のようになっています。これは、電波(電磁波)の吸収材です。壁面や天井は、外界からは、シールドされていますが、内部で発生した電波が、壁面や天井で反射すると、測定誤差になりますから、電磁波吸収材 で、反射を防いでいます。
★ シールドルームは、壁面と天井からの、電磁波の反射を押さえていることから、電波無反射室 (電波暗室 電波無響室 )ともよばれています。
★ 床には、金属板が敷き詰めてあります。したがって、床からは、ほぼ 100 % 電波を反射します。大地は、電波を、よく反射しますから、これを模擬してあるのです。シールドルームは、床からの反射があるので、電波半無反射室 とも呼ばれています。
★ 下左は、部屋の中に設けた、小形のシールドルームです。下右は、屋外に設けた、オープンサイト と呼ばれる設備です。山間部などの、できるだけ電波の少ないところに設置します。しかし、電波の無いところは有りませんから、バックグラウンドノイズを測定して補正します。

小形シールドルーム     オープンサイト

★ シールドルームは、いろいろな用途に使用されますが、最も大きな用途は、ノイズの測定です。電子機器 を含めて、電気機器 は、ノイズを出します。このノイズは、他の電気機器、とくに他の電子機器を妨害します。このため、機器が出すノイズは、法的に規制されています(詳細は、別の講座 22 章 参照)。シールドルームでは、主に、この規制に則った、ノイズ測定 を行います。
★ シールドルームには、磁気を遮蔽する、磁気シールドルーム (下図)もあります。

磁気シールドルーム




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