◆ ノイズの類語にサージがあります(図.1)。
◆ 強いパルス状のノイズをサージ といいます。
本来は、図.1 に示すように、ノイズが加わったときに、一時的な誤動作を引起しても、そのノイズ無くなれば、素子の機能を回復するものを、狭義のノイズ、素子を破壊してしまう強烈なものを、サージといいます。
しかし、素子の耐性は、いろいろです。このように定義したのでは、サージとノイズの限界が、具体的に定まりません。
サージとノイズの区分は、電子機器を対象とするときは、通常、電圧で10V程度を目安として、それ以下をノイズ、それ以上をサージと呼んでいます。
◆ サージには、自然界で発生するものと、人工的なものとがあります。
自然界で発生するものの、代表例が、雷に関連した雷放電と誘導雷、および静電気放電です。人工的なサージの代表例が開閉サージです(図.2)。
[注] 静電気放電は、後に述べるように、実際には、人体からのものが多いのです。この意味では、人間が関与しています。
◆ 雷放電 は、自然界で発生するサージであり、最も強烈なサージです。雷放電は、雷雲中で発生した静電気 △の放電です。
この意味では、静電気放電の一種ですが、一般の静電気放電と比べて、そのエネルギが桁違いに大きいので、一般の静電気放電とは区別しています。
雷放電には、雷雲中で発生する雲放電と、落雷とがあります。
落雷 は、雷雲に帯電した静電気が、大地との間で起こす静電気放電です。大きな被害が生じるのは、落雷です。雲放電も、放電による放射が、ノイズ源になりますが、この点は、落雷も同様です。
雷雲 中の電荷は、雷雲中の強い上昇気流と、雷雲中を降下する、あられ、ひょうなどの氷粒との間で生じる摩擦電気によって作られます。
◆ 雷雲の帯電のしかたは、夏の雷雲と、冬の雷雲とでは、異なります(図.3)。
◆ 夏と冬とで、雲と電荷の高さが違うのは、地表からの温度分布が異なり、氷粒が作られる高度が、冬の方が低いからです。
プラスの電荷は、雲の上部に広がり、マイナスの電荷は-20〜-30℃のところにたまります。冬の雷雲が横に伸びているのは、強風に流されるからです。
夏の雷雲では、下方にある、マイナスの電荷を地表に放電することによって、落雷が起こります。
これに対して、冬の雷雲では、主にプラスの電荷が地表に放電されます。ただし、マイナスの電荷が放電されることもあります。
雷放電は、一連の放電現象です。まず、先駆放電 と呼ばれる放電が数回繰り返され、その後に、帰還雷撃 (帰還放電 )と呼ばれる主放電が起こります。
帰還雷撃は1回だけ起こるときもありますが、大きな雷の場合には、約40msの間隔で、複数回起こります。
◆ 雷撃電流 の波形を図 4に示します。
◆ 雷撃は、きわめて強烈ですから、直接雷撃を受ければ、機器は破壊されます。したがって、その対策は、直接雷撃を受けないように、することにあります。
このためには、避雷針 が有効です。避雷針は、落雷を無くす手段ではありません。落雷を受けたときに、構造物に発火や損傷を与えることなく、安全に雷電流を大地に導く手段です。このため、避雷針は、接地されています。
◆ 避雷針は、その先端から一定の角度(保護角 )の範囲内を保護します(図.5)。
◆
保護角は、一般には、60°です。しかし、避雷針が、可燃物などの、危険物を対象として立てられているときは、安全を見て、45°以下と規定されています。
避雷針の、実際の保護範囲は、各種の要因によって変化し、一概には言えません。
避雷針の保護範囲は、回転球体法 と呼ばれる方式が、もっとも実際に近いとされています。
先駆放電の先端位置からの距離を雷撃距離 といい、雷撃距離を rs、避雷針の先端高さを h とすれば、図 6に示す関係があります。
◆ 図に示した雷撃距離 rs を越える範囲が保護される範囲です。図から分かるように、先駆放電の位置が低いと、保護範囲は狭くなります。
図の (a) では、保護範囲は、保護角 45°をほぼカバーしています。
しかし、とくに先駆放電の先端位置が低い図の (b) では、保護角 45°にくらべて、保護範囲はかなり狭くなっています。
高層建築の屋上に避雷針を立てても、屋上付近の側壁に落雷する可能性があるのです。
◆ 表面が金属で覆われた構造物は、雷撃を受けても、雷電流は表面を流れ、内部には電流は流れません。
このこから、飛行中の航空機は、落雷が原因で墜落することはほとんどありません。
しかし、皆無ではなく、雷撃による墜落事故もあります。
走行中の自動車も、内部は安全です。
ただし、車体はゴムタイヤで大地と絶縁されているので、車体と地面との間の放電によってタイヤがパンクするする恐れがあります。
このパンクによりハンドルを取られたり、強い雷光によって目がくらんだりして、事故につながる可能性があります。
