データ伝送web講座

5. 絶縁とそのドライバ/レシーバ

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5.1. 絶   縁

5.1.(1) 絶縁とは

◆ 伝送系、とくに長距離伝送においては、大きなコモンモードノイズが、乗ってきます。たとえば、電源や、インターフェースケーブルを通して、サージが乗ってきます。場合によっては、接地している大地相互間に大きな電位差があり、この電位差がコモンモードノイズになります。
小さなコモンモードノイズは、差動形レシーバを使用することによって、除去することができます。しかし、大きなコモンモードは、差動形レシーバでは除去できません。単に除去できないだけでなく、素子を破壊する恐れすらあります。
◆ 電圧が高くても、瞬間的なパルスであれば、サージアブゾーバで吸収できます。しかし、強烈な、持続的なコモンモード電圧は、サージアブゾーバでは吸収することができません。別の手段が必要です。それが、絶縁 と呼ばれるものです(図.1)。

[図.1] 絶縁の原理

絶縁の原理

◆ ノーマルモードの信号は、電気〜非電気〜電気 の 2 重変換によって下流に伝わります。しかし、コモンモードは、電気的に絶縁されていますから、下流に伝わることが阻止されます。このことから、この素子のことを絶縁と呼んでいます。一般の意味の絶縁と、このコモンモードを阻止する素子と、同じ名前なので、注意する必要があります。
◆ 絶縁といっても、無限大の抵抗を持っているのではありませんから、コモンモード電圧除去の能力は、図.2 のように示されます。

[図.2] コモンモード電圧除去能力

コモンモード電圧除去能力

◆ 絶縁素子の絶縁抵抗 Ri は、他の抵抗に比べて非常に大きく、これが絶縁の効果です。
絶縁の具体的な素子は、大きく分けて、フォトカプラ トランス リレー 3 種類があります。
また、絶縁ではありませんが、絶縁と同様に大きなコモンモードを阻止する素子に、コモンモードチョークがあります。コモンモードチョーク は、構造的にはトランスと同じですが、接続方法や動作原理がトランスとは異なります。長所、欠点が互いに逆ですから、目的用途によって使い分けます(ノイズ対策 19.(4)[表.3])。
◆ 絶縁に関しては、別の講座「ノイズ対策」で 1 章を割いています。この講座では、これと大きく重複しないようにに解説します。

5.1.(2) トランスとフォトカプラの比較

◆ 長距離伝送では、トランスが多く使用されます。トランスは、データ伝送の絶縁として、優れた性質を持っています。しかし、分かり難い面があるので、とかく敬遠されがちな素子です。ここでは、フォトカプラと比較しながら、トランスの特性について解説します。

5.1.(2-A) 直流を通さない

◆ トランスは、原理的に直流信号は通しません。交流信号だけを通します(図.3)。

[図.3] トランスの原理

トランスの原理

◆ 上流側のコイルに流れる電流の変化が、磁力線の変化となり、それがさらに、下流側のコイルの電圧変化をもたらします。したがって、電流変化が無い直流は通りません。
単に直流を通さないだけでなく、直流が重畳している信号は、トランスの磁束を飽和させ、トランスが正常に機能しなくなります。直流が重畳している信号は、直流成分をカットしてとランスに加える必要があります。ただし、直流を重畳させることが可能なタイプのトランスがありますから、これを使用する方法もあります。
◆ なお、重畳した直流を直流成分 といいます。

5.1.(2-B) 周波数帯域

◆ トランスには、広い周波数帯域の信号を通す広帯域トランス と、狭い周波数帯域しか通さない狭帯域トランス とがあります。狭帯域トランスでは、きわめてシャープな特性を持たせることができます。特定の周波数の信号だけを選択的に取り出す、同調に利用されています。
◆ 広帯域トランスは、広い帯域の信号を通します。しかし、別の絶縁素子であるフォトカプラが、直流から、その上限の周波数までの非常に広い周波数帯域を持っているのに比べると、はるかに帯域が狭いのです(図.4)。

[図.4] トランスとフォトカプラの周波数帯域

トランスとフォトカプラの周波数帯域

◆ この周波数帯域の差から、フォトカプラの方が設計が楽です。フォトカプラは、最高周波数をカバーする機種を選択すれば事足ります。これに対して、トランスでは、信号の周波数帯域が非常に広い場合には、信号をそのまま通すことができません。
ただし、同軸ケーブルと組み合わせた場合、逆にこの性質が、役に立つ場合があります。

5.1.(2-C) 変調と符号化

◆ 非常に帯域が広い信号は、帯域を狭くしてやることが必要です。なお信号の周波数帯域は、絶対値ではなく、最高と最低の比率です。したがって、信号の帯域を狭くする手段として、変調があります。
変調はアナログの技術ですが、ディジタル信号も、変調を使用することができます。符号化の技術も利用できます。符号化 とは、ディジタル信号を、別の符号形式に変換することです。
◆ ディジタル信号の最も基本的な符号は、NRZ 符号です。NRZ 符号は、1 またはゼロが長く続くと、ほとんど直流です。1 とゼロとが交互に繰り返すときは、最も周波数が高く、その周期は 2 ビットです。すなわち、きわめて広い周波数帯域を持っています。
これに対して、非常に狭い周波数帯域をを持つ符号があります。たとえば、バイフェイズ符号 と呼ばれる符号です。(図.5)。

