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ネットワークは、ブロード(WAN)とローカルとに、分けられます。従来から、電話網には、内線 という、ローカルのシステムが、あります。ディジタルデータを取り扱うネットワークでは、従来は、ローカルは、単純なシステムでした。しかし、最近では、企業は勿論のこと、家庭内でも、ローカルは、本格的なネットワークを、構築するように、なっています。
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ローカルのネットワークを、LAN といいます。ただし、通常は、ローカルのネットワーク全て ではなく、その中の、特定のシステムを、LAN と呼んでいます(図 8.2-52)。このお話でも、ローカルなネットワーク全て ではなく、これから説明するネットワークのことを、LAN と呼ぶことにします。
◆ 今使われている LAN のしくみは、ブロードを対象としたシステムから、スタートしました。当時は、コンピュータは、1 つの施設に 1 台であり、ローカルのネットワークを構築する必要が、無い時代でした。1969 年に、アメリカの 4 つの大学のコンピュータを結ぶ、アーパネット が、構築されました。これが、コンピュータネットワークの最初です(図 8.2-53)。そして、このアーパネットが、インターネットの始まりでも、あります。ただし、現在使われている、インターネットとは、しくみが、異なります。
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1973 年には、ゼロックス社が、現在多く使われている LAN である、イーサーネットの前身となる製品を、開発しています。
一方、これとは独立に、日本では、1972 年に、データハイウェイ の名で、LAN の製品が開発されました(LAN の名は、まだ、ありませんでした)。その後数年のうちに、データハイウェイは、世界に先駆けて、多くの製鉄所で、実稼働しています。
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アメリカでは、1976 年に、イーサーネット の名で、最初の製品が、作られています。このイーサネットは、急速に普及し、1980 年には、このイーサネットをベースとして、LAN の標準規格が、制定されています。その後 LAN は、発展を続け、伝送速度も、現在では、G ビット/秒と高速なものが、可能となっています(図 8.2-54)。図で、塗りつぶしの●は、イーサーネット系、○は、その他の LAN です。図には、前記のデータハイウェイは、入っていませんが、データハイウェイの最初の製品の伝送速度は、100 k ビット/秒でした。
◆ 最初の LAN(データハイウェイ) のトポロジは、ループでした。現在のイーサーネットは、トリーです。イーサーネットは、はじめは、同軸ケーブルを使用した、バスでした(図 8.2-55)。ただし、図に示すように、リピータを使用して、複数のバスを接続したシステムを、組むことができます。
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しかし、このシステムは、あまり、普及しませんでした。LAN を構築する場合、LAN の機器よりも、配線費用が、かさみます。同軸ケーブルを使用したのでは、システム コストが高くついて、しまいます。
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イーサーネットで、ツイストペアケーブルを使用することが、できるように、なったことによって、事態が一変しました。電話ケーブルは、ツイストペアケーブルが、多く使われています。この既設の電話ケーブルの空き回線を、LAN に利用することができます。
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ケーブルを新しく敷設場合でも、同軸ケーブルに比べて、ツイストペアケーブルは、遥かに、安くつきます。ただし、電話ケーブルは、同軸ケーブルと比べて、減衰量が大きいので、バスでは、システムの規模を大きくすることが、困難です。ツイストペアケーブルを、使用する場合には、トポロジに、スターまたは、トリーを使用します(図 8.2-56)。スター/トリーの集線装置を、ハブ といいます。
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LAN は、規格化されています。アメリカの電気電子学会である IEEE の規格 IEEE-802 で、これを元に 国際規格の ISO 、および日本の規格 JIS が制定されています。
代表的な機種は、10 BASE-T(10 M ビット/秒)、および100 BASE-TX(100 M ビット/秒 と言います(図 8.2-57)。最近は、1 G ビット/秒ないしは、それ以上の高速 LAN も、使われています。これを、ギガビット イーサーネットといいます。製品の一例を、図 8.2-58 に示します。
