電気と電子のお話

9. 電気・電子機器

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9.2. 電子機器

9.2.(1) コンピュータ

9.2.(1-A) ミニコンとマイコン

9.2.(1-A-a) コンピュータの歴史

◆  この お話 も、回を重ねて、コンピュータの お話 に到着しました。コンピュータについては、[コラム 6.3-2]で簡単に紹介しました。
今では、コンピュータ は、パソコンや、PDA などの形で、誰もが使うものに、なっています。しかし、コンピュータが、使われ始めた頃は、それこそ、宝物のような、存在でした。
◆  今でも、重要なコンピュータは、専用の、空調されたコンピュータ室 (機械計算室 )に置かれ、電源無停電電源になっています。また、セキュリティの関係から、コンピュータ室の出退管理 も行われています。現在のコンピュータ室の管理は、情報流出 対策ですが、当時は、ハードウェアとしてのコンピュータが、大切なもの だったのです。
◆  現在のコンピュータ室は、計算センターなどは別として、コンピュータが置いてある部屋というだけで、ユーザーが、直接操作するものが、ほとんどです(図 9.2-1)。図の左側は学校のコンピュータ室、中央はホテルの貸しコンピュータ、右が計算センターです。

[図 9.2-1] 現在のコンピュータ室

現在のコンピュータ室       現在のコンピュータ室       現在のコンピュータ室

◆  当時のコンピュータの、演算速度 は、10 ms/命令のオーダーで、現在のパソコン(100 ns のオーダー)と比べても、桁違いに遅かったのです。当時の論理素子は、真空管でしたから、寸法も大きく、発熱量も、大きかったのです。
◆  コンピュータが、現れる前の、代表的な計算機械 は、ソロバン です(図 9.2-2)。図の左側は、現在使われている 4 つ珠、右側は、以前、使われていた 5 つ珠のソロバンです。ソロバンは、習熟すると、暗算 の能力が高くなるという、副産物があります。
ソロバンを起点とするコンピュータの歴史の詳細については、[ここ]をクリックして下さい(戻るときは、ブラウザ上部の「戻る」を使用してください)。

[図 9.2-2] ソロバン

ソロバン       ソロバン

◆  ソロバンに取って代わったのが、電卓です。電卓 (電子式卓上計算機 )は、当初(図 9.2-3の左側)は、かなり大きく、卓上形でした。電卓の名は、当初のものが、卓上サイズだったことから名付けられたものです。現在では、ポケットサイズです。図の中央左側は、最初のポケットサイズの電卓です。

[図 9.2-3] 電   卓

最初の電卓     ポケットサイズ電卓     関数電卓     ポケコン

◆  電卓は、現在では、多くの関数 (微積分 複素数など)の計算が可能な、関数電卓 に進化しています(図 9.2-3 の中央右側)。ポケコンと呼ばれる製品も、一時期ありました(図の右側)。ポケコン は、関数電卓の高機能版です。
◆  アナログで計算を行う、計算尺もあります(図 9.2-4)。計算尺 は、乗除算を行います。対数を利用して、乗除算を加減算に変換するのが、原理です。まだ、電卓が無かった時代に、便利に使用しました。

[図 9.2-4] 計算尺

計算尺       計算尺

◆  最初のコンピュータは、ABC マシン という名のコンピュータです。これは、実用化しませんでした。図 9.2-5 の左側は、復元した ABC マシンです。

[図 9.2-5] 復元した ABC マシンと ENIAC

復元した ABC マシン       ENIAC

◆  ENIAC が、実際に稼働した最初のコンピュータとされており、1946 年に完成しています(図 9.1-5 の右側)。ただしENIAC は、現在のコンピュータの定義には、当てはまりません。
図 9.2-6 に、最初のコンピュータと されているものを、いくつか、挙げました。コンピュータの定義を、ノイマン形である、とするならば、最初のコンピュータは、ESDAC ということに、なります。

[図 9.2-6] 最初とされるコンピュータ

最初とされるコンピュータ

◆  ノイマン形コンピュータというのは、ノイマンが提唱した、コンピュータの定義に従った、コンピュータのことで、図 9.2-7 のような構成のものを、言います。いま、私たちが使っているコンピュータは、ノイマン形コンピュータです。

