ノイズ対策技術

7. クロストーク

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7.(1) クロストークとは

◆ 欲しい信号も、他の信号に影響を与えれば、ノイズ源です。とくに、平行して走る信号線は、互いに他の信号に対して、ノイズとなります(図.1)。

[図.1] クロストーク

クロストーク

◆ 信号線が、互いにノイズに、なりあう現象を、クロストーク(漏話) といいます。
長距離伝送では、このクロストークが、大きいことが予想されます。最初に問題になったのが、電話でした。このことから、漏話の名前が付きました。現在では、クロストーク(漏話)の呼び名は、電話に限定しない、一般的な広い意味で使われています。
電話信号は低周波ですから、近距離では、クロストークは、ほとんど、ありません。しかし、信号周波数が高ければ、短距離でも、クロストークを考慮する必要があります(伝送1.1.(3))。

7.(2) 平行線のクロストーク

7.(2-A) プリント パターン

◆ プリント基板内のパターンは、距離は短いですが、信号線は、平行、かつ接近して走っています。また、グラウンドが、信号の、共通の戻り線になっていることが、ほとんどです。このような状況では、クロストークが問題になります。
同種の信号は、信号レベルが同じですから、クロストークが問題になることは多くありません。しかし、信号レベルが大きく異なると、レベルの小さい方の信号は、レベルが大きい信号から、クロストークの影響を大きく受けます。
プリント基板内における、クロストーク対策の第 1 は、信号レベルが高い信号線を、信号レベルが(相対的に)低い信号線や、アナログの信号線と、平行かつ密接して走らせないことです。信号線が、直交していれば、クロストークは無視できます。並行していても、十分に離れていれば、問題ありません。
◆ 信号レベルが、大きく異なるパターンを、密接、平行して引くことは、無くさなければ、なりませんが、同程度のレベルの信号を平行して走らすことは、避けられられません。とくにバスでは、多数の信号線を平行して走らせます。

[注]  電子回路、とくにコンピュータ回路では、互いにデータのやり取りをするのに、共通のデータやり取りの通路を設け、そこを通してやり取りを行ないます。この共通のデータ通路が バス です。

パターンは、部品配置によって、大きく支配されます。パターン設計は、まず、部品配置を適切にすることが、重要です。

 クロストークの現象を、実験によって調べて見ましょう。図.2 は、クロストークの実験回路です。

[図.2] クロストークの実験回路

クロストークの実験回路

◆ ノイズ受け側の素子は、SN74LS04 で、ノイズ発生側は、それよりも強力な SN74S04 を使用しています。同種の素子相互よりも、クロストークを大きくした実験です。

[注]  SN74XXYY は、ディジタル IC の種類を示す IC 番号です。
ディジタルICには、IC 内部で使用している素子の種類、および動作速度によって、いくつかの ファミリ (品種)があります。IC 番号の XX がファミリの品種を表わします。
LS は、従来最も一般的に使われたファミリの 1 つです。S は、LS よりも高速で、電流駆動能力が大きくなっています。したがって、LS よりも、強力なノイズを発生します。
番号の YYは、IC の機能を示す部分です。ディジタル IC では、ファミリが異なっていても、YY が等しければ、同じ機能を持つように、番号体系が作られています。
XX04 は、インバータ 6 素子入りのパッケージです。

テストパターンは、に示すように、長さ 14cm、間隔が 0.64mm の平行パターンです。この程度の平行パターンは、ごく普通のものです。受け側は、スイッチを(a)または(b)に切り替えることによって、信号レベルをハイまたはローに切り換えられるようになっています。
◆ クロストークの波形を図.3に示します。図中の、(A)、(B) は、図.2 の (A)、(B) です。ノイズ発生側における、信号立ち上がり時の振動波形は、リンギングです。

[図.3] クロストークの波形
(a) 受け側信号レベル"ハイ"

受け側信号レベル"ハイ"

 [A:5V/div B:1V/div 0.1μs/div]

(b) 受け側信号レベル"ロー"

受け側信号レベル"ロー"

 [A:5V/div B:1V/div 0.1μs/div]

◆ どちらも、大きなクロストークが発生しています。図中の○印の部分は、クロストークによって発生したノイズが、IC のスレッショルド電圧の近くまで達しています。IC のスレッショルド電圧は、図の(a)では VIH(b)では VIL です。この例では、誤動作には至っていませんが、トラブル(誤動作)を起こしやすい状態です。
受け側信号レベルがハイのときの波形(図の(a))は、受け側信号がローのときの波形(図の(b))よりも、クロストークが大きくなっています。どちらも、同じノイズを受けているわけですが、受けるノイズのパワーが等しくても、受け側のインピーダンスが大きいと、発生するノイズ電圧は、大きくなります(1.(3-E-b))。
◆ 受け側全体としてのインピーダンスは、伝送路が短いときは、ドライバ出力インピーダンスが支配的です。ドライバ LS04 の出力インピーダンスは、出力がハイのとき高く、ローのとき低くなります。

