◆ この講座はローカルが主体なので、ここでブロードについて 概観しておきます。
◆ ブロードは、回線を多数で共用する公衆回線 と、
特定のユーザーが占用する専用回線 とに分けられます。
公衆回線の代表例が、我々が日常利用している公衆電話網です。
ここで公衆電話網 とは、街角にある 10 円玉やテレフォンカードを
使う公衆電話のことではありません。われわれが日常使用している、
ダイヤルして相手に繋ぐ普通の電話網のことを、通信の用語では
公衆電話網と呼んでいます。
◆ 専用回線といっても、相手まで物理的に専用の回線が引かれている
のではありません。ユーザーから見て、ダイヤルすることなく、
何時でも特定の相手(1 ヶ所には限定されない)に繋がる回線のことです。真に専用なのは、
末端の回線だけです。中継部分 (図.3 の
太線の部分) は、インターネットワークの一部分です。
◆ 公衆回線のサービスは、次々と新しいサービスが提供されています。機能、性能、用途も様々で、互いに競合し、価格競争が繰り広げられています。1 年の間に、状況が大きく変わります。
公衆回線であっても、あたかも専用回線であるかのように利用できる、専用回線よりも安価なサービスも、提供されています。
サービスの分類も、各種各様の立場から分類できます。この講座で示すのは、ある時点での 1 断面にすぎません。
◆ 専用回線は、一般に高価です。また、上記のように、どこまでを専用回線に含めるかも判然としませんが、一応、専用回線の種類を列挙しておきます。
(1) 高速ディジタル専用線
(2) ATM専用線
(3) ベストエフォート形専用線
(4) イーサーネット形専用線
(5) フレームリレー/セルリレー
[注1]
ベストエフォート形とは、回線が空いているときは契約伝送速度で伝送でますが、回線が込んでくると、それ以下の伝送速度に落ちてしまう可能性がある回線です。伝送速度が保証されているサービスよりも安価です。
[注2]フレームリレー/セルリレーは、原理的には、パケット交換です。しかし、相手を特定した専用回線として、使用することが、ほとんどなので、ここに示しました。
◆ データ伝送で、広く一般に利用できる、有線のブロード回線を図.7に示します。
◆ 図で、ダイヤルアップ とは、交換機を介しての接続です。ダイヤルすることによって相手に接続します。
料金は従量制 で、接続している時間に比例的に、
課金されます。
常時接続 は、特定のディジタル・インターネットワークに、常時接続されている回線です。ダイヤルすることなく、何時でも、必要なだけ使用することができます。常時接続のものにも、実際に使用した量に応じて料金を支払う、従量制のものもありますが、多くは、定額制です。
◆ 定額制 とは、実使用量 (時間) に関係なく、月または年決めで、一定の料金を払う方式です。ディジタルのインターネットワークでは、中継部分を、多数のユーザーで共用することができるので、安い定額の料金を設定することができます。
これに対して電話網は、通話が途切れても、つながっている間は、回線を占有しています。従量制になります。
◆ 以上は、ネットワークをサービスとして分類したものです。物理的な回線として眺めると、
★ メタル回線(ツイストペア ケーブル)
★ メタル回線(同軸ケーブル)
★ 光ファイバ ケーブル
になります。末端のユーザーのところでは、FTTH 等を除いては、ほとんどがメタル回線(ツイストペア ケーブル)です。ケーブルテレビの場合はメタル回線(同軸ケーブル)です。
◆ しかし、ケーブルテレビを含んで、中継部分は光ファイバが多くなっています。
◆ 公衆電話網 を含み、電話網 一般は、音声をやり取りすることに特化したシステムです。
すなわち、アナログの音声信号 (最高 3.4 kHz) しか通しません
(コラム.2.1 参照)。すなわち、電話網は
ディジタル信号を、直接通すことはできません。
しかし、
モデム を使用すれば、ディジタル信号をアナログの
音声信号に変換してくれます。電話網を利用して、
ディジタルデータを送ることができます。
◆ 伝送速度は、
モデムの機種に依存しますが、最大で 56kbps です。
最近のモデムは、ほとんどが 56kbps で、28.8kbps 等も使用されています。物理的に電話回線を利用して、さらに高速の伝送も可能(たとえばADSL)ですが、簡便に利用でき、かつ番号によって 1 対 1 で相手に繋ぐとなると、このモデムになります。
