電気と電子のお話

3. 交流回路をマスターしよう

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3.2. 素子や回路のインピーダンス


3.2.(2) フィルタ

3.2.(2-C) ローパスフィルタの特性

3.2.(2-C-a) フィルタの次数とは

◆ ローパスフィルタの基本は、RC フィルタです。しかし、単純な RC フィルタの特性は、あまり良くありません。阻止域の減衰が緩やかです。これで十分な場合も多いのですが、さらにシャープな特性が要求されることも少なくありません。
RC フィルタは、これを複数、段重ね にすることによって、フィルタの特性を、改善することができます(図 3.2-10)。段重ねは、一般には、カスケード接続 と呼ばれています。

[図 3.2-10] RC フィルタの段重ね

RC フィルタの段重ね

◆ RC フィルタ 1 段のものを 1 次フィルタ 、2 段を 2 次フィルタ 、3 段を 3 次フィルタ 、そして、n 段を n 次フィルタ といいます。また、3 次フィルタ以上を総称して、多次フィルタ と呼んでいます。ただし、フィルタの次数 は、さらに一般的には、リアクタンスが n 個のものが、n 次フィルタです。たとえは、後に説明する、コンデンサ C が 1 個、インダクタ L が 1 個の合計 2 個のリアクタンスを持つ、LCフィルタと呼ばれているものも、2 次フィルタです。
◆ まず、基本である RC フィルタを、段重ねしたフィルタの周波数特性図 3.2-11に示します。RC 1 段が 1 次フィルタ、RC 2 段が 2 次フィルタ、RC 3 段が 3 次フィルタです。

[図 3.2-11] 段重ねした RC フィルタの周波数特性

段重ねした RC フィルタの周波数特性
RC : 1 段、 2 段、 3 段

◆ 図から分かるように、通過域においては、フィルタの次数には関係無く、振幅比は 0 dB (1) です。阻止域における振幅比は、フィルタの次数 n が大きくなると、シャープになります。阻止域における、振幅比の減衰量は、20 × n dB / decです。ここで、dec は、10 を意味します。また、位相差は、カットオフ周波数付近では、周波数と共に遅れが大ききくなり、阻止域では、-90 × n °に落ち着きます。
定量的な減衰のしかたは、フィルタの種類によって異なりますが、阻止域における、振幅比の減衰量が 20 × n dB となり、位相が -90 × n °となるという性質は、RC フィルタだけでなく、他の n 次フィルタでも、同様に成立します。

3.2.(2-C-b) RC フィルタを段重ねする

◆ 段重ねした RC フィルタの、過渡特性を、図 3.2-12 に示します。

[図2.3-12] 段重ねした RC フィルタの過渡特性

段重ねした RC フィルタの過渡特性
RC : 1 段、 2 段、 3 段

◆ RC 1 段だけが、急速に立ち上がっており、RC 2 段、RC 3 段は、最初しばらくは、全く立ち上がらないで、しばらく経ってから立ち上がり始めます。この様子をさらに詳しく見るために、立ち上がりの部分を拡大したものが、図 3.2-13 です。

[図 3.2-13] 図 3.2-12 の立ち上がり部分の拡大

図 3.2-12 の立ち上がり部分の拡大
RC ; 1 段、 2 段、 3 段

◆ RC 1 段だけが、直ちに立ち上がっており、特殊であることが、良く分かります。しかし、RC 2 段以上では、最初の立ち上がりは、水平の方向であり、定量的には、異なりますが、定性的には、ほとんど変わりません。図では、3 段までしか示してありませんが、それ以上も、定性的な波形は同じです。応答波形を見ただけで、RC の段数を判別することは、できません。
先に、「過渡特性は、回路の特性が直感的に分かりやすく表現されるが、大まかなことしか分からない」と書きました。フィルタに関しては、RC 1 段だけが例外で、RC 2 段以上と、はっきり識別することができます。しかし、RC 2 段以上では、定性的には、同じです。過渡特性の波形を見て、フィルタの次数を判定することはできません。
周波数特性では、図 3.2-11 に示したように、RC の段数、すなわち、フィルタの次数を、はっきりと、識別することができます。

