◆ ここで、ドライバ/レシーバ△は、デイジタル回路のドライバ とレシーバ です。アナログのドライバ/レシーバについては、4.(5)に示します。
ドライバとレシーバにも、平衡と不平衡とがあります。
◆ 平衡ドライバ は、出力が平衡なドライバです。ディファレンシャル形ドライバ 、差動形ドライバ 等とも呼ばれています。
通常は、入力が不平衡で、不平衡/平衡の変換機能を持ちます(図 11)。入力が不平衡なのは、通常のディジタルIC と接続されるからです。通常のディジタル IC は、不平衡です。入力、出力ともに、平衡なものも、あります。
◆ 平衡回路の出力は、あらゆる意味で対等です。信号レベルについても対等で、0 と 1 は、次のようになります。
出力 + | 出力 − | |
0 | ロー | ハイ |
1 | ハイ | ロー |
◆ ディファレンシャル形ドライバの代表例に、RS422 およびRS485 のドライバがあります。RS422/485 は、通信に関する規格の番号です。
RS422/485 のドライバは、+5V単電源で動作し、出力のレベルは、ハイが約3 V、ローが約 0V です。したがって、グラウンドに対して、約 1.5V のコモンモード電圧を持っています。
◆ 通信における別の規格に、RS232C があります。RS232C のドライバは、RS422/485 よりも広く使われています。しかし、RS232C は、不平衡です。出力は、ハイが >+5V、ローが <-5Vで、プラス/マイナスに振れます。しかし、戻り線は、共通のグラウンド線を使用していますから、不平衡です。
不平衡ですから、RS422/485 よりも性能はかなり落ちます。しかし、信号の振れ幅が大きいので、一般のディジタル IC よりも、ノイズに強くなっています。
[注] RS232C は、以前多く使われていましたが、現在では、ほとんど使われていません。RS422/RS485 は、現在でも使われていますが、少なくなっています。現在多く使われているのは、短距離では USB、長距離では LAN です。USB は平衡形、LAN は、いろいろな方式がありますが、多く使用されているのは不平衡形です。
◆ 平衡レシーバ は、入力が平衡なレシーバで、ディファレンシャル形レシーバ 、差動形レシーバ とも呼ばれています。
これも通常は、入力が平衡で、出力は通常のディジタル IC と接続されるので、不平衡です(図 12)。2 つの入力の差電圧(ノーマルモード電圧)で動作し、コモンモードを除去します。
◆ RS422/485 のレシーバも、平衡形ですが、+5V 単電源で動作します。それでいて、グラウンドに対して、±10〜14V程度の入力電圧範囲で動作します。かつその範囲のコモンモード電圧があっても動作します。
したがって、ノイズには随分強くなっています。しかし、当然、入力電圧範囲が上記の値を超えれば、動作できません。
[注] 一般の IC では、動作可能な、入力電圧の範囲は、ほぼ、グラウンドから、電源電圧の範囲です。
◆ アナログ回路も、必要に応じて、平衡回路を使用します。
アナログ回路では、一般にオペアンプが使用されます。オペアンプ自体は、図.12 の平衡レシーバと同様に、2 入力であり、入力は、差動で動作します。しかし、オペアンプを使用して組んだ、通常の増幅器(反転増幅器、非反転増幅器)は、入力、出力ともに、不平衡回路です。
◆ しかし、オペアンを組み合わせて、平衡形のドライバやレシーバを、作ることができます。アナログの差動形ドライバ回路(出力:平衡)の例を、図 13に示します。
◆ 2つの信号は、各々オペアンプによる増幅器で増幅して出力します。一方の入力はそのまま、他方の入力は反転させることによって、差動出力を作っています。
オペアンプを使用すれば、簡単に増幅することができます。増幅して信号レベルを高くすれば、平衡ドライバを使用しないで、不平衡のままでも、容易に、信号を送ることができます。
◆ 通常、プリント基板内のオペアンプ回路は、不平衡回路を使用します。平衡回路を必要とするのは、低レベル信号、および、基板外の長距離伝送です。
◆ 差動レシーバは、センサ出力などの信号を受けるのに使用します。センサ出力は、微小電圧であると同時に、相対的に大きなコモンモード電圧を、持つことが多いからです。したがって、増幅器を兼ねることが多く、その場合の例を図.14に示します。
ここで、
R1 = R2、R 3= R4
です。この回路の増幅率 K は、
K = R3 / R1
です。
