◆ 電子回路は、ほとんどがプリント基板に登載されます。この意味では、プリント基板のノイズ対策は、ノイズ対策の中心です。
プリント基板内の回路は、大きく3つに分けられます(図.1)。
◆ 主信号回路は、実際の回路動作を実行する部分であり、主役の部分です。回路の用途、種類によって、主信号回路は、さらに幾つかの部分に分けられる場合があります。
インターフェース回路は、プリント基板外部との信号のやり取り(インターフェース)を行うための回路です。インターフェース回路は、ノイズ対策の立場としては、プリント基板外部からのノイズを基板内に持ち込まない、内部のノイズをプリント基板外に持ち出さない、という両方の役割を果たします。
◆ 電源/グラウンド回路は、信号回路、インターフェース回路に電源を供給します。グラウンドは、不平衡回路の信号の戻り線の役割もを持っています。本来、電源とグラウンドは、安定した電位を保たなければ、ならない部分です。しかし実際には、電源およびグラウンドは、それぞれが、共通インピーダンスを作るので、ノイズ対策上は、問題が多い部分です。
◆ ノイズ対策の立場からも、回路を、その用途、機能によって区分して、基板内に配置するすることが、必要です。
本来は、ノイズの加害性が高い回路と、ノイズに弱い回路とは、別基板に置くことが望ましいのです。しかし、回路規模が小さいものは、経済的な観点から、他の基板に同居させることになります。
ノイズの加害性が高い回路と、ノイズに弱い回路とは、できるだけ離して配置します。
ノイズが大きい信号線は、できるだけ引き回さないように、短く配線します。加害性が高い配線は、ノイズに弱い回路の傍を通らないようにします。平行、密接して配線すると、クロストークが大きくなります。
◆ 配線の引き回しは、部品の配置に支配されます。上記の配線の原則を実現するためには、まず、部品の配置が重要です。
図.2は、基板内配置の一例です。この基板は、多数の基板が、マザーボードを介して、信号のやり取りをしている基板の中の 1 枚です(基板内のブロックは、概念的な配置であり、寸法比例ではありません)。
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マザーボードには、基板間のデータのやり取りをする、バスが通っています。この基板は、ディジタル回路が主体で、小規模なアナログ回路が同居しています。
ディジタル回路は、マザーボード側インターフェース回路を介して他の基板とインターフェースします。また外部とも、ディジタルインターフェースを介してインターフェースしています。
アナログ回路は、外部とアナログ信号のやり取りをしています。図示されていませんが、アナログ回路の部分には、A(アナログ)〜D(ディジタル)変換器が入っています(20.(1)、21.(1)参照)。
アナログ回路は、ディジタルインターフェース回路とのノイズ干渉を避けるため、できるだけ離して配置します。
◆ アナログ回路の電源は、ディジタル回路用とは、完全に別であることが望ましいのです。しかし、アナログ回路の電源電圧が、デイジタル回路の電源電圧と同じ場合には、アナログ回路が、とくにノイズに弱い場合を除き、ディジタル回路用の電源の一部を利用することも多くなっています。この場合、アナログ電源の入り口にフィルタを置き、ディジタル回路からのノイズを防ぎます。
グラウンドは、ディジタル部とアナログ部を、1 点で結びます。このとき、アナログとディジタルとの、連結部分のパターンを、ジグザグに引き回すことによって、若干のインピーダンスを持たせることがあります。このインピーダンスは、アナログ部と、ディジタル部とを分離させる効果が、多少あります。
◆ 基板の入り口には、必ずパスコンを設けます。図.2の、ディジタル電源回路の位置に置きます。基板入り口のパスコンは、パスコン本来の目的である、基板内電源のインピーダンスを低くすることと共に、基板外からのノイズをフィルタする効果もあります。
この目的を強化するために、インダクタを挿入して、パスコンとで、LCフィルタを作ることがあります(図.3)。
