ノイズ対策技術

11. DC電源とグラウンド

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11.(1) 概   要

◆ ほとんどの電子回路は、DC 電源で動作します。DC 電源は、携帯機器ではバッテリ(電池)を使用します。使い捨ての 1 次電池と、充電式の 2 次電池とがあります。電池は消耗して電源電圧が変動しますから、必要に応じて電圧を制御します。
据え置きの機器では、通常は、機器に AC 電源を供給し、AC 電源か らDC の定電圧電源を作ります。この電源装置には、シリーズパスレギュレータとスイッチングレギュレータの 2 つの方式があります。
◆ シリーズパスレギュレータ は、AC 電源を整流し、その整流電圧をコンデンサで平滑化した後、電圧降下によって、一定電圧に制御します。スイッチングレギュレータに比べて、簡単なことが特徴です。しかし、この電圧降下が損失になるので、効率が悪いことが欠点です。
これに対してスイッチングレギュレータ では、スイッチング制御を利用しています(図.1)。

[図.1] スイッチングレギュレータ

スイッチングレギュレータ

◆ スイッチング制御を行なうことによって、損失が小さく効率が良い制御が可能です。しかし、電源電流という、そのシステムにおける最大の電流をスイッチングしますから、強いスイッチングノイズ を発生します(図.2)。
また AC 電源を整流しているので、高調波を発生し電源側に悪影響を及ぼします。

[図.2] スイッチング電源が出すノイズ

スイッチング電源が出すノイズ

◆ 放射ノイズを防ぐためには、ケースに入れて、ケースでシールドします。裸の製品を、シールド無しに使用することは、危険です。
また、配線上を伝わるノイズは、図に示すように、AC 側(入力側)と DC 側(出力側)の両方向に出ます( AC 側のノイズ対策は10.(3-A)参照)。このノイズは、入力側、出力側、共に、大きなノーマルモードノイズコモンモードノイズの両方を持っています。
ノーマルモードノイズは、取り除かなければ、なりません。しかし、コモンモードについては、DC 側の負荷、すなわち電子回路全体が、一様にコモンモードのままで振れるのであれば、電子回路内部に対する、悪影響は無いはずです(2.(4-B)参照)。電車が一定の速度で走っているときは、電車の中にいる人が、垂直に飛び上がったとき、元の位置に着地します。これと同じです。コモンモード電圧が加わっても、正常に動作するはずです。
◆ ところが、プリント基板内の、電源線とグラウンド線は、著しい不平衡回路です(図.3)。

[図.3] 電源線とグラウンド線

電源線とグラウンド線

◆ 図から分かるように、グラウンド線は、電源自体の戻り線であると同時に信号の戻り線を兼ねています。したがって、電源線とグラウンド線は、平衡ではあり得ません。

[注]  平衡な信号線は、信号線自体が戻り線を持ちます。しかし通常の信号は、ほとんどが、共通の戻り線である、グラウンドを戻り線としています。

◆ 強い不平衡回路では、コモンモードは大幅にノーマルモードに化けます(4.(2-B))。
ノーマルモードノイズは、有害なノイズですから、十分なノイズ対策が必要です。当然スイッチングレギュレータ自身、その内部に、ノイズが外部に出ないようにする、フィルターを持っています。しかしそれだけでは不充分なことも多く、その場合には、スイッチングレギュレータ出口の所で、ノイズ対策を施します。図.4は、その1例です。

[図.4] 外付けフィルタを使う

外付けフィルタを使う

◆ L1 と C1 は、ノーマルモード用のフィルタです。この L1 と C1 は、スイッチングレギュレータ内部のコンデンサ Cp を補ってΠ形フィルタを構成して、スイッチングレギュレータ内部のフィルタを、強化しています。C2 と C3 は、コモンモード用フィルタです。
このコンデンサの中点のグラウンドは、大きなノイズ電流が流れます。したがって、シグナルグラウンド(図の電圧基準グランド) と共通インピーダンスを作らないように配線する必要があります(9.(2-D)参照)。
DC 電源からプリント基板までの DC 電源配線は、AC 電源配線などのノイズが大きい配線と分離して、その影響を受けないようにします。並行近接して走らせると、ノイズを多く受けます。やむを得ず近接するときは、互いに直角になるようにします。配線は、電源線とグラウンド線とをツイストペアにします(10.(3-A)参照)。
◆ プリント基板では、スイッチングレギュレータで十分に制御された電源を、そのまま使用する方式と、各基板ごとにローカルのレギュレータを設ける方式とがあります(図.5)。

