◆ グラウンド、電源、接地の配線には、好ましいやりかた、やってはならないことの原則があります。本来は、これらの原則は、信号線においても適用すべき原則です。しかし、とくにグラウンド、接地においおて注意すべきことが多いので、グラウンド、接地の原則と呼ばれています。
電源は、本来グラウンドと同等ですから、電源においても、同程度に重視しなければなりません。また、信号配線であっても適用される原則です。
◆ 原則の第1が、共通インピーダンス を作らないということです。共通インピーダンスについて、図.14で、説明します。
◆ 図.14(a)において、回路 A が動作してその電流値が変化したとします。電流値が変化すれば回路 A に掛かる電圧が変化します。その結果電圧 V が一定であっても回路 B に加わる電圧が変化します。すなわち、回路 A が動作したことによって、回路 B がその影響を受けます。
図の(b)においては、回路 A は、回路 B と回路 C との共通部分に入っています。
回路 A が動作すると、回路 B と回路 C との両方に影響を与えます。これは、当然であり、やむをえない現象です。
回路 B が動作すると、その結果は回路 A に影響して、回路 A が変化しますが、その変化は、さらに回路 C にも及びます。これも、当然であり、やむをえない現象なのですが、うれしくない現象です。
◆ 図の(b)で、回路 A は、回路 B と回路 C との共通部分に入っています。このことから、回路 A のことを、回路 B と回路 C との共通インピーダンスと呼んでいます。
共通インピーダンスが存在すると、共通インピーダンスによって、回路 B の動作が回路 C に影響します(およびその逆)。
すなわち、共通インピーダンスは、ノイズ対策上、有害な存在です。共通インピーダンスを作らないことが、まず第 1 の対策です。しかし、共通インピーダンスは、故意に作らなくても存在します。回路図に無い回路として、共通インピーダンスが存在するからです。導線は、回路図上では、理想的なゼロインピーダンスですが、実在の導線は必ずインピーダンスを持っています。これが、共通インピーダンスを構成します。
◆ とくに、電源とグラウンドが問題です(図.15)。図で、B の部分は回路(b)と回路(c)の共通インピーダンス、A の部分は回路(a)、回路(b)および回路(c)の共通インピーダンスです。
[図.15] 電源とグラウンドにおける共通インピーダンス
◆ 電源線とグラウンド線は、図.15 のような引き方では、共通インピーダンスを避けることができません。ただし、共通インピーダンスが存在しても、そのインピーダンスの値を、十分低くすれば、実害を防ぐことができます。この意味で、電源線/グラウンド線は、インピーダンスを低くすることが重要です。
電源線/グラウンド線のインピーダンスを低くする手段として有効なものに、ベタパターンがあります。また、パターンだけでは不十分なので、パスコンを併用する必要があります。
共通インピーダンスそのもを無くす手段もあります。次に述べる 1 点アースです。
◆ 電源とグラウンドにおける共通インピーダンスを無くすために考えられた方式が、1点アースで す。配線を共用するから、共通インピーダンスが発生します。個別に配線すれば、共通いピンダンスはありません。これが 1 点アースです。図.10 の(c)は、接地点までの配線に、共通インピーダンスがあります。これに対して、(b)は、接地点まで、個別に配線されていますから、1 点アースです。共通インピーダンスは、ありません。
電源にも、当然、1 点アースの考え方を適用することができます。しかし、電源は、グラウンド/接地に比べると、その必要度は低くなります。これは、使用する IC などが、電源電圧の変動を、ある程度補償す機能を持っているからです。
なお、電源については、1 点アースに対応する適当な呼び名は無いようです。
[注] この講座の表記法に従えば、1点接地(または1点グラウンド)です。しかし、1点アースの呼び名が慣用されています。
◆ 図.10 の例は、接地ですが、1 点アースは、プリント基板内の配線などにも、適用されます。
アナログ回路のプリント基板における、共通インピーダンスの影響と、1点アースの効果を調べた実験例があります。図.16 は、実験回路で、(a)は、故意に共通インピーダンスを大きくした基板、同図(b)は、それを1点アースにした基板です。また、1 点アースではなく、共通インピーダンスを持ちますが、故意に大きくはしないで、普通に作った基板も、実験しています。これを、「普通の基板」と呼びます。