◆ 通常のインダクタは、直流を重畳させると、この直流成分のために、インダクタンスが大幅に低下してしまいます。この電源用のインダクタには、大きな直流電流が流れます。これに適合したインダクタを使用する必要があります。電源の基板入り口に設けるインダクタには、トロイダル形インダクタ が、多く使用されます(図.4)。
◆ パスコンは、2段構成で使用します(11.(2-B)参照)。パスコンは、広い周波数帯域に対応するために、低い周波数に対応するコンデンサと、高い周波数に対応するコンデンサとが必要です。
基板入り口のコンデンサは、低周波用です。基板に流す電流値などにもよりますが、数十μF 程度の、アルミ電解コンデンサ等を使用します。
高周波用のパスコンは、IC 等のすぐ傍に挿入します。0.01μF程度のセラミックコンデンサが多く使用されます。理想的には、IC 等 1 個につきパスコン 1 個を設けますが、小電流の IC 等は、IC 2〜3 個について、パスコン 1 つの割合で設置します。
◆ この2 段目のパスコンは、IC 等のすぐ傍に置く必要があります。離すと、その間の配線のインダクタンスのために、パスコンの効果が減殺されます(11.(2-B)参照)。図.5は、このことを確認する実験です。
◆ (a)はパスコンとIC の電源ピンとの距離が10cm、(b)は3cmです。距離が異なるだけで、その他の条件は同じです。パスコンを、IC から離して配置すると、パスコンが効かなくなることが分かります。
IC は、ディジタルIC(インバータ)です。(A) は IC の動作波形で、この動作に伴なって IC の電源電流が変化します。(B)-(C) が、電源グラウンド間の波形で、(A) が変化するときに、電源にノイズが発生していることが分かります。
◆ 図.6は、一見近くにあっても、実際の距離は離れている悪い例です。パスコンの効果があるようにするためには、電源とグラウンド パターンの、引き回しが重要です。
◆ 以上、パスコンの効果は大きいのですが、だからといって、配線のインピーダンスを、おろそかにすることはできません。できるだけ太いパターンを使用する必要があります(図.7)。
◆ パターンの影響を分かりやすく示すために、IC の傍のパスコンは、入れてありません。基板入り口のパスコンだけです。(a) は、パスコンから IC まで、細くて長いパターン(インピーダンス:高)を引いたとき、(b) は太くて短いパターン (インピーダンス:低 ) です。
共に、波形が振動しています。この振動の原因は、リンギングです。リンギングの周期は、(a)の方が長くなっています(6.(2-B-c)参照)。リンギングの周期は、配線の長さに比例します。
細くて長いパターンの方が振幅が大きくなっています。写真なので細い線が見難く、うっかりすると見落としますが、細くて長いパターンの方は、リンギングの最初の立ち上がりが、上部の A の波形を突き抜けて伸びています ( リンギング波形のうち、ウの波形の上部、↓のところです)。実際にはアの波形も同じでなのですが、写真では分かりません(オッシロの波形写真では、肉眼では観測される、細いパルスが見えないことがあります)。
◆ リンギング波形のうち、イは、波形(A)の立ち上がりに対応します。アとウは、立下りに対応しています。ア、ウとイで、リンギングの振幅が異なります。これは、使用した IC の特性が、ハイとローとで非対称だからです。一般に、IC は、ハイよりも、ローの方が、電流駆動能力が大きいものが多いのです。この IC も、そうです。
低周波のアナログ回路では、1点アースが有効です。高周波では、ベタアースにします。このとき、グラウンドだけでなく、電源についても同様な配線が、ベターです(9.(3-B)参照)。
ディジタル回路でも、同じ主旨から、空き地をベタパターンで埋めることが有効です(9.(3-C-b)参照)。
◆ 多層基板では、電源とグラウンドが、それぞれ、ベタパターンになっています。ベタパターンは、線状のパターンに比べてインピーダンスが低くなります。また、ベタパターンが、信号配線層をシールドする役割を果たします。このような理由から、多層基板は、ノイズ対策の上でも有用です。
◆ 信号配線は、短くすることが、第 1 原則です。このためには、配線以前の問題として、部品の配置が重要です。
