ノイズ対策技術

8. シールド

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8.(1) シールドとは

◆ 空中を伝わるノイズを阻止する手段がシールド (遮蔽 )です。
空中を伝わるノイズには、静電誘導電磁誘導および電波(電磁波)があります。静電誘導を阻止するのが静電シールド 、電磁誘導を阻止するのが磁気シールド 、電磁波をシールドするのが電磁シールド です。
静電シールドおよび電磁シールドは電気の導体で、磁気シールドは磁性体で、ノイズ発生側と受け側とを遮ります。受け側、または発生側を完全に囲めば、最も良いシールドになります。

8.(2) 静電シールド

◆ 静電誘導は、ストレキャパシタンスによって、ノイズが伝わります。ストレキャパシタンスは、回路図に無い回路ですが、便宜上、コンデンサの形で表わします(図.1(a))。

[図.1] 静電シールド

静電シールド

◆ (a) C1 がストレキャパシタンスです。ストレキャパシタンスによって、 A と B との間で、ノイズが伝わります。
(b) 電気の導体で、A、B 間を遮ります。これが、静電シールド です。このシールドは、グラウンドされていることが必要です。
(c) 静電シールドの効果を、模型的に示したものです。シールドによって A、B は 2 つの部分に分けられます。Aとシールドとの間には、ストレキャパシタンス C2、B とシールドとの間にはストレキャパシタンス C3 があります。
A がノイズ発生側とすれば、C2 によってノイズがシールドに伝わります。しかし、シールドがグラウンドされていますから、シールドの電位はゼロです。したがって、ストレキャパシタンス C3 によって、B にノイズが伝わることはありません。
◆ (d) もし、シールドがグラウンドされていないと、このようになりますから、ノイズが A から B に伝わってしまいます。シールドが効果あるためには、シールドがグラウンドされていなければなりません。

(e) ただし、シールドは完璧ではありませんから、完璧ではない分、ノイズが伝わります。この不完全部分は、ストレキャパシタンス C4 で表現することができます。

シールドは、ノイズ発生側と受け側との間を遮断するように挿入します。理想的には、無限の広がりを持つか、または一方を完全に囲みます。しかし、完全ではなくても、間にグラウンドされた電気の導体を挿入すれば、その程度に応じたシールド効果があります。
◆ さらに、図.2に示すように、ノイズ発生側と受け側とを、共にグラウンドプレーンに近接して配線することによっても、シールドと同等の効果を持たせることができます。

[図.2] グラウンドプレーンに近接して配置する

グラウンドプレーンに近接して配置する

◆ 図の点線は、電気力線です。配線を、グラウンドプレーンに近接させることによって、電気力線の多くがグラウンドプレーンを通り、直接両者を結ぶ電気力線が大幅に減少します。最も効果が大きいのは、配線を、グラウンドプレーンに密着させたときです。

[注] ツイストペアケーブルは、原理的には、ツイストペアケーブル自体の性質として、電気力線を外部に出しません。

8.(3) 磁気シールド

◆ 磁気シールド は、磁界をシールドします。磁気シールドは、低周波と高周波とで、対策が異なります。低周波、たとえば、商用周波数のトランスを磁気シールドするときは、磁性体 (透磁率 μ が大きい材料)で、シールドの対象を囲みます(図.3)。

[図.3] 低周波の磁気シールド

低周波の磁気シールド

◆ 図に示すように、磁力線は、磁性体の中を通り、磁性体の内部には入り込みません。
高周波では、磁性体を使用しないで、電気の導体を使用することによって、シールドすることができます(図.4)。

[図.4] 高周波の磁気シールド

高周波の磁気シールド

◆ シールド材に渦電流が流れ、この渦電流によって発生する磁力線が、元の磁力線を打ち消すように働きます。

8.(4) 電磁シールド

8.(4-A) 平面波シールド

◆ 電磁シールド は、電磁波をシールドします。 高周波の電磁波は、導電性の材料によって、シールドすることができます。電磁シールドは、完全に囲まれていれば良く、完全に囲まれているときは、導電体をグラウンドする必要はありません。
ただし、グラウンドすることが不要なのは、電磁シールドのみを目的とする場合です。導電性のケースは、電磁シールド以外の目的で接地する必要があることが多いのです。たとえば、フレーム接地のためには、グラウンドしなければなりません。