[図.5] プリント基板上にレギュレータを設ける

プリント基板上にレギュレータを設ける

◆ システムの規模が大きく、基板枚数が多い場合には、基板ごとにレギュレートする方式が、ノイズ対策上有効です。
基板上のレギュレータは、シリーズパスレギュレータICを使用して組むか、またはDC/DCコンバータを使用します。入出力共にDCのスイッチングレギュレータを、DC/DCコンバータ と呼んでいます。DC/DCコンバータには、入力を昇圧する昇圧形、降圧する降圧形、両方向に変える昇降圧形、正負を反転させる反転形などがあります。また、入出力を絶縁する絶縁形もありますが、この用途では絶縁の必要はありません。

11.(2) 基板内配線

11.(2-A) 配線の引き回し

◆ 基板内の電源とグラウンド配線は、どちらも、共通インピーダンスを作ります。ただし、共通インピーダンスになっていても、そのインピーダンスが十分に低ければ、共通インピーダンスによる影響を小さく抑えることができます。この意味で、電源線とグラウンド線のインピーダンスは、できるだけ低いことが、望ましいのです。
アナログの低周波回路では、共通インピーダンスを無くすために、1点アースが使用されます。名前は 1 点アースですが、電源配線もこれに準じた配線がベターです。ただし、電源配線は、グラウンド線に比べれば、1 点の必要性は高くありません(9.(3-B)参照)。
アナログの高周波回路には、ベタパターンを使用します。ベタパターンの名も、元々はベタアースと呼ばれたものですが、電源パターンにも、できるだけ適用します。
◆ ディジタル基板の高密度実装では、4層基板(またはそれ以上)が使用されています。4層以上の基板では、電源とグラウンドはベタ面を構成します。これは、電源とグラウンドのインピーダンスを下げますから、ノイズ対策としても有効です。
ただし、パターン自体では、4 層の必要性が無いのに、ノイズ対策だけのために、4 層基板を使用するには、4 層基板は高価です。2層基板においては、完全なベタパターンを使用する代わりに、電源とグラウンドのパターンを、可能な限り空き地を埋めた程度のベタにするのが良いでしょう(9.(3-C-b)参照)。

11.(2-B) パスコン

◆ 電源グラウンド配線の第 1 は、電源線とグラウンド線、それ自体のインピーダンスを低くすることにあります。しかし、それだけでは不充分で、さらに、パスコン を設けることが必要です。パスコンは、バイパスコンデンサの略です。電源とグラウンドとをコンデンサで結ぶことによって、電源グラウンド間の高周波に対するインピーダンスを低くします。
配線(プリントパターン)は、必ずインダクタンスを持っています。このインダクタンスによる電圧降下を押さえるのがパスコンです(9.(2)図.24)。しかし、パスコンを過信して、配線(プリントパターン)のインピーダンス自体を下げることを怠ってはなりません。
◆ パスコンは、少なくとも2段階設けます(図.6)。

[図.6] パスコンの設置場所

パスコンの設置場所

1 段目のパスコンは、電源/グラウンド線を基板に引き込んだところに設置します。基板内にレギュレータを設けたときは、レギュレータの出口のところになります。この基板入り口のパスコンは、基板までの配線で拾ったノイズに対するノイズフィルタの役割を兼ねます。フィルタの目的を強めるために、インダクタを併用して、LCフィルタ(L入力)を構成することもあります。
◆ 2段目は、IC等の電源/グラウンドピンのすぐ傍に設けます(図.7)。

[図.7] IC の傍に入れる

IC の傍に入れる

IC1個ごとに設けるのが原則ですが、IC等の動作周波数が低く、消費電流が小さくて、かつノイズ対策の重要性が低いものに対しては、IC 2〜3個についてパスコン1個の割合で、差し支えありません。
◆ パスコンを2段階にするのは、1段では十分に広い周波数にわたって、効果を期待することが、できないからです。基板入り口のパスコンは、低い周波数帯域に対して効果を持たせます。
低い周波数に対応できるように、大きな容量のコンデンサを使用します。一般に数〜数十μF程度のアルミまたはタンタルコンデンサを使用します(コラム.1参照)。基板の電流容量が大きいときはさらに大きくします。
◆ ICの傍の 2 段目のパスコンは、高い周波数に対して効果を持たせることが必要です。このためには、パスコンとICのピンまでの配線を、できるだけ短くしなければなりません。図.8に示すように、配線自体が持つインダクタンスによって、パスコンの効果が減殺されるからです。