◆ オペアンプは、それ自身の入力インピーダンスは高いのですが、上記の差動増幅器や、反転増幅器では、レシーバの入力が、抵抗となっているために、レシーバとしての入力インピーダンスは、その抵抗の抵抗値です。したがって、あまり高くはありません。
◆ センサは、その信号源インピーダンスが、高いことが多いので、レシーバの入力インピーダンスが高いことが要求される場合が多いのです(15.(3-B)参照)。このようなときは、非反転増幅器を使用します。非反転増幅器の入力は、不平衡です。入力が、平衡であることが要求される場合は、図 15 のレシーバを使用します。
◆ この回路は、センサ出力の増幅に使用されることが多いことから、計装用増幅器 (インスツルメンテーション・アンプリファイア )と呼ばれています。
1段目の増幅器の入力は、ハイインピーダンスです。また、2段増幅なので、必要なら、増幅率を大きく取ることができます。
★ オペアンプ は、最も基本的な、アナログ IC です。オペアンプは、オペレーショナル・アンプリファイアの略で、OPアンプ とも呼ばれています。
オペレーショナルは、名詞 オペレーション を形容詞にしたものですが、オペレーションは、要するに、何であっても、それを操作したり運営すれば、すべて、オペレーションです。
★ ですから、オペレーションの対象となる分野によって、日本語訳が異なります。たとえば、医学の外科では手術ですし、商業では取引です。また、軍事では作戦になります。オペアンプの場合には、数学用語で、演算を意味します。
★ オペアンプは、増幅器や増幅器応用回路を作るための、構成要素であり、それ自体が完成された増幅器ではありません。オペアンプを、下図に示します。
★ 入力は平衡入力であり、出力は不平衡出力です。増幅率 A は、理想的には、図に示すように∞であり、実際にも、非常に大きな値(たとえば、104)
ただし増幅回路を組むと、下記に示す通常の組み方では、入出力共に不平衡になります。
入力を平衡にするためには、図.14、図.15 に示したような回路を、出力を平衡にするためには、図.13 に示したような回路を、組む必要があります。
オペアンプ単体の入力 V1、V2 と出力 V3 の関係は、
V3 = K(V1-V2)
であり、K は増幅率です。K は理想的には無限大(実用上は十分大きい値、通常 ≫10000)です。また、理想的には、入力インピーダンスは無限大であり、出力インピーダンスはゼロです。
★ 実際の増幅器は、オペアンプ単体の増幅率 K よりも遥かに小さい、有限の増幅率で動作します。フィードバックを掛けることによって、実際の増幅器を構成します。
基本的な増幅器に、反転増幅器 、非反転増幅器 と呼ばれる、2種類があります。
★ 図で、抵抗 R2 を介して信号がオペアンプの出力から入力に戻っています。このように、信号が出力側から入力側に戻ることを、フィードバック といいます。
オペアンプは、フィードバックを掛けることによって、ほぼ理想的な増幅器を構成します。すなわち外付けの抵抗だけで、オペアンプ回路の特性が決まります。なお、外付けの抵抗を、インピーダンスに置き換えると、さらに一般化した各種の増幅回路を構成することができます。
オペアンプ回路は、オペアンプ単体の増幅率が、実用上無限大であるため、フィードバックを組んだ状態では、2 つの入力端子の電圧が等しくなります。
したがって、反転増幅器においては、−側の入力端子の電圧は、グラウンド、すなわち 0 です。非反転増幅器では、−側の入力端子の電圧は、外部からの入力電圧 V1 となります。そして、オペアンプの入力インピーダンスは、無限大です。
★ その結果として、上述のように、オペアンプの存在を無視して、外付け抵抗だけで、オームの法則によって、各部の電圧と電流が求まります。
以上から、反転増幅器の増幅率 KI、非反転増幅器の増幅率 KN は、それぞれ、
KI = -R2 / R1
KN = R2 / (R1 + R2)
となります。
★ 等価とは、価値(価格)が、等しいことです。等価交換という、言葉があります。等価交換とは、価格が等しいと考えられる物件を、金銭の授受無しに、交換することです。等価交換は、不動産の取引などに多いようです。
★ 複雑な回路であっても、その回路の入力を外から見たとき、その回路の入力は、ある一定のインピーダンス ZI を持っているように見えます。
このインピーダンス ZI を、その回路の(等価)入力インピーダンス といいます。
これを逆に眺めて、入力側から見た回路のことを、負荷 と言います。
