◆ ディジタル IC は、論理演算を実行する IC です(5.2.(1-A))。ディジタル回路を設計するためには、先ず、実行すべき論理を、決めなければなりません。これを論理設計 といいます。そして、その論理を実現する、具体的な回路を、設計することになります(図 5.2-32)。これが回路設計 です。
◆ 論理設計の表現方法には、各種あります。最も基本的な、論理の表現方法は、真理値表です。ここに示したように、図記号の形で表すのが、分かりやすいでしょう。
論理を表すだけであれば、図の論理設計に示したように、論理が分かりやすいように、表現すれば、それで良いわけです。論理設計の結果を図の形で示したものが、論理図 です。
◆ しかし、実際の回路では、現実に存在する、ディジタル IC を使用して、所定の論理を実現しなければ、なりません。図の回路設計は、具体的な IC を使用して、回路を実現する段階です。回路設計の結果を図で表したものが、回路図 です。
◆ 同じ論理を実現するのに、どのような IC を、どのように組み合わせるかによって、何通りかの回路設計が可能です。
最も IC のコストが安くなる組み合わせ、最も IC 数が少なくなる組み合わせ、プリント基板面積が最小となる組み合わせなどが、考えられます。
デイジタル回路が使われはじめた当初は、ノーマル TTL ファミリしか、ありませんでしたから、これの組み合わせで、回路を構成していました。図 5.2-32は、この方式による回路構成です。
◆ ディジタル IC が開発されたことにより、それ以前の、トランジスタで組む回路にくらべて、革命的に、機器の小形化が、実現しました。しかし、回路規模が大きくなってくると、これでは、不充分で、さらに、LSI へと発展して行きます。
現在では、回路の中心は LSI であり、ロジックファミリは、補助として、部分的に使われる程度です。
◆ しかし、ディジタル IC を理解する基本ですから、以下に、ロジックファミリによる、ディジタル回路設計 の概要を、示します。
◆ フリップフロップで、アクティブ、非アクティブという言葉が、ありました。この、アクティブ /非アクティブ は、フリップフロップだけでなく、一般的な、概念です。通常は、論理の 1 (真)が、アクティブ、0 (偽)が非アクティブです。
しかし、この逆の対応も可能です。論理の 1 を非アクティブ(偽)に、0 をアクティブ(真)に対応させます。
◆ ディジタル IC は、単に、電圧が高い(H)、低い(L)によって動作します。たとえば、HC08 は、図 5.2-33のように動作します。
◆ このとき、ハイ(H)をアクティブ、ロー(L)を非アクティブと見なせば、この論理は、AND です(図 5.2-34)。
[図 5.2-34] ハイをアクティブと見なしたとき(ANDとして動作)
◆ しかし、同じ IC(ハードウェア)を、ローをアクティブ、ハイを非アクティブとして眺めれば、その論理は、OR になります(図 5.2.-35)。
[図 5.2-35] ローをアクティブと見なしたとき(ORとして動作)
◆ このように、1 つの IC は、2 つの顔を持っていて、2 つの論理として使用することができるのです。図は AND の例ですが、他の論理でも同様です。たとえば、NAND と NOR についても成立します。このことは、真理値表を作って確かめてみてください。
◆ ハイをアクティブと見なしたときの論理を正論理 、ローをアクティブと考えたときの論理を負論理 といいます。
IC の名称 (呼び名)は、ハイアクティブ、すなわち正論理で呼んでいます(図 5.2-36)。しかし、上述のように、同じものを、負論理として使用することが、できます。
◆ アクティブ/非アクティブ、正論理/負論理の区別は、論理図や回路図の上で表現することができます。逆にいうと、アクティブ/非アクティブ、正論理/負論理が、うまく表現されていないと、図面を正しく読むことが、できません。
論理記号 では、図 5.2.37 に示すように、アクティブ ローを表す丸印を付けます。図に示すように、丸印は、インバータと等価です。
◆ 以上を、2 入力のゲートの形でまとめると、図 5.2-38 のようになります。
[図 5.2-38] アクティブ H とアクティブ L の対応
◆ 論理図として、分かりやすく、したがって、最も普及している表記法に、MIL 表記 があります。
本来、論理を表現する論理図と、回路を示す回路図とは、別のものです。しかし、論理図と回路図とは、類似のものです。図面を 2 種類作らないで、1 つで済ます方が、効率的です。MIL 表記は、論理図と回路図とを、兼ねることができます。この点で、MIL 表記は、優れた表記法です。
◆ MIL 表記法を、具体例で示します(図 5.2-39)。
◆ 図から分かるように、MIL 表記では、論理記号は、IC の名称による論理ではなく、図 5.2-38 に示した、実際に使用している論理を表しています。したがって、図 5.2-38 に示した「H レベルに注目」と、「L レベルに注目」とが、同じ IC であることを、しっかり頭に叩き込んでおかないと、一見して分かりやすい図面とは言えません。
MIL 表記では、配線が、ハイアクティブであるか、ローアクティブであるかも、示されています。
MIL 表記は、慣れれば、そのまま見ても、よく分かります。しかし、はじめのうちは、図 5.2-40 のように、補って図面を見ると、分かりやすいでしょう。
★ MIL は、アメリカの軍規格です。
規格は、たとえば、日本では JIS(日本工業規格)が代表例です。一般に規格は、人間の「生活圏」で、その性能を発揮するように、定められています。
★ しかし、兵器だけでなく、軍用の物資は、軍事行動を行う可能性がある場所、熱い砂漠地帯や熱帯雨林、また北極や南極のような極地でも、その性能を100%発揮する必要があります。してがって、MIL スペックは、そのように、規定されています。材料からして、一般の規格と異なりますし、試験方法やその運用基準もまったく違ったものです。すなわち、MILスペックは、一般の規格よりも、「厳しい規格」です。
★ 現在、MILスペックはその数が2万件とも3万件とも言われています。航空機や電子通信システムなどの部品や材料のみならず、靴や帽子、缶詰や鉛筆削りといった生活用品や事務用品に至るまで何でもあります。
しかし、こういった特殊で高価なMIL規格品は、当然高価です。一般的な、生活用品や事務用品は、見直されて、特例以外は民生品に、とってかわるようになってきています。
MIL は、非常に幅広く、いろいろなものが、制定されています。論理記号や、回路図についても、MIL で規定されています。これが、よくできているので、世間一般で、利用されているのです。