[図 9.2-7] ノイマン形コンピュータ

ノイマン形コンピュータ

◆  ノイマン形コンピュータ は、2 進数をベースとしています。そして、コンピュータの演算を行うプログラムを、メモリ(記憶装置)に格納し、そのプログラムの内容に従って、CPU が演算を、逐次実行します。
ノイマン形コンピュータが登場する以前は、コンピュータに別の仕事を、行わせようとすると、電気回路を変更しなくては、なりませんでした。
◆  ノイマン形コンピュータは、同じハードウェアを使用して、プログラム(ソフトウェア)を書き替えるだけで、異なった仕事をさせることが、できます。この機能は、従来の機械には無かった機能です。
◆  コンピュータの歴史は、高速化・高性能化の歴史です。
図 9.2-8は、パソコン CPU の集積度 (集積度は IC に含まれるトランジスタ数で表されます)。集積度の増大は、パソコンの高性能化を表しています。
図 9.2-9 は、CPU の演算速度の変遷です。CPU の演算速度は、CPU に加えられるクロックの速度で、代表されます。
◆  この CPU の集積度や、クロック速度の変遷は、ムーアの法則 と呼ばれています。ムーアの法則は、名は法則ですが、予測値です(というよりも目標値と言った方が良いと思います)。ムーアの法則は、現在までのところは、ほぼ、適用されて います。

[図 9.2-8] パソコン CPU の集積度の変遷

パソコン CPU の集積度の変遷

[図 9.2-9] パソコン CPU の演算速度の変遷

パソコンの CPU の速度の変遷


◆  ムーアの法則は、産業規模などについても、当てはまっていましたが、産業規模に関しては、既に、飽和の傾向が、見られます(図 9.2-10)。図は、日本の食品産業の例です。
ムーアの法則は、高度成長の時代に当てはまり、安定成長の時代には、適用できません。CPU などに、現在でも、ムーアの法則が、適用されるということは、半導体関連産業が、現在でも成長期にあると いうことです。

[図 9.2-10] 産業規模の変遷(食品産業)

産業規模の変遷(食品産業)

◆  コンピュータの歴史の詳細については、[ここ]と[ここ]をクリックしてください(戻るときは、どちらも、ブラウザ上部の「戻る」を使用してください)。

9.2.(1-A-b) ミニコン

◆  前記のように、コンピュータの歴史は、高速化・高性能化の歴史です。
現在でも、スーパーコンピュータなどの、高速・高性能のコンピュータは、コンピュータ室に収容され、専属のオペレータによって運転されています。この場合には、ユーザーは、コンピュータを利用するときは、オペレータに依頼して、計算して貰う必要が、あります。安直に、コンピュータを、利用することは、できません。
◆  しかし、コンピュータが、安くなってくると、1 社に 1 台の宝物ではなく、各部門毎に、コンピュータを設置することが、できるようになってきました。
これを実現したコンピュータが、ミニコン と呼ばれる コンピュータです(図 9.2-11)。このミニコンに対して、それまでの大形のコンピュータのことを、メインフレーム と呼んでいます。
メインフレームと比べると、価格は、ミニですが、性能もまた ミニでした。
◆  最初のミニコン PDP-1 (図の左)は、1961 年に開発され、当時のコンピュータとしては、破格な、1 台 12 万ドルという低価格で売り出され、人気を博しました(現在のパソコンと比べれば、1 桁 上ですが)。その後、1965 年には、PDP-8 (図の中央) が、18,000 ドルで発売され、大ヒットとなりました。そして、ミニコンの極めつけが、PDP-11 (図の右)です。

[図 9.2-11] 最初のミニコン(PDP-1)、PDP-8、PDP-11

PDP-1     PDP-1     PDP-1

◆  最近では、ミニコンの言葉は、コンピュータではなく、ミニコンポの略称として使われています。コンピュータのミニコンは、過去のものとなっていますから、混同することは無いでしょう。
ただし、ここではミニコンは、ミニコンピュータのことです。

9.2.(1-A-c) マイコン

◆  ミニコンに次いで、マイコン (マイクロコンピュータ )が、誕生します。ミニコンの次に、ミニコンよりも、さらに寸法の小さいものが現れたので、マイクロと名付けられたのでしょう。ただし、マイコンは、ミニコンに代わるものではなく、ミニコンとは、性格が異なります。
◆  ミニコンは、コンピュータの構成素子を、従来のトランジスタから、IC に替えることによって、実現しました(図 9.2-12)。したがって、ミニコンは、コンピュータとして、動作します。

[図 9.2-12] トランジスタから IC へ

トランジスタから IC へ

◆  コンピュータの発展を、コンピュータの使用素子の変遷の立場で見ると、図 9.2-13 のようになります。ミニコンは、第 3 世代の製品と いうことに、なります。