電磁波は、アンテナからの距離によって、ニアフィールドファーフィールドとに分けられます。
ニアフィールドでは、電界と磁界とが、対等ではありません。ニアフィールドにおいて、電界が支配的なときは、静電シールドで近似することができます。磁界が支配的なときは、磁気シールドで近似されます。どちらかが支配的でないときは、解析が面倒です。
◆ ファーフィールドでは、電磁波は平面波で近似されます。このファーフィールドにおけるシールドを平面波シールド といいます。
以下、平面波シールドについて説明します。
シールドの効果を、図.5に示します。

[図.5] 平面波シールドの効果

平面波シールドの効果

◆ 電磁波における電界は一般の電気における電圧に、磁界は一般の電気における電流に対応します。一般の電圧と電流との間には、インピーダンスが存在し、伝送路中の電圧と電流との間には特性インピーダンスが存在しました。
同様に、電磁波においては、電界と磁界との間に波動インピーダンス が存在します。
電磁波において、電界を E、磁界を H、波動インピーダンスを Zs とすれば、電圧/電流と同様に、
    E = Zs ・ H
が成立します。
伝送路においては、特性インピーダンスが異なる境界で、一部が反射し、一部が透過しました。電磁波においても同様に、波動インピーダンスが異なる境界で、反射 透過 が起こります。
◆ 伝送路は1次元ですが、電磁波は3次元の空間を伝わります。この意味では光と同じです(そもそも光は電磁波です)。図.5は、シールドの入り口と出口の両方が記載されていますが、その各々は、と同じです。

8.(4-B) 各種損失

◆ シールド材による電磁波の損失は、各種の損失を合計したものです。全損失 を Se、反射損失を R、吸収損失を A、および再反射補正を B とすれば、
    Se = R + A + B
となります(単位はdB(デシベル)です)。

(a) 反射損失

◆ 電磁波においても、波動インピーダンスの差が大きいほど、透過に比べて反射が多くなります。
空気中の波動インピーダンスは真空中と同じで377Ωです。これに対して、金属中の波動インピーダンスは、極めて小さく、≪1 です。
したがって、反射損失は大きい値です。金属板では、反射損失だけで、大半のシールド効果が得られます。

(b) 吸収損失

◆ 電磁波が導体の中を進むと電流が流れ、それが導体の抵抗によって熱に変わり、損失となります。これを吸収損失 といいます。この損失は、シールド材の厚さを t、シールド材への入力の電界を E0、磁界を H0 とし、圧さ t における電界を E、磁界を H とすれば、
    E = E0 ・ exp(-t/s)
    H = H0 ・ exp(-t/s)
となります。ここで s を浸透深さ といいます。
◆ シールドの厚さ t が 3s のとき、減衰量が約 26dB(95%減衰)となります。したがって 3s は、減衰の目安となる値です。吸収損失の例を図.6に示します。

[図.6] 吸収損失の例

吸収損失の例


(c) 再反射補正

◆ 透過波が、空間からシールド内に入り、シールドから出て行くときに、一部は透過せずに反射して戻ります。これを再反射といいます。再反射波の一部は、さらに再反射し、これを繰り返します。
その結果としてシールドを通過する分が生じます。これを補正する必要があり、再反射補正といいます。ただし、この再反射補正は小さいので、通常は、無視できます。

(d) 総 合

◆ 以上を総合すると、低周波の磁界を除けば、金属は、導電率が高いので、厚さが薄くても、十分なシールド効果が得られます。したがって、薄い金属箔や、金属コーティングなどでも、十分な効果があります。
また、導電性プラスチックや導電性塗料などは、金属よりも導電性が劣ります。しかし通常は、十分なシールド効果があります。ただし、低周波の磁界に対しては、透磁率が高い磁性体を使用する必要があります(8.(3))。

8.(5) 穴の問題

◆ 以上のように、電磁シールドは、完全に囲むなら、大きなシールド効果を期待することができます。しかし、実際には、完全に囲むことは、案外難しいのです。の存在によって、電磁波が通りぬけます。穴の始末をしっかりしないと、シールドの効果が無くなります。
電磁シールドの効果は、シールド材に電流が流れることによります。穴があると、穴によって、電流が妨げられ、シールド効果が減殺されます。このとき、電流と穴との関係によって、穴の影響が異なります(図.7)。