◆ ISDN は、電話用のネットワークですが、ディジタル化された
システムです。
データ伝送には、モデムが不要で、伝送速度は最大64kbpsです。
ISDN 1 回線で、2チャンネルを束ねて 128kbps として使用可能です。
★ 人間の耳で聞くことができる音の周波数と音圧範囲は、かなり広いですが、 音声 に限定すれば、かなり狭くなります。さらに、電話の目的 (明瞭に聞こえること、音色の個人差を十分に識別できること) に限定すれば、図に示すように、最高 3,400 Hz で十分です。
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★ したがって電話網は、最高 3,400 Hzのアナログ信号だけを
通すように作られています。周波数帯域をできるだけ狭く取る方が、コストを下げることができるからです。勿論、電話ですから音波ではなく、
それを送話器で変換した電気信号です。
★ 電話ケーブル自体は、もっと高周波の信号を通しますが、
中継網の増幅器等が、この帯域しか通しません。
◆ xDSL は、回線は、公衆電話網の末端部分、すなわちメタル回線を使用しますが、公衆電話網とは別のインターネットワークです。
xDSL には、ADSL とSDSL とがあり、これらを総称して、xDSLと呼んでいます。伝送速度が、上り(ユーザーから出す方向)と下り(ユーザーへの方向)とで、同じものが、SDSL で、下りに対して上りが遅いものを、ADSL と言います。実際に使用されているのは、ほとんどが ADSL です。
◆ ADSL は、各種のインターネットワークに利用可能ですが、現状では、大半がインターネットへの接続です。インターネットは、下りデータがほとんどなので、上りが遅い ADSL で十分です。
定額かつ、安価であり、伝送速度が電話網や INDN に比べて遥かに高速です。当初最大 1.5Mbpsでしたが、8Mbps、12Mbps 24Mbps と高速化が進んでおり、最近では、40Mbps になっています。
◆ この高速性と、電話網を利用できて安いという手軽さから、爆発的に普及し、多くの人がインターネットに利用するようになりました。2003 年 12 月末で、xDSL の回線数は 1000 万です。市部では、ほぼ全域で利用できます。
◆ 末端は公衆電話網の回線を利用しますが、公衆電話網の交換機を
通さずに、電話局で、直接そのネットワークに接続されています (図.8)。
◆ ADSLは、電話よりも高い周波数を使用しています。したがって、電話と
周波数多重化で回線を共用する ことが可能です。
電話と共用する場合には、スプリッタ と呼ばれる装置で、両者を
振り分けます。
◆ ただし、利用可能地域内であっても、電話局からの距離が遠いと、伝送速度が低下します。電話ケーブルは、周波数特性を持ち、高周波ほど、減衰が大きいからです。とくに、高速のサービスほど、その傾向が強く、遠いところでは、低速のサービスと同じになってしまいます(図.9)。
◆ 伝送速度は、回線の状況にも依存し、近距離でも速度がでないことがあります。また、ノイズに弱いなどの欠点もあります。とくに、ISDN は、ADSL と同じ周波数帯域の信号なので、同一ケーブル内で、しかも回線が隣接していると、干渉を受けて、伝送距離が短くなります。
ADSL では、上り(ユーザーから電話局への方向)は、下り(電話局からユーザーへの方向)よりも伝送速度が遅くなっています(前記の伝送速度は下りです)。インターネットに利用するときは、下りが大部分ですから、問題ありません。しかし、企業の LAN 間接続に使用するとき、とくにセンター局では、注意が必要です。SDSL は、上りと下りが同じです。ただし、ADSL に比べると高価です。
◆ CATV (ケーブルテレビ )は、
同軸ケーブルを使用した、独自のテレビ専用のサービスです。
CATV ネットワーク自体は、同軸ケーブルを
周波数多重化で使用して、
多数のテレビチャンネルを視聴できるサービスです。
最近、CATV のサービスで、インターネットを利用できるところが増えています
(図.10)。
◆ CATV のテレビ信号は、高周波のアナログ信号です。テレビ自体を
見るためには、セットトップボックス を使用し、
多数のチャンネルの中から、視聴するチャンネルを選択しますます。
インターネットは、テレビの空きチャンネルを利用しています。
インターネットは、ディジタルのサービスです。
