データ伝送web講座

13. 光ファイバ伝送

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13.1. 概   要

◆  電気は、信号の処理に適していますが、ノイズに弱いという問題があります。光ファイバ伝送 は、電気式伝送と比べて、ノイズに強いこと、高速、長距離が可能という、2 つの大きな特徴があります。
これを含み、光ファイバ伝送を、電気の伝送と比較すると、表.1 のようになります。

[表.1] 光ファイバ伝送と電気伝送の比較

項目 光ファイバ伝送 電気伝送

伝送速度 より高速 より低速
伝送距離 より長距離 より短距離
減衰の周波数特性 フラット 高周波で減衰
耐ノイズ性 強い 弱い


接 続 面倒・高価 容易・安価
分 岐 面倒・高価 容易・安価

◆ 表から分かるように、全体として、性能面では、光ファイバ伝送が優れ、施工面では、電気伝送が勝っています。
光ファイバ伝送は、幹線系の通信で、最初に普及しました。1985 年には、旭川と鹿児島を結ぶ、3500km の日本縦貫光ファイバケーブルが、完成しています。高速大容量(コラム 1 参照)かつ長距離の点で、光を使用しなければ、増大する通信需要を賄うことが、できなっかたからです。
最近では、幹線だけでなく、広く、光ファイバの利用が進んでいます。プリント基板内の伝送にも、利用され始めています。

[コラム .1] 多重化

★ データ伝送において、複数のデータを同時に送る技術があります。これを多重化 と呼んでいます。主な多重化の手法に、次の 3 つがあります。

(a) 空間分割多重化
伝送の回線を複数引いて、それらを同時に使用します。

空間分割多重化

空間分割多重化は、単に、物理的に複数回線を並べるだけですから、ここでいう多重化の範囲には含めません。

(b) 周波数分割多重化
単に周波数多重化 とも言います。信号を、変調して、その搬送波の周波数を変えて、1 回線で送ります。

周波数分割多重化

★ 周波数が異なる信号は、交じり合っても、周波数の違いを利用して、特定の周波数の信号を分離して取り出すことができます。
光伝送では、周波数の言葉を使用しないで、波長と、いいます。周波数多重化と同じことですが、波長(分割)多重化、と呼んでいます。
★ 無線で送るときは、電波は空間に広がりますから、互いに電波が到達し合う範囲では、周波数分割多重化を行う必要があります。
人類共有の空間を有効に利用するために、無線では、免許制度があり、特定の周波数帯域を除いては、周波数の割り当てを受けなければなりません。
★ 光にも、空間伝送があります。しかし、光は直進性があり、かつシャープなビームにして送りますから、同じ波長を使用しても、混信の恐れはありませんから、免許無しに、自由に利用することが、できます。

(c) 時分割多重化
時間を分割して、その分割された時間帯を、複数のデータに割り付けます。この割り当てが繰り返しになり、それぞれのデータは、時間的に飛び飛びに使用します。

時分割多重化

★ 時分割多重化は、真に同時伝送しているのではありませんが、見かけ上同時ということです。
光ファイバ伝送は、高速が可能です。高速ですから、多数の伝送を同時に行うことができます。すなわt、時分割多重化を利用して、大容量の伝送が可能です。



13.2. 光伝送とは

13.2.(1) 光ファイバ伝送と光空間伝送

◆ 光は、電波と同じで、電磁波の 1 種です。しかし、同じ電磁波に属していても、周波数(波長)が違いますから、電波とは、性質が異なります。光を通信媒体に利用して、データを送る方式を、光伝送 といいます。
電波と同様に、空中を通す、光空間伝送 と、細い石英などのチューブを通す、光ファイバ伝送とがあります。光は直進しますから、光空間伝送は、互いに見通せることが必要です。
空間伝送よりも、光ファイバ伝送の方が、圧倒的に多く使用されています。
なお、光伝送といっても、ほとんどは、可視光ではなく、赤外線を使用しています。

13.2.(2) 伝送のやり方

◆ 電線を使って、電気信号を送る場合には、たとえば、電圧の高/低を利用して、ゼロと 1 とを識別して送ります(図.1)。

[図.1] データを送る

データを送る

◆ データの送り方には、1 ビットづつ送る直列伝送と、複数ビットを同時に送る並列伝送とがありますが、何れもデータは、時間的に逐次送ります。
の送り方では、ゼロは、1 ビットの時間幅 電圧低、1 は 1 ビットの時間幅 電圧高です(逆も可)。0 と 1 の、このような識別のしかたを、NRZ 符号といいます。
また、NRZ 符号のような符号を、直接伝送路に出力する、データの送り方を、べースバンド伝送 といいます。
◆ これに対して、電波や光を使ってデータを送るときは、電波や光の上にデータを載せて送ります(図.2)。

