ノイズ対策技術

21. D/A変換器

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21.(1) 概   要

◆ D/A 変換 器にも、各種の機種があります。代表的なものを、表.1 に示します。

[表.1] 代表的な D/A 変換器

種類 原理 特徴
ラダー抵抗形 抵抗による分圧 高速
F/V 変換形 パルス周波数を電圧に変換 低速、伝送に適する
PWM 形 パルス幅変調 低速、高精度可

◆ 圧倒的に多く使用されているのが、ラダー抵抗形です。ここでは、ラダー抵抗形と、F/V 変換形について解説します。

21.(2) ラダー抵抗形

  21.(2-A) 動作原理

◆ ラダー抵抗形 D/A 変換器 図.1 に示します。ラダー抵抗形 D/A 変換器のアナログ出力は、電流です。したがって、通常は、電流を電圧に変換する必要があります(図.2)。

[図.1] ラダー抵抗形 D/A 変換器

ラダー抵抗形 D/A 変換器


[図 .2] 電圧に変換する

電圧に変換する

◆ I/V 変換器 は、オペアンプです。オペアンプは、のように回路を組むことによって、電流/電圧変換器 として利用できます。の回路で、
    Vo = It / R
です。
ラダー抵抗形 D/A 変換器(図.1)は、基本的には、基準電圧 VREF を抵抗で分圧する回路です。分圧用抵抗を、まともに組むと、値が大幅に異なる多数の抵抗を必要とします。抵抗を図.1 のように、梯子状に組むことによって、抵抗値を、R と 2R の 2 種類で済ませることができます。数もに示すように少なくて済みます。は 8 ビットの D/A 変換器です。抵抗の所要数は、D/A 変換器の、変換ビット数に比例します。
分圧されたラダー抵抗の各出力 O1〜On は、アナログスイッチを介して、グラウンドに接続されます。スイッチを IOUT1 側に倒したときは、オペアンプの − 側端子に接続されますが、オペアンプの − 側端子の電圧はグラウンドです(4.(c1)参照)。
◆ したがって、アナログスイッチを、どちら側に倒しても、ラダー抵抗から各アナログスイッチに流れる電流値は、変化せず、その値は、に示すように、I、2I ・・ 2(n-1) になります。
以上から、IOUT1 に流れる電流は、アナログスイッチが、IOUT1 側に倒れているもの電流値を、加算した値となります。すなわち、D/A 変換器の出力は、電流値です。
アナログスイッチを、ディジタル信号(図のディジタルデータ)で切り換えることによって、D/A 変換器を構成します。

21.(2-B) ノイズ対策

◆ ラダー抵抗形 D/A 変換器では、値を変えるとき、スイッチを切り換えます。したがってスイッチ切り換え時のトランジェントに、ノイズを発生します。これを、グリッチ と呼んでいます。グリッチの言葉自体は、小さな欠点と言う普通名詞です。
グリッチは、出力値を大きく変えるときは、出力の変化に対しての、相対値は、小さな値になります(図.3)。逆に、出力値の変化幅が小さいときは、グリッチが、目立ちます(図.4)。

[図.3] グリッチ(出力変化フルスケール)

グリッチ(出力変化フルスケール)


[図.4] グリッチ(出力変化最小値)

グリッチ(出力変化最小値)

◆ グリッチが発生しても、差し支えない用途もありますが、グリッチが問題になる場合には、グリッチを無くす必要があります。最も簡単には、ローパスフィルタによって、グリッチを抑えます。ただし、フィルタによる遅れが発生します。
遅れを小さくするためには、グリッチ除去回路を使用する必要があります。グリッチ除去回路 は、サンプルホールド回路です(図.5)。図.6 に示すように、グリッチが収まったタイミングでサンプルホールドします。

[図.5] グリッチ除去回路

グリッチ除去回路


[図.6] グリッチ除去回路の動作タイミング

グリッチ除去回路の動作タイミング


21.(3) F / V 変換形

21.(3-A) パルス周波数信号

◆ ゼロか 1 かの、ディジタルデータを送る場合、信号の送り方によって、並列伝送 (図.7)と直列伝送 (図.8)との 2 つのやり方があります。図は、どちらも、8 ビットのデータを送っています。さらに多数のデータを送るときは、図のやり方の、繰り返しになります。

[図.7] 並列伝送

並列伝送


[図.8] 直列伝送

直列伝送

◆ 図.8 のシフトレジスタは、パラレル動作のときは、図.7 と同様に動作しますが、シリアル動作のときは、図.9 のように動作します。図.9 は、4 ビットのシフトレジスタです。初期状態が、(a)で、それに、0、1、1 を逐次入力したときに、(b)(c)(d)のようにデータが移ります。

[図.9] シフトレジスタの動作

シフトレジスタの動作

◆ 並列伝送では、データの形式(符号)は、一般的な、符号しか使われませんが、直列伝送では、独特な、信号波形が使われることがあります。独特な波形の代表的なものに、パルス数信号と、パルス周波数信号があります。
パルス数信号 は、パルスの数が意味を持ちます。たとえば、ロータリエンコーダは、一定回転角度ごとにパルスを出力します。受け側で、そのパルス数を数えれば回転角度が分かります(図.10)。この、ロータリエンコーダの出力信号が、パルス数信号です。

[図.10] ロータリエンコーダの原理

ロータリエンコーダの原理

◆ パルス周波数信号 は、パルス速度(1 定時間当りのパルス数)が意味を持ちます。ロータリエンコーダの例では、回転速度が、パルス周波数信号です。
パルス数信号、またはパルス数をベースとする信号(たとえばパルス周波数信号)は、ノイズに強いことが特徴です。
ノイズで誤動作したときは、ディジタル符号の、1 と 0 とが反転します。ディジタル符号が、数値を表わしている場合、最小の桁(LSB)が反転したときは、小さな誤差で済みますが、最大の桁(MSB)が反転すると、値が大幅に、狂ってしまいます(図.11)。しかし、パルス数信号がノイズで誤動作したときは、いつでも、最低桁の誤差にしか、なりません。

[図 .11] 一般的ディジタル符号のノイズによる誤動作

一般的ディジタル符号のノイズによる誤動作


21.(3-B) 動作原理

◆ F / V 変換形 D / A 変換器 は、パルス周波数の形で、表わされている、ディジタル信号を、電圧(アナログ信号)に変換します。幾つかの方式がありますが、代表的な 1 つを示します(図.12)。

[図.12] F / V 変換形の動作原理

F / V 変換形の動作原理

◆ まず、入力パルスを、タイマによって、正確なパルス幅を持つパルスに整形します。入力パルスが、整形されますから、整形前のパルス波形がノイズによってある程度歪んでも、パルス数として正しくカウントされ、誤差にはなりません。
この整形されたパルスで、基準電流源(一定の電流値を出力する電源)をオンオフし、その電流を I / V 変換器で電圧に変換します。パルス幅が正確ですから、I / V 変換器に流れ込む電荷量は、パルス周波数に比例します。
ただし、そのままでは、I / V 変換器の出力電圧 Vo は、パルス列です。I / V 変換器には、コンデンサ C が入っています。この C によって、ローパスフィルタになりますから、出力電圧 Vo は、平滑化された、アナログ出力になります。の出力波形は、動作が分かるように、凸凹していますが、実際には、充分に平滑します。


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