モデムを使用してアナログ信号に変換して、テレビの
空きチャンネルに載せています。
◆ したがって、ユーザーが利用するためには、ディジタル信号に戻す
ための
モデムが必要です。これをケーブルモデム といいます。
CATV 自体のサービスエリアは、あまり広くなく、全国何処でも
と言うわけには行きません。しかし、
ADSL のサービスが始まるまでは、
定額、低額、高速では、唯一の存在でした。
◆ 利用できる速度は、CATV 網によって異なりますが、通常は、100 kbps(キロビット/秒)〜8 Mbps(メガビット/秒、メガは 106) 程度です。
最近、ADSL に対抗して、より高速なサービス(たとえば 20 Mbps)も出始めています。
◆ 最近では、中継網は、ほとんどが光ファイバー化されています。しかし従来は、ユーザーインターフェースは、とくに高速の回線を除いては、メタルケーブルでした。FTTH は、ユーザー宅を光ファイバーで結ぶものです。
FTTH は、伝送速度が、上り下り共に 100Mビット/秒と高速です。
◆ 将来的には、FTTH がユーザー宅へのアクセス回線の主流になると考えられます。しかし、ADSL の急速な普及で、現在では、主役の座を ADSL に奪われています。伸び率は高いのですが、2003 年 1 月現在で、約 24 万程度です。
これは、サービスエリアが、大都市など狭いこと、光ファイバの引き込み工事を必要とするなどの要因があります。
★ 最近、ブロードバンドの言葉を良く耳にします。
ブロードバンド は、広帯域のことです。広帯域
とは、本来は、
信号の
周波数帯域が広いことを言います。
しかし、最近では 「ディジタルの伝送速度が速い」 という意味で、
多く使われています。信号の周波数帯域が広ければ、
ディジタルデータも高速伝送が可能です。したがって、
間違っているとは言えませんが、本来の意味からは、
やや外れています。
★ しかも、従来から使われてきた一般電話網
や ISDN と比較して、高速なもの、という
意味で、使われていることが多いようです。具体的には、ADSL や
CATV のインターネット接続を指す言葉として、使われています。
★ 最近では、ADSL や CATV のインターネット接続は、10Mビット/秒を超えるものが多くなっていますから、ブロードバンドと呼んでも違和感はありません。しかし、ブロードバンドの呼び名が使われはじめた頃は、ADSL は、1.5Mビット/秒でした。
この点、FTTH は、100Mビット/秒ですから、名実共に、ブロードバンドと言えるでしょう。
★ わが国のブロードバンドサービスの契約数は、1300 万を突破しています(2003 年 11 月末)。大部分は、ADSL (990 万)です。その他、CATV が 240 万、FTTH が 81 万です。
◆ これまで解説してきた、公衆電話から、常時接続までの各項は、ユーザー宅までの、アクセス回線の話です。これに対して、この新形 WAN は、ネットワークサービスです。新形 WAN は、上記のアクセス回線を介して利用します。
◆ これらのサービスは、回線を共用します。しかし、不特定多数に接続することが目的ではなく、あたかも専用回線であるかのように利用します。ほんとの専用回線と比べて、安価なことが特徴です。共用回線を、専用線であるかのように、利用することを、VPN (バーチャル プライベート ネットワーク )といいます。
◆ インターネットは、不特定多数にアクセスできる、巨大なインターネットワークです。しかし、このインターネットも、VPN 機能を利用すれば、専用線として利用することができます。これが、インターネット VPN です。
◆ インターネットは、あまりにも巨大なシステムであるため、伝送速度が保証されない程度が高く、応答時間や信頼性にも不安があります。そこで、VPN のために専用に設けられたサービスが、IP-VPN と広域イーサーネット です。
目的 用途はほぼ同じですが、それぞれぞれの特徴があります。これらの比較を行うためには、プロトコルの階層化についての、予備知識が必要です(コラム 2.3参照)。
◆ 新形 WAN サービスの概要を、表.1に示します。
インターネット VPN | IP-VLAN | 広域イーサーネット | |
動作する階層 | インターネット | ネットワーク層 | イーサーネット |
利用可能なプロトコル | TCP/IP | IP | イーサーネット以上の階層は自由 |
