電気と電子のお話

7. 信号と信号線

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7.1. 信号の概要

7.1.(2) 信号の種類と経路

7.1.(2-C) プリントパターン

7.1.(2-C-a) プリントパターンの抵抗とインピーダンス

◆  プリント基板は、ICトランジスタ抵抗コンデンサなどを、プリント基板上に実装し、それらの部品 を結ぶ配線を、プリント基板上に、印刷したものです。電子回路 (弱電回路)の大半は、プリント基板に搭載されています。プリント基板上の配線を、プリントパターン (プリント配線パターン パターン )と呼んでいます。プリントパターンは、回路設計に基づいて、設計製造します。
◆  プリントパターンの厚さは、通常、35 μm 程度です。その抵抗は、
     プリントパターンの抵抗
です。例えば、パターン幅 0.5mm、長さ 50 mm のプリントパターンの抵抗は、約 50 mΩです。
◆  プリントパターンの抵抗は、無視できる場合が多いのですが、プリントパターンのインピーダンスが、問題になることがあります。一般に、プリントパターンは、ループ状になることが多く、その、インダクタンスが大きいからです。インダクタンスのインピーダンスは、信号の周波数に比例します(図 3.1-1 参照)。したがって、高い周波数ほど、プリントパターンのインピーダンスが、問題になります。
◆  プリントパターンのインダクタンス を、図 7.1-29図 7.1-30 に示します。図 から分かるように、プリントパターンのインダクタンスの大きさは、ループの面積が、効いています。プリントパターンのインピーダンスを高くしないためには、面積が大きいループを作らないように、配線する必要があります。

[図 7.1-29] プリントパターンのインダクタンス(パターン幅 ω に対する)

プリントパターンのインダクタンス(パターンの幅 ω による)


[図 7.1-30] プリントパターンのインダクタンス(パターンループ面積 S に対する)

プリントパターンのインダクタンス(パターンループ面積 S に対する)

◆  ただし、ループ状のパターンが、全て悪いのではありません。たとえば、メッシュ状のパターンは、細かいループの集まりですが、このパターンは、有益です(図 7.1-31)。相隣るループの電流が、互いに打ち消しますから、インダクタンスになりません。細かい目のメッシュは、シールドの効果があります。

[図 7.1-31] 相隣るループが互いに打ち消す

相隣るループが互いに打ち消す


7.1.(2-C-b) クロストーク

◆  互いに独立なパターンは、相互に影響があってはならない筈ですが、実際には、相互干渉 があります。すなわち、回路図に無い回路を作ります。
配線間で、信号が伝わってしまう現象を、クロストーク (漏話 )と言います。並行して走る 2 本のパターンは、ストレキャパシタンスや、相互インダクタンスによって、互いに結合しています(図 7.1-32)。近接した電線相互や、近接した電線とパターンとの間にも、同様に、クロストークがあります。

[図 7.1-32] 並行して走る 2 本のパターン

並行して走る 2 本のパターン

◆  クロストークは、配線が、長距離並行しているとき、とくに問題になります。クロストークが、最初に問題になったのは、電話回線です。このことから、漏話の言葉が、生まれたのです。
電話の信号は、低周波です。クロストークは、信号周波数が高いほど大きくなります。電話の信号は低周波ですが、長距離なので、問題になったのです。高周波では、短距離、たとえば、プリント基板内の信号でも、クロストークが、問題になります。
◆  ループが複数個あって、その面積が、互いに重なり合うと、大きな相互インダクタンスを形成します(図 7.1-33)。相互インダクタンスによる結合によって、一方のループに、電流が流れると、他方のループに、電圧を誘起します。トランスは、この作用を利用したものです。ループの重なり合いによるクロストークは、並行パターン相互のクロストークよりも、ずっと、大きくなります。複数のプリント基板が、並んでいるときは、相隣るプリント基板のループの面積が重なり合って、予想しなかった、大きな相互インダクタンスを作る恐れがあります。

[図 7.1-33] 大きな相互インダクタンスを形成する

大きな相互インダクタンスを形成する

◆  クロストークは、平行して走る、強電から弱電に対するものが、最も問題になります。ケーブル相互の距離を取ることによって、解決します。図 7.1-34 は、コンピュータケーブルと、電力用ケーブルの必要間隔を示すものです。図の、横軸は相互の平行して走る距離、縦軸は 2 つのケーブルの間隔です。

[図 7.1-34] コンピュータケーブルと電力用ケーブルとの必要間隔の例

コンピュータケーブルと電力用ケーブルとの必要間隔の例

◆  クロストークに関する実験結果を、コラム 7.1-2 に紹介しておきます。


[コラム 7.1-2] クロストークの実験

★ クロストークに関して、2 つの実験を行っています。[プリントパターンの実験]と、[電話ケーブルの実験]です。

[ プリントパターンの実験]
★ プリントパターンの実験回路は、下図の通りです。図に示すように、0.64 mm の間隔で、長さ 14 cm の並行パターン間のクロストークの実験です。この程度の並行パターンは、ごく、普通のものです。回路は、ディジタル回路で、素子は、TTL です。

_クロストークの実験回路

★ 発生側(クロストークを発生させる原因となっている側)の素子は、SN74S04、受け側(発生側が原因で、クロストークの波形が生じている側)は、SN74LS04 です。発生側の素子の方が、強力ですから、同種の素子相互の場合よりも、クロストークが、大きくなっています。
★ 実験波形を、下に示します。(a)は、受け側の信号レベルがハイのとき、(b)は、受け側の信号レベルがローのときの波形です。それぞれの図において、上側の波形(A)が発生側、下側の波形(B)が受け側です。
★ 図の下に示してある数値の、xx/div の div は、波形写真の 1 目盛のことです。また、VIHVIL は、素子の入力電圧の許容限度です。
スイッチを(s1)または(s2)に切り替えることによって、受け側の信号レベル(スイッチのレベルとは逆です)を、ハイ/ローに切り替えることができます。

