電気と電子のお話

9. 電気・電子機器

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9.1. 電気機器

9.1.(2) 電動機

[コラム 9.1-1] 動力とトルク

★ 動力 (パワー)の単位は、ワット(W)ですが、馬力 も動力の単位です。ジェームス・ワットが、蒸気機関 を発明したとき、蒸気機関がどのくらいの力で仕事ができるかを、数字で表すことを、考えました。当時は重いものをひっぱったり、運んだりするのは馬や牛でした。

荷物を運ぶ馬

★ ワット は、実際に荷馬車用の馬に、力仕事をさせて、の大きさを決めたのです。1 分間に33,000 ポンド[約15トン]の重さのものを1フィート[約30センチ]動かす仕事ができる力を、1 馬力と決めました。これは、文字通り、1 頭の馬が仕事をするときの力です。
★ 人間は、力仕事よりも、頭脳の力ゆえに優れているわけですが、人間を、動力として評価すると、どの程度でしょうか。

人間の動力としての評価

★ ツール・ド・フランスというのは、世界最高峰の、自転車ロードレースです。

ツール・ド・フランス

★ さて、動力の単位は、いろいろ あります。

動力の単位

★ 図で熱量に関する単位が、あります。熱量と仕事とは、同じですから、換算することが、できます。
★ トルク は、物体を回転させることができる力で、ねじりモーメント とも呼ばれます。トルクは正確には力ではなく、力と距離との積で表される、量(力のモーメント )です。
すなわち、トルク N は、物体に加わる力を F、回転の軸からみた力の加わる点までの距離(ベクトル)を r とすれば、
     N = r × F
です。
★ ここで、トルク N も、ベクトルであり、N の向きを進行方向とする、右ねじ回りに、物体を回転させます。トルクの単位は、N m (ニュートンメートル)です。
上の式から、腕の長さが長い方が、物体を回転させる効果が、大きいことが、分かります。
★ トルクだけでなく、回転運動に関連した単位を、まとめて置きます。同等の、直進運動と対比させて、あります。

回転に関連した単位





[コラム 9.1-2] インバータ

★ インバータは、インバートする装置です。そのインバートは、上下を逆にする、内側と外側を逆にする、など、要するに、ひっくり返すことです。ディジタル ICインバータは、ハイローとを、反転させる素子です。
この意味では、ひっくり返すものは、何でも、全て、インバータです。童話の、鏡の国のアリスは、インバートされた世界です。

鏡の国のアリス       鏡の国のアリス

★ 直流交流の変換機は、フルネームなら、DC/AC インバータ です。しかし、通常は、この、直流→交流の変換機器のことを、単に、インバータ と呼んでいます。
交流→直流の変換機には、元々、整流器(レクチファイア )の名が付いていました。整流器よりも、新しい製品である、直流→交流の変換器の方を、インバータと呼ぶように、なったのでしょう。
★ 交流を、直流に変換して、その直流を別の交流に変換する装置のことも、インバータと呼んでいます。
私たちの周りにある、最も普通の電源は、交流の商用電源(50/60 Hz、100/200 V)です。商用電源以外の交流が、ほしい場合、電圧だけを変えるなら、変圧器で済みます。しかし、周波数を変えたいときは、商用電源の交流を、一旦直流に変えてから、所要の交流に変換する必要が、あります。
★ 誘導電動機は、本文で述べたように、構造がシンプルで、運転効率が高く、しかも安価な、電動機です。しかし、商用電源で、誘導電動機を、使用する場合には、電動機の極数を切り換えて、段階的に、速度を変えることは、できますが、回転数を、連続的に変化させることは、できません。
★ 出力周波数が可変のインバータと、組み合わせることによって、この問題が、解決します。これを、インバータ制御 と、いいます。

インバータ制御

★ インバータは、その機能によって、いくつかに、種類分けされます。インバータの出力は、電圧と周波数ですが、その出力が、固定のものと、可変のものとが、あります。
     CVCF    : 電圧固定、 周波数固定
     CVVF    : 電圧固定、 周波数可変
     VVCF    : 電圧可変、 周波数固定
     VVVF    : 電圧可変、 周波数可変
★ インバータは、大きな装置や列車 の制御から、蛍光灯の制御まで、用途も、大小、様々です。

装置用インバータ     インバータユニット     インバータタイプ蛍光ランプ

★ 蛍光灯には、インバータを使用する、もう一つの利点が、あります。それは、ちらつき を無くすことです。蛍光灯を、商用電源で点灯すると、電源周波数に起因する、100〜120 Hz の、ちらつき が発生します。この周波数で明るさが、変動しても、それだけでは、人間の目には感じません。
★ しかし、蛍光灯に照らされた物体が、移動すると、ちらつきが目立ちます。蛍光灯に向かって手をかざし、その手を振ると、この現象が、良く分かります。
インバータ蛍光灯でも、ちらついているはずですが、ちらつきの周波数が高いので、手を振ったりしても、人の目には、感じません。




9.1.(2-D) 同期電動機

◆  同期電動機 は、誘導電動機回転子コイルを、磁石に変えた構造です(磁石が永久磁石のとき、永久磁石同期電動機 )。同期電動機は、すべりの発生が無く、回転子は、加えた電圧の周波数に、同期して、回転します。同期電動機は、電気自動車 にも、使われています(図 9.1-20 )。

[図 9.1-20] 同期電動機と その応用

同期電動機       同期電動機を使った電気自動車

◆  単相の同期電動機は、電気時計 に、使われています。電気時計は、電源周波数に同期して動きます。商用電源は、電気時計に使用されることを前提に、調整されています。商用電源の周波数は、長期間にわたる、積分的な狂いが、無いように、なっています。したがって、停電が無い限り、電気時計を、調整する必要は、ありません。
◆  シンクロ電機 は、通称セルシン とよばれ、回転軸の回転位置を、計測するのに、用いられています(図 9.1-21)。図のように、2 つを組にして使用します。一方を回転させると、他方は、それに同期して回転します。

[図 9.1-21] シンクロ電機

シンクロ電機

◆  レゾルバ は、回転角度 センサです(図 9.1-22)。図に示すように、励磁 正弦波と、出力正弦波との位相差が、信号になります。

[図 9.1-22] レゾルバ

レゾルバ       レゾルバ

◆  ステッピングモータ (ステップモータ パルスモータ )は、ディジタル入力(パルス数)で駆動され、回転角度が、パルス数に比例する、電動機です。専ら、アクチュエータとして使用されます。
◆  ヒステリシス同期電動機 は、回転子に、円筒形のヒステリシスの大きな常磁性体、固定子に二相巻線を用いた、小型同期電動機です。その特徴は、
     自己始動性(起動装置が無くても始動すること)を持つ
     トルクの変動が小さい
     回転数の変化がほとんど無い
ことです。
◆  電磁石同期電動機 は、界磁電磁石を用いた同期電動機です。その特徴は、
     大容量のものが製作可能である
     界磁電流を変化させることによって、力率を変化させることができる
     界磁励磁のための電源回路と付帯装置が必要なので、高価である
ことです。

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