電気と電子のお話

6. アナログ IC

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6.1. オペアンプ

6.1.(4) オペアンプの機種と特性

[コラム 6.1-6] パスコン

★ 自動車の競技には、レースとラリーとがあります。
サーキットを周回して走行タイムを計測するのがレースです。

レース

★ レースの最高峰は、F1 です。F1 は日本でもよく知られています。
一方、ラリーの最高峰はWRC(World Rally Championship =世界ラリー選手権)です。ラリーはレースとは異なり、サーキットのような固定の「競技場」を持ちません。ラリーは、一般公道上で行われる競技(ロードイベント)です。
★ ラリーの走行ルートは、いくつもの町を超え山を超えます。その走行距離はそれぞれの選手権の規定によって変わりますが数百〜数千kmにも及びます。
ラリーには、パスコンがあります。ラリーでは、競技中に指示される速度は、どんどん変化していきます。その速度変化点の目標となるものが PC(パスコン)です。具体的には、 標識、看板(タテ)、看板(ヨコ)、看板、サインボード、サインポール、カーブミラー、などがあります。それらを、まとめて書いてあるのが、パスコン表です。

★ さて、本題の、電源のパスコンです。IC の電源は、インピーダンスが低くなければ、なりません。IC では、IC の動作に伴って、IC を流れる電流が変化します。電源のインピーダンスが無視できないと、IC が動作することによる電流の変化が、IC の電源電圧入り口における、電源電圧の変動を、引き起こします。IC の電源電圧が変動すると、IC の誤差や誤動作を招きます。
★ 回路図では、配線は、理想特性をを持ち、そのインピーダンスはゼロです。しかし、実際の配線(プリント基板のパターンを含む)は、インピーダンスを持っています。

実際の配線はインピーダンスを持つ

★ インピーダンスに電流が流れると、電圧を発生します。

電圧が発生する

★ 配線のインピーダンスは、インダクタンスが支配的です。インダクタンスのインピーダンスは、周波数に比例しますから、周波数が高いと、大きな電圧降下になります。
電源配線の、インピーダンスを下げ、高周波における、電源電圧の変動を押さえる目的で使用するのが、バイパスコンデンサ です。バイパスコンデンサは、通常略して、パスコン と呼んでいます。

パスコンの効果

★ パスコンは、図に示したように、高周波の電流を、パスコンを通して、バイパスさせることによって、回路側から見た配線のインピーダンスを下げる、役割を持っています。
パスコンは、通常、プリント基板の入り口と、各 IC の傍と 2 段階に挿入します。

2個所に挿入する

★ 1 段目のパスコンは、プリント基板の電源配線の入り口に設け、外部からのノイズを防ぐ、ローパスフィルターの役を兼ねます。この、ローパスフィルタの役割を、強化する目的で、単なるパスコンではなく、インダクタを併用した、LC フィルタを使用することが、あります。
★ このインダクタには、大きな直流成分が重畳します。一般のインダクタでは、直流が重畳すると、インダクタンスが低くなってしまいます。
このインダクタには、直流成分の重畳に強い、トロイダル形インダクタ (下の写真)が適しています。ただし、トロイダル形が、すべて直流成分の重畳に強いのでは、ありません。

インダクタを入れる

トロイダル形インダクタ

★ 2 段目のパスコンが、それぞれの IC に対する、パスコンになります。この 2 段目のパスコンは、IC のすぐ傍に、置きます。

IC のすぐ傍に置く

★ ここで、傍とは、単に配置上の傍というだけでなく、配線長さが、短いことが必要です。配線が長いと、配線が持つインダクタンスが効いて、パスコンの効果が悪くなります。

配線が持つインダクタンス

★ オペアンプなど、2 電源方式の場合には、それぞれの電源に、パスコンを入れます。

2 電源方式のパスコン

★ パスコンに関連して、ここで、電源、グラウンドの配線に関する、一般的な、注意事項を、説明して置きます。
★ 第 1 は、共通インピーダンスを作らない、ということです。下図(b)において、回路 A は、回路 B と回路 C とに共通な部分に入っています。このように、回路の共通部分に入っているインピーダンスのことを、共通インピーダンス といいます。

共通インピーダンス

★ いま、回路(a)、回路(b) において、回路 B が動作して、そのために、電流の値が変わったとします。このことは、回路 A に影響して、回路 A の各部の電圧を変化させます。これは、有害なノイズですが、これを無くすことは、できません。
★ 回路(b)においては、回路 A が変化したことによって、さらに、回路 C にも影響して、回路 C の状態をも、変化させてしまいます。これは、回路(b)では、回路 A が、回路 B と、回路 C とに共通な部分に入っているからです。
★このように、共通インピーダンスは、ノイズを中継するという意味で、有害です。共通インピーダンスは、できるだけ作らないように、しなければ、なりません。
★ところが、配線は、インピーダンスを持っていますから、配線が複数の回路に繋がっていれば、その配線は、共通インピーダンスになります。
電源と、グラウンドの配線は、一般に、下図のように、共通インピーダンスを形成します。

電源とグラウンドの配線

★ 電源とグラウンドの配線が、共通インピーダンスを作ることは、一般には、やむをえないことです。共通インピーダンスを作っていても、そのインピーダンスを、十分に低くすれば、その被害は、避けることが、できます。しかし、配線自体だけでは、そのインピーダンスを十分に低くすることは、できません。これを、補って、配線のインピーダンスを低くする役を果たしているのが、パスコンです。
★ しかし、パスコンだけに頼って、ひょろひょろな、電源線/グラウンド線を引いたのでは、十分な対策にはなりません。プリントパターンをできるだけ太くして、その上で、さらにパスコンで補うという、考え方が重要です。
★ 共通インピーダンス自体を、ほぼゼロにする手段も存在します。その第 1 は、1 点アース (1 点グラウンド )と呼ばれる方法です。下図に示すように、電源およびグラウンドを、1 点に集中し、電源線とグラウンド線を、その 1 点まで、個別に配線します。
★ 1 点アースでは、1 点アースのところから以降には、共通インピーダンスは、存在しません。しかし、1点アース自体も、インピーダンス ゼロではありえません。1 点アース自体が、共通インピーダンスになります。世の中に、完璧なものは存在しません。しかし、1 点アースは、かなりの効果を期待できます。

