ノイズ対策技術

10. AC電源線からのノイズ

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10.(3) AC電源の配線

10.(3-A) 電源配線

◆ AC電源配線 は、ノイズの大通りです。単に線の中をノイズが伝わるだけでなく、周囲に放射ノイズを撒き散らします。したがって、機器の入り口の所にサージアブゾーバ電源ラインフィルタとを設けて、ノイズを水際で押さえます。図.10 は、図.2 を、より詳細に示したものです。

[図.10] ノイズを入り口で押さえる

ノイズを入り口で押さえる

◆ 通常の電源の考え方では、先ずヒューズとスイッチを置きます (a)。しかし、大きなノイズを含む配線は、アンテナとなってノイズを撒き散らします。図の (b) のようにして、電子機器内部のフィルタ前の配線を最短にする必要があります。
スイッチのオンオフも、ノイズ発生源です。電源スイッチのオンオフによって発生するノイズは、そのスイッチでオンオフされる、電子機器自身には問題になりません。しかし外部に対するノイズ源です。(b) の配置は、この意味でも有用です。
◆ 小形の電源に限定されますが、インレット形ラインフィルタ と呼ばれるものがあります。図.11に示すように、電源コネクタと、フィルタとが一体になった製品です。これを、使用すれば、内部配線の長さはゼロです。

[図.11] インレット形ラインフィルタ

インレット形ラインフィルタ

◆ 通常、電子機器の電源は DC です。したがって AC 電源から DC 電源装置を使って DC 電源を作ります。このDC 電源装置には、スイッチング電源が多く使用されています。ところが、このスイッチング電源は、強烈なノイズ発生源です。しかも、入力側/出力側の両方にノイズを出します(11.(1)参照)。
このAC 電源側に伝わるノイズは、電源ラインフィルタでフィルタします。このとき、配線から放射されるノイズを押さえるために、電源ラインフィルタとDC電源装置との距離も最小にする必要があります。筐体内部にシールドされたスペースを設けて、図.10 に示した部分を収容するのが、ベターです。
ノイズ対策上は、AC電源配線も、ツイストペア線にすることが有効です。ツイストペア線は、ノイズを受けない、出さない、の両方に、優れています。配線は、筐体に添わせます。筐体に添わせることは、シールドと同等の効果があります。電源用の線材は、ツイストペア線はあまり豊富には市販されていません。長さが短いので、手で撚っても大した手間ではありません。電子機器が量産品なら、ケーブルを特注すべきです。
◆ 電源配線は、面積の大きなループを作ることが、最も悪いことです (図.12)。ループ、とくに面積の大きいループは、ノイズを撒き散らします。

[図.12] 部品の配置と配線の引き回し

部品の配置と配線の引き回し

◆ 操作の関係で、電源のオンオフを電源取り込み口から離れた所で行なう必要があるときは、電源を直接オフするスイッチを電磁スイッチにして理想的な位置に配置し、それをリモートから操作するようにすると、良いでしょう。

10.(3-B) グラウンド配線

◆ AC 電源線ノイズはコモンモードが支配的です。したがってフィルタはコモンモード用が主体となります。コンデンサを使用するフィルタは、2.(7-A)の図.10に示したように、グラウンドにノイズを逃がす必要があります。このとき、このノイズを逃がすグラウンド線が、他のシグナルグラウンドのグラウンド線と共通インピーダンスを作っていると、シグナルグラウンドに対するノイズ要因になります。シグナルグラウンドとは、共通インピーダンスを作らないようにしなければなりません。図.13は、9.(2-D)図.10(b) に示した接地方式のときの、電源ラインフィルタの、接地系統を示します。

[図.13] 接地系統

グラウンド配線

◆ 図で、「ここに L を入れる方法もある」書いてあります。L(インダクタ)を挿入することによってフレームグラウンド側のノイズをシグナルグラウンド側に伝えないという効果があります。しかし、L を入れた場合、シグナルグラウンド側で電流が流れると、シグナルグラウンド側自身でノイズを発生します。シグナルグラウンド側自身では、グラウンドに電流がほとんど流れないシステムでないと、逆効果になってしまいます。

10.(4) AC電源の品質

10.(4-A) 概   要

◆ AC電源品質の問題の第 1 は停電 です。しかし、一般的な(長時間)停電は、ノイズ対策とは別の次元の問題ですから、ここでは取り上げません。停電には、ごく短時間の停電、瞬間停電 (通常、瞬停 と呼びます) があります。ここでは、この瞬停を取り上げます。
また、電子機器自体には被害がありませんが、むしろ加害者として働く、高調波 の問題があります。これもここで、解説します。
その他に、ノイズ対策に関連する AC 電源の品質として、電圧ディップ (瞬間的な電圧低下) があります。これは、瞬停よりも緩い現象なので、瞬停対策でカバーできます。

10.(4-B) 瞬   停

◆ AC 電源システム(電力会社の電力システム)は重要なので、AC 電源システム自体がバックアップ システムを構成しています。電力の需要者が、自家のバックアップシステム持っている場合もあります。しかし、このバックアップシステムでは、バックアップへの切換時に、電圧を完全には維持できないで、瞬間的に電圧がゼロになったり、大幅に電圧が低下したりすることがあります。
これが瞬停や、電圧ディップです。この時間は、10ms から 100ms 程度と短いので、照明や動力に対しては、重大な影響を及ぼしません。しかし、電子機器においては、この瞬停によって、電子回路の DC 電源電圧が低下ないしはゼロになり、回路動作に重大な影響を与えます。