3.2.(2-C-c) RC フィルタを伝達関数で表す

◆ フィルタは、伝達関数で表すこともできます。 RC フィルタを伝達関数で表して見ましょう。図 3.2-5 から、インピーダンス求めたときと同様にして、
     RCフィルタの伝達関数
が得られます。ここで、RC = T (時定数)です。
伝達関数を使用して、伝達関数を接続して、RC 段重ねを作ったとき(図 3.2.-14)の周波数特性を調べて見ましょう(図 3.2-15)。

[図 3.2-14] 伝達関数による RC 段重ねフィルタの構成

伝達関数による RC 段重ねフィルタの構成

[図 3.2-15] 伝達関数による RC 段重ねフィルタの周波数特性

伝達関数による RC 段重ねフィルタの周波数特性
1 段 : 、 2 段 : 、 3 段 :

◆ 図 3.2-15 では、比較のために、伝達関数を使用しないで、真に RC 段重ねにした場合も、示してあります。図で、「段」は RC 段重ね、「伝」は伝達関数の場合を示します。図は、図 3.2-11 よりも、横軸(周波数軸)を拡大して、カットオフ周波数付近の特性の差が良く分かるようにしてあります。
図において、1 段の RC伝達関数は、波形が、完全に一致しています。図では、伝達関数を表す赤線だけで、段重ねを表す緑線が、見えません。これは、回路シミュレータの作図のやりかたから、緑線が、赤線で上書きされたためです。すなわち、RC 1 段と、伝達関数 1 段とは、特性が一致していることを、表しています。
しかし、RC 2 段伝達関数 2 段、および、RC 3 段伝達関数 3 段は、互いに、波形が異なっています。
◆ RC 回路の場合は、段重ねすることによって、後段の回路が、前段の負荷になってしまうので、流れる電流値が変わってしまうからです。伝達関数は、互いに独立ですから、後段が前段に影響することは、ありません。
単体が同じであっても、互いに接続すると、回路と伝達関数とでは、特性が異なることに注意してください。
◆ 回路を接続したときの、接続したことによる影響は、図 3.2-15 から分かるように、カットオフ周波数付近のフィルタ特性が、劣化します。これは、好ましくない現象ですが、パッシブフィルタを使用する限り、やむをえない現象です。よりシャープな特性を実現するためには、アクティブフィルタが必要です。アクティブフィルタのお話は、後になります。

[コラム 3.2-7] ローパスのいろいろ

★ ローパスにも、いろいろなローパスがあります。航空機が地上すれすれに飛ぶことも、ローパスです。航空機のローパスは、実利を目的としたものと、ショーとがあります。先ずは、華やかなショーです。観客の前で、アクロバット飛行をしています。

航空機のローパス(ショー)

★ こちらは、実利のあるローパスです。物資の輸送と投下を行っています。

航空機のローパス(物資の輸送1) 航空機のローパス(物資の輸送2)

★ デジカメのフィルタのお話は、別のコラムにもありますが、ここのお話は、ローパスフィルタのお話です。デジカメで撮った写真に、元の撮影対象には無かった縞模様が、入っていることがあります。この縞模様のことを、モアレ縞といいます(下記の写真に入っている縞模様がモアレ縞です)。
デジカメは、CCD と呼ばれる、規則正しく並んだ撮像素子を使用しています。光には、干渉と呼ばれる現象があります。撮像素子が規則正しく並んでいるので、この干渉と呼ばれる現象が起こり、このためにモアレ縞が、発生してしまうのです。モアレ縞は、避けたい現象ですから、デジカメには、このモアレ縞が起き難いように光学的な、ローパスフィルタを内蔵しています。
画像ですから、2 次元のフィルタです。ローパスフィルタを掛けたということは、画素の目を荒くしたということになります。下図の左側は画素を、右側は、それにローパスフィルタをかけたものです。

デジカメのローパスフィルタ

デジカメには、ローパスフィルタを内蔵しているのですが、しかし、それでもなお、モアレ縞が発生して、下のような、写真ができてしまうことがあります。普通のフィルムで撮った銀塩写真では、粒子が不規則ですから、モアレ縞は発生しません。

_モアレ縞のある写真

★ デジカメに、ローパスフィルタが入っているということは、逆にいえば、わざとボケさせているということです。したがって、シャープ化フィルタを使ってシャープ化すれば元のローパスフィルタをかける前の画像に戻ります。(a)はデジカメで撮った原画像、(b)はシャープ化フィルタを使って、シャープ化した画像です。なお、筆者は、デジカメのシャープ化処理は、していません。

原画像 シャープ化した画像


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