◆ 図.16(a)の大きな共通インピーダンスがある場合の波形写真を図.17(a)に示します。
また、普通の基板(共通インピーダンスは存在しますが、共通インピーダンス部分が、太くて短いパターン)における波形が図.17(b)です。
◆ 図は、(a)と(b)とで、スケールが異なりますから、注意して、大きさを比べてください。
図の(B)が、共通インピーダンスによって、グラウンドに重畳したノイズです。非試験回路は、増幅器の入力がゼロですから、出力(C)は、ゼロのはずです。しかし、グラウンドが変動しているために、増幅器の出力(C)が変動しています。
故意に大きな共通インピーダンスを持たせた(a)の場合には、かなり大きなノイズが乗っていることが分かります。
◆ 図.18は、1 点アースを使用することによって、共通インピーダンスを無くしたときの波形です。パターンは、図.16(b) に示した細くて長いパターンです。スケールは図.17(b) と同じです。
◆ 一点アースの効果が大きいことが分かります。
1点アースは、理想的に思われますが、全てに、うまく適用できるわけではありません。個別に線を引くために、対象回路数が多いと、配線の本数が多くなります。スペースを節約するために、パターンを細くするとインピーダンスが高くなります。共通インピーダンスと比べれば、インピーダンスは高くても差し支えありません。しかし、インピーダンスを高くすることは、好ましいことではありません。
また、グラウンドパターンが長いと、パターン相互のストレキャパシタンスが増加します。ストレキャパシタンスによって、高周波は分離されなくなり、個別に配線した効果がなくなります(9.(3-D)図 31参照)。1点アースが有効なのは、直流ないしは低周波です。高周波には、1点アースは、効果がありません。図.18の実験は、低周波ですから、大きな効果があるのです。
◆ 1点アースの効果が無いのであれば、共通インピーダンスは有っても、多点アース の方が良いということです。多点アース とは、1 点アースの逆で、それぞれの場所に、個別に、グラウンド/接地することです。図.19は、複数の機器を接地する場合の多点アースの例です。
[図.19] 多点アース
◆ 複数の筐体を、ピットの上に並べた例です。共通インピーダンスによる影響を避けるために、グラウンドのインピーダンスをできるだけ低くする必要があります。このために、ピットの底に、銅版を敷いて、これをグラウンドとしています。
◆ プリント基板も、高周波では、多点アースを使用します。プリント基板で、多点アースのインピーダンスを、最も低くする手段が、ベタパターン です。ベタパターンは、基板面をべったりと平面的にパターンとしたものです(図.20)。
◆ 図は、グラウンドをベタパターンにしたものですから、ベタアース と呼んでいます。
[注] ベタアースも慣用語です。
この例では、全面をベタにしないで、一部分を通常のパターンにしています。完全なベタではなく、この程度の例外があっても、ベタアースと呼びます。電源にもベタパターンを使用します。これをベタ V といいます。ロジック回路用の主電源を VCC と呼んでいるので、この VCC の V を取ったものです。VCC 以外の電源でもベタ V と呼んで差しつかえあリません。
◆ 図.16 と同様な実験で、ベタアースを使用したときの波形を、図.21に示します。
◆ 1 点アースの図.18 と比較すると若干劣りますが、十分良好な波形です(スケール等は、図.18 と同じです)。1 点アースと比較するために、1 点アースと同じ周波数の信号を使用していますが、ベタパターンは、1 点アースと異なり、高周波まで良好に動作します。
プリント基板で、最も多く使われているのは2 層基板 です。プリント基板の両面を配線パターンに使用した基板です。両面基板 とも呼ばれています。
アナログの2層基板では、通常、基板の1層を、ベタアースとし、他の1層に電源と信号パターンを配置した基板が、使用されてきました。このとき、やむを得ない部分は、ベタアースの面を、信号等に使用します。図.20はこの例です。
◆ しかし、本来、グラウンドと電源とは対等なはずです。この意味では、グラウンドだけをベタにし、電源をベタにしないのは片手落ちです。
これを考慮して、電源とグラウンドとを対等にベタにしたパターンの例を、図.22に示します。
◆ 実際には、信号パターンのために、この様にはうまくは行きませんが、考え方を示しました。真のベタV とベタアースとを使用するためには、2 層基板では間に合いません。4 層基板が必要です。
