電気と電子のお話

9. 電気・電子機器

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9.1. 電気機器

9.1.(1) 概   要 

◆  第 8 章までは、電気電子に関する基礎的なお話でした。この第 9 章では、具体的な、電気・電子機器のお話に入ります。
このお話しの、最初に述べたように、電気は、エネルギーの担い手として、仕事をする用途と、情報の担い手として、情報を処理する用途とに、大別することができます(図 1.1-18)。
◆  電気と電子は、同じものですが、常識的には、電気と電子の言葉は、図 1.1-4 に示したように、
     電気     : 用途が 照明・動力 のもの
     電子     : 用途が 情報処理 のもの
のように、使い分けています。ここでも、
     電気機器 : 照明・動力用機器
     電子機器 : 情報処理用機器
と、定義して、使い分けることにします。
◆  先ずは、電気機器の、お話からです。電気機器 は、上記のように、動力照明とに、大別されます(図 9.1-1)。

[図 9.1-1] 電気機器

電気機器

◆  動力機器 は、動力発生機器 と、動力消費機器 とに、分けられます。動力発生機器と動力消費機器は、ここで、仮に付けた名称で、動力発生機器は、発電機など、動力消費機器は、電動機などのことです。
なお、基本的には、同じ原理のものが、発電機としても、電動機としても使用できます(2.2.(4-A-c))。

9.1.(2) 電動機

9.1.(2-A) 電動機の種類

◆  電動機 (モータ )は、広義には、電気によって、駆動力を得て、変位を起こす機械です。たとえば、リニアモータは、直線的に変位します。しかし、一般には、電動機は、回転機械 (回転機 )です。
電動機には、いろいろな機種がありますから、分類も単純では、ありませんが、一応、図 9.1-2 のように、分けることが、できます。

[図 9.1-2] 電動機の種類

電動機の種類

◆  最も広く使われているのが、三相誘導電動機です。誘導電動機は、従来は、ほぼ一定回転数の用途に、限定されていました。それで、十分な用途が、多かったわけです。しかし、最近では、半導体技術の進歩によって、誘導電動機も、可変速を必要とする、制御用にも、使用されるように、なっています。
整流子電動機同期電動機も、それぞれの用途に使用されています。

9.1.(2-B) 整流子電動機

◆  整流子電動機 は、整流子を有する電動機です(図 9.1-3)。図のように、直流 電源を加えたときを、考えます。
電動機のコイル (回転子 コミュテータ 電機子 )が回転しても、整流子 ブラシ によって、電流が切り替わるため、一定方向に回転し続けます。直流電源で動作することから、直流電動機 (DC モータ )とも、呼ばれています。

[図 9.1-3] 整流子電動機

整流子電動機

◆  図 9.1-3 は、直流駆動ですが、整流子電動機は、交流でも、使用できます(図 9.1-4)。ただし、交流駆動のときは、図 9.1-4 のように、磁石電磁石とし、電動機の回転にしたがって、界磁 磁極を切り換えて、励磁する、必要があります。

[図 9.1-4] 整流子電動機(交流駆動)

整流子電動機(交流駆動)       整流子電動機(交流駆動)

◆  整流子電動機は、界磁コイル 電機子コイル の接続方法によって、図 9.1-5 に示す種類があります。

[図 9.1-5] 整流子電動機の種類

整流子電動機の種類

◆  直巻電動機 は、起動時の回転力が強く、また、電動機にかける電圧を上げることによって、高速に回転します。
     直巻電動機の回転数
ただし、N : 回転数、 V : 端子電圧、 I : 電機子電流、 R : 巻線抵抗、Φ : 磁束 、 k : 定数、 です。
◆  この特性から、電車の主電動機などに使われています。ただし、電車は、最近では、交流方式が多くなっています。
◆  直巻電動機は、電機子とともに回転する整流子に、ブラシを押し当てながら、電機子に電気を供給します(図 9.1-3)。整流子やブラシが摩耗するなど、保守性がよくないことが、直巻電動機の、欠点です。
直巻電動機は、交流でも使用できますから、電動工具 や、電気掃除機などのように、高速回転が必要な、家庭電気にも、使われています(図 9.1-6)

[図 9.1-6] 直巻電動機の応用製品

直巻電動機の応用製品       直巻電動機の応用製品

◆  分巻電動機 は、負荷による速度変化が少ないので(図.9.1-7)、定速度電動機として、広く用いられています。
複巻電動機 は、分巻電動機と直巻電動機の中間の特性を有します。すなわち、分巻電動機の始動トルクの小さいのを補償し、一方、直巻電動機の軽負荷時における、過速度の危険を、排除します。
◆  他励磁電動機 は、界磁コイルと電機子コイルの、電源を、別々に接続し、両方の電流を制御します。これによって、広範囲の速度制御を行なうことが、できます。
◆  以上の、整流子電動機の特性を、図 9.1-7 に示します。

[図 9.1-7] 整流子電動機の特性

整流子電動機の特性

◆  整流子電動機は、正転、逆転、ブレーキの制御を行うことが、できます(図 9.1-8)。

[図 9.1-8] 整流子電動機の制御

整流子電動機の制御 整流子電動機の制御 整流子電動機の制御

9.1.(2-C) 誘導電動機

◆  最も広く使われているのが、誘導電動機 (インダクション モータ )です(図 9.1-9)。誘導電動機は、電磁誘導の原理を応用した電動機です。誘導電動機にも、いろいろな機種がありますが、3 相交流を使用する、かご形誘導電動機が、最も一般的です。図の写真は、かご形誘導電動機 で、右側は、その内部を示しています。内部写真の中央に見えるのが、回転子です。