基板内配線は、多くが不平衡です。したがって、単に信号線だけでなく、信号の戻り線であるグラウンドを含めた、回路としての、線の引き回しを考える必要があります。信号線とグラウンドとで作る回路が、面積の大きいループになることは、避けなければ、なりません(12.(3)参照)。
ノイズに弱い信号線と、加害性の高い信号線とを、近接、平行して走らせることは、クロストークの影響が大きいので、避ける必要があります。近接、平行して走らせることが避けられない場合には、間にグラウンド線を挿入することが有効です(7.(2-C))。
◆ また、インピーダンスが高いところは、低いところよりもノイズに弱いのです(1,(3-E-b)参照)。インピーダンスが高い部分の配線は最短になるようにします。インピーダンスが低いところを延ばします。このために必要なら、バッファを入れます(ディジタル回路は14.(3-A)、アナログ回路は15.(3-D)参照)。
信号線のインピーダンスは、長距離配線では、信号線の特性インピーダンスとなります。しかし、配線が短い場合には、配線の両端のうち、どちらか低いほうのインピーダンスによって支配され、配線全体を、その低い方のインピーダンスと、みなすことができます。
◆ 信号線の1端はドライバ、他端はレシーバであることが多いのです。通常、ドライバの出力インピーダンスは低く、レシーバの入力インピーダンスは高いので、信号線が短い場合には、信号線は、ドライバのインピーダンス、すなわち、ローインピーダンスと見なすことができます(図.8)。
◆ しかし、ドライバとレシーバとの間にハイインピーダンスの素子が入ると、その素子とレシーバとの間の配線はハイインピーダンスになります。
ハイインピーダンスの部分を最短にし、ローインピーダンスの部分で長く延ばすようにします(図.9)。
◆ 図に示した例では、レシーバは、反転増幅器です。オペアンプの、入力インピーダンスは、高いので、抵抗 RS と RF との間(B)は、ハイインピーダンスです。したがって、この部分を最短にしなければ、なりません。(A)の部分で延ばします。
◆ 基板内配線で、もう一つ注意しなければならないのが、反射によるリンギングです。通常のドライバとレシーバとに挟まれた信号線は、ちょうどリンギング発生の条件を満たします。
しかし従来は、基板内のリンギングは、あまり問題になりませんでした。リンギングは発生していたのですが、通常の寸法の基板では、信号の周波数に比べて、リンギングの周波数が遥かに高かったので、問題が起こらなかったのです(長さ20cmのパターンで250MHz)。
IC のファミリは、信号の周波数に応じて選定します。動作周波数が遅い IC は、自分の動作周波数よりも高い周波数の信号を通過させることができません。IC がフィルタの役割を果たしますから、高周波のリンギングがあっても、問題は起こりません。
◆ しかし、最近では信号の周波数が高くなったために、基板内においても、信号とリンギングの周波数が接近し、問題になっています。
また、高周波のノイズは、単に信号線を伝わるだけでなく、信号線からの放射によって、ノイズを撒き散らします。したがって、リンギングを発生させたままで、レシーバのところでリンギングをフィルターしただけでは駄目です。リンギングそのものを無くす必要があります。
◆ リンギングを防止する方法は、いくつかあります。信号の周波数が高いときは、信号の立ち上がりを遅くする方法(6.(3))では、信号自体の鈍りが問題になります。この方法を、利用することはできません。
ドライバ側を終端する方式が実用的です(6(2-B-e))(図.10(a))。ドライバ側が、適正に終端されれば、リンギングは、発生しません。レシーバ側を適正に終端しても、リンギングは発生しません。しかし、レシーバ側を終端すると、電流が流れるので、パワーを消費します。省エネの立場から、ドライバ側終端が優れています。
◆ レシーバ側にフィルタを入れれば、レシーバでは、リンギングを消すことができます。しかし、信号線上の、リンギングを無くすことはできません。