特 徴 |
インターネットを利用するから、安価である。 セキュリティは、全てユーザー側に依存する*。 |
提供事業者数が多く、色々なサービス形態が用意されている。 ユーザーの各拠点ごとに、ルーター**を設置する必要がある。 |
イーサーネットから上位のプロトコルは、IP に限定されない。 企業の LAN をそのまま接続できる。 |
[注 *]「マネージド・インターネット VPN サービス」の名で、プロバイダが提供するサービスもあります。
[注 **]ルーターとは、インターフェースが 2 つだけのゲートウェイのことです。インターフェースが 3 つ以上のゲートウェイは、受け取ったパケットを何処に送るかのルーティグ制御が必要です。インターフェースが 2 つだと、この制御が不要になります。
★ 本格的なプロトコルは、大規模、複雑です。そして、多くの機能を持っています。このような大規模 複雑なプロトコルは、プロトコルの内容によって分類されています。その分類された内容は、階層化 されています。インターネットは、巨大なインターネットワークですから、そのプロコルも複雑です。したがって、インターネットで使用されているプロトコルは、階層化されています。
プロトコル階層化の詳しい解説は、第 9 章で行います。ここでは、概要を示します
★ インターネットのプロトコルは、TCP/IP と呼ばれ、その階層 は下記の通りです。
アプリケーション層 各 種 |
トランスポート層 T C P |
ネットワーク層 I P |
データリンク層 イーサーネット |
フィジカル層 イーサーネット |
★ TCP/IP の名は、上記の TCP と IP とに由来しますが、TCP/IP と書いたときは、全体のプロトコルを総称する名称です。
★ 階層化されたプロとコルは、各階層ごとにそれぞれの役割を分担し、その共同作業によって、複雑なプロトコルを実行します。
★ インターネットは、大規模なインターネットワークです。ユーザ A から、ユーザ B に送信さるデータは、多数のネットワークと、それらを繋ぐゲートウェイを経由してゆきます。
この図は、簡単のために、ゲートウェイを 1 個所だけ経由する場合を示しています。
相隣る 2 点間とは、1 つのネットワークに接続されている 2 点間のことで、この例では、ユーザ A とゲートウェイ、およびユーザ B とゲートウェイです。最終 2 点間は、データをやり取りするユーザ間のことです。
★
ユーザ A からユーザ B にデータを送る場合を説明します。まず、データの流れですが、ユーザ A 側のアプリケーション層 → フィジカル層 → ゲートウェイのフィジカル層 → ネットワーク層 → フィジカル層 → ユーザ B のフィジカル層 → アプリケーション層 と流れます。
物理的なデータの流れは、上記の通りですが、論理的には、図の横線で示したように、対応する各階層ごとに、プロトコルのやり取りをします。各階層のプロトコルの内容は、図の横線のところに書いてあります。ここでは、それ以上の説明は省略します。
★ これだけでは、よく分からないと思いますが、プロトコルは、ユーザーソフトから独立したソフトです。ユーザーは、プロトコルを理解していなくても、さらには、その存在すら知らなくても、互いの伝送を行うことができます(コラム 3.5参照)。
★ フィジカル層はハードウェアの部分で、データリンク層は、ややソフトウェア寄りのプロトコルを担当する部分です。イーサーネットは、この 2 つの層を受け持ち、LAN のノード間のやり取りを担当します。
[注]
データリンク層は、通常 MAC 層と呼ばれています。データリンク層は、2 つの副層に分けられます。この 2 つの副層の内、上位の層を LLC 層、下位の層を MAC 層と言います。イーサーネットは、LLC を含んでおらず、下位の副層だけです。したがって、イーサーネットは、厳密には、MAC 層 + フィジカル層です。
なお、LLC は、OSI と呼ばれるプロトコルで使用されます。TCP/IC では、LLC を使用しません。
★ ネットワーク層は、インターネットワークにおいて、ネットワーク間のやり取りをするプロトコルで、2.1.(3)図.4の G(ゲートウェイ)の部分で実行されるプロトコルです。
トランスポート層から上は、LAN 内のコンピュータのソフトウエア上のプロトコルです。応用的なプロトコルを担当する部分ですが、ここでは触れません。