◆ いよいよ、半導体のお話に入ります。現在の電子の主役は、なんと言っても、半導体です。
半導体とは、どんなものか? ということについては、1.1.(2-B-b) で簡単に説明しました。半導体とは、抵抗率が、電気を良く通す導体と、電気を通さない絶縁体との中間にある物質(元素)のことです(図 1.1-12)。
元素 とは、物質を構成する基礎的な成分のことです。原子については、すでに説明しました。元素と原子とは、どう違うのでしょうか。元素は、原子の種類を表します。これに対して、原子は、その実体です。具体的にいうと、たとえば水素原子は、1 種類ではなく、軽水素原子、重水素原子、三重水素原子の 3 種類があります。これらは、水素元素に分類され、単に水素と呼ばれています。
◆ 半導体は、単に抵抗率が導体と絶縁体との中間あるというだけでなく、半導体独特の性質を持ちます。半導体の代表的な元素が、シリコンや、ゲルマニウムです。歴史的には、ゲルマニウムが先ですが、現在では、シリコンが、圧倒的に多く使われています。ここでは、シリコンについて、説明します。
◆ シリコン(珪素 )は、地殻 で、酸素に次いで多くある元素で、通常、珪石 、石英 ・水晶 ・長石 (これらは SiO2 です)の形で存在しています(図 4.1-1)。
◆ 純粋なシリコンは、結晶 を作っています(図 4.1-2)。結晶とは、一定の化学成分をもっていて、原子やイオンが規則正しく配列している固体のことです。水晶は、ほぼ純粋な、シリコンの結晶です。
◆ 図で、価電子 というのは、原子の一番外側を回っている電子のことです。シリコンの価電子の数は、4 です。価電子は、図に示すように、原子と原子とを結びつけて、結晶を作ります。
価電子の数のことを、原子価 ともいいます。原子価の定義は、「ある元素の 1 原子が水素原子何個と化合するかの数、または水素と化合しにくい原子については、水素原子何個と置換するかの数」です。水素の価電子数は、1 (図 1.1-6)ですから、価電子の数=原子価になります。
◆ また、価電子は、原子の一番外側を回っている電子ですから、原子の外に飛び出して自由電子となります(図 4.1-3)。
◆ 価電子が、自由電子として飛出した跡は、穴になります。この穴は、マイナスの電子が抜けたので、プラスです。この、プラスの穴のことを、正孔 (ホール )といいます(図の(3))。正孔は、プラスですから、マイナスの電子を、引き込みます。電子が正孔に入れば、正孔は消滅します。
◆ 今、図の(2)の価電子が飛出して、自由電子(1)になったとします。すなわち、(2)は正孔になります。ほぼ同時期に、(3)の価電子が飛出して、それが自由電子となり、さらにそれが、(2)の正孔を埋めたとします。その跡(3)は、正孔になります。
実際に、移動したの電子ですが、その結果だけを見ると、あたかも正孔が(2)から(3)に移動したように見えます。
自由電子は、電気の運び屋です。この意味から、自由電子のことを、キャリア といいます。正孔も、上記のように、見かけ上、電気の運び屋になります。したがって、正孔も、キャリアです。
◆ 純粋なシリコンの結晶のことを真性半導体 といいます。この真性半導体にも、キャリアが存在します。しかしキャリアの数が少ないので、むしろ、絶縁体に近い性質を持っています。
◆ 実際に役に立つ半導体は、真性半導体では、ありません。シリコンに、若干の不純物 を加えることによって、優れた性質を作り出すことが、できます。不純物として加える、元素の種類によって、p 形半導体 と、n 形半導体 の、2 種類があります。どちらも、キャリアが多いので、電流がよく流れます。
n 形半導体 | p 形半導体 | |
不純物の種類 [価電子の数] (呼び名) |
砒素(As)、りん(P)、 アンチモン(Sb) [ 5 ] (ドナー) |
インジウム(In)、ガリウム(Ga)、 アルミニウム(Al) [ 3 ] (アクセプタ) |
構造 | ||
説明 |
価電子が余る(1)、それが自由電子になる 自由電子がキャリアになり電流が流れる |
価電子が足りない(1)、正孔ができる 正孔がキャリアになり電流が流れる |
◆ ただし、単に電流がよく流れるだけでは、半導体としての特徴がある性質ではありません。n形半導体とp形半導体とを組み合わせて使用することによって、半導体固有の特性が生まれます。それが、ダイオードや、トランジスタです。
原子核は、陽子 と中性子 とで構成されています。
★ この原子に含まれる陽子の数の順に原子番号 がつけられています。陽子は、電子 1 個分のプラス電荷に帯電しています。したがって、原子番号は、その原子内の(自由電子として飛出したものを含む)電子の数を、表していることになります(∵原子は中性です)。