[図.2] 電波または光にデータを載せて送る

電波または光にデータを載せて送る

◆ データを載せる運び役を搬送波(キャリア)、データを載せることを変調と言い、変調された波形を変調波と呼びます。そして、変調された信号を、元のベースバンド信号に戻すことが、復調 です。
この例では、変調は、搬送波の振幅を、変えることによって、行っています。この方式を、電波の場合には、振幅変調 といいます。同じことなのですが、光の場合には、強度変調 と呼んでいます。光は、大きさ(振幅)を使わないで、強さ、強度 (パワー)で表すからです。
◆ なお、電気の場合には、搬送波の周波数を変える周波数変調 や、位相を変える位相変調 が、多く使用されています。電気の場合には、振幅変調よりも、周波数変調や位相変調の方が、伝送上の性質が、優れているからです。、
電線の中を、電気信号でデータを送る場合にも、交流を使って、図.2 のように送ることができます。これも変調です。
電線によって、データを送るときは、ベースバンド、変調の、どちらも使用することができます。電線によって、データを送るときに、変調を利用する目的は、いろいろありますが、ノイズ対策もその 1 つです。変調することによって、ベースバンド信号よりも、信号の周波数帯域を狭くすることができます。信号の周波数帯域が狭いと、長距離伝送したとき、波形歪みが、小さくなるからです。
これに対して、電波や光を伝送媒体として使用するときは、伝送媒体として、電波や光を使用すること自体が、変調を意味します。
◆ 変調および復調を行う装置を、モデム(変復調装置 )といいます。光ファイバ伝送の場合は、変復調と同時に、光(O)と電気(E)との変換を行います。これを、O/E変換器 、または光モデム と呼んでいます(図.3)。

[図.3] モデムとO/E変換器

モデムとO/E変換器

◆ 変調してデータを送るときは、原理的には、データ伝送速度 (伝送速度)(データを送る速度、単位は bps、ビット/秒)は、搬送波の周波数に比例して速くすることができます。
このことは、たとえばデータの 1 ビットを搬送波の 1 波に載せて送ることを想定すれば、容易に理解できると思います。
光ファイバ伝送では、赤外線の波長は、1μm (10-6m )程度のものが使用されています。これを、周波数に換算すると、3×1014Hz となります。電波は、最大300×106Hz です。
光ファイバ伝送が、いかに高速大容量可能であるかということが、良く分かります。ただし、これは、原理的には、ということであって、実際に、1014Hz オーダーの伝送が可能、ということでは、ありません。
◆ 電話回線は、送信可能な信号周波数が、最大 3.4kHz という制約があります(電線自体は、もっと高い周波数を通しますが、交換機や中継システムによって制限されます)。
電話回線用モデムは、この制約条件の下で、できるだけ高速であることが要求されます。技術開発が進んだ結果、56kbps (k ビット/秒)の伝送速度が得られれています。
光ファイバ伝送は、現状では、開発段階で、やっとテラビット/秒(1012/秒)のオーダーに達したところです。まだ、高速化の余地が残っています。それにしても、かなりの伝送速度です。

13.3. 光ファイバ伝送の原理

13.3.(1) 全反射を利用する

◆ 光ファイバ伝送では、光を光ファイバの中に、閉じ込めて送ります。光ファイバが曲がっていても、光は、ファイバの中を通ってゆきます。
光ファイバは、光を通す円筒状のコア (光の屈折率 n1 )の外側を、コアよりも若干光の屈折率が小さい材質(屈折率 n2 )のクラッド で包んだ構造になっています(図.4)。

[図.4] 光ファイバの構造

光ファイバの構造

◆ 光は、透過 する媒体を通過するとき、屈折率 が異なる境界で、一部が屈折 して透過し、残りは反射 します(図.5(a))。このとき、屈折率が大きい方から小さい方に向かう光は、その入射角が所定の角度(臨界角 )よりも小さいときは、透過する光はゼロとなり、100% 反射します(図の(b))。これを全反射 といいます。臨界角 θc は、媒体の屈折率を n1n2 とすとき、sin(θc) = n2 / n1 です。

