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コラム 9.2-14 で、センサーネットワークの お話 がでました。ここで、センサについて、解説しておきましょう。実は、センサという言葉についての、明確な定義はありません。ここでは、センサを、次のように、定義しておきます。センサ とは、人に表示したり、信号処理を行ったりするために、各種の物理量 や化学量 などの量を、別の量に変換するデバイスのことです。
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センサは、検出器 とも言います。また、センサは、変換を行うことから、トランスジューサ とも呼ばれます。すなわち、これらの 3 つの言葉は、同義語ですが、図 9.2-181のような使い分けも、されています。
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図の定義からは、何に変換しても、トランスジューサですが、通常は、トランスジューサとは、電気信号に変換するもののことを、いいます。
図の定義による トランスジューサ の中で、とくに、標準化された信号に変換し、その信号を、遠方に送ることが、できるように、作られたものを、トランスミッタ と、呼んでいます(図 9.2-182)。写真は、プラントなどの、屋外設置用の、トランスミッタです。
◆ 石油や化学などのプラントでは、センサは、広大な敷地の中に散在しています。プラントの運転は、その敷地の一角にある、計器室 (コントロールルーム )で、行います(図 9.2-183)。センサからコントロールルームまで引っ張る配線は、数十 m になることは、珍しくありません。数百 m になることも、あります。
◆ センサは、先に示したように、千差万別です。このセンサを、分類すると、図 9.2-184 のように、なります。
◆ センサによる、計測の方式には、3 種類あります(図 90.2-185)。
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偏位法 は、指針の振れや表示の読みから、直接、測定量を読み取る方式です。測定器の多くは、最終的には、直接、測定量を読み取れますから、偏位法です。たとえば、ばねばかり (図 9.2-186)は、偏位法による測定です。
◆ 零位法 は、大きさを調整することができる、既知の基準量を用意し、この基準量を、測定量と平衡させて、測定量を求めるやり方です。たとえば、天秤 (図 9.2-187の左側)は、零位法による測定です。図の右側は、上皿天秤 です。
◆ 天秤は、高精度の測定が可能ですが、測定に、平衡を取るための操作を必要としますから、現在では、あまり使われていません。天秤の操作を自動化したものが、電子天秤です(図 9.2-188)。
◆ 以前使われていた、竿秤 は、天秤の変形です(図 9.2-189の左側)。その竿秤を、さらに、使い易くしたものが、上皿竿秤 です(図の右側)。上皿竿秤も、過去の製品です。
◆ 置換法 は、偏位法と、零位法とを、組み合わせた測定法です。まず、変位法の計器に測定量を加えて、そのときの指針の振れを読みます。次に、基準量を加えて、指針の振れが一致するように、調整して、その基準量を読み取ります。たとえば、電位差計 (図 190)は、置換法による測定です。
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図において、
(1) まずスイッチ S を標準電池 (E1) 側に入れ、補助電池 E によって、抵抗 R 並びに抵抗 AB に電流 i を流します。
標準電池 とは、電圧の標準となる、安定した電圧を、発生させるための電池です(図 9.2-191)。
(2) 接点 C を固定し検流計 G に電流が流れないように R を調節します。この時の AC 間の抵抗を r1 とすると、電池の起電力 E1 と電圧降下 r1 × i は平衡し、E1 = r1・i となります。
(3) 次に S を点線側の未知電位差 (E2) に入れ、C を移動して E2 の回路に、電流が流れないようにします。 このときの AC 間の抵抗を、r2 とすると、E2=r2・i となります。
(4) したがって、
E2 =( r2 / r1 )E1
となりますから、この式から、未知電位差を、求めることが、できます。
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センサは、伝送や表示などの機能と、組み合わせて使用します(図 9.2-192)。