[図 9.2-13] 使用素子の変遷

使用素子の変遷

◆  マイコンは、多数の IC で構成されていた コンピュータの CPU の部分を、1 つのチップにまとめて、ワンチップ 化したもので、マイクロプロセッサ と、呼ばれています(マイクロプロセッサの歴史については[ここ]をクリックしてください。戻るときは、ブラウザ上部の「戻る」を使用してください)。
◆  CPU 部分だけでは、コンピュータとして動作しません。CPU は、コンピュータの中心部分ですが、メモリや、入出力装置などの、周辺装置 が無ければ、コンピュータには、なりません。
◆  ただし、マイコンには、 3 つの意味があります。1 つは、上記のワンチップ CPU を意味します。ワンチップ CPU は、コンピュータの構成要素です。
◆  マイコンの第 2 の意味は、機器に組み込まれている、超小形コンピュータ のことです。超小形といっても、コンピュータとしての機能は、一通り具えています(図 9.2-14)。

[図 9.2-14] コンピュータとしての機能は一通り具えている

コンピュータとしての機能は一通り具えている

◆  この超小形コンピュータは、ワンチップ化されているものもあります。ワンチップ化されたものは、ワンチップマイコン (マイクロコントローラ )と呼ばれます。
◆ マイクロコントローラは、機器に組み込まれていますから、コンピュータとして、意識されることは、ありません。汎用 LSI という性格を持っています。プログラムによって、機能を柔軟に変えることが可能な、LSI という使い方です。
◆  この意味では、FGGA と同じ用途であり、FPGA をさらに汎用化したものと、考えることが できます。ただし、コンピュータは、ソフトウェアによって、仕事を行います。このため、ハードウェアで仕事を行う FPGA と比べて、時間が掛かります。
この意味で、マイコンと FPGA とでは、目的・用途が、異なります。
◆  マイコンの第 3 の意味は、パソコンが使われ始めた初期の頃に、これを、マイコンと呼んだことです。個人で所有できるコンピュータという意味での、My コンピュータという呼び名です。
マイコンには、このように、 3 つの意味が ありますが、現在使われているのは、第 1 と、第 2 の意味です。
◆  マイコンは、電卓の開発に絡んで、開発されました。マイコンの開発については、[コラム 9.2-1]を参照して下さい。

[コラム 9.2-1] マイコン開発の物語

★ 開発というと、通常は、土地開発、とくに、宅地造成を、思い浮かべると、思います。もっとも、この お話 の読者に中には、製品開発を連想する人もいるでしょう。

宅地造成

★ 製品を開発 する場合、いろいろな進め方が、ありますが、大きく 2 つに分けることができます。第 1 は、ニーズ が有って、それを実現する製品を開発する方式です。もう一つは、シード が先にあって、そのシードを活かす製品を開発する方式です。
★ しかし、この他に、瓢箪から駒で、実験を失敗したとき、その実験結果が、発見や、発明を生むことも、案外多いのです。

瓢箪から駒

★ たとえば、日本人で、ノーベル賞を貰った、江崎博士のエサキダイオード (トンネルダイオード )は、以下のような、いきさつで、発明されました。
トランジスタを量産するときの、歩留まりの悪さを解決するために、半導体結晶の、不純物濃度の限界を調べているときのことです。
不純物濃度を色々変えて測定を続けていると、通常ありえない特性が現れたのです。最初は、間違いかと思ったのですが、再現性があることを、確認しました。これが、エサキダイオード発明の きっかけです。
★ もう一つ、これも、ノーベル賞の、田中耕一さんの お話です。田中さんは、たんぱく質などの生体高分子の構造分析をするための、質量分析 法の研究をしていました。この質量分析法は、分子を気化させイオン状態にし、て真空中で解析します。しかし生体高分子は、気化させようと加熱すると分子が壊れてしまう問題がありました。

質量分析形

★ 田中さんは、この問題を解決しようと、試みていました。このとき、グリセリンとコバルトの超微粉末を誤って混ぜてしまったのです。この、誤って混ぜてしまったものが、うまく行ったのです。
★ ただし、このような 偶然を見逃さないだけの技術力が、あったから、のことで、凡人であれば、見逃してしまったでしょう。

★ マイコン の開発は、上の例のような、偶然性は、ありません。意図して開発されたものです。しかし、鳶が鷹を産んだ、結果となりました。
マイコンは、電卓から生まれたのです。
★ 当時、電卓の OEM 製造を行っていた日本のビジコン社 は、OEM の相手先ごとに、様々な電卓を作る必要が、ありました。ビジコン社は、ソフトウェア化によって、いろいろな機能の電卓を作ろうとしました。しかし、これを開発してくれる、引き受け手がありません。
★ やっと、見つけたのが、当時新興企業であったアメリカのインテル社 だったのです。
このようにして、1971 年に生まれたのが、最初のマイコン 4004 です(下図 )。

_4004       _4004を使った電卓

★ ビジコン社は、4004 を組み込んだ、電卓を発売しました(上図 )。
最近では、電卓は、マイコンでは無く、電卓専用の LSI を使用しています。しかし、マイコンは、コンピュータとして、発展を続け、現在の、パソコンへと、つながって行きます。



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