◆ トランジスタには、定格があります(図 4.3-13、コラム 4.3-3)。ダイオードにも、定格がありますが、説明を省略しました。
[図 4.3-13] トランジスタの最大定格の例(2SC1815)
◆ 図で、2SC1815 というのは、トランジスタの形番です。トランジスタや、ダイオードの形番の付け方は、標準化されています(コラム 4.3-3)。ただし、メーカー独自の番号付けしたものもあります。
◆ 素子は、定格値以内で使用しなければなりません。このとき、注意しなければならないのは、全ての定格値を、満たさなければならない、ということです。どれか 1 つを満足すれば良い、のではありません。
◆ トランジスタ 2SC1815 を具体例として、トランジスタの仕様について、示します。2SC1815 は、小信号用 と呼ばれるものに、分類されます。小信号用は、使用電圧や電流が小さいものを、総称した名称です。
一般に、半導体素子の仕様は、各素子毎に、データシート と呼ばれるドキュメントに、まとめられています。データシートは、大半の素子のメーカーが、インターネットで公開しています。
◆ データシートに記載されている、外形寸法を、図 4.3-14 に示します。ピン (足)の図は、足の側から見た図です。小信号用のトランジスタは、図のように、左から、エミッタ、コレクタ、ベースの順になったものが、多いのですが、異なるものもあります。
◆ データシートには、最大定格 が記載されています(図 4.3-13)。また、電気的特性 を、記載しています(図 4.3-15)。電気的特性は、データシートの核心部です。電気的特性には、最大、標準、最小の、3 つの値が載っています。ただし、データシートを見て分かるように、、最大、標準、最小のうち、それぞれの特性において、必要なものだけが、記載されています。
◆ 周囲温度 Ta は、トランジスタ等が設置されている周辺の空気温度です。半導体製品では、通常、標準の周囲温度は、25℃ です。
◆ コレクタ遮断電流 (ICBO )は、エミッタを開放にして、コレクタ〜ベース間に、指定の値の逆方向電圧(指定値は、一般には最大定格 VCBO です、測定条件の欄に記載されています)を印加したときのコレクタ電流です。最大値が問題になりますから、最大値だけが書いてあります。エミッタしゃ断電流 (IEBO )も、同様です。
◆ 直流電流増幅率 (hFE)は、 エミッタ接地での、指定の電圧、電流条件における、直流出力電流 対 直流入力電流の比です。スイッチング用または大電力用トランジスタでは、パルス入力で、測定することもあります。
直流電流増幅率の値は、バラツキが大きく、2SC1815 の例では、コレクタ電流IC が小さい(2mA)ときで 70〜700 となっています。
しかし、hFE の値が、もっと揃ったものを、使いたい場合があります。このため、hFE の大きさで、選別分類した製品を販売しています。それが、データシートの 注 に、示してあります。
◆ コレクタエミッタ間飽和電圧 VCE と、ベースエミッタ間飽和電圧 VBE は、二つの接合が、ともに順方向であるときの、各端子間の電圧の値です。これらの値は、理想的には、ゼロであって欲しい値です。トランジスタのスイッチング特性の、重要なパラメータで、この値が小さいほど、電力損失が少なくなります。
◆ 小信号における、コレクタ電流とベース電流との比を β といいます。β には、周波数特性があります(図 4.3-16)。β が 1 になる周波数のことを、トランジション周波数 fT といいます。β<1 は、トランジスタに増幅作用が無くなる条件、すなわちトランジスタが機能しなくなる条件です。トランジション周波数は、そのトランジスタの高周波特性の、詳細を、表すものではありませんが、高周波特性の目安になる値です。
◆ コレクタ出力容量 Cob は、コレクタ〜ベース間のキャパシタンスです。コレクタ出力容量が小さいほど、高い周波数まで使用することができます。
◆ ベース広がり抵抗 rbb' は、実際にトランジスタとして動作するベース領域、の中心から、外部のベース端子までの抵抗です。
◆ 雑音指数 NF とは、入力側の S/N すなわち、S1/N1 に対して、出力側の S/N、S2/N2 が、どれだけ劣化するかを示す値です。通常は、dB で表し、
NF = 10 log(S2/N2) - 10 log(S1/N1)
です。
[コラム 4.3-3] トランジスタとダイオードの形番と定格
★ トランジスタやダイオードには、種類ごとに形番 がついています。
形番は、その商品によって、いろいろな意味を持っています。その商品の形番が、どのように付けられているのかを知ると、その商品購入時の良い資料になることがあります。
★ これは、あるメーカーのある商品の形番のつけ方です。4 桁の形番の最上位で、商品を分類しています。
トランジスタ/ダイオードの形番は、標準化されていますから、メーカーに依存しない形番になっています。ただし、メーカー独自の形番付けしたものも、多くなっています。