★ 原素を、原子番号の順に並べると、元素の化学的性質が、一定の周期性を持って変化します。この性質を利用して、元素を、うまく並べた表を、元素の周期律表 といいます。周期律表の横の行を周期 、縦の列を族 といいます。
★ 同じ族に属する元素を同族元素 といい、価電子の数が同じで、性質も似ていることが多いのです。
特に性質が似ている同族元素群は、特別な名称でよばれています。たとえば、水素(H)を除く 1 族の元素群はアルカリ金属 、ベリリウム(Be)とマグネシウム(Mg)を除く 2 族はアルカリ土類金属 です。
★ 17 族はハロゲン で、F はフッ素 、Cl は塩素 、Br は臭素 、I はヨウ素 、At はアスタチン です。
18 族は希ガス とよばれ、He はヘリウム 、Ne はネオン 、Ar はアルゴン 、Kr はクリプトン 、Xe はキセノン 、Rn はラドン です。
★ 原子番号 57 のランタン(La)から、71 のルテシウム(Lu)までの、グループ
★ 周期律表を見ると、シリコン(Si)とゲルマニウム(Ge)とは、同族で、かつ周期が隣り合っていますから、似た性質を持っていることが、推定できます。
シリコンをn 形半導体にするためには、価電子の数が、シリコンよりも 1 つ多い元素、リン(P)、砒素(As)などの 15 族の元素を加えれば良いことが分かります。シリコンを p 形半導体にするには、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)などの、価電子の数が 3 のものを加えます。
★ 周期律表には、各種のものがあります。基本的には、どれも同じですが、それぞれ、見やすいように工夫してあります。WEB(ホームページ)に掲載されている周期律表は、(クリックによってリンクできるという)WEB の特徴を利用して、各元素の詳細を表示できるようになっています。例として、下記の 2 つを、挙げておきます。
★周期律表が色分けされていて見やすいものです
★ 日本語の解説があるものです
★ 半導体製品 製造の工程は、大きく分けて、設計・マスク製作 工程、ウェハ製造 工程、アセンブり 工程の 3 つに分かれます。
IC は、シリコンチップ上に電子回路を作ったものです。その回路を載せるシリコンの基板が、ウェハ です。
★ まず、高純度のシリコンのインゴット (塊)を作ります。このインゴットは、単結晶です。一般の結晶は、多数の結晶が集まってできています(たとえば石英)。全体が単一の結晶になっているものが、単結晶 です(たとえば水晶)。
★ 単結晶を作るためには、時間を掛けて、ゆっくり結晶を作る必要があります。このため、インゴットを、少しづつ引き上げます。
★ 出来上がったインゴット(下左)を、薄い板に切断したものが、ウエハ(下中)です。ウェハは、IC よりもはるかに大きい(直径200〜300mm)ので、多数の IC が、ウェハ上に作られます(下右)。
★ ウエハ上に回路を構成するのは、写真の技術です。回路の原版をマスク といいます。このマスクを、露光によって、ウエハ上に、焼き付け(下、左)、エッチング (下、右上)によって、不用部分を溶かし去ります。その後、いくつかの工程を経て、 IC の姿ができあがります。
なお、露光は、ウエハ全体を一回で行うのではなく、IC の数チップ毎に分けて、繰り返し行います。この繰り返し露光装置のことを、ステッパ と呼んでいます(下、右下、左)。下、右下、右は、できあがった IC の一部分(CMOS 部分)です。
★ ウエハには、多数の IC が載っています。これを、一つ一つの IC に切り分けます。この工程を、ダイシング といいます(上)。ダイシングしたウエハは、アセンブリ工程で、IC に仕上げます(中 : モールド前、下 : モールド後の完成品)。
★ 半導体というと、トランジスタや、IC を思い浮かべ、最新の技術のように思われます。確かに、トランジスタや IC は最近の技術です。しかし、半導体の歴史は、ずいぶん古いのです。
★ 半導体が電子回路に、最初に利用されたのは、検波(整流)作用です。普通のラジオ放送では、電波の周波数を、音声信号で変調しています。この変調波を、検波し、それを、ローパスフィルタで平滑化することによって、音声信号を取り出します。この作業を復調と言います。
★ ムンクは、1830 年に、物体を接触させたときに、電気的に、非対称な現象があることを、発見しました。さらに、この現象を整流作用として確認したのが、ブラウン(1874年)です。この整流作用を利用して作られたのが、鉱石式ラジオです。筆者が小学校初年のころ(1935 年、昭和 10 年頃)は、ラジオは、真空管式が使われていましたが、鉱石式ラジオを、玩具として遊んだ記憶があります。
