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ここでは、AC 電源の質について、取り上げます。AC 電源の質の第 1 は、停電 の問題です。停電といえば、03 年 8 月 14 日に、起こった、アメリカの大停電のことを、覚えている人も多いと思います。6 千万 kW / 6 千万人に及ぶ停電でした。日本では、このような事故は、あり得ないと、いわれていますが、絶無と言い切ることは、できないと思われます。
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広義の停電には、図 6.3-23 に示す、種類があります。
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図で、雷サージ は、停電ではありませんが、雷サージが原因で、電圧降下や、瞬間停電、場合よっては、長時間の停電も、引き起こします。また、図に記載されている問題も、あります。
商用電源の停電に対する対策には、いろいろなレベルがあります(図 6.3-24)。
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図は、停電の継続時間に対して、どこまで対応するかの、対策の違いを示したものです。病院の手術室や、重要な公共施設では、長時間の停電に対する対応が、必要です。
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長時間の停電は別として、短時間の AC 電源の問題に、電圧降下 (電圧デイップ )、電圧変動 と瞬間停電 (瞬停 )があります(図 6.3-25)。停電対策が必要な場合であっても、多くは、上図の UPS による対応で、十分です。
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図のうち、最も激しいのは、瞬間停電です。瞬間停電は、とくに、パソコンなどの、ハードディスク (HDD )を使用している機器で、問題になります。瞬間停電は、一般の照明や動力では、ほとんど、問題になりません。
瞬間停電に対する、対策が取られていれば、瞬間停電と同程度の継続時間の電圧デイップ、電圧変動に対しても、対応できます。
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瞬間停電に対する対策は、UPS (無停電電源装置 )を使うことです。無停電電源装置というと、大げさに聞こえますが、UPS は、バッテリによって、短時間(通常 5 分程度まで)の停電をバックアップする装置です。瞬間停電が発生したときは、常時使用している商用電源を、UPS に、自動的に切り替えます。
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UPS は、瞬停と同程度の時間に対する電圧デイップ/電圧変動にも、有効です。しかし、長時間停電に対しては、システムを安全に停止させるための、時間稼ぎの役割を果たすのに過ぎません。
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UPS が動作したときの、使用可能な継続時間は、仕様上は、標準で 10 分程度です。しかし、長期利用による、バッテリの性能低下を考慮すると、5 分と考えた方が良いでしょう。標準よりも、大容量の USP を使えば、使用可能時間は、延びます。
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UPS の給電方式には、3 つの方式があります(図 6.3-26 )。図で、インバータ は、直流→交流の変換機です。インバータは、元々反転させるという意味です。ディジタル IC のインバータは、ハイをローに、ローをハイに反転させます。しかし、直流と交流との反転のときは、インバータは、直流→交流の意味に限定されています。交流→直流は、整流です。
◆ UPS の出力波形は、正弦波と、矩形波の 2 通りがあります(図 6.3-27)。とくに波形を問題にする以外の用途に対しては、矩形波で十分です。
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AC 電源の、もう 1 つの問題に、高調波 があります。
最近は、DC 電源装置に、スイッチングレギュレータが、多く用いられています。また、各種の電気機器の制御には、インバータが、多用されています。この両者に共通することは、AC 電源を、整流しているということです。
整流しただけでは脈流がありますから、これを平滑にします(図 6.3-28)。
◆ この整流/平滑の方式には、各種ありますが、簡便なので、多く使用されているのが、コンデンサ入力方式 (コンデンサインプット方式 )です(図 6.3-29)。図の(a)に示すように、整流回路の入力が、コンデンサになっています。コンデンサ入力方式整流の、電流波形は、図の(b)に示すように、正弦波形から、大きく隔たっています。ということは、多くの高調波を、含んでいるということです。この高調波を、多く含んでいるということが、問題なのです。
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さて、ここで、力率という概念を導入します。AC(交流)には、位相があります。そして、交流は、ベクトルで表すことができます。たとえば、コンデンサでは、電流は電圧に対して、90°進み、インダクタでは、90°遅れます。この現象は、ベクトルを使用すると、分かりやすく表せます。
電力は、電流と電圧の積ですが、交流では、ベクトルの積であり、電力もベクトルです(図 6.3-30)。電力のベクトルを皮相電力 といい、その実数部を有効電力 、虚数部を無効電力 といいます。実際に仕事をするのは、有効電力であり、無効電力は仕事に関与しないので、この名が付けられたのです。図の、有効電力と、皮相電力とのなす角を、θ とすれば、cos(θ) のことを、力率 といいます。皮相電力に力率を掛ければ、有効電力の大きさが、得られます。
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力率が低いと、無駄な電流が多く流れます。この無駄な電流は、送電線や配電線を流れ、その線路の抵抗によって、熱になり、損失となります。高調波が多いということは、力率を低下させます。すなわち、高調波は、有害なのです。
代表的な機器の力率の値を示します(図 6.3-31)。
機 器 | 力 率 |
カラーテレビ | 0.64 |
ビデオ | 0.55 |
パソコン | 0.62 |
コピー機 | 0.58 |
エアコン | 0.66 |
ノートパソコンアダプタ | 0.40 |
モデム | 0.40 |
スイッチング電源 | 0.60 |
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機器の力率が 1 で無いことによる損失は、個々の、一つ一つの機器については、小さいのですが、全体としては、膨大な量になります。家電・OA 製品の内で、力率の悪いものが、すべて、力率 0.9 程度に、改善されるとすれば、現在の家庭の平均力率 0.75 は、0.9 程度に向上します。
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これは、20 % の向上ですから、日本全国に普及した場合、95 億 KWh、すなわち、原油 251.8 万キロリットルの、節約となリます。これは、原発1基分の発電量です。力率向上の、効果が、大きいことが、分かります。
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もう 1 つ問題になるのが、モータなどの、力率です。モータにはコイルがあり、コイルはインダクタンスです。インダクタンスは、90 °の遅れです。モータには、抵抗成分もありますが、インダクタンスが支配的ですから、力率は、低い値です。
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モータの場合には、進相コンデンサ を追加することによって、モータのインダクタンスを打ち消し、力率を改善することができます(図 6.3-32)。
[図 6.3-32] モータの力率改善にコンデンサを使用する
◆ ある工場における、進相コンデンサによる力率の改善例を、図 6.3-33 に示します。図で、kVA があります。この VA (ボルトアンペア) は、電圧 V と電流 A の積です。電力は、この VA に力率を掛けたものになります。
◆ 実際に機器で消費するのは電力ですが、途中の線路の太さを決めたり、線路での損失を考えるときには、電流の大きさが、効いてきます。このことから、電力の代わりに、VA を使用することが、多いのです。
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