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センサシステムにおいては、表示 だけを行う簡単な計器を除いては、遠隔表示 を行うための、伝送機能を必要とします。この伝送には、電気信号を利用するのが、簡便です。
センサ自体の出力が、電気信号である場合には、センサ自体の出力信号を、そのまま、伝送に利用できる場合が、あります。この意味で、直接電気信号を出力するタイプの、センサが、便利です。実際に多く使用されています。
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標準化された信号に変換するときでも、センサ自体の出力が、電気信号である方が、他の物理量や化学量であるよりも、変換が簡単です。
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私たちの生活に、密接に関係している単位は、長さと、長さから導かれた面積、体積、および、質量(重量)、時間、温度、などでしょう。
ここでは、先ず、温度センサ から、お話を始めます。温度センサの種類は、図 9.2-193 に示すとおりです。
◆ 図に示したように、温度センサは、接触式と非接触式とに大別されます(図 9.2-194)。
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接触式温度センサ は、測定対象に、直接、センサを接触させます(図の左側)。これに対して、非接触式温度センサ は、測定対象から離れたところから、狙い撃ちして、測定を行います(図の右側)。
非接触式で、その距離が、うんと離れたものを、リモートセンシング といいます。リモートセンシングについては、[コラム 9.2-15] を参照してください。
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接触式温度計で、最も身近な温度計は、寒暖計 です(図 9.2-195)。寒暖計は、従来は、ほとんどが、膨張式温度計でした(図の左側)。膨張式温度計 は、容器のガラスと、封入液のアルコールまたは水銀との、熱膨張率の差を利用したものです。図の右側は、バイメタル式温度計 です(バイメタルは、図 9.1-57 参照)。
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物質は、温度によって伸縮します。その伸縮の大きさを表したものが、熱膨張率 です。熱膨張については、コラム 9.2-16 を参照してください。
接触式の、抵抗温度計 には、白金測温抵抗体とサーミスタとがあります。どちらも、抵抗の温度係数 を利用したものです。
サーミスタについては、コラム 9.1-15 を参照してください。
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抵抗式温度計に使用する、白金測温抵抗体 は、温度の標準にも使用されており、高精度の計測が、可能です。
一般に抵抗は、温度係数を持ちます。高純度の白金は、その温度係数が大きく、かつ、一定性がありますから、温度測定に利用されます(図 9.2-196)。
◆ 白金測温抵抗体は、JIS になっていますから、JIS に基づいて、説明します。図 9.2-197 は、白金測温抵抗体の規格、および測温体の一例です。
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図で、Pt100、JPt100 というのがあります。Pt100 というのは、0℃ において、100Ωの抵抗値を有する白金抵抗測温体を、意味します。
JPt100 は、何でしょうか。白金抵抗測温体の JIS 規格は、1989 年に改正されました。この改正は、それ以前の、日本独自の JIS 規格を、国際規格の IEC との整合性を取るための改正です。この改正によって、JIS の呼称が、図 9.198 のように、変更されました。
1989 年以前 | 1989 年以降 |
JIS 独自の「Pt100」 | → 「JPt100」と呼称を変更 |
ー | 「Pt100」の呼称は、IEC と整合性を取った新しい内容 |
◆ 図 9.2-197 で、階級とは、測温抵抗体の精度を指定するもので、図 9.2-199 に示すように、A 級と B 級とがあります。
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図 9.2-197 に、規定電流というのが、あります。抵抗に電流を流すと、発熱します。発熱すれば、温度が上がります。これを、自己加熱 といいます。自己加熱による温度上昇が、小さな値になるように、規定電流 の値が、定められています。
自己加熱の立場からは、測温抵抗体に流す電流値は、小さい方が良いのですが、測温抵抗体に流す電流値が小さいと、測温抵抗体に発生する電圧変化が小さくなってしまいます。
