ノイズ対策技術

4. 平   衡

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4.(1) 平衡とは

◆ ノイズに強くするための重要な性質に、平衡があります。
信号を伝えるためには、往きと復りの2本の信号線が必要です(2(1))。
信号を処理するために、信号線の途中に、回路素子を挿入して、回路を構成します。この回路も、信号が回って元に戻るように構成されていなければなりません。
◆ この、信号線および回路素子からなる、回路が、往きと復りとで、あらゆる意味で対等になっているとき、これを平衡 であるといいます(図 1)。

[図.1] 平衡とは

平衡とは<

◆ そして、平衡な回路が、平衡回路 で対等でない個所があるとき、不平衡 と呼び、不平衡な回路が、不平衡回路 です。
平衡/不平衡は、アナログ的な概念です。すなわち、平衡な程度、平衡度 が存在します。完全な平衡は世の中に存在しません。完全に平衡であるためには、往きと復りとが、物理的に同じ場所を通っていなければなりません。これは、不可能です。
◆ 実用上十分に平衡と、見なすことができるとき、これを、平衡であると言います。実用上平衡度が不足していると、考えられるときが、不平衡です。
◆ 電子回路における一般的な信号線は、信号の戻り線が共通のグラウンド線になっています。往きが独立、復りが共通ですから、不平衡です。
信号線が平衡であるためには、少なくとも、往きと復りの 2 本線の構成になっていることが、必要です。
◆ 平衡、不平衡を、具体例で示しましょう。図 2 (a) に示す通常のRCフィルタは、往きに、抵抗が入っていますが、復りには、抵抗がありません。これは不平衡です。図の (b) は、往きと復りが対等ですから、平衡なフィルタです。

[図.2] フィルタの平衡と不平衡

フィルタの平衡と不平衡

◆ ノイズ対策用のフィルタは、ノイズと信号の周波数帯域が接近している場合には、シャープな特性を持ち、かつ精度も高いことが必要です。しかし、一般のノイズ対策用フィルタでは、シャープな特性は不要で、特性値も正確である必要はありません。
ただし、フィルタを挿入する場所が、高い平衡度を要求しているときは、平衡度を高くするために、往きと復りの抵抗値が、揃っていなければなりません。

[注]  同じ理由によって、2.(7-A)に示したコモンモード除去用のフィルタも、コモンモード除去率を高くするためには、高い平衡度が要求されます。

4.(2) 平衡の特性

◆ 平衡であると、どのような効果が、あるのでしょうか。

4.(2-A) 外来ノイズはコモンモードになる

◆ 平衡な信号線に、外部から、ノイズが加わったとします。平衡、すなわち 2 本の線は対等ですから、2本の線に等しい値のノイズが乗ります(図 3)。これは、コモンモードノイズです。

[図.3] 外来ノイズ

外来ノイズ

◆ 不平衡な信号線に、外部からノイズが加わると、不平衡の程度に応じて、乗ったノイズの大きさが異なるはずです。すなわち、コモンモードノイズだけでなく、ノーマルモードノイズも載ります。ノーマルモードノイズは、コモンモードノイズよりも、性質が良くありませんから、平衡であることは、良いこととです(2.(4-B)参照)。
平衡度は、その目的用途によって定義すれば良く、特定の定義はありません。しかし、一般には、平衡度は、次のように、定義すればよいでしょう。
外部からノイズを受けたとき、乗ったノイズのうち、ノーマルモード分を EN、コモンモード分を EC とすれば、
    平衡度 = EC / (EC + EN)
とします。

4.(2-B) コモンモードは、コモンモードのまま伝わる

◆ コモンモード信号は、平衡回路の中をコモンモードのままで伝わります(図.4図.5)。

[図.4] 平衡ならコモンモードのまま伝わる(直列回路)

コモンモードのまま伝わる(直列回路)

平衡であれば、インピーダンスは Z1 = Z2 ですから、インピーダンスによる電圧降下は等しく、
     V3 = V4
となります。すなわち、コモンモードのままです。
◆ しかし不平衡だと、Z1≠Z2 ですから、インピーダンスによる電圧降下の値が異なり、
     V3 ≠ V4
になります。この、差の分が、ノーマルモードに化けた分です。

[図.5] 平衡ならコモンモードのまま伝わる(並列回路)

コモンモードのまま伝わる(並列回路)

◆ 平衡であれば、インピーダンスは Z3 = Z4 ですから、
     V3 = V4
です。すなわち、コモンモードにままです。しかし不平衡だと、Z3 ≠ Z4 ですから、
     V3 ≠ V4
となります。一部分が、ノーマルモードに化けます。
不平衡のときは、コモンモードがノーマルモードに化けます。コモンモードがノーマルモードに化けることは、望ましくありません(2.(4-B)参照)。

4.(3) 平衡ケーブル

4.(3-A) 平行ケーブルとツイストペアケーブル

◆ 平衡なケーブル(信号線)とは、どのようなケーブルでしょうか。
2本の線が、離れたところにあれば、平衡ではありません。2本の線が完全に同じ場所を走っていれば、平衡です。しかし、これは物理的に不可能です。
平衡度を高くするためには、2本を密着させて平行に走らせます。これを平行ケーブル といいます。平行ケーブルは、かなり平衡度が高いのですが、十分ではありません。さらに、平衡度の高いケーブルがあります。
◆ 実用上最も平衡度が高いのは、2本の線を互いに撚り合わせた、ツイストペアケーブル です(図 6)。ツイストペアケーブルの、2本の線は、完全に同じ場所ではありませんが、平均値は同じ場所になります。