(a) 受け側信号レベル ハイ

_受け側信号レベル ハイ

[ A: 5V/div B: 1V/div 0.1μs/div ]


(b) 受け側信号レベル ロー

受け側信号レベル ロー

[ A: 5V/div B: 1V/div 0.1μs/div ]

★ 波形を眺めて見ましょう。(B)の波形は、クロストークが無ければ、波形は変化しないはずです。しかし、波形が変化していますから、クロストークが発生していることが分かります。図中の○印のとことでは、クロストークが大きくて、素子のスレッシホールド電圧の近くまで信号が変化しています(スレッシホールド電圧は、(a)では VIH、(b)では VIL です)。この実験では、スレッシホールド電圧を超えていませんから、誤動作は起こっていませんが、かなり危険な状態に、近いことが分かります。
★ (a)(b)とでは、(B)の波形が大きく異なります。どちらも同じ大きさの、クロストークによるノイズを受けています。それにも関わらず、波形が大きく異なるのは、ノイズを受けるところのインピーダンスが異なるからです。

ノイズを受けるところのインピーダンス
P: パワー   I: 電流   V: 電圧   Z: インピーダンス

★ 上図において、 P = V・I   V = Z・I   ですから、
     ノイズを受けるところのインピーダンス

となります。すなわち、ノイズを受けるところのインピーダンスが高いと、受けるノイズのパワーが同じであっても、ノイズ電圧が高くなるのです。
この例にように、信号線が短いときは、信号線のインピーダンスは、ドライバ (出力用の素子)のインピーダンスとみなすことができます(信号線が長いときは、信号線のインピーダンスは、信号線によって決まる値です)。
★ この、受けるノイズ電圧の大きさには、周波数特性があります。したがって、電圧レベルだけでなく、(a)(b)とでは、クロストークの波形が、異なります。(a)の方が、周波数帯域が、低い方に延びていますから、より低い周波数の信号が、クロストークされています。
★ クロストーク発生の原因は、一般には、ストレキャパシタンス、または相互インダクタンスです。
この実験におけるクロストークは、ストレキャパシタンスが原因です。これを確認するために、下記の回路による実験を行いました。信号線の間のクロストークの代わりに、 2 本の信号線を、コンデンサで結合した回路です。この回路の波形は、前記のクロストークの波形と、良く一致しています。
★ このことから、クロストークの原因は、ストレキャパシタンスであり、10 pF の結合であると、推定されます。

コンデンサで結合した回路


(a) 受け側信号レベル ハイ
受け側信号レベル ハイ


(b) 受け側信号レベル ロー
受け側信号レベル ロー

[電話ケーブルの実験]

★ 電話ケーブルの、ケーブル内のツイストペアケーブル間のクロストークの実験です。ツイストペアケーブルは、ノイズに強いことが特徴です。したがって、クロストークの発生側が、強力でないと、現象を良く確認できません。とくに強力なノイズを発生する回路を、用意しました。
★ (a)は、通常使用されているドライバで、 D1 および D2 です。
(b)は、故意に作った、強力なノイズを発生するドライバ DN です。リレーのコイルを利用したインダクタを使用しています。
(c)は、レシーバです。このレシーバは、フォトカプラと呼ばれるものですが、単にレシーバとして使用しているだけで、フォトカプラの機能をしているわけでは、ありません。したがって、フォトカプラの説明は行いません。
★ ケーブルは、電話ケーブル 0.65φ、400 m です。

_ドライバD1、D2
_ドライバDN
_レシーバ

★ (大きなノイズによる実験) 
ドライバ(b)を使用した実験です。


[両側ツイストの実験]

回路:両側ツイスト 波形:両側ツイスト

[0.1V/div、2μs/div]

★ クロストーク発生側には、振幅 6 V の方形波を入れています。これに対して、受け側は、方形波の立上がりと立下りのタイミングに細いパルスが出ています。その振幅は、0.2〜0.4 V と小さな値です。クロストークは、あるけれども、僅かだと言うことです。両側ともに、ツイストペア線を使っているために、ノイズの発生も、受け方も、共に少ないことを意味しています。


[発生側ツイスト、受け側平行線の実験]


 そこで、今度は、受け側を、平行線に変えて、ノイズを受けやすくして見ました。電話ケーブルですから、平行線は入っていません。しかし、信号の往きと、復りに、別のペア線を使うことによって、平行線として使用することができます。

回路:受け側平行線 波形:受け側平行線

★ ノイズが大きくなりました。しかし、波形は、ほぼ同じですから、著しい差では、ありません。
発生側平行線、受け側ツイストの実験も行いましたが、発生側ツイスト、受け側平行線とあまり違いませんから、写真は省略しました。


[両側平行線]

両側平行線の実験です。

回路:両側平行線 波形:両側平行線

★ 当然、最も大きなクロストークになっています。この写真では、発生側の立上り、立下り時の、ピークの値は、分かりませんが、測定した結果では、それほど著しい値では、ありません。それよりも、波形が大きく変わっており、低い周波数のクロストークが、発生していることが分かります。この現象は、プリントパターンのクロストーク実験でも見られた、現象です。


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