ノイズ対策技術

6. 反   射

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6.(1) 反射の現象

◆ 反射 は、大きなノイズ発生源です。
反射は、従来は、おもに長距離伝送における問題でした。しかし最近では、ディジタル回路の高速化にともなって、機器内部、さらにはプリント基板内部においても、反射の問題を考慮することが必要になっています(伝送 1.1.(3)参照)。

[注]  反射に関しては、講座「データ伝送」でも解説しています。この講座を補完する内容となっています。

6.(1-A) 電線中を電気は波動として伝わる

◆ 電流は、電子の流れです。直流では、電流は、川の水(分子)が上流から下流に向かって流れるのと同様に、伝送路の中を、電子が流れてゆきます。
これに対して、交流では、電気は、波の性質を持ち、波動として伝わってゆきます。
分かりやすいように、水面を伝わる波を、考えて見ましょう。海や池の波は、水の分子が上下に動きます、水平方向の流れは、ありません。しかし波動として、あたかも、水平方向に流れているかのように、一定の速度で、伝わって行きます。海面に、ごみが浮いていると、そのことが、よく分かります(図.1)。

[図.1] 海の波の動き

海の波の動き

◆ 交流電流も、これと同じです。電子は、自分が置かれた位置の付近で、振動するだけです。直流的な移動は、ありません。しかし、電子の振動が、伝送路の中を波動 として伝わってゆきます(図.2)。

[図.2] 交流における電子の動き

交流における電子の動き

◆ 海の水と違い、電子自身が動く方向と、波として伝わる方向とが同じです。水に比べると、多少分かり難いかも知れません。
伝送路の中を伝わる電気信号が、波動であるという点では、電波(電磁波)と同じです。
導体中を移動する電子自身の速度は、あまり速くありません。しかし、波動として伝わる速度は、電子自体の速度と比べて、はるかに高速です。
真空中(≒空気中)を伝わる電磁波の速度は、光速 の名で良く知られているように、約30万km/秒で、世の中で最も高速です。
◆ 電線中を伝わる電気、したがって、信号の速度 は、これよりも若干低速です。周囲の絶縁体の材質によって異なりますが、おおよそ、真空中の50〜80%程度です。しかし、電子自身の移動速度に比べれば、はるかに高速です。
およその目安として、
     20cm/ns、または 5ns/m
     200m/μs、または 5μs/km
と覚えておくと良いでしょう。当然同じものですが、前者は、短距離のとき、後者は長距離伝送のとき便利な単位です。

6.(1-B) 反射が起こる

◆ 電線中を伝わる電気信号は、波動ですから、池の波が岸で反射するように、電気信号にも反射の現象があります。反射は、主に伝送路の端で起こります。
波は一定の速度で伝わります。図.3(a)において

[図 3] 反射の現象

反射によるノイズの発生

◆ A 点を通過した信号が、伝送路の端 B で反射して、再び A 点に戻ってくるのに、時間が掛かります。したがって、元の信号と反射波がずれ、それがノイズ になります(図の(b))。信号に減衰が無ければ、反射波は、元の信号と同レベルですから、強烈なノイズです。

6.(1-C) 伝送路の特性インピーダンスとは

◆ この反射の現象に強く関わっているのが、伝送路の特性インピーダンス です。
特性インピーダンスについて、以下に説明します。図.4に示すような、一方が無限に長い伝送路を考えます。

[図.4] 特性インピーダンス

特性インピーダンス

◆ この一端に、交流電圧を加えると電流が流れます。無限に長いので、抵抗は無限大です。直流電流は流れません。しかし、伝送路は、抵抗だけで、できているのではありません。伝送路には、キャパシタンスや、インダクタンスの成分があります。したがって、交流に対しては、有限のインピーダンスを持っています。
そして、伝送路の入り口からみると、ある一定の入力インピーダンスを持っているように見えます。このインピーダンスのことを、伝送路の特性インピーダンスと言います。
特性インピーダンスは、それぞれの伝送路に、固有の値を持っています。
また、特性インピーダンスには、周波数特性があります。しかし、伝送路の特性インピーダンスの周波数特性は、高い周波数では、ほぼ一定の値です。ツイストペアケーブル では、100Ω程度です(ツイストペアケーブルの詳細は、伝送4.1.(3)参照)。
しかし、低い周波数では、周波数が低くなるにつれて、特性インピーダンスの価は、高くなります(図 5)。

[図.5] ツイストペア ケーブルの特性インピーダンス

ツイストペア ケーブルの特性インピーダンス

◆ このツイストペアケーブルは、電話用の通信ケーブルの 1 種で、市内ケーブルと呼ばれるものの特性です。他の品種でも、大差は、ありません。
よく、電話線のインピーダンスは 600Ω であると言われています。このインピーダンスは、特性インピーダンスのことです。
しかし図から分かるように、音声周波数帯域では、電話線の特性インピーダンスは、信号周波数と、線の太さとによって、かなりの開きがあります。
便宜上、線径 0.65mm、周波数 1kHz のときの、特性インピーダンス 600Ω で、電話線の音声周波数帯域の特性インピーダンスを代表させているのです。

◆ 同軸ケーブル は、特定の特性インピーダンスを持つように作られています。
特性インピーダンスが 50Ω の 50Ω 系、75Ω の 75Ω系 の 2 種類が広く用いられています(同軸ケーブルの詳細は、伝送4.1.(5)参照)。
プリント基板上のパターンも、ある特性インピーダンスを持っています。
ただし通常のパターンは、特性インピーダンスが一定では無く、同一パターン上でも、場所によって、値がばらつきます。