また、ノイズは周波数が高いとき多く発生し、周波数が低いと小さくなります(1.(3-E-a))。このため、単にノイズ電圧が異なるだけでなく、伝わるノイズの周波数帯域にも違いがでます。
結果として、図の(a)(b)とでは、クロストークによって伝わった信号の波形が、全く異なっています。(a)では信号の波形が伝わっていますが、(b)ではリンギング波形だけが伝わっています。
◆ クロストークは、誘導ノイズと考えられます。誘導には、静電誘導電磁誘導とがあります。密接した平行パターンでは、静電誘導が支配的です。このクロストークが、静電誘導によるものであることを、確認するための実験が、図.4 です。図.4 は、パターンを平行させないで離して配置し、その間を10pFのコンデンサで結合したときの波形です。

[図.4] 等価なコンデンサで結合したときの波形
(a) 構   成

構成

(b) 受け側ロジック"ハイ"

受け側ロジック"ハイ

(c) 受け側ロジック"ロー"

受け側ロジック"ロー"

◆ 図.3図.4との波形がほぼ等しいことから、密接並行して走るパターンのクロストークは、静電誘導が原因であると、推定することができます。

7.(2-B) フラットケーブル

◆ ケーブルには各種あり、用途によって使い分けます。
フラットケーブル は、図.5に示す構造をもち、接続が簡単なことから、筐体内部の配線に、多く使用されています。ただし、ノイズには弱く、距離も通常 2m 程度が限度です。

[図.5] フラットケーブル

フラットケーブル

フラットケーブルのクロストークは、大略、プリント基板の平行パターンと同様です(7.(2-A))。フラットケーブルにおいても、同一ケーブル内には、同レベルの信号線を収容するようにし、レベルが異なる信号線を入れないように、注意する必要があります。
◆ 図.6 は、図.2 と同様な実験回路によって、フラットケーブルのクロストーク実験を行った結果です。ケーブル長さは、1m です。

[図.6] フラットケーブルのクロストーク波形
(a) 受け側信号レベル"ハイ"

受け側信号レベル"ハイ"

(b) 受け側信号レベル"ロー"

受け側信号レベル"ロー"

◆ 伝送路の長さが長いので、プリント基板内(図.3)よりも、リンギング周波数が低くなっています。
周波数が低いので、ノイズの伝達は減少します(1.(3-E-a))。しかし、その代わり距離が長いので、その分多く伝わります。結果として、クロストークの大きさは、プリントパターンと、ほぼ同様です。

7.(2-C) シールドの効果

◆ クロストークのように、空中を伝わるノイズに対しては、シールドが有効です。シールドは、本来は、完全に囲みます。しかし、完全なシールドではなく、平行線の間にグラウンドに落した線を挿入することによって、ある程度のシールド効果を期待することができます。シールドを、グラウンドに落とさないで、浮いたままだと、シールド効果はありません。
シールドの効果は、平行なプリントパターンでも、フラットケーブルでも、同様です。フラットケーブルでの、実験回路を図.7 に示します。

[図.7] 間にグラウンド線を入れる

間にグラウンド線を入れる

 シールドを、グラウンドに落としたときの、シールド効果を、図.8 に示します。

[図.8] 間に挿入した線によるシールド効果
(a) 受け側信号レベル"ハイ"

受け側信号レベル"ハイ"

(b) 受け側信号レベル"ロー"

 受け側信号レベル"ロー"

◆ シールドを浮いたままにした波形は、図 6 の波形と、ほぼ同じです。図.8 は、完全なシールドではありませんから、クロストークは、残っていますが、図.6 と比較すれば、効果があることが分かります。
多数の信号線を平行して走らせる場合、通常は、不平衡ですから、共用のグラウンド線が戻り線になります。この戻りのグラウンド線が、信号線と離れたところにあると、信号線と戻り線とで構成される回路は、大きな面積を持ちます。しかも一般にその面積が重なり合います(図.9)。

[図.9] 大きな面積で重なり合う

大きな面積で重なり合う

◆ 回路が、面積のが大きいループを描くと、大きなインダクタンスを持ちます。また、このループが重なり合うと、大きな相互インダクタンスによって、結合しますから、クロストークが大きくなります。
プリントパターンでは、平衡回路を作ることはできません。図.10 のように、2本の線をペアにして回路を構成し、1線をグラウンドにすれば、ある程度、平衡に近付きます。このペア線のグラウンド線は、シールドの効果を持ちます。

[図.10] 2 本づつペアにする

2 本づつペアにする

◆ 信号の戻り線としてのグラウンド線が複数本あるときは、電流は、それぞれの線のインピーダンスに従って配分されて流れます。ペア線になっている所のインピーダンスは、他に比べて大幅に低いので、電流は、ほとんどペア線のところを流れます。
ペア線にすることは、クロストークを減らすだけでなく、伝送路の特性インピーダンスの値をある範囲内に入れることの効果もあります。ただし、共通の戻り線方式に比べて、線の本数が増えますから、必要なときにだけ使用します。
◆ ペア線を使わなくても、何本おきかに、グラウンドを入れば、かなりの効果があります(図.11(c))。

[図.11] 複数の平行パターンの引き方
(a) クロストークが大きい

クロストークが大きい

(b) クロストークが小さい

クロストークが小さい

(c) 中   間

中間

◆ 図10 のペア線をさらに強化する方式として、3 本を組にし、中央を信号線とし、両側をグラウンド線で挟む方式があります。この 3 本方式は、ペア線よりも、さらにクロストークが少なく、特性インピーダンスも安定します。マイクロストリップラインよりは、特性が劣りますが、同軸ケーブルの代わりに使用できます。

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