◆ パワー素子の制御には、ディジタルのオンオフ制御 (スイッチング)と、アナログの連続制御 とがあります(図 4.4-24)。連続とは、繋がっていて切れ目が無いことです。
素子の種類によって、オンオフ制御だけしかできないもの(たとえばサイリスタ)と、オンオフ制御/連続制御の、どちらも可能なもの(たとえばトランジスタ)とが、あります。
以下、トランジスタを例にとって説明します。
[図 4.4-24] パワー素子(トランジスタ)のオンオフ動作とアナログ動作
◆ (b)の、アナログ動作 では、トランジスタのコレクタ〜エミッタ間に電圧が掛かり、電源電圧が、トランジスタと負荷(この例では電球)との間で分圧されます。
◆ (a)の、オンオフ動作 でも、オンからオフ、オフからオンへの移行の最中は、アナログ動作と、同じ状態が存在します。しかし、オンが続いている期間は、トランジスタのコレクタ〜エミッタ間電圧は、僅かです。
逆にオフが続いている期間は、トランジスタには、電流が、ほとんど流れません。したがって、トランジスタで消費される電力(損失 )は、トランジスタがオンの期間も、オフの期間も、共に小さな値です(図 4.4-25)。
[図 4.4-25] パワー素子(トランジスタ)のオンオフ動作
◆ これに対して、アナログ動作(図 4.4-26)では、負荷に掛かる電圧 VL の大きさを変えることによって、制御を行います。残りの電圧は、トランジスタの、コレクタ〜エミッタ間電圧 VT になりますから、トランジスタでの電力損失は、大きな値になります。
[図 4.4-26] パワー素子(トランジスタ)のアナログ制御
◆ オンオフ動作であり、したがって、トランジスタの損失を、低く抑えることができ、かつアナログ動作と同等の制御を行うことができる制御方式があります。パルス幅制御 (スイッチング制御 )と呼ばれる方式です(図 4.4-27)。トランジスタは、オンとオフとを繰り返しますが、オンの時間とオフの時間との平均値が、アナログ値になる制御です。
◆ パルス幅制御では、全体に対するオン時間の割合を、デユーティ といいます。デユーティは、アナログ値です。デユーティを制御する(図 4.4.28)ことによって、オンオフ動作でありながら(図の赤)、アナログ動作と同等な制御(図の緑)が、可能です。 ただし、制御対象の遅れの大きさに対して、パルス周期 T が、十分に短いことが条件です。
◆ トランジスタが無く、電磁開閉器を使用していた時代には、スイッチングの速度を早くすることが、できませんでした。パルス幅制御は利用できませんでしたから、電気によるアナログ動作は考えられませんでした。アナログ動作には、空気圧式 や油圧式 を使用していました(図 4.4-29)。図のように、電気その他のパワーによって、物を動かす部分のことを、アクチュエータといいます(図 4.4-30)。ただし、アクチュエータは、狭義には、図のうち、運動、仕事への変換だけを言います。
◆ パワーエレクトロニクス時代の現在では、電気の高速のスイッチングが可能です。現在でも、特殊な用途には、空気圧式や油圧式が使用されています。しかし、多くは、電気式になっています。電気式のアクチュエータは、モータを使用しています(コラム 4.4-2)。
◆ パワー素子も、定格内で使用しなければなりません。また、安全動作領域 がありますから、この安全動作領域内で使用する必要があります(図 4.4-31)。安全動作領域は、各種の最大定格による制限で囲まれた領域です。また、最大定格による制限のほかに、降伏 による制限が加わっています。ダイオードの降伏については、すでに述べましたが、トランジスタにも、降伏現象(図の(3))があります。
◆ 安全動作領域の範囲は、素子の周囲温度や、放熱条件によって、変化します。条件によって、定格を下げて使用することを、ディレーティング といいます。放熱器を使用する場合は、放熱器の大きさによって、ディレーティングの程度が変わります(図 4.4-32)。
[図 4.4-32] 放熱器によるディレーティングの 1 例
◆ パワー素子で、最も問題になるのは、素子自体の、損失です。損失は、全て熱になりますから、素子自体の温度を上昇させます。半導体素子は、高温に弱いので、素子の温度上昇は、素子の破壊につながります。
また、周囲の素子の温度を上げますから、部品配置の問題にも関係してきます。
◆ パワー素子は、自身の形状も、放熱 しやすいようなっています(図 4.4-33)。
◆ さらに、必要に応じて、放熱器 を使用します(図 4.4-34)。
熱の伝導については、概念的なことを、コラム 3.1-2 に示しました。放熱器を含む、具体的な熱伝導については、コラム 4.4-3 を参照して下さい。
★ アクチュエータは、アクチュエートするものの意味ですが、アクチュエートは、機械などを動かす、始動させる ということです。
★ アクチュエータ には、電気式 、空気圧式 および油圧式 があります。
★ 油圧式は、操作力が大きいので、大形のものは、多くが油圧式です(下左)。