[図.7] 穴によって電流が妨げられる

電磁界に対応して電流が流れる_ 穴があると電流が妨げられる_
細長い穴のほうが影響が大きい_ この方向の穴は影響が小さい_

◆ (a)は穴がありませんから、自由に電流が流れます。
(b)(c)(d)は、穴によって電流が妨げられています。この3つは、共に穴の面積は同じです。しかし、図に示したように、電流と穴との関係によって、電流の妨げられ方が異なります。電流をより多く妨げる方が、シールド効果が悪いのです。
(b)(c)は、穴の形による、シールド効果の違いです。(c)(d)は、穴の形も同じです。しかし、穴と電流との相対方向によって、最悪から、最良まで変化します。しかし、ノイズに対して、「最もシールド効果が大きいように入って欲しい」と頼むわけには行きません。
結局、(c)(d)の、細くて長い形の穴が、最もシールド効果が悪い形であると、評価しなければなりません。すなわち、シールドに対する穴はの効果は、面積では無く、穴の長さであり、長い方が悪い、ということになります。
◆ また、穴の長さは、穴を通過する電磁波の波長に影響します。半波長(波長の半分の長さ)が、穴の長さよりも短い(したがって周波数が高い)電磁波は、穴を通過し、それよりも波長が長い(したがって周波数が低い)電磁波は穴を通ることができません。
ノイズは、信号周波数と周波数帯域が等しいものが、最も悪い影響を及ぼします。信号の周波数帯域よりも十分高い周波数のノイズも、信号に悪影響を与えます。しかし、このノイズは、仮に乗ってしまっても、フィルタで取り除くという手段があります。周波数帯域が等しいと、乗ってしまったら取り除く手段がありません。

シールドにとっては、穴は開いていないことが理想です。しかし、仮に開いていたとしても、上記の理由によって、十分に短い穴であれば、許容することが、できます。たとえば、通風のための穴を開ける必要がある場合には、十分に小さな穴を多数開ければ良いわけです。
◆ この目的には、金網も有効です。ただし、電気的に完全に繋がっていないと、長い穴になってしまい、シールド効果が無くなります。繋ぎ目を電気的に、完全にするためには、網ではなく、エキスパンドメタルが有効です。エキスパンドメタルは、パンチした金属板を引き伸ばしたものです。継ぎ目の無いムクです(図.8)。

[図.8] エキスパンドメタル

エキスパンドメタル

◆ 細くて長い穴は、十分に注意しないと、随所に生じます。たとえば、ケースの金属板の接続個所は、長い穴を作ります。機械的には、完全にふさがっていても、接続面が塗装されていれば、電気的には穴です。完全さを表現するのに「水が漏れない」といいます。しかし、水が漏れなくても、電波は漏れることがあります。
シールド効果が高いケースを実現するためには、十分な配慮が必要です(12.(2-B)参照)。この配慮は、ケースだけでなく、シールド一般にも適用されます。


[コラム.1] シールドのいろいろ

★ シールドは、遮蔽を意味します。何であっても、覆い隠せばシールドです。シールドの名が付くもので、最も一般的なのは、シールド工法でしょう。昔は、地下鉄や下水道の工事は、露天掘でしたが、今では、ほとんどがシールド工法です。
シールド工法は、船食虫が、木を食いながら進むことから、ヒントを得て、開発されたものだそうです。シールドの名は、周囲を遮蔽してその先端を掘削することから、付けられたのでしょう。

シールドマシン       シールド工法による地下鉄駅

★ 遮蔽を意味する、もう一つの言葉に、シェルタがあります。シェルタは、単なる遮蔽ではなく、避難の意味があります。何から避難するかによって、いろいろな、シェルタがありますが、思い浮かべるのは、核シェルタでしょう。最近では、核戦争の脅威は、ほとんど、なくなりましたが、一時は、騒がれました。
もっと、平和なシェルタに、アニマシェルタがあります。これは、植林した苗木を、鹿などの食害から守るための、シェルタです(下図左)。

アニマシェルタ     シールドの性能による分類

★ さて、電気のシールドですが、シールドを、その性能によって分けると、上図右のようになります。
また、シールドの種類によって整理すると、下記となります。ノイズ対策部品を、まとめたものが、さらに、下の図です。

、シールドの種類による分類

ノイズ対策部品のまとめ

★ 光を遮蔽して、暗所で作業するための部屋が、暗室です。同様に、電気的なノイズを遮蔽した部屋を、シールドルームといいます。光の実験や試験に、暗室が欠かせないように、ノイズの実験試験には、シールドルームが、必要です。下図は、屋内に設置するタイプのものですが、建物全体が、シールドルームとなった、大きなものもあります。

シールドルーム




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