◆ 以上の他に、トークンリング と呼ばれる製品が、あります。トークンリングのトポロジは、ループです。ループ上をトークン が巡回しており、トークンを捕捉したものが、送信権を獲得します(図 8.2-59)。
◆ LAN は、高機能であることが、特徴です。LAN の主な機能と、LAN の構成(バス形の場合)を、図 8.2-60 に示します。しかし、図の特徴を見る限りでは、ディジタル交換機によるシステムと、機能的に、変わるところは、ありません。ディジタル交換機と比較した、LAN の特徴は、小規模なシステムでも、手軽、安価に構築できることと、インターネットとの結び付きとに、あります。
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図で、N は、ノード といい、LAN の局 (伝送装置)のことです。LAN システムの制御は、ノードが行います。すなわち、多数のノードが、互いに連絡を取って、データのやり取りを行います。このように、どこか一箇所が一括して、制御を行わないで、多数が、互いに連絡を取り合って行う制御を、分散制御 方式といいます。これに対して、電話の交換機のように、中央が、全体を制御する方式を、集中制御 (中央制御 )といいます。
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LAN では、長いメッセージは、予め最大長さが決められパケットに分割して、パケット単位で、伝送します。このパケットには、アドレスが付いています(図 8.2-61)。アドレスによって、やり取りするという点では、HDLC と同様です。しかし、HDLC が親子式であるのに対して、LAN は任意間伝送 ですから、アドレスは、宛先アドレス と、送り元アドレス の、両方が付いています。受信側では、送り元アドレスを使用して、パケットを、元のメッセージに、組み立てます。
◆ 一般に、LAN の伝送速度は、LAN を利用する機器が必要とする伝送速度よりも、遥かに高速です。したがって、LAN を利用する一つの機器が、リアルタイムの伝送を行っていても、LAN の上では、スカスカなことが、多いのです(図 8.2-62)。
◆ したがって、LAN では、目的用途が異なるパケットを、タイムシェアリング的に、多重化して伝送することが、できます(図 8.2-63)。タイムシェアリングでは、データを、順序良く並べて、割り付けます。図 7.1-7に示したように、データに変化が無くても、同じデータを送り続けます。
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LAN では、送信する必要が生じたときだけ、送信する方式を取ることが、できます。逆にいえば、空いていれば、送信することが、できます。タイムシェアリングのような無駄がなく、効率の高い伝送を、行うことが、できます。
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その代わり、他のノードが伝送中のときは、その送信が終わるまで、待たなければ、なりません(図 8.2-64)。すなわち、待ち の発生があります。待ちの発生は、電話にも、あります。電話のときは、お話中 になりますから、改めて、ダイヤルし直すことになります。LAN の場合には、送信要求すれば、自動的に、空くのを待って、送信してくれます。再要求の必要は、ありません。
タイムシェアリングの場合には、伝送効率は、低いですが、決められたタイミングで、必ず送信されます。
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代表的な、LAN の方式について、歴史的な順を追って、説明します。
(a) ループ/トークン
データハイウェイと呼ばれる製品は、LAN の最初の製品で、トークンリング(ループ形)の製品です。伝送速度は、最大 1 メガビット/秒です。
ループ形では、ノードの故障が、システムダウンに繋がります。信頼性が要求されるシステムでは、バックアップが必要です(図 8.2-65)。
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このループ/トークン方式は、LAN の最初の方式ですが、次に述べるイーサーネット以降も、いろいろな、製品が、出ています。イーサーネットが、主に、ビジネス用に、使用されているのに対して、ループ/トークン方式の LAN は、工場などの、生産システムに、多く使用されています。
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(b) イーサーネット
世界最初と、一般に思われている製品です(図 8.2-55)。この最初のイーサーネットは、伝送速度 10 M ビット/秒で、トポロジは、バスです。伝送路のアクセスに、CSMA/CD と呼ばれる方式を使用しています。CSMA/CD は、CSMA と CD という 2 つを組み合わせたものです。