[図.5] 光の屈折と反射

光の屈折と反射(a) 光の屈折と反射(b)_

◆ 光ファイバのコアを通る光は、臨界角以下になるように通します。光は、光ファイバの中で、全反射を繰り返し、光ファイバの中に閉じ込められて、伝わります。
光ファイバを曲げても、その屈曲部で臨界角を満足していれば、光は、ファイバの中を、曲がって通ってゆきます。
これが、光ファイバ伝送の原理です。別の原理の光ファイバも、使用されていますから、この原理の光ファイバを、ステップインデックス形 といいます。

13.3.(2) 光のモード

◆ 光は電磁波ですから、波動の性質を持っています。波動の性質の 1 つに、干渉 と呼ばれる現象があります。干渉とは、位相がほぼ同じ光は、加算されて強くなり、位相がほぼ180°異なるものは、減算されて弱くなるという、現象です(図.6)

[図.6] 干   渉

干渉

◆ 干渉によって生じる現象に、回折があります。回折とは、干渉によって光が折れ曲がる現象です。
回折する角度が、光の波長によって異なることを利用した製品が回折格子です。回折格子は、プリズムと同様に、異なる色(波長)の光を分けることができます。
光ファイバの中を進行する光は、回折とは異なりますが、干渉の結果として、特定の角度で光ファイバ内を進行する光だけが、互いに加算されて強くなり、その特定の角度のものだけが、光ファイバ内を通ってゆきます。
◆ この特定の角度は複数あり、それにモード という名が付いています。最も角度が小さいものがモード 0、2 番目のものがモード 1 ・・です(図.7)。

[図.7] 光のモード

光のモード

◆ 光ファイバのコア径が細いと(5〜15μm)、モード 0 の光だけしか通りません。このような光ファイバを、シングルモード光ファイバ といいます。
コアの直径が太いと、複数のモードの光が通ります。これを、マルチモード光ファイバ と呼んでいます(図.8)。

[図.8] ステップインデックス形のモード

ステップインデックス形のモード


13.3.(3) グレーデッドインデックス形

◆ 光ファイバには、グレーデッドインデックス形 と呼ばれる、もう 1 つの形があります(図.9)。

[図.9] グレーデッドインデックス形

グレーデッドインデックス形

◆ グレーデッドインデックス形は、図に示すように、コアの光の屈折率を、中心が大きくなるように、同心円状に変えたものです。屈折率が連続的に変化しているところを光が通過すると、光が曲リます。蜃気楼は、その例です(図.10)。

[図.10] 蜃気楼

蜃気楼

青色の濃さは、空気の密度、したがって屈折率の分布を示す

グレーデッドインデックス形光ファイバのコアの中を、光は図.9 のように進みます。

13.3.(4) 光ファイバの材質

◆ ステップインデックス形光ファイバは、全反射で 100% 反射しますから、反射による光の損失はありません。グレーデッド形は、もともと反射は存在しません。
したがって、光ファイバによる損失は、コアを光が透過するときの損失、透過損失 の大きさに依存します。
光ファイバの原理は、以前から良く知られていました。しかし、光を十分に良く透過させる材料が得られなかったために、実用化されませんでした。
ガラスは光を良く通すように思われます。しかし厚さが薄いから良く通すのであって、透過損失は意外と大きいのです(図.11)。窓ガラスの断面を見ると緑色に見えます。これは損失が大きく、かつ波長によって損失が異なることによります。

[図.11] 強度が 1/2 になる距離

強度が 1/2 になる距離

◆ ところが、1970年に、コーニング・ガラス社が、20dB/km という、当時としては、画期的な低損品な石英 を開発しました。これをきっかけに、光ファイバ伝送の実用化が始まりました。
その後、低損失石英の開発は急速に進みました。石英の光損失は、石英中の不純物、とくに水分(OH 基)が問題になります。
1979年には、損失が、0.2dB/kmのものが開発されています。この損失 0.2dB/km というのは、ほぼ、石英の理論的な限界です(図.12)。理論的な限界を、図では、緑色で示してあります。

[図.12] 低損失石英開発の歩み

低損失石英開発の歩み

   緑色は理論的な限界値

◆ 石英以外で、さらに低損失なものもありますが、実用されていません。光ファイバの材質は、石英が主流です。
また、損失が大きくても良い用途には多成分ガラスファイバ ポリマークラッドファイバ (コア : 石英、クラッド : プラスチック)が使用されます。また、さらに安価で取り扱いが容易なプラスチック ファイバがあります。
◆ 以上を総合した、光ファイバの種類を、表.2 に示します。

[表.2] 主な光ファイバの種類

主な光ファイバの材質



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