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測温抵抗体などの、電気抵抗は、ブリッジ を使用することによって、高精度で、測定することが、できます(図 9.2-200)。図で、X は被測定抵抗です。可変抵抗 r の値を調整して、検流計 G の電流をゼロにします。この条件で、図の式が成立します。
a = b のときは、X = r です。
写真は、授業の教材用のブリッジです。
◆ 抵抗温度計では、配線の抵抗が、誤差となります。サーミスタは、サーミスタ自体の抵抗値が高いので,この誤差は無視できますが、白金測温抵抗体では、この誤差が問題となります。この対策として、3 線式と 4 線式の配線が、あります(図 9.2-201)。4 線式 は、配線の影響を完全に補償します。通常は、3 線式 で十分です。2 線式 でも、配線抵抗が一定値になるように調整すれば、使用できます。しかし、調整は面倒ですから、配線抵抗が無視できる、配線長が短い ところで のみ、使用されています。
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異種の金属を接合すると、その接合点に、熱起電力 が、発生し、それによって電流が流れます(図 9.2-202の上側)。
接触式の、熱電温度計 は、その熱起電力の値が、温度によって変わることを、利用したものです。図の下側は、熱電温度計の、原理図です。
◆ 熱起電力を測定するために、異種金属を接合したものを、熱電対 といいます。熱電対は、使用温度によって、各種あり、JIS になっています(図 9.2-203)。
◆ 熱電対の原理は、温度差の測定です。熱電対による温度測定では、一方の接点の温度を、既知の温度に保っておく必要があります。これを基準温度接点 といいます(図 9.2-204)。基準温度は、通常、低温側ですから、冷接点 とも、呼んでいます。
◆ 冷接点温度は、通常 0 ℃ です。従来は、氷を使用していましたが、保守が面倒です。最近では、回路で冷接点を擬似的に作ります。これを、冷接点補償回路 (冷接点補償器 )といいます(図 9.2-205)。冷接点補償回路は、表示計器やコントローラに、組み込まれていることも多く、この場合には、外付けの冷接点補償器は、不要です。
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熱電対から冷接点補償回路までの間は、熱電対で配線しますが、冷接点補償回路から計器までは、普通の電線を使用することが、できます。しかし、冷接点補償器を、現場に置くことは、メンテナンスの手間が掛かります。と言って、熱電対で長距離を配線することは、コストアップになります。
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この問題を解決するために、補償導線を使用する方法があります(図 9.2-206)。補償導線 とは、常温付近の温度で、熱起電力が熱電対と、ほぼ等しくて、熱電対よりも安価な電線です。
熱電対の熱起電力は、熱電対の種類毎に異なりますから、補償導線も、熱電対の種類ごとに、作られます。
図の受信器には、冷接点補償回路が、内蔵されています。
◆ 測温抵抗体や、熱電対などの測温素子 を使用して、温度を測るとき、測定対象が、水などの導電性物質や、腐食性のある物質であるときは、測温素子を、これらの物質から隔離しないと、測温素子が損傷して、しまいます。これを防止するために、測温素子を、管の中に入れて、使用します。この管のことを、保護管 といいます(図 9.2-207)。図の上側の保護管は、ねじ込み式、下側の保護管は、フランジ式です。保護管の構造は、図 9.2-197 にも示されています。
◆ フランジ とは、配管における、継手の一種です。図 9.2-208 は、パイプライン ですが、パイプ中の、黒いリング状のものが、フランジです。
◆ フランジ式の保護管は、図 9.2-209 のように、取り付けます。
◆ 保護管は、測温素子を保護しますが、代償として、測定誤差の要因となります。保護管による誤差には、静誤差と、動誤差とがあります(図 9,2-210)。図の左側が静誤差 、右側が動誤差 の等価回路です。温度に関する誤差のお話ですが、熱の問題は分かり難いので、図のように、電気回路で模擬すると、分かり易くなります。図の右側は、1 次フィルタです。
◆ 保護管による、静誤差の大きさの目安を、図 9.2-211 に示します。
◆ 保護管による動誤差の 1 例を、図 9.2-212 に示します。図 9.1-210 の右側に示したように、1 次フィルタの特性で近似されます。