★ 同様に、複雑な回路であっても、その回路を外から見たとき、その回路の出力は、ある一定のインピーダンス ZO を持っているように見えます。
このインピーダンス ZO を、その回路の(等価)出力インピーダンス といいます。
★ 上記の図には、信号源 が入って入ます。通常出力はゼロではありませんから、信号源を含みます。信号源は、理想的には、出力電流値に関わらず一定の電圧を出力する定電圧源 、出力電圧値に関わらず一定の電流を出力する定電流源 、とがあります。上記の図の信号源は、定電圧源です。
その回路自身が信号源を持っていなくても、その回路が動作しているということは、信号源があるはずです。その回路以前の回路からの入力があり、そこに、信号源があります。
[注] 厳密には、「等価入力インピーダンス」、「等価出力インピーダンス」と、「等価」の文字を付けるべきですが、一般には、単に「入力インピーダンス」、「出力インピーダンス」と呼んでいます。とくに「等価」であることを強調したいときは、「等価」を冠すると良いでしょう。
★ 最も簡単な回路は、1 つの出力に、1 つの入力を、つないだものです。たとえば、測定対象の出力に電圧計を接続して、電圧を測る回路は、これに該当します。
この場合、実際に計測される電圧は、測定対象の真の電圧 E では無く、Em です。この誤差を、無視できる程度にするためには、Ri ≫ Ro とする必要があります。
◆ 以上のことから分かるように、平衡は、ノイズを受けないようにする力はありません。
しかし、平衡であると、外部からノイズを受けたとき、そのノイズは、コモンモードとして受け入れ、ノーマルモードにはならないという、性質があります。また、受けてしまったノイズを、コモンモードのまま伝え、ノーマルモードに化けさせないという、性質があります。
コモンモードノイズは、モードの差を利用して、たとえばディファレンシャル形レシーバを使用して、信号と分離することができます。
ノイズは、とにかく、受けないことが理想です。しかし、もし受けるとすれば、ノーマルモードよりも、コモンモードの方がマシです。
◆ ノイズ対策の第1は、ノーマルモードノイズを受けないことです。ノーマルモードノイズを受けないようにするために、コモンモードを受け易くなってしまったとしても、目をつむります。
平衡の効用は、この点にあります。
ただし、コモンモードノイズ源は、しばしば非常に強力です。
非常に大きなコモンモードノイズが乗ってくる可能性があります。しかし、きわめて大きなコモンモードノイズであっても、これを除去する手段が存在します。絶縁と呼ばれる手段です。この意味では、コモンモードを、気にする必要はありません。
◆ しかし、平衡は、不平衡に比べて、信号線の本数が多く必要です。
また不平衡回路に比べて、部品の点数が増えたり、高精度の部品を必要とする場合があります。
したがって、寸法が大きくなり、コストアップになります。
不平衡回路で十分間に合うなら、あえて平衡する必要はありません。平衡でなけれならない、ところだけを平衡にします。
一般の電子機器内部のディジタル回路は、ほとんどが不平衡回路で間に合います。すなわち、ディジタルICはノイズマージンを持っています(1.(6-A))。通常のノイズで誤動作することはありません。普通の TTL や C-MOS のディジタル IC は、不平衡回路です。
平衡を必要とするのは、通常伝送の部分です。したがって、インターフェース用の、ドライバとレシーバに、平衡形を用意しておけば良いわけです。
◆ アナログの不平衡回路では、乗ったノイズは誤差になります。
しかし信号レベルを高くすれば、相対的に S/N が高くなります。機器内部では、信号レベルを高くすることによって、不平衡回路を使用することができます。
従来アナログのオペアンプ回路の信号レベルを±10Vと、大きな値に取ることが多かったのは、この理由によります。
最近では、省電力や,高速化の目的で、アナログ回路の信号レベルを0〜5V、さらには0〜3Vなど、低く、かつ単電源にする傾向にあります。これは、アナログ素子の性能向上や、回路技術のアップも寄与しています。
しかし、信号レベルを低くすれば、とくに低レベル、高精度の回路では、ノイズ対策の強化が必要です。
◆ センサは、信号レベルが低いことも多く、原理的にセンサに大きなコモンモード信号が乗っているものがあります。
このような回路では、平衡回路が必要になります。また、インターフェース回路も、平衡回路の必要性が高い回路です。
なお、アナログ、ディジタルを問わず、長距離、すなわち通信においては、単に平衡だけなく、変調など、さらに高度な技術を必要とします。