★ 図で、小信号用 とは、小電力用 です。ただし、大電力用 との、明確な区分は、ありません。低周波用 と高周波用 との区分も、同様で、はっきりした区別は、ありません。。
★ 名前の付け方の詳細は、つぎの通りです。
(1) (2) (3) (4) (5)
数字 + S + 文字 + 数字 [+文字]
で、最初の (1) の数字は、有効電極数です。2SA1815 の 2 のところです。
1:有効電極数2 − ダイオード
2:有効電極数3 − トランジスタ・FET
3:有効電極数4 − 4極トランジスタ・FET
★ (2) 番目の S は、半導体であることを表します。2SA1815 の S です。
(3) 番目の文字は、トランジスタ等の動作目的を表します。2SA1815 の A です。2SA1815 が pnp 形の高周波用であることを示します。その他の文字は、下記のとおりです。
A: | PNP型の高周波用トランジスタ |
B: | PNP型の低周波用トランジスタ |
C: | NPN型の高周波用トランジスタ |
D: | NPN型の低周波用トランジスタ |
F: | SCR |
H: | 単接合トランジスタ |
J: | PチャンネルFET |
K: | NチャンネルFET |
M: | トライアック |
★ (4) の数字は、登録順につける番号です。11 から始まります。2SA1815 の 1815 の部分です。2SC1815 は、1805 番目に、登録された製品であることが、分かります。
最後の文字 (5) は、改良品種名で、原品種には付けません。2SC1815 には、付いていません。
付けるときは、A,B,C,D,E,F,G,H,J,K の順につけます。I と、L 以降は使いません。
★ 定格 は、その素子の使用条件(主に使用限界)を定めたものです。定格に規定された条件を超えて使用すると、その製品の仕様が保証されません。その製品が破壊される恐れもあります。
定格の記号には、サフィックスが付いています。サフィックスの意味は、次の通りです。
サフィックス | 意味 |
C | コレクタ |
B | ベース |
E | エミッタ |
O | 開放 *) |
j | 接合部 |
*) 開放とは、記号に書かれていない部位がオープンであるという意味です。
たとえば、VCBO は、VCBで、コレクタ〜ベース間電圧であることを表しています。E が書いてありませんから、E(エミッタ)が開放であることを示しています。そして、この電圧は定格電圧ですから、VCBO は、許容できる最大値です。
★ 素子のデータシートには、一般に、定格値の他に、各種の特性を示す図が記載されています。定格と、各特性値は、とくに記載が無ければ、標準温度 (25℃)における値です。
★ 2SC1815 のデータシートに示されている図(特性曲線 )を、以下に示します。トランジスタの用途によって、必要な特性が異なりますから、それぞれの用途にしたがって、必要な図を使用します。
★ 下図は、コレクタ〜エミッタ間電圧 (VCE )と、コレクタ電流(IC)との関係です。この値は、理想的にはゼロであって欲しい値です。ベース電流(IB)をパラメータにしてあります。コレクタ〜エミッタ間電圧(VCE)を小さくするためには、ベース電流を大きくとれば良いことが分かります。
★ 下図は、コレクタ電流(IC)と直流電流増幅率(hFE)との関係です。この値は、コレクタ電流の値に関係無く一定であることが望まれます。2sc1815 は、この点では、ほぼ理想的です。この関係は、トランジスタの機種によっては、必ずしも一定とは限りません。
なお、温度によって、hFEの値が、大きく変わります。これは、好ましくない性質ですが、2sc1815 に限らず、一般的な、性質です。トランジスタ等の、半導体製品は、一般に、温度係数が、大きい傾向があります。
★ 下図は、コレクタ電流(IC)と、コレクタ〜エミッタ間飽和電圧との関係です。コレクタ〜エミッタ間飽和電圧(VCE(sat) ) とは、ベース電流を十分に大きくとっても、コレクタ〜エミッタ間に生じる電圧です。理想的にはゼロであることが望まれます。用途によっては、この電圧が十分に小さいことが要求させます。一般に、コレクタ電流が十分に小さい範囲では、コレクタ〜エミッタ間飽和電圧は、小さな値です。2SC1815 では、コレクタ電流が大きい範囲で、満足できないときは、もっと大電流用のトランジスタを使います。
★ 下図は、コレクタ電流(IC)と、ベース〜エミッタ間電圧 (VBE(sat) )との関係です。ベース〜エミッタ間電圧が、図の最低値を超えると、ベース電流が流れ始めます。
★ 下図は、ベース〜エミッタ間電圧(VBE )と、ベース電流(IB)との関係です。
★ 下図は、エミッタ電流(IE)と、トランジション周波数との、関係です。トランジション周波数は、エミッタ電流がある程度流れないと、大きくならないことが分かります。