◆ 雷は強烈なので、直撃雷を受けなくても、誘導雷によっ被害が発生します。すなわち、雷からの誘導で伝わるサージは、高電圧になります。これが誘導雷 です。誘導雷は、コモンモードです。
誘導 とは、電気や磁気がその電場や磁場内にある物体におよぼす作用のことで、静電誘導 ・磁気誘導・電磁誘導があります。誘導雷の場合は、静電誘導△です。
誘導雷の発生要因を、図 7に示します。
このうち、実害を及ぼすのは、ほとんど (2) によるものです。
◆ 誘導雷が、電子機器に侵入する経路を、図 8に示します。
◆ 誘導雷は、図.8 に示したように、電源線、信号線などの電線を伝わります。誘導雷は、電線を伝わる間に、減衰し、波形が広がります。
低圧配電線を伝わってくる誘導雷の、電圧実測例を、図 9に示します。
◆ 信号線の場合も、電圧や波形は、電力線と同程度です。
信号線などが、シールド付の架空ケーブルのときは、雷の誘導を受けたところでは、信号線(電圧 V)とシールド(電圧 V')には、ほぼ同じ電圧が発生します。
シールドは、端末側で接地してあることが多く、この場合には、、端末側では、シールドの電圧はゼロになります。しかし、信号線の電圧は、ほぼVのままです(図 10)。
◆ したがって、端末側では、シールドと信号線との間に、電圧 V が、掛かることになります。
地下ケーブルの場合、地下であっても、ケーブルは、架空ケーブルと大体同じ誘導を受けます。
大地は電気の導体ですが、その導電率は、あまり高くありません(2.(5-B)参照)。このため、雷の電磁波は、地中に数百〜数kmまで入り込みます。地下数mのピットでは、架空ケーブルと、あまり変わりません。
端末側に、架空ケーブルのときと同様の処理がされていれば、地下ケーブルであっても、架空ケーブルと同様な電圧が発生します。
◆ ただし、建物内の接地が、大地からは浮いた接地になっているときは、図 11のようになり、原理的には接地とシールドおよび信号線は、同電圧になります。
◆ 接地個所が、大地から完全に浮いていることは、ほとんど考えられませんが、接地個所と大地との間のインピーダンス △が大きいときは、図.11 と、同じようになります。
誘導雷は高周波です。接地線が長いときは、直流抵抗が小さくても、接地線のインダクタンスによるインピーダンスは大きな値になります。したがって、図.11 の状態が、起こります。
原理的には、以上のとおりですが、実際には、その通りにはなりません。
実測結果では、地下ケーブルでは、シールドと信号線との間に、架空ケーブルのときに比べて、数分の 1 の電圧が現われます。
◆ 雷電流は強大ですから、落雷地点、または避雷針の接地点から大地に大電流が流れます。
この電流による電圧降下によって、大地に大きな電圧が発生します。
また、この大電流が、接地を介して、機器に侵入します(図 12)。
◆ 電子機器に対しては、誘導雷サージは、ほとんどが、電源線または信号線を伝わってくるサージです。
接地からのサージも、結果としては、電源線または信号線と接地との間のサージ電圧になります。
なお、以下に述べる対策は、雷サージだけでなく、開閉サージその他、電源線や、信号線を伝わってくるサージに対しても適用されます。
◆ 基本的には、サージアブゾーバ (アレスタ )で、サージをバイパスさせます(図 13)。
◆ サージは、殆どがコモンモードです。コモンモードをバイパスさせます(2.(7-A))。
ただし、途中でノーマルモードに変化してくるものがあります(4.(1)、4.(2-A)、4.(2-B)参照)。
また、サージアブゾーバの動作時間のバラツキによっても、ノーマルモードが発生します。
したがって、ノーマルモード用のアブゾーバも必要です。
サージアブゾーバは、一定電圧以下の電圧に対しては、高抵抗を持ち、一定電圧を超えると、急に抵抗が低くなり、一定電圧以上になることを防ぐ素子です(図 14)。
◆ 図は、バリスタ△と呼ばれる機種の特性です。その他に、シリコン PN 接合形、放電ギャップ式と呼ばれるものがあります。ツェナダイオード△を 2 個対向させて使う方法もあります(図.15(a))。サージアブゾーバは、一般にキャパシタンス △が大きく、このキャパシタンスは、ノイズフィルタとして作用します。その代わりに、高周波には、使用できません。高周波用には、逆阻止形シリコン PN 接合形を使用します(図.15(b))。
[図.15] ツェナダイオード形と逆阻止形を双方向用に使用する
◆ サージアブゾーバは、サージを吸収して、機器を損傷から守ります。しかし、依然として、強烈なノイズは、残ります(図.16)。このノイズも消すことが必要なら、ノイズフィルタを併用します。