◆ アナログ回路は、ディジタル回路よりもノイズ対策の必要度が高いために、従来から、1点アースさらにはベタパターンが使用されてきました。これに対して、デイジタル基板では、1点アース、ベタパターンという考え方は、あまりありませんでした。しかし、回路の高速化に伴なって、デイジタル基板においてもノイズ対策の必要性が増大しています。デイジタル基板においても、ベタパターンは有効であり、活用が望まれます。
◆ ディジタル基板では、信号線が多いので2層基板では、全面的なベタは不可能です。しかし、ベタパターンの考え方を取り入れて、ノイズに強くすることができます。信号パターンが無く、空間になっている部分を、ベタパターンで埋めてしまおうという考え方です(図.23)。
◆ 図では、信号のパターンは、元のまま動かさないで、単に空き地を埋めています。しかし、べたの部分を増やす目的で、信号のパターンを動かせば、さらにベタの部分を増やすことができます。
ただし、単に、ベタの部分を作っても、そのベタが浮いていたのでは、効果がありません。このベタを、互いに連結して、ベタアース、またはベタVのどちらかにすることが必要です。浮いているとは、どこにも繋がっていないで、独立したパターンのことです。浮いたところは、ノイズ対策上は、大きなマイナスです。
すなわち、浮いたところは、アンテナとなって、ノイズを拾い、そのノイズを周囲に撒き散らします。また、浮いたところには、静電気が帯電します。この電圧が高くなると、放電します。静電気放電は、極めて大きなノイズです。
電子回路では、浮いたところを作らないことが鉄則です。
◆ 電源線とグラウンド線とで構成されれる電源回路のインピーダンスは、できるだけ低いことが必要です。
パターンは導線と同様にインダクタンスを持っています。インダクタンスのインピーダンスは、周波数に比例して高くなります。パターンを太くすれば、インピーダンスは下がりますが、それだけでは不十分です。電源線とグラウンド線との間に、コンデンサを挿入して、高周波をバイパスさせることによって、インピーダンスを低くします。
◆ このコンデンサのことをパスコン と呼んでいます(図.24)。
◆ パスコンは、アナログ回路でも必要です。また、プラス/マイナスなどの複数電源を使用する回路では、各々の電源とグラウンドとの間にパスコンを挿入します(図.25)。
◆ ベタアースとベタVとが基板をはさんで互いに対向していると、このベタアースとベタVとの間でコンデンサを形成します。これがパスコンの役割を果たします。これだけで、パスコンに代わる効果はありませんが、設置したパスコンの良い補助になることは確かです。しかも、極めて有効な補助です。
コンデンサは、回路図に無い回路で,高周波ではインダクタになってしまいます(1.図.3)。この大きな要因は、コンデンサのリードです。コンデンサのリードが持つインダクダンスが高周波で、効いてくるのです。ベタパターンにより形成されるコンデンサには、リードがありません、したがって、キャパシタンスの値は小さいのですが、高周波で非常に良く効くコンデンサです。
◆ ただし、ベタアース相互、またはベタ V 相互が対向している場合には、コンデンサを形成しません。ベタアースとベタ V のパターンが対向しているときに、コンデンサを形成します。パターン設計のとき、うまく、コンデンサになるように、ベタのパターンを電源とグラウンドとに振り分ける必要があります。プリント基板は、もともと全面の銅箔を溶かしてパターンを作ります。この溶かす部分を減らせば、ベタパターンになるわけです。コストゼロのノイズ対策という意味で、優れた方法です。
◆ 最近では、高密度実装のために、多層基板 が使われています。多層基板の代表例が4層基板 です(図.26)。
◆ 4層基板は、2 層が、信号配線で、残りの 2 層は、電源(ベタV)とグラウンド(ベタアース)です。したがって、単に高密度実装というだけでなく、ノイズ耐性の点でも優れた基板です。ただし、2 層基板と比較して高価ですから、高密度実装が不要で、ノイズ対策だけのために実施するのはコストアップになります。
◆ グラウンドループ は、ノイズ対策上マイナスの要因です。グラウンドの配線が、ループ状になっているものを、グラウンドループと言います。グラウンドループの名が付いていますが、グラウンドに限らず、電源でも、さらには信号線でも同じ問題があります。とくにグラウンドで多く問題になるので、この名が付いたのでしょう。
電流と磁力線とは相互作用があります。電流が流れると、その電流に対応して磁力線が発生します(5.(1-C)。
逆に、ループ状の導線を通る磁力線が変化すると、電流が流れます(図.27)。
◆ この電流が、ループ中のインピーダンスに流れれば、電圧(ノイズ)が発生します。これを防ぐための第 1 の原則は、ループ状の配線を作らないことです。しかし注意しないと、グラウンドループは随所にできます(図.28)。
