◆ 最も簡単な制御方式が、「オン/オフ制御」です。図 1-9 は、オン/オフ制御の制御応答例です。
◆ オン/オフ制御では、制御変数が目標値に対して、高い (偏差>0) か低い (偏差<0) かに対応して、操作変数は、オン(1) かオフ (0) かの、2 値だけしか取りません(図 1-10)。
◆ 図 1-1 の温度制御において、電流を操作するトランジスタに、オンとオフのスイッチング動作をさせれば、オン/オフ制御になります。
この例では、温度が目標値よりも高くなったとき (偏差>0) トランジスタがオフ、温度が目標値よりも低くなったとき (偏差<0)
トランジスタがオンです。
図 1-1 の例のように、操作変数が電気的量のときは、操作にスイッチを使用することが最も簡便です。オン/オフ制御は、電圧、電流などを操作変数とするシステムで最も一般的に使用されています。
◆ なお、オン/オフ制御は、オンとオフに限定される必要はありません。2値に対応していれば良いのです。この意味では、2値制御 の方が、実態に即しており、汎用性のある名称です。しかし、通常は、オン/オフ制御と呼んでいます。
◆ オン/オフ制御は簡単なことが特徴です。しかし、精密な制御が困難と言う、欠点があります。図 1-1 の温度制御においては、温度が目標値より高くなると、直ちにヒータを切ります。
しかし、ヒータの余熱がありますから、ヒータを切っても、一時的には、温度はさらに上がります。同様に、ヒーターをオンにしたときも、一時的には、さらに温度が下がります。このため、図1-9 に示したように温度が波打ち、一定にはなりません。
◆ 図の、温度の波打ちは、外乱によって発生しているのではなく、制御動作に起因しています。
このように、制御自身が原因で、制御変数が波打つことを「ハンチング」といいます。オン/オフ制御の欠点は、ハンチングを、無くすことができないことです。
ハンチングの大きさは制御対象によって異なります。ハンチングの振幅が小さく、それが許容範囲内であれば、オン/オフ制御を利用することができます。
◆ オン/オフ制御でハンチングが避けられないのは、操作変数が2値動作するからです。
もっと良い制御を行うためには、操作変数の値を、もっと多くとります。これを多値制御 といいます(図 1-11)。
◆ 多値制御では、値の数を多くするほど、制御は、よりスムーズになる筈です。
そして、その極限が、操作変数の値を、連続的に変化させることです。すなわち、操作変数の値を偏差に比例して、変化させます (図 1-12 )。
◆ 操作変数をy、偏差をeとすれば、その制御演算式は、
・・・・ (1-1)
となります。Kp、Kmは定数です。
操作変数が偏差に比例することから、これを「比例制御」または「比例動作」といいます。また、この制御動作のことを、比例 (プロポーショナル) の頭文字をとって「P動作」とも呼んでいます。
比例制御を行うことによって、ハンチングのない、良好な制御を行うことが可能になります。
◆ 図 1-1 の温度制御の例では、トランジスタをアナログ動作させて、電流を連続的に変化させれば、比例制御を行うことができます。
比例制御の制御応答の例を、図 1-13 に示します。
◆ 比例制御によって、定常時のハンチングは無くなりますが、落ち着いた後に、偏差が残ります。この定常的な偏差のことをオフセットと言います (1.6.(2-B) 参照)。P動作においては、オフセットは避けられない現象です。
オフセットの値は制御対象によって異なります。オフセットの値が小さくて、許容範囲内であれば、P動作は、実用になります。
◆ 比例制御では、操作変数は、連続的に変化できなければなりません。しかし、電圧、電流などの電気的量を操作量とするときには、スイッチングによるオン/オフは、簡単に実現できますが、連続的に変化変化させることは、苦手です。
このため、実際にはオン/オフでありながら、擬似的に連続的に変化させる、方式が使用されています。スイッチング制御と、呼ばれる方式です(図 1-14 )。
◆ スイッチング制御における、操作変数は、図に示されているように、オン/オフの、パルス列です。オン/オフが繰り返される波形では、繰り返し周期に対するオンの時間比を、 デューティ と言います。デューティは、アナログ量です。
◆ そして、この繰り返し周波数が、十分に高いときは、スイッチングされていることが無視できて、連続的な制御と見なすことが、できます。
図 1-15 において、スイッチングパルス(赤)は、近似的に、アナログ量(緑)と見なすことができます。すなわち、スイッチング制御を使用することによって、実用上、比例制御を行うことができます。
◆ 電気的量をアナログ動作で絞って使用すると、損失が発生します。たとえば、図 1-1 のトランジスタをアナログ動作で使用すると、トランジスタの両端(図の A とグラウンド間)に電圧が掛かり、トランジスタで電力を消費します。しかもこの損失はすべて熱となり、大きな発熱を伴います。
スイッチング動作でも、損失をゼロにすることは、できませんが、アナログ動作に比べれば、損失をはるかに少なくすることができます。したがって発熱も少ないのです。これがスイッチング制御の最も大きな特徴です。
昔はスイッチ素子としてリレー (電磁開閉器) が使用されており、高速なスイッチングは不可能でした。高速、精密な制御を必要とする場合には、スイッチを使用することができないので、操作部に空気圧や油圧を使用していました。
しかし、最近ではトランジスタやサイリスタ、パワーMOSFET、IGBTなどのさまざまな高速大容量の半導体スイッチが利用できます。このスイッチング制御の技術によって、電気を操作量とする制御は急速に発展しました。
◆ 近年の制御技術の進歩の大きな要因は、マイコンの利用によって高度な制御演算を、簡単、安価に実現できたことです。しかし、それだけではなく、このような操作部の発展に負うところも、極めて大きいのです。
この講座では、フィードバック制御の、具体的な応用例として、モータの制御を、取り上げています(6.1、6.2、6.3)。モータの制御には、スイッチング制御が、多く使用されています。
◆ 比例制御を用いれば、オン/オフ制御に比べて、はるかに良い制御が可能です。しかし、比例制御でも、まだ十分な制御成績が得られない場合があります。
比例制御よりもさらに高度な制御方式に「PID 制御」があります。PID 制御は、現在最も一般的に使用されている制御方式です。PID 制御の概要は、1.6に示します。