◆ 第 1 の対策は、DC 電源を、この瞬停に耐えて電圧を維持できるようにすることです。
DC 電源は AC 電源を整流して作ります。しかし整流しただけでは、脈流がありますから、これをコンデンサで、平滑化します (図.14)。

[図.14] DC 電源の平滑化

DC電源の平滑化

◆ この平滑回路を強化して、瞬停の時間に耐えるようにすれば良いわけです。最近では、大容量(数 F 程度まで)の電気 2 重層形のコンデンサが容易に得られますから、小形の機器であれば、十分に対応できます。

第2の対策は、DC のバックップ電源 を用意して、これを使用することです。この方式では、バックアップ電源の容量を大きくすれば、瞬停だけでなく、さらに長時間の停電に対応できます。
◆ この方式の代表的な製品に、無停電電源装置 (UPS )があります (図.15)。

[図.15] 無停電電源装置

無停電電源装置

◆ UPSには、バッテリを内蔵しています。バックアップ時には、バッテリの DC 電源をインバータで AC に変換して、AC 電源の代わりに、供給します。具体的なバックアップのやり方には、いくつかの方式があり、その方式によって、トランジェントの動作が異なります。完全に円滑に切り替わるものから、10ms 程度の瞬停を伴うものまであります。
バックアップ時間は、バッテリの容量によります。通常の製品を標準的に使用した場合、数分以上です。数分あれば、停電が発生したときに、コンピュータシステムなどを、安全に停止させる時間的余裕があります。

10.(4-C) 高 調 波

◆ DC 電源装置には、スイッチングレギュレータ が多く使用されています。また各種の電気機器の制御には、インバータ が使用されています。これらに共通した事項に、AC 電源の整流があります。

[注]  インバータは、「反転させるもの」の意味です。ここでは、直流を交流に反転させることから、インバータの名が付いています。交流を直流に変換することは、整流の名で、古くから使われてきました。インバータは、その逆です。ディジタル IC のインバータは、電圧のハイとローとを反転させます。

◆ 整流の方式には各種あります。最も簡便なのは、コンデンサー入力方式であり、大半はこの方式を使用しています。この方式では、AC 入力の電流波形は、図.16(b)に示すように、シャープなピークを作ります。

[図.16] コンデンサ入力方式とその波形

回路 波形

◆ この電流波形は、多くの高次高調波 を含むので、力率 が著しく低く、電源システムの負担を大きくします。一般に、個々のスイッチングレギュレータやインバータの電力は小さいので、それぞれ個々の影響は、電源システムに対しては、微々たるものです。しかし、1 つ 1 つの影響は小さくても、数が多くなるとその影響が無視できなくなります。
最近は、インバータやスイッチングレギュレータは、家電や AV 機器、情報機器など、随所に多数使用されています。このため、電源系統を損傷する恐れが出てきました。これを、解決するためには、個々の機器の力率を改善することが必要です。このため、個々の機器の力率に対して、規制が行なわれるようになりました。
◆ ここで、力率について説明しておきます。交流には、力率があります。モータなどの、インダクタンスを含む負荷に、交流を流したとき、これをベクトルで表わすと、図.17 のようになります。

[図.17] 力   率

力率

◆ 図で、皮相電力が、負荷で消費される電力です。この皮相電力は、有効電力(横軸)の成分と、無効電力成(縦軸)の成分とに分けることができます。有効電力は、負荷の抵抗成分によって消費される電力を表わします。これに対して、無効電力は、インダクタンス成分によって発生し、電力は消費しませんが、電流が流れます。すなわち、無効電流は、インダクタンス成分によって発生した無駄な電流です。
この無駄な電流も、電線を流れるときは、電線の抵抗によって、電力を消費します。この意味で、無効電力は、有害な存在です。
◆ さて、図において、cos( θ) = (有効電力) / (皮相電力) です。この cos(θ) のことを力率といいます。力率が 1 であれば、無駄な電流は、ゼロであり、力率が低いほど、無駄な電流が多くなります。


[コラム.2] 商用電源

★ われわれが、日常使っている電気は、交流商用電源 です。商用電源は、国によって異なります。日本で日常使用している電気器具は、海外では、そのままでは使えない場合があります。電圧や周波数が同じであったとしても、コンセント の形状が異なる場合も、あります。これに対応するための、変換アダプタ が、旅行用品店で、販売されています。

各国の商用電源のコンセント

★ 各国の商用電源の仕様は、次のとおりです。

各国の商用電源の仕様

★ 表にあるように、日本では、電源周波数 が 2 種類あり、地区によって分かれています。ほぼ、県によって分かれていますが、例外もあります。

電源周波数が2種類ある

★ 商用電源の周波数が異なっていても、どちらにも使える電気製品が多いのですが、モータを使用している製品は、モータの種類によっては、兼用できません。掃除機、ジューサ、ミキサ などは、整流子モータなので、そのまま使えます。
製品に、50 Hz 用、60 Hz 用などと書かれているものは、周波数が異なると、使用できないか、動作はしても、回転数が異なったり、出力が低下する場合があります。引越しなどのときに、注意する必要があります。
★ 商用電源の質は、どの程度なのでしょうか、国によって大幅に違います。日本はかなり優秀です。実測例を示します。

商用電源の質





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