★ 図で、左側は、鉱石ラジオ (筆者が遊んだものではありません)、右側は、その回路図です。図で、バリコン は、バリアブルコンデンサの略で、つまみを回すことによって、キャパシタンスを変えることができるコンデンサです。コイルとバリコンとで共振回路を作っています。
★ この共振回路は、図 3.2-16 の共振とは異なり、コンデンサ C と、コイル L とが、並列になっています。この共振を、並列共振 といいます。これに対して、図 3.2.16 に示した共振を、直列共振 といいます。並列共振では、共振時の、インピーダンスが最大になります。したがって、共振回路の両端の電圧が最大になります。
★ このようにして、共進回路の両端に発生する共振周波数の電圧を最大にすることを、同調 といいます。ラジオでは、多数のチャンネルがあり、それぞれのチャンネルの周波数を変えてあります。同調によって、特定のチャンネルの放送を選択して取り出すことができます。
★ 半導体の歴史を、大きく塗り替えたのは、トランジスタの発明です。1948 年に、ショックレイ(下図左、似顔)らは、レーダーを検知する研究からゲルマニウムに注目し、このゲルマニウムに少量の不純物を入れて作った半導体を、うまく組み合わせることによって、電流の増幅を行うことができることを発見しました。これが、トランジスタです。ただし、現在使われてるトランジスタとは、構造が異なります。
★ それまでは、増幅には、真空管 (上図、右(これは、かなり年代ものです))が使われていました。
それが、トランジスタによって、真空管よりも、はるかに寸法が小さく、かつ、小電力で増幅が行えるようになりました。さらに、真空管と比べて、寿命が、飛躍的に高まりました。真空管の最大の欠点は、よく切れることでした。
★ 戦争は、好ましいことではありませんが、戦争は、技術を飛躍的に高めるのには、役だってきました。第 2 次世界大戦も、この意味では、トランジスタの発明に寄与しています。真空管をトランジスタに、置き換えたことによって、米軍のレーダーの故障が、大幅に減少しました。
★ 戦争の勝敗は、総合戦力の結果であり、単一の勝因は、ありませんが、レーダーなどの、トランジスタによる電子機器も、大きく寄与しています。
★ 最初のトランジスタは、半導体として、ゲルマニウムを使用していました。ゲルマニウムの欠点は、高温に弱いことです。半導体も抵抗を持っていますから、電流を流すと発熱します。温度が上がれば、壊れます。
より高温に耐える、シリコン半導体の出現によって、トランジスタは、真に実用に耐える製品になりました。
★ 当初は、軍事用は別として、民生用では、トランジスタは、補聴器程度しか、用途がありませんでした。トランジスタラジオは、1955年に最初の製品が発売されています。
★ トランジスタの普及に大きく寄与したのが、ソニーです。ソニーが、1955 年(ただし、前記の製品より後です)に、トランジスタラジオ を発売してから、民生用としての、トランジスタの用途が、急速に広まりました。
★ トランジスタは、増幅作用の他に、もう 1 つ、大きな用途があります。それは、スイッチングです。電気によって開閉するスイッチは、従来は、電磁開閉器 (小形のものはリレー呼びます)が使われていました。電磁石の力によって接点をオンオフするスイッチです。
★ 電磁開閉器は、機械式の接点ですから、高速の動作はできません。トランジスタによって、高速のスイッチングが可能になりました。
ただし、現在では、大容量のスイッチングは、トランジスタではなく、トランジスタから派生した、スイッチング用の半導体素子が、用いられています。
★ トランジスタの、スイッチング作用の、もう 1 つの用途に、ディジタル信号の処理があります。ディジタル信号の処理には、当初真空管が使われていました。コンピュータも、はじめは真空管式でした。トランジスタが真空管に取って代わったことによって、電子機器の小形化が進みました。
★ この小型化は、やがて、集積回路へと発展して行きます。
トランジスタ回路は、中心となるトランジスタの他に、多くの抵抗やコンデンサが使用されます。これらを一括した回路を、1 個のシリコンのチップ(小片)に集積して、さらなる小形化を図ったものが、IC(集積回路)です。最初は、数〜数十個のトランジスタを集積した、ディジタル IC が作られました。その後集積化が進み、現在では、1000 万個を超えるトランジスタを集積したLSI(ラージスケール IC)も、使われています。また、アナログ回路を搭載した IC、、さらには、ディジタル回路とアナログ回路とを混載した IC も作られています。