プリントパターンにおいても、特定の特性インピーダンスを持つように設計することができます。それが、マイクロストリップライン です。
マイクロストリップラインは、プリント パターンに、特定の一定の特性インピーダンスを持たせることができるという点で、同軸ケーブルの代わりに使用されます。全ての点で、同軸ケーブルと同じ性質を持っているのではありません。

6.(1-D) 各種の反射

◆ さて、前置きが長くなりましたが、本題に戻り、特性インピーダンスと、反射との関係を説明します。

6.(1-D-a) ケーブルの接続

◆ ケーブルは、接続することがあります。このとき、接続個所で反射が起きる、可能性があります。
異種のケーブルを接続しても、その特性インピーダンスが等しいときは、反射は起こりません。しかし、互いの特性インピーダンスが異なると、接続点で信号の一部は透過 し、残りは反射 します(図.6)。

[図.6] 特性インピーダンスが異なるケーブルの接続

特性インピーダンスが異なるケーブルの接続

◆ その大きさは、上流側の特性インピーダンスを Z1、下流側を Z2 とし

      mの定義 ・・・ (1)

と置けば、電圧反射係数 と、電圧透過係数 は、

      電圧反射係数と電圧透過係数

となります。式(1)から分かるように、特性インピーダンスの差が大きいほど反射が大きくなります。

6.(1-D-b) 端がオープンのとき

◆ 伝送路の端(伝送路の出口側)をオープンにすると、その先に、特性インピーダンスが無限大の伝送路を接続したことと、同等と考えられます。すなわち Z2 = ∞ ですから、m = 1 です。したがって、100% 反射します(図 7)。

[図.7] 端がオープンのとき

端がオープンのとき

◆ この図は、回路シミュレーションによって作った図です。V(IN)が伝送路の入口、V(OUT)が出口(オープン)です。このシミュレーションに対応する、実際の伝送波形は、伝送3.1.(2-C)図.7です。
入口の最初のパルスは、信号の入力です。後のパルスは、出口で反射して戻ってきた波形です。実際の伝送路では、信号の減衰があります。しかし、シミュレーションですから、減衰 0 を作ることができます。途中の減衰がありませんから、3 つの信号は、値が等しくなっています。
伝送3.1.(2-C)図.7 の波形と異なる点が、2 つあります。1 つは、元の信号パルスの幅です。シミュレーションでは、パルスの幅が、信号が伝送路を往復する時間よりも狭いので、入り口(V(IN))における反射波は、別のパルスになっています。これに対して、実際の波形では、入り口のパルスが続いている最中に、反射波が戻ってきています。
もう 1 つが、上述の、信号の減衰です。実際の波形では、信号の減衰があります。
◆ 出口(V(OUT))の電圧は、入り口(V(IN))の 2 倍になっています。これは、入力され伝わってきた信号と、反射で発生した信号とが重なって、加算された結果、2倍になったものです。

[注1]  出口のところで電圧が2倍になっていることは、奇妙に感じるかもしれません。この現象が合理的であることは、6.(2-B-e)で説明します。

[注2] シミュレーションでは、純粋に反射だけを、理想化して示してあります。現実の波形は、反射以外の各種の要因が加わっていますから、シミュレーションの波形とは、異なります。
現実の現象を、正確にシミュレートするためには、それらの要因をシミュレーション モデルに加えることが必要です。
逆に、シミュレションでは、現実の実験では得られない、純粋の現象を調べることができます。
この例では、信号のおくれは15μsですから、伝送路の長さは、3kmです。これだけ長いと、実際には信号が減衰します。しかし、シミュレーションの上では、信号の減衰がゼロのときの現象が分かります。

6.(1-D-c) 端をショートしたとき

◆ 次に、出口側をショートして見ます(図.8)。対応する、実際の波形は、伝送3.1(2-D)図.8 です。実際の波形の条件は、伝送3.1.(2-C)図.7 と同じです。

[図.8] 端をショートしたとき

端をショートしたとき

◆ 出口側(V(OUT))をショートしましたから、当然出口側の電圧は、ゼロです。
これを、反射の現象としてとらえると、次のように、説明されます。出口側においては、大きさが入力に等しく、極性が逆の反射が発生します。これが入力と加算されるので、差引、電圧がゼロになります。

[注] 式(1)において、Z2 < Z1 であれば、m はマイナスです。これは、反射波の極性が逆であることを意味します。

この反射は、入口側に戻ります。送出したパルスとは、逆極性のパルスになっています。極性は異なりますが、ノイズの大きさ、およびディレイについては、端をオープンにしたときと同じです。



[コラム.1] 反射のいろいろ

★ 反射といえば、まず、連想するのは、光の反射であり、鏡でしょう。鏡に関する童話に、鏡の国のアリスがあります。

不思議の国のアリス     鏡の国のアリス

★ 遊具では、万華鏡が、反射応用製品です。

万華鏡       万華鏡

★ 反射は、インピーダンスが異なる境界で、発生します。インピーダンスが異なる境界では、一部が反射し、一部が屈折して透過して行きます(下図左)。この現象は、光に限りませんが、光の場合には、インピーダンスと言わないで、屈折率と呼んでいます。

反射と屈折     偏光

★ 反射光には、偏光 と呼ばれる現象があります。通常光は、すべての方向に振動しています。それが、特定方向だけに振動する光を偏光といいます(上図右)。偏光の方向が 90°異なった 2 枚の偏光板は、光を遮ります。

2枚の偏光板向きによる差

★ 偏光は、斜めの反射によっても発生します。

偏光は斜めの反射によっても発生する

★ 反射光が偏光であることを利用して、有害な反射光を取り除くことができます。

有害な反射光を取り除く





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