[図.5] バイフェイズ符号

バイフェイズ符号

◆ バイフェイズ符号は、図から分かるように、信号の最高周波数は、NRZ 符号の 2 バイですが、帯域は僅か 2 です。すなわち、NRZ 符号をバイフェイズ符号に符号化することによって、信号の周波数帯域を狭くすることができます。

[注] 符号化については、第 6 章(予定)で、詳しく解説します。

5.1.(2-D) 直線性

◆ フォトカプラは周波数帯域は広いのですが、振幅に対する直線性がありません。フォトカプラでは、アナログ波形を歪み無く通すことはできません。フォトカプラは、波形がある程度歪んでもよい、ディジタル(パルス)信号に使用します。この点、トランスは、その帯域内の周波数であれば、ひずみ無く信号を通すことができます。
◆ フォトカプラでは、直接、精度良くアナログ信号を通すことができません。したがって、ディジタルパルスで変調し、ディジタル波形に変換して送信します。たとえば、パルスの幅をアナログ信号の大きさに比例させるパルス幅変調 (図.6 (a))や、パルスの幅は一定で、周波数をアナログ信号に比例させる、パルス周波数変調 (々(b))があります。
◆ 最近では、このような変調の技術ではなく、アナログ信号をディジタル信号に変換してディジタル伝送することが多くなっています。

[図.6] パルス幅変調とパルス周波数変調

パルス幅変調 パルス周波数変調

◆ 通常パルス幅変調と呼んでいますが、図から分かるように、正しくは、パルスデューティ変調と呼ぶべきものです。

[注] パルス周期(図では 幅一定)に対するパルス幅の割合を、パルスデューティといいます。

◆ トランスはこの逆で、振幅に対する直線性があります。トランスの帯域内の波形であれば、アナログ信号も、波形歪み無く通すことができますから、直接アナログ信号を通すことができます。
ただし、長距離伝送では、伝送路による減衰があり、しかもそれが周波数特性を持っています。トランス単体による波形歪みが無くても、伝送系全体としては、周波数特性を持ち、それによる波形歪みがあります。これを無視できない場合は、パルス周波数変調、ディジタル化等の手段が必要になります。

5.1.(2-E) パワーを伝える

◆ トランスは、電力用に用いられていることから分かるように、トランスを通してパワーを伝えます。このため、下流側に電源を置く必要がありません。これに対して、フォトカプラは、上流側、下流側の両方に電源を必要とします。しかも、その電源は共用することができません。互いに絶縁された別電源でなければなりません。

◆ 以上のように、トランスとフォトカプラとでは、それぞれ長所欠点があります。

5.1.(3) 伝送用トランスの種類

◆ トランスには、色々な種類があり、用途によって使い分けられます。データ伝送の立場からは、
   § アナログ信号用 と ディジタル信号用
   § 低周波用 と 高周波用
に大別されます。

5.1.(3-A) アナログ用トランス

◆ アナログ 低周波用は、電話、電話回線用モデムに使用されるトランスです。電話の音声信号は、3.4kHz 以下の交流信号です。電話回線用モデムの周波数帯域も、この音声周波数帯域内にあります。データ伝送以外では、代表的なものに、オーディオ用のトランスがあります。
◆ アナログ 高周波用としては、ビデオ信号用と無線周波数用とがあります。ビデオ信号用は、広帯域トランスです。無線周波数用は、先に示したように、シャープな特性を持った同調用が、代表例です。

5.1.(3-B) パルス トランス

◆ ディジタル信号用トランスは、パルストランス の名でばれています。ディジタル信号、すなわちパルス信号は、方形波です(図.7)。

[図.7] ディジタル信号

ディジタル信号

◆ 方形波は、そのパルス幅 T に対応する基本周波数 F=1/2T を持っています。方形波には角(エッジ)があります。この角には、基本周波数の整数倍の周波数の高調波成分があります。シャープなエッジは、きわめて高い周波数の高調波を含みます(理論的には無限大)。
方形波は、任意波形の一種です。任意波形は、多数の周波数成分の集まりです。任意波形中の最も低い周波数成分を基本波 、基本波の整数倍(n倍)の周波数成分を n 次の高調波 といいます。

◆ したがって、ディジタル信号用トランスは、広帯域トランスでなければなりません。周波数帯域が狭いと、トランス出力の角が鈍ります。
逆にいうと、パルストランスは、一種の広帯域トランスであり、パルスを通すための特別な特性を持っているのではありません。
◆ ただし、パルストランスの名で発売されている製品は、ディジタル信号用に、トランスを選定し、設計するのに便利な特性値が発表されています。この意味で、パルストランスと銘打った製品を使用するのが便利です。
この特性値は、ET 積1 次インダクタンス漏洩インダクタンス等です。パルストランスの選定、設計法は、ノイズ対策 19.[コラム.3]を参照してください。






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