CSMA は、図 8.2-66 に示す方法です。
◆ 図を見ると、十分な制御のように、見えます。しかし、図 8.2-67 のようなことが起こります。A が送信しようとして、CSMA を行います。信号は、伝送路上を、有限の速度で進みます(7.2.(4-A-a))。A は、伝送路上に信号を検出しませんから、送信します。実は、既に D から送信を開始していますから、パケットの衝突 が、発生します。
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CSMA は、上記のような欠点がありますが、制御が簡単です。他のノードからの信号を貰うなどの必要は無く、自分だけの判断で、制御を行うことが、できます。
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この特徴を失うことなく、CSMA を改良した方式が、CSMA/CD です。CSMA/CD は、CSMA にCD の制御を追加した方式です。CD においては、自分がパケットの送信を開始したら、パケットの衝突が発生したかどうかを、検出します。衝突の発生を検出したら、直ちに送信を中止します。パケットの衝突発生自体を、無くすことはできませんが、衝突しても、そのパケットを送信してしまう のに比べれば、無駄な時間を費やすのを、避けることが、できます(図 8.2-68)。
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(c) スター形イーサーネット
前記の、バス形イーザーネットは、電線に、太い同軸ケーブルを使用します。同軸ケーブルは、それ自体の価格が高く、しかも、施工性が良くありません。それを、多少緩和するために、細い同軸ケーブルを使用する方式が、あります。しかし、所詮同軸ケーブルです。施工性を高めるためには、同軸ケーブルよりも、ツイストペアケーブルの方が、優れています。現在では、ツイストペアケーブルを使用する方式が、主流となっています(図 8.2-69)。ただし、ツイストペアケーブルは、同軸ケーブルと比べて、減衰量が大きいので、配線長が短くなります(7.2.(3-B-a)参照)。このため、配線は、通常、スター/トリーになります(図 8.2-56)。また、長距離には、光ファイバケーブルを併用します。
★ 規格 というと、堅苦しい感じがありますが、遊びである、ゲーム(下図左)にも、決まりがあります。決まりが無ければ、ゲームは、成り立ちません。スポーツとなれば、各競技団体が決めた、詳細な、ルールがあります。
野球は、とくにルールが詳細です。下図右は、野球のルールブックです。その厚さから、ボリュームが、推し量られます。
ルールは、スポーツにおける、規格と考えることが、できるでしょう。
★ 規格には、世界的な、国際規格 (たとえば、国際標準機構 ISO や、国際電気標準会議 IEC )、EU (ヨーロッパ連合 )の規格、各国の国家規格 (日本では JIS)、各種の団体規格 (たとえば、日本電線工業会の電線規格)、各企業の社内規格 、と様々なレベルの規格が、あります。
★ 規格は、標準 とも呼ばれています。標準化 とは、日本工業標準調査会 の定義によれば、『 自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化する事柄を少数化、単純化、秩序化すること 』です。
★ また、工業標準化 は、『 自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化してしまう「もの」や「事柄」について、経済・社会活動の利便性の確保(互換性の確保等)、生産の効率化(品種削減を通じての量産化等)、公正性を確保(消費者の利益の確保、取引の単純化等)、技術進歩の促進(新しい知識の創造や新技術の開発・普及の支援等)、安全や健康の保持、環境の保全等のそれぞれの観点から、技術文書として国レベルの「規格」を制定し、これを全国的に「統一」又は「単純化」すること 』です。
★ 各種の規格は、元々は、それぞれの国で、制定される、国家規格が、基本でした。しかし、交通と、通信の発達により、各国の規格の、整合性 が問題になってきました。国による規格の相違が、非関税障壁 と、みなされる恐れもあります。
★ 現在、日本の規格である JIS は、国際規格との整合性を取る、方針になっています。また、日本は、国際規格の制定にも、積極的に、参加しています。逆にいえば、国際標準に、日本の主張を取り入れるように働き掛けることが、日本の国益に繋がるわけです。
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★ JIS 制定のフローを下記に示します。
★ JIS は、A から Z までの、19 の部門 分かれています。
★ JIS の全規格数は、約 9400 冊で、主なものは、ハンドブック にまとめられています。