◆ プリント基板の周囲をグラウンドパターンで囲むことは、完全なシールドではありませんが、かなりのシールド効果を期待することができます。しかし、図のようにループを作ってしまうと逆効果です。対策としては、パターンの1箇所を切って、ループを開けば良いわけです。
(b)のシールド線は、シールドが浮いた状態では、シールド効果がありません(8.(2))。接地する必要があります。しかし、大地は導体ですから、図のように両端を接地すると、グラウンドループができてしまいます。片側だけを接地します。このようにすれば、接地の効果もあり、グラウンドループも防ぐことができます。
◆ ところが、実際には、必ずしもその通りではありません。上記のことは、静電誘導が原因であるとすれば、正解です。ところが、周波数が高くなると、静電誘導よりも電磁誘導が効いてきます。電磁誘導の場合には、シールドに電流を流すことによって、シールド効果があります。電流を流すためには、ループになっていることが必要です。
◆ シールド線のシールド効果についての、実験結果があります。図.29は、シールド線を、片側接地したときと、両側接地したときのシールド効果を比較した実験の実験回路です。図.30はその実験結果の例です。
◆ 図.30の縦軸は、両側接地で、周波数が 500kHz のときを 1 とした、相対的なノイズの大きさです。周波数によって、効き方が、交差しています。
この例からからも分かるように、ノイズの問題は、状況によって対策が相反することがあります。これが、ノイズ問題の難しいところです。
◆ グラウンドループは、ストレキャパシタンスによっても発生します。さきに1点アースがストレキャパシタンスために機能しなくなり、結果として、多点アースの方が良い場合があることを説明しました。これは、ストレキャパシタンスによってグラウンドループができてしまうことが原因と考えられます(図.31)。
◆ 互いに距離が離れた機器が信号線で結ばれ、信号のやり取りをしている場合を考えます。
信号を伝えるためには回路を構成していなければなりませんから、信号の戻り線が必要です(図.32)。
◆ このとき、図のように、両方の機器を共に接地すると、グラウンドループができてしまいます。グラウンドループは、好ましくありません。
また、単にグラウンドループができるだけではありません。もう 1 つ別の問題があります。大地は、安定した電位を持っていますが、距離が離れていると、その電位は等しくありません(図.33)。
◆ この場所による大地の電位差は、コモンモード電圧です。
これらの問題を避けるために、どちらか一方、たとえば機器 B を大地から浮かせる必要があります。ところが、片方を浮かせても、まだ問題が残ります。機器 B を接地しないで大地から浮かせたとしても、機器と大地との間には、ストレキャパシタンスがあリます。このため、高周波では、このストレキャパシタンスにより、グラウンドループができて、ノイズトラブルが発生することがあります。
この問題を、完全に解決するためには、絶縁と呼ばれる対策が必要になります(第 19 章参照)。
★ アースは、元々は、地面のことです。地球が太陽を回る惑星であることが分かってから、地球という意味が、でてきたのでしょう。グラウンドも、地面ですが、グラウンドの方は、地球という意味には、用いられていません。
★ グラウンドは、むしろ、運動場、競技場の意味で、用いられています。この運動場、競技場の意味のときは、フィールドの言葉も使われています。ただし、厳密に言えば、フィールドは、下図左の写真で、中央の緑の部分です。その周囲は、トラックです。フィールドとは、いいません。
★ フィールドの、元の意味は、原野、牧草地、田畑などのことです。この意味では、上図右側の競技場の方が、フィールドの名にふさわしいかも知れません。
★ さて、接地について、2〜3 の補足です。
感電については、9.(1-C) で触れましたが、下図左は、感電の電流とその持続時間に対する、人体への生理的影響です。
AC-1 ; 通常は知覚されない
AC-2 ; 通常は有害な生理学的影響はない
AC-3 ; 筋肉の痙攣、呼吸困難、一時的な心拍停止や心房細動の可能性がある
AC-4 : AC-3 のものに加え、呼吸停止、心拍停止、熱傷などの可能性がある
下図右は、静電気放電において、帯電物体のキャパシタンスと帯電電圧に対する、安全と見なすことができる範囲を示したものです。
★ 下図は、ビルにおける、総合接地システムの一例です。
★ 下図は、接地極の長さと接地インピーダンスの関係です。