図の(b)のように、ドライバ側に、終端抵抗の代わりにフィルタを置く方法も、考えられます。信号線上のフィルタには、通常、フェライトビーズが使用されます(図.11)。
◆ フェライトビーズ は、円筒形のフェライト(磁性材料)製品で、中心に配線を通すことによって、インダクタを形成します。
ただし、手作業で配線を通すことは面倒なので、線を通してインダクタに作り上げた製品があります。また単体ではなく、多数をまとめてパッケージにした製品もあります。
理想的なインダクタは、純粋のインダクタンスであり、損失はありません。現実のインダクタには、損失があります。損失は、小さいほど、良いインダクタです。インダクタの品質を表わす指標として、"Q" があります。Q が大きいほど損失が小さく、損失がゼロのとき、Qは無限大です。
◆ しかし、ノイズ フィルタでは、適切な損失があることが望ましいのです。とくに、リンギング防止用のインダクタは、損失が大きくないと効果がありません。
図.12は、損失ゼロの理想インダクタを、両端における反射が100%の配線で使用したときの、リンギング波形です。この波形は、シミュレーションによる波形です。シミュレーションですから、真に損失ゼロの状態を作ることができます。
◆ 図から分かるように、インダクタンス(L)の大きさによって、リンギングの波形と周波数は変化しますが、リンギングは減衰しません。リンギングは、信号が配線中を何回も往復することによって発生します。インダクタンスは、この往復する信号の周波数を制限します。しかし純粋のインダクタンスは、信号のエネルギーを消費しませんから、リンギングは減衰することなく持続します。
リンギングを無くすためには、エネルギーの損失が必要です。すなわち、フィルタは、損失を持っていなければなりません。
◆ フェライトビーズには、損失を故意に持たせた製品があります。フェライトビーズの損失は、単純な抵抗ではなく、損失の大きさが周波数特性を持っています。
リンギングの周波数に対応して、適切な特性(インダクタンスの値と損失の大きさ)のフェライトビーズを選ぶことによって、信号の波形を鈍らせることなく、リンギングを抑えることができます。
◆ 通常、リンギング防止用フェライトビーズ製品のシリーズの中から、トライアルによって適切なものを選定します。
図.13 は、フェライトビーズの使用例です。この例は、基板内のパターンではなく、インターフェースに接続している例ですが、定性的には同じような波形となります。
◆ 図の (a) は、フェライトビーズ無し、以下 (b)、(c)、(d) と順にフェライトビーズのインダクタンスを増加させた波形です。
(b) は、リンギングが若干残っています。(d) では、サグが観測されます。サグは、図に見られるように、水平であるべきところが下がり、その反動で立下りの後にピークが現れます。サグは、インダクタンスの値が大きすぎるときに現れる現象です。
◆ (c) が最適のように思われます。しかし、ディジタル信号の場合には、むしろ (d) の方が優れています。ディジタル信号では、(d) の波形でも、誤動作には繋がりません。そして、(c) に比べると、信号の高周波成分が、より少なくなっています。その結果として、信号線からの放射ノイズが減少します(図.14)。
★ 電子回路の、ほとんどは、プリント基板 (プリント配線基板 )に実装されています。ここで、プリント基板の製造について、眺めて見ましょう。プリント基板にも、いろいろなものが、ありますが、一例を示します。上は部品実装後、下は部品実装前です(同じ基板では ありません)。
★ プリント基板の、製造工程は、下図のとおりです(手作業の場合)。
★ 上の図は手作業ですが、プリント基板の設計・製造は、ほとんどが、CAD(コンピュータによる設計) により自動化されています(下図)。図で Gerber ファイルというのは、CAD のデータ(穴の位置、大きさ、線の太さ など) を所定の形式で収容したファイルです。
★ でき上がった基板には、部品を実装します。下図は部品実装の工程です。
★ 下記に部品の実装方法を示します。現在では、実装する部品は、表面実装部品が ほとんどですが、一部に、挿入実装部品がある場合には、その工程が追加されます。