[図.8] パスコンの等価回路

パスコンの等価回路

◆ コンデンサは、回路図に無い回路のために、コンデンサ自身も、高い周波数ではインダクタの特性を示します。このためコンデンサは、それ自体に、コンデンサとして働く上限の周波数が存在します。この特性は、コンデンサのリードがインダクタとして働くことが、主因です。
パスコンの効果は、この配線のインダクタンスと、コンデンサのリードが持つインダクタンスとを加算した、インダクタンスによって、減少します。パスコンが IC 等から離れていると、コンデンサ自体の特性が優れていても、高い周波数に対しては効かなくなってしまいます。
◆ 以上から、パスコンは、2 段階に配置することが、必要です。
また、2 段目のコンデンサが有効な、周波数帯域を、広くする目的で、2 段目のコンデンサを 2 個設置することもあります。この場合は、小容量の方を、IC の近くに置く、必要があります。



[コラム.1] コンデンサの種類と使い分け

★ コンデンサは、凝縮するもの の意味です。プラントなどで使用する、水蒸気をコンデンスする、コンデンサは、凝縮器と訳されています。凝縮器は、たとえば、タービンで、蒸発器と組み合わせて、水を循環するのに使用されています。この水は、純水でなければ、なりませんから、使い捨てには、できないからです。

凝縮器       純水の循環

★ 電気のコンデンサも、電気(電子)を凝縮ことに使われます。コンデンサには、多くの種類があり、それぞれの特性が異なります。その特性には各種のものがあり、目的、用途によって使い分けます。なお、下図の、上側にある図の、フィルム(コンデンサ)は、下の表のマイラーコンデンサーとスチロールコンデンサーとを含んでいます。また、上の図のアルミは、下の図の電解コンデンサーに、対応します。

コンデンサの種類

主なコンデンサとその特徴

★ 下の図は、各種コンデンサの周波数特性を示したものです。

各種コンデンサの特性 _

★ アルミ電解コンデンサ は、小形で容量が大きく安価なことが特徴です。しかし周波数特性の点では劣ります。タンタル電解コンデンサ は、アルミ電解コンデンサに比べると周波数特性は優れていますが、アルミに比べると大容量のものがありません。またアルミよりも高価です。
アルミとタンタルは、パスコンとして、基板の入り口に使用されます。
★ 比較的大容量のコンデンサとして、積層セラミックコンデンサ があります。
タンタルに比べると、容量、寸法の点で劣りますが、セラミックコンデンサは、周波数特性の面で優れています。タンタルコンデンサは、信頼性の点で問題があるので、積層セラミックコンデンサは、タンタルに代わって、基板入り口のパスコンにも、使われるようになっています。

2段目のコンデンサは、高周波のバイパス用です。周波数特性の優れたコンデンサが必要です。パスコン用としては、セラミックコンデンサ が多く使用されています。しかし、ディスク・セラミックコンデンサ は、小容量のものしかありません。
★ このため、パスコンで、大容量、かつ高周波特性が要求される場合には、従来、コンデンサを 2 個使用する方式が、採用されてきました。大容量に対しては、マイラコンデンサ またはタンタルコンデンサを使用し、高周波に対しては、セラミックコンデンサで対応します。
積層セラミックコンデンサは、ディスク形セラミックコンデンサに比べて大容量が可能で、周波数特性も比較的良好です。多くの場合、1個で高周波から低周波までに、対応できます。
★ 先に示したように、コンデンサ単体の周波数特性が高周波で劣化するのは、素子のリードが原因です。したがって周波数特性を改善するためには、リードに対する工夫が必要です。これに対応するコンデンサとして3端子コンデンサと、貫通コンデンサがあります。

3端子コンデンサ

★ 上図は、3 端子コンデンサ です。図の(c)のように使うことによって、リードによるインダクタンスの影響を、小さくすることができます。下図は、3 端子コンデンサの特性です。

3 端子コンデンサ


3 端子コンデンサの特性

★ 上図は、貫通コンデンサ です。図から分かるように、円筒状になっており、内部のコンデンサ電極は、導線自体です。外部電極は、シャーシ等のコンデンサを取り付ける対象に、直接取りつけます。
したがってリードが全くありません。周波数特性も、ほとんど理想に近くなっています。ただし構造から分かるように、ごく小容量のものしかできません。
貫通コンデンサは、コンデンサとしての用途の他に、穴がゼロのシールドを作るのに利用されています。
シールドの効果は、穴によって減殺されます。シールドケースにおいて、リード線を通すところに貫通コンデンサを使用すれば、実用上、穴をゼロにすることができます。
★ リード端子付きのコンデンサと比べて、リード端子無しのコンデンサの方が方が、当然周波数特性が良くなります。表面実装用のコンデンサは、リード端子が無く、コンデンサを、直接基板に取り付けます。リード端子付きのものに比べると、周波数特性が優れています。これは、部品を表面実装 する、利点の 1 つです。




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