データ伝送web講座

1. データやり取りの方法

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1.1. データ伝送とは

1.1.(1) データを送る

◆ データ伝送 」とは、要するに、データを送ることです。
データ 」の類語に、「情報 」があります。データは、「加工される元になる情報」という意味があります。情報のほうが広い概念ですが、同義語と考えて差し支えありません。
伝送 」の類語には、「通信 」があります。通信は、語源(communicate)には、交信する、すなわち双方向にやり取りする、という意味があります。伝送は,単に送るということですから、違いがあります。しかし実際には、この違いを意識して使い分けてはいません。これも同義語と見てよいでしょう。
◆ したがって、これらの合成語である、「データ伝送」、「データ通信 」、「情報通信 」等は、同じ意味になります。ただし、語感としては、図.1 に示すような違いがあります。

[図.1] データ伝送とデータ通信/情報通信

データ伝送とデータ通信/情報通信 

◆ すなわち、データ伝送は、データをやり取りする、その部分を指します。データ通信/情報通信は、それを含んだ、より広いシステム、という感じがあります。
この講座の内容は、どちらかというと、図.1 に示した データ伝送 の範囲が主体になります。講座の名称も、その意味で付けてあります。
◆ 上記のデータ伝送の定義では、同一プリント基板 内での、IC (集積回路 )間のやり取りも、データ伝送です(図.2)。

[図.2] プリント基板内の伝送

プリント基板内の伝送

◆ プリント基板内の「伝送」という言葉には違和感はありませんが、 「データ伝送」というと、もっと互いに離れた間でのデータのやり取り という語感があります。少なくとも、箱と箱を結ぶという感じです (図.3)。

[図.3] 箱と箱とを結ぶ

箱と箱とを結ぶ

◆ この講座では、少なくとも箱とはことを結ぶ伝送を、 主に取り上げています。しかし、基板内の伝送も含んでいます。 また単に伝送の言葉もデータ伝送と同じ意味に使用しています。
短距離の伝送は、インターフェース の名でも呼ばれています。 これもこの講座の範囲です。
インターフェースは、複数のものを互いに結びつける仲介部分 のことです。この意味では、 信号や データに関するインターフェースは、伝送と同義です。 しかし、通常インターフェースは、短距離の場合に使用されています。

1.1.(2) データのアナログとディジタル

◆ データには、アナログ のデータと、ディジタル のデータとがあります (図.4) (コラム.1.1 参照)。

[図.4] アナログとディジタル

アナログとディジタル

◆ データ伝送では、アナログのデータも、ディジタルのデータも送ります。 しかし、データ伝送というと、ディジタルデータを送るという 語感があります。これは、現実にディジタルデータを送ることが 多いからと、思われます。
◆ とくに最近は、元データがアナログであっても、 これをディジタル化 、すなわちアナログをディジタルに 変換して、送ることが多くなっています。
この場合、データを利用する立場からはアナログですが、 伝送にとっては、ディジタルのデータを伝送していることになります。

[コラム.1.1] アナログとディジタルの比較

(1) アナログとディジタル アナログ は、たとえば長さのように、その量の大きさを問題にします。 そして、連続していて切れ目が無い量です。ディジタル は、 その量を表すのに、1 つ 2 つと数を数える方式です。 1 と 2 との間には値は存在しません。すなわち飛び飛びの量です。

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アナログとディジタルの連続と非連続

★ 数には、小数がありますから、間を縮めることができます。 しかし、たとえば、1.01、1.02、1.03 としても、1.01 と 1.02 との間はつながっていません。
時間はアナログであり、時間に切れ目はありません。 ただし、アナログ量も、値を表現するときは、1.01 のように ディジタルで表します。連続というのは、数学的な概念です。

(2) ディジタル化 最近の世の中は、ディジタル化が進んでいます。 コンピュータの発達と普及によって、アナログデータよりも ディジタルデータの方が、便利に取り扱うことができ、 かつ、 安くできるからです。
しかし、データ処理は、確かにディジタルが便利ですが、表示、 すなわち人間に情報を伝える手段としては、ディジタルは、 必ずしも優れているとは言えません。