[図.6] ツイストペアケーブルと平行ケーブル

ツイストペアケーブル

ツイストペアケーブル

◆ ツイストペアケーブルと平行ケーブルの平衡度を、外部から受けるノイズを例として、比較してみます(図 7)。図で、緑色線が、外部から加わる磁力線です。この磁力線によって、電圧が橙色線の向きに発生します。

[図.7] ツイストペアケーブルが受けるノイズ

ツイストペアケーブルが受ける電磁誘導ノイズ

◆ この電圧は、ツイストペア線では、各々の線毎に、互いに打ち消す方向です。したがって全体としては、電圧(ノイズ)は発生しません。これに対して、平行線では、電圧は各線で、互いに加算されてノイズになります。
◆ 次に、ケーブルが外部に出すノイズを調べて見ましょう(図 8)。

[図.8] ツイストペアケーブルが出すノイズ

ツイストペアケーブルが出す電磁誘導

◆ ケーブルに流れる電流は、図の橙色線のようになります。これによって、図の緑色線のように磁力線が発生します。
ツイストペアケーブルの場合には、合い隣るツイストで発する磁力線は、互いに打ち消す方向です。したがって、ケーブルのすぐ近傍を除いては、外部に出すノイズは、無視できる大きさです。これに対して、平行線では、磁力線が互いに加算されますから、遠方まで影響を及ぼします。
◆ 以上のように、ツイストペアケーブルは、ノイズに関して、被害者として強いだけでなく、加害者にならないという、両面で優れています。
この加害者にならないということも、平衡ケーブルの特徴です。
◆ ツイストペアケーブルは、入手できるケーブルのうちで、最も平衡度が高いので、平衡ケーブル の名で呼ばれています。

4.(3-B) 同軸ケーブル

◆ 同軸ケーブル は、高周波用のケーブルです。その構造を、図 9に示します。

[図.9] 同軸ケーブル

同軸ケーブル

◆ 同軸ケーブルは、内部導体と外部導体の軸が一致しています。すなわち平均の位置が同じです。この意味では、平衡です。しかし内部導体と外部導体の形や断面積が異なります。したがって、平衡では、ありません。
◆ ただし平均の位置が同じですから、部分的には、平衡の特性を持っています。結果だけ示しますが、低い周波数(大凡 kHz のオーダー以下)では、不平衡と、みなさなければなりませんが、それよりも高い周波数では、平衡の性質を持っています。
◆ 同軸ケーブルは高周波に使用しますから、信号の周波数帯域では平衡です。しかし、低周波の、たとえば商用電源周波数に対しては不平衡です。したがって、同軸ケーブルには、商用電源周波数のノーマルモードノイズが、乗ってきます。

[注]  上記のノーマルモードの、商用周波数ノイズは、トランスを使用することによって除去することができます。トランスは、原理的には、ノーマルモードを通し、コモンモードを阻止します。
しかし、高周波用のトランスでは、低周波の信号を、ノーマルモードであっても通しません。(19.(3-B)参照)。

4.(3-C) プリントパターン

◆ プリント基板上の信号線は、ツイストペア線に対応する平衡度を持つものは、ありません。
プリントパターンで、できるだけ高い平衡度を持たせたいときは、信号の往きと復りのパターンを並べて走らせることによって、平行ケーブル並のものを作ることができます。
◆ また、プリントパターンでは、真の同軸ケーブルを作ることはできませんが、同軸ケーブルの代用になるパターンを作ることができます。これを、マイクロストリップライン (図.10)といいます。

[図.10] マイクロストリップライン

マイクロストリップライン

◆ 図のグラウンドプレーン とは、グラウンドを平面状にしたパターンです。グラウンドプレーンは、通常は、プリント基板、一杯の大きさです。少なくとも、信号線のパターンに対して、十分に大きな面積を持っている必要があります。グラウンドプレーンは、ベタアアース とも呼ばれています。
マイクロストリップラインは、グラウンドプレーンと対をなす、信号線パターンです。したがって、マイクロストリップラインの、信号の戻りはグラウンドです。
◆ 同軸ケーブルの外側導体は、グラウンドではありません。同軸ケーブルの外側導体は、グラウンドから浮かして使うことができます。
すなわち、マイクロストリップラインは、同軸ケーブルの代わりに使用できるのであって、同軸ケーブルと同等なのではありません。同軸ケーブルは、高周波では、平衡の性質を持ちますが、マイクロストリップラインは、平衡では、あり得ません。
◆ なにが、同軸ケーブルと同等なのかと言うと、マイクロストリップラインは、その特性インピーダンスを一定とすることができ、その値を、同軸ケーブルと等しくできると言うことです。
一般のプリントパターンは、同一パターン上でも、場所によって特性インピーダンスが異なります。

[注]  マイクロストリップラインをさらに強化したのが、ストリップラインです。ストリップラインは、信号パターンを、2 つのグラウンドプレーンでサンドイッチ状に挟んだものです。


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