1 点アース

★ いま 1 つの方法は、ベタアース (グラウンドプレーン )と呼ばれる方法です。プリントパターンを、基板面、ほぼ一杯に広げたものです。このため、グラウンドのインピーダンスが、十分に低く、共通インピーダンスは、最小限に、おさえられます。

ベタアース

★ 従来は、プリント基板は、配線パターンを、基板の片面だけに設ける片面基板 や、両面に設ける、両面基板 が、主体でした。最近は、部品の実装密度を高めることができるので、多層基板 が多くなっています。最も基本的な、多層基板は、4 層基板 です。下図から分かるように、4 層基板では、電源とグラウンドが、各 1 層、信号が 2 層の、合計 4 層です。
この理由から、多層基板は、電源とグラウンドの、インピーダンスが低いことも、特徴の 1 つです。図で、Vcc は電源、GND はグラウンドです。

4層基板




[コラム 6.1-7] 発   振

★ 発振とは、外部から力を加えないでも、信号が周期的に増減を、繰り返す現象です。結果として、同じ振動波形であっても、外部から力を加えていることによって、振動しているときは、強制振動 といいます。
これに対して、外力を加えないとき、または加えていた外力を取り去った後の振動が、自由振動 です。
★ 振動には、好ましい、したがって、わざと作る振動と、好ましくない、発生しては困る振動とがあります。好ましくない、大規模な振動が、地震 、とくに大地震です。

地震の災害(1)      地震の災害(2)

★ ハウリング も、うれしくない、発振現象です。

ハウリング(1)    ハウリング(2)

★ 発振の現象は、簡単に説明すると、次のようになります。
フィードバックには、ネガティブフィードバック(負帰還)があることは、すでに説明しました。ネガティブフィードバックは、系を安定にする作用があります。一般のオペアンプ回路は、このネガティブフィードバックの、応用回路です。
★ 系に、フィードバックを掛けたとき、ネガティブフィードバックとは逆に、加算の方向にフィードバックすることを、ポジティブフィードバック (正帰還 )といいます。ポジティブフィードバックは、ネガティブフィードバックとは反対に、系を不安定にする傾向があります。ハウリングも、上図右に示すように、ポジティブフィードバックを形成しています。
★しかし、ポジティブフィードバックには、増幅作用があります。
昔、増幅を、半導体ではなく、真空管で行っていた、そのまた、初期の時代には、ラジオに、再生増幅が使用されていました。この再生増幅 は、コイルを使った、ポジティブフィードバック回路です。ポジティブフィードバックですから、不安定の傾向があります。再生増幅の程度を調整するつまみが付いていましたが、再生によって、受信感度を上げようとすると、発振してしまいます。 ★ さて、安定 とは、系が振動しないとき、一定の値に落ち着くことです。振動していても、その振動が減衰して、一定値に収まれば、その系は安定です。不安定 は、系が発散 するする現象です。

不安定

★ 発散には、上図の、発散振動のほかに、振動しないで、いきなり、値が振り切るものがあります。ただし、この、いきなり発散は、回路を作り間違えたか、素子が故障したときです。正常な状態で、このような回路を作ることは、ありえません。
★ この、安定/不安定の現象を、分かりやすく説明すると、次のようになります。下図(a)のフィードバック回路において、ある周波数で、利得が、1 で、位相が、180°遅れているとします。このとき、入力に、半正弦波 (1/2 周期の正弦波)を加えます(図の(b)の(1)、緑色)。この半正弦波は、フィードバックされて、図の(b)の(2) 草色になります。この草色(2)は、さらにフィードバックされて、(3)の紫色の波形になります。以降これを繰り返しますから、正弦波の持続振動になります。

フィードバック_ フィードバックの波形_

★ 以上は、分かりやすいように、最初に半正弦波を加えましたが、半正弦波でなくても、何らかの きっかけ があれば、発振が起こります。実際の回路には、必ずノイズがあります。このノイズが、きっかけ になります。
★ この、フィードバックにおいて、利得が、ちょうど 1 ではなく、1 よりも小さいとすれば、図の(c)のように減衰振動、利得が 1 よりも大きければ、図(d)に示す発散振動 になります。理想オペアンプであれば、発散振動では、振幅は無限大になります。現実オペアンプでは、入出力に制限がありますから、持続振動になります。

減衰振動_ 発散振動_

★ 持続振動を起こさせる、発振回路は、振動の波形に応じて、それぞれ、幾つかあります。代表的なものを示します。
★ 正弦波発振回路  : 下図は、ウィーンブリッジ発振器 (原理図)です。発振周波数 f は、
     発振周波数 f
です。正弦波発振回路は、振幅を一定値に制御する回路を含んでいます。

正弦波発振回路

★ クロック発生回路 (クロックジェネレータ ) : ディジタル回路においては、多くの場合、一定の速度で、シーケンスが進行します。この基になる、一定周波数の信号を、クロック と呼んでいます。

データとクロック

★ クロック発生回路を示します。代表的なものが RC 発振器 (下図右)です。高精度用には、水晶発振器 (下図左)を使用します。

水晶発振器とRC 発振器

★ 水晶発振子 (水晶振動子 )は、時計にも使用されており、高精度の発振用の素子です。


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