[図 9.1-9] 誘導電動機

誘導電動機       誘導電動機内部

◆  かご形誘導電動機の多くは、三相誘導電動機 です。三相誘導電動機のコイルは、図 9.1-10 のように、なっています。三相誘導電動機では、三相誘導電動機の固定子 に、3 相交流を加えます。

[図 9.1-10] 三相誘導電動機

三相誘導電動機

◆  3 相誘導電動機の動作を、説明しましょう。3 相誘導電動機の固定子に、3 相電流を流すと、回転磁界 が発生します(図 9.1-11)。図では、特定の角度を示してありますが、連続的に、回転します。

[図 9.1-11] 回転磁界が発生する

回転磁界が発生する

◆  この回転磁界に、ほぼ同期して、回転子が回転します。この、回転のためのトルクは、回転磁界の回転数 (回転角速度 )に対して、回転子の回転数の方が、低いことによって、発生します(図 9.1-12)。

[図 9.1-12] トルク発生の条件

トルク発生の条件

◆  この回転数の ずれ を、回転数に対する比の形で表したものを、すべり といい、これを、周波数の形で表したものを、すべり周波数 といいます。
誘導電動機の速度 N は、電動機の極数 を P、すべりを s、加える電圧の周波数を f とすれば、
     eq1
で、与えられます。
◆  誘導電動機の、最も一般的な使い方は、商用電源に接続して使います。したがって、周波数 f は、一定です(50 、60 Hz)。また、電動機の極数も一定です。負荷の大きさによって、すべりの大きさは、変化します。しかし、すべりの大きさの変化は、通常、数%程度です。
誘導電動機の通常の使い方では、誘導電動機は、おおよそ、定速と考えて、差し支えありません。
◆  誘導電動機の特徴は、次の通りです。
(1) 構造がシンプルで堅固なため、信頼性が高い。
(2) スリップリングが無いので、保守性に、優れている。
(3) 運転効率が良い。
(4) 安価で入手が容易である。
◆  スリップリング は、固定部分と回転体とを、電気的に接続する装置です(図 9.1-13)。整流子電動機整流子は、スリップリングです。スリップリングは、磨耗するので、消耗品です。誘導電動機には、スリップリングが、ありません。

[図 9.1-13] スリップリング

スリップリング

◆  誘導電動機に限らず、電動機は、回転しているときは、同時に、発電機になっています。発電機としての、起電力が発生します。この起電力は、電動機に加える電圧と、逆向きです。この逆向きの起電力と、電動機に加える電圧とが、バランスして、無負荷であっても、一定の回転をします。誘導電動機では、無負荷時には、すべりはゼロです。
◆  ところが、電動機の起動 時は、回転がゼロから、スタートします。回転がゼロのときは、逆向きの起電力が、ありませんから、大電流が流れます。小形の電動機は別として、起動時の電流を、制限することが必要です。
◆  3 相誘導電動機では、スターデルタ方式 で、これに対応することができます(図 9.1-14)。スター結線 で起動し、定常時は、デルタ結線 とします。

[図 9.1-14] スターデルタ方式の起動

スター結線       デルタ結線

◆  直流電動機については、電車の例を、説明します。基本的には、起動時に、抵抗を直列に入れて、電流を制限します(図 9.1-15)。

[図 9.1-15] 抵抗制御回路のイメージ

抵抗制御回路のイメージ

◆  誘導電動機は、可変速を必要とする、制御用には、向きませんでした。誘導電動機も、誘導電動機に加える電圧を連続的に変化させることによって、回転数を、連続的に変えることができます。しかし、電動機に加える電圧を変えるために、抵抗を挿入し、抵抗の電圧降下を利用する方法は、損失が大きくて、実用性が、ありません。これと同等の結果が得られる、スイッチング制御を行うことによって、その、回転数を制御することも、できます(たとえば、位相制御)。しかし、位相制御には、応答性が、悪いという欠点があります。
◆  誘導電動機は、加える電圧の周波数を変化させるなら、周波数に、ほぼ比例して、速度を変えることが、できます。
従来は、電源の周波数を可変とすることが、困難でした。だから、誘導電動機は、制御に、向かなかったのです。
◆  最近では、インバータなどの、半導体技術、いわゆるパワーエレクトロニクスの発展によって、周波数を変えることが、容易になっています。このため、可変速の用途、たとえば、新幹線の電車などに、誘導電動機が、広く使われるように、なっています(図 9.1-16)。

[図 9.1-16] 誘導電動機で走る新幹線の列車

誘導電動機で走る新幹線の列車

◆  誘導電動機は、3 相が基本ですが、一般家庭用の冷蔵庫や扇風機など、3 相電源が得られない ところ には、単相誘導電動機 が、使われています(図 9.1-17)。

[図 9.1-17] 単相誘導電動機

単相誘導電動機

◆  単相誘導電動機は、主コイルだけでは、回転磁界が発生しませんが、一旦回り始めると、誘導電流が流れて、回転を続けます。単相誘導電動機は、回転を開始させるための、起動装置 が必要です。単相誘導電動機の起動装置の例を、示します(図 9.1-18)。図の遠心力スイッチは、起動された後に、回転数があがったときに、起動回路を、自動的に切断するための、スイッチです。

[図 9.1-18] 単相誘導電動機の起動装置

単相誘導電動機の起動装置

◆  コンデンサを外付けする代わりに、隅取りコイルを使用した、隈取りコイル形 単相誘導電動機も、あります(図 9.1-19)。図の、水色のリングが、隈取りコイルです。

[図 9.1-19] 隈取りコイル形単相誘導電動機

隈取りコイル形単相誘導電動機       隈取りコイル形単相誘導電動機


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