★ 時計の表示は、一時期、ディジタルが 流行しましたが、再び、アナログが主流になっています。
表示に関しては、ディジタルと比較してアナログは、 正確に読み取るという点では劣りますが、概略の値を瞬間的に読み取る という点では優れています。
人間は、アナログの図形を、パターンとして、瞬間的に 認識できるからです。
 われわれが時計を見るとき、今、何時何分何秒であるかを知りたいことは 少ない少ないでしょう。それよりも、「いま何時頃かな?」 さらには、 「もう 12 時を過ぎたのかな?」 という見方が多いはずです。
★ アナログは、とくに後者のように、複数の値の相対的な関係を読みとる という点で勝っています。

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時計を見る

★ アナログであれば、上記の差は、値を読み取ることなく、 パターンとして、すぐに分かります。しかしデイジタルであれば、まず、 値を読み取って、その上で頭の中で引き算をしなければなりません。
★ このような理由から、表示は再びアナログが多くなりましたが、 時計の内部機構は、ディジタルのままです。内部機構は、 ディジタルの方が、より正確で、かつ安いからです。
以上のように、アナログとディジタルの長所・欠点は、データ処理と、 表示とで異なります。



1.1.(3) 伝送固有の技術が必要

◆ 以上の語感の問題とは別に、長距離の伝送では、短距離では無かった 技術的なポイントがあります。この講座では、これを データ伝送固有の技術 と呼ぶことにします。
この講座では、データ伝送固有ではない、一般的なことも、 十分に解説します。
データ伝送固有の技術については、なじみが無い読者が多いと思います。 とくに、やさしく、ていねいに、説明します。
◆ ところで、このデータ伝送固有の技術は、 伝送速度に依存します。すなわち、伝送速度が速くなると、 より短い距離で、データ伝送固有の技術が必要になります。
最近は、データ処理速度が、どんどん早くなっています。 昔は長距離伝送でしか起こらなかった現象が、 最近ではプリント基板の中で発生するようになっています(図.5)。 ただし、真に長距離のときだけに発生する問題もあります。

[図.5] 昔の長距離伝送と今の基板内

昔の長距離伝送と今の基板内

1.1.(4) データ伝送の評価

◆ データ伝送を評価する要素には、次の 3 つがあります。
   性能
   信頼性 (故障しないで、何時でも使用できること)
   コスト 性能は、さらに下記の要因に分かれます。
   利用できる回線の本数
   各回線毎の伝送速度
   回線の混雑の程度
◆ 利用できる回線の本数は、システムとしての性能です。 個別の回線毎の性能は、各回線毎の伝送速度で評価されます。 伝送速度 は、1 秒間に送ることができるデータ量 (ビット)で表され、 単位は bps (ビット/秒)です。
◆ 以上の 2 つの指標は、伝送装置の絶対的な評価です。これに対して、 回線の混雑の程度は、需要量との相対的な評価です。 伝送回線は、塞がっていることがあります。電話で言えば、お話中です。
◆ ただし、相手の電話機が他に使用されているお話中は、 ここには含めません。相手の電話機が空いているにも関わらず、 途中の交換機や中継部分が塞がっているために、 お話中になってしまうことがあります。 このお話中のことです(図.6)。

[図.6] お話中

お話中

◆ 電話の場合には、お話中のときはつながりません。これに対して、 ディジタルデータの伝送では、単にある時間待たされるだけで、 自動的につながる場合があります。
このように、途中の混雑のために、相手に繋がなかったり、 あるいは待たされたりする現象を、輻輳 (ふくそう) といいます。この輻輳による混雑の程度は、データ伝送の性能を 評価する重要な指標です。
◆ ユーザーにとっては、輻輳が無いことが、快適です。しかし、 通信の需要は、確率現象であり、時間帯や、各種の状況によって 大幅に変化します。確率的に稀な状態に対して輻輳を十分に 抑えることは、過大設備につながります。
過大設備は、結局は料金に跳ね返ります。この兼ね合いを 考える必要があります。
◆ データ伝送では、新製品や新サービスが次々と誕生しており、 性能の向上と、価格の低下とが、同時に、 かつ激しい勢いで続いています。


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