★ 建設機械 や農業機械 は、車両に搭載されたものが多いので、これも、油圧式が多くなっています(上右)。 油圧式は、小さな力で大きな力を出すことができます(パスカルの原理 )。
★ 電気のモータは、全ての機種が、アクチュエータになり得ますが、とくにアクチュエータに向いているのは、リニアモータとパルスモータです。
一般のモータは、回転運動です。しかし、アクチュエータは、直線運動が必要な場合があります。リニアモータ は、直線運動のモータです。
★ リニアモータといえば、思い浮かべるのは、リニアモータカー です。
★ パルスモータ は、ステッピングモータ ともいいます。モータの回転角度が、モータに加えるパルス数に比例するモータです。
★ 熱の問題は、電気よりも、さらにわかり難い現象です。熱の問題は、電気と対比すると、若干分かりやすくなります。
★ 熱が伝わることが伝熱 (熱伝導)です。この伝熱の方法には、3 種類あります。
★ 伝導伝熱 は、熱が物体を伝わることによる、伝熱です。固体内部の伝熱は、ほとんどが、伝導伝熱です。
★ 放熱器は、パワー素子と放熱器間、および放熱器内部では、伝熱伝導によって、熱を伝えます。放熱器から外部への放熱は、次に述べる対流伝熱と放射伝熱です。
★ 対流伝熱 は、気体または液体における伝熱です。気体および液体でも、伝導伝熱によって、熱が伝わります。しかし、伝導伝熱によるものは僅かであり、対流伝熱が主体です。対流伝熱は、気体または液体の分子の移動によって、熱も分子とともに移動する伝熱です。対流伝熱には、自然対流と、強制対流とがあります。
自然対流 は、加熱によって自然に発生する対流です。強制対流 は、攪拌にによって、水が混じり合うのに伴って、熱も移動する現象です。
★ 下図は水における、自然対流です。動画もあります(動画はブラウザの「戻る」で戻ってください)。
(1) 熱源で暖められると、水は比重が小さくなり、上昇します。上昇した水が、水面に達すると、層になって、広がります。
(2) 上昇した水の後に、周囲の水が引き寄せられます。
(3) その結果として、上記の層になって広がった水は、層になったまま、下方に移動します。
(4) 下方に移動した層が、熱源の高さまで下がると、熱源の方に引きよれられます。
以上を、繰り返すことによって、対流が継続します。
★ 放射伝熱 (輻射伝熱 )は、放射によって熱が伝わります。私達が住んでいる地球(地表と地表付近の空気層)が温暖なのは、太陽光の放射のおかげです。
★ 放射 (輻射)は、電磁波 (下図)が伝わることです。放射による熱は、主に、赤外線 によって伝わります。赤外線は、図に示すように、近赤外線 、中間赤外線 、遠赤外線 、超遠赤外線 に分けられます。このうち、遠赤外線が、最も暖かく感じます。
★ 遠赤外線を利用した、輻射暖房は、快適で、省エネにもなります。床暖房は、遠赤外線を利用した暖房です。ストーブも、遠赤外線を主体にしたものがあります。パネルヒーターは、輻射と対流を併用した暖房器具です。
★ 輻射暖房とエアコンを比較した例を示します。
★ 調理にも、遠赤外線の放射が、利用されています。
★ 紫外線 は、化学的な作用があることから、化学線 とも呼ばれています。紫外線は、その波長によって、さらに、 3 つに分けられます。
★ 紫外線の UV-C は、図では、地上には、ほとんど到達しない となっています。しかし、最近の大気汚染の影響で、オゾン層が、破壊され始めています。
★ さて、電子回路は、通常、ケースに入っています。電子回路による発熱が、ケース内に、こもると、回路の周囲温度が上昇します。これを押さえるためには、ケースの放熱を良くしなければ、なりません。このためには、通風の経路を確保することが重要です。
★ 自然対流で不充分なときは、ファンによる強制通風を行います。下図は、強制通風が必要かどうかの、判定基準です。
★ 強制通風を必要とする場合の、ファンの風量は、下図によって求めます。通常は、求めた風量の 2 倍以上の風量を有するファンを選定します。
★ データまたは電力を送る場合、その、送り側(信号源)と受け側(負荷)とが、あります。データを送るときでも、そうですが、とくに電力を送る場合には、その効率が問題になります。効率良く受け渡しすることが、望まれます。
なんとなく、常識的に考えると、信号源側で電力を消費するのは、損なように、感じますが、そうでは、ありません。
★ インピーダンスマッチングを取ることによって、最も効率の高い、受け渡しが可能です。インピーダンスマッチング (インピーダンス整合 )は、インピーダンスが抵抗で、電流が直流のときが、分かりやすいので、インピーダンスが抵抗で、電流が直流の場合を、考えます。下図左が回路で、電圧 : V = 10V、信号源抵抗 : Rs = 50Ω、負荷抵抗 RL です。下図右は、負荷抵抗 RL を変化させたとき、負荷抵抗 RL で消費する電力です。
★ 負荷抵抗 RL が、信号源抵抗 Rs と等しいときに、負荷抵抗で、取り出すことができる、電力が、最大であることが、分かります。すなわち、インピーダンスマッチングは、信号源インピーダンスと、負荷インピーダンスが等しいときに、成立します。