◆ 主なノイズシミュレータについて、解説します。
ノイズシミュレータ は、本来は、実際のノイズに、できるだけ近い特性を、持っていることが、望ましいわけです。しかし、実際のノイズは多様であり、再現性もありません。ノイズシミュレータは、実際のノイズ特性、と多少ずれていても、再現性が高いことの方が、重要です。
ノイズシミュレータは、使い方によって、発生するノイズ特性が、大きく異なります。使用条件を一定にして、テストを行う必要があります。
イミュニティ試験では、ノイズシミュレータで、印加したノイズに対して、誤動作が発生しないことを確認します。
単発性のノイズは、回路動作のタイミングと、ノイズのタイミングとの、相対的な関係によって、誤動作が発生したり、しなかったりします。確実な試験を行うためには、回路動作と非同期なタイミングで、多数回ノイズを印加する試験を、行うことが必要です。
◆ イミュニティの評価では、一般に、ノイズマージンを使用します。印加するノイズ電圧、または電流を徐々に上げて行き、誤動作を引き起こさない、ギリギリの電圧(電流)をノイズマージン といいます。ただし、測定条件によって、ノイズマージンは、大きく変わりますから、測定条件を、明らかにしておく、ことが必要です。
イミュニティの解析には、印加したノイズが、内部の回路を伝わって行く状況を知ることが、重要です。この目的で、内部回路の各部のノイズ波形を観測します。このときは、通常は、電源を止めた状態で測定します。各部のノイズ電圧の中で、過大な点を見出して、それに対する対策を施します。
◆ 静電気放電(ESD)の多くは、人体からの放電です。人体からの放電に、最も近い状態をを実現する、静電気放電シミュレー タとして、従来、羽根方式静電気放電シミュレータ が、使用されてきました(図.3)。
◆ しかし、羽根方式は、形が大きく、使い難いことから、コンデンサ方式静電気放電シミュレータ が、主に使われています(図.4)。
◆ コンデンサ方式には、(a)と(b)の2つの方式があります。(b)の方が、再現性が良いので、(b)について説明します。
コンデンサ C および抵抗 R2 の値は、各種選択可能で、人体以外にも、色々な条件を、作ることができます。人体からの放電のときは、C = 200〜250pF、R = 100〜500Ω です。
放電の仕方は、接触放電と、気中放電との 2 種類がありますから、プローブに付ける放電用チップ にも、2種類あります(図.5)。
◆ 人体からの放電は、気中放電 です。しかし、再現性の点では接触放電 の方が、優れています。IEC 61000-4-2 の試験方法には、両方式が併記されています。
◆ 一般的な試験方法を、図.6 に示します。
◆ グラウンドプレーン (大地を模擬した平面状の金属板)の上に、グラウンドプレーンよりも一回り小さいビニールシートを敷き、その上に試験機、供試体等を載せます。試験機と供試体は、編組ケーブルで、しっかりグラウンドを取ります。放電個所によって、誤動作の状況が変わりますから、実際に人体が触れやすい個所について、多くの個所でテストします。
気中放電では、放電状態の再現性を得るために、50% フラッシオーバー方式 を使用します。放電距離(プローブ先端と供試体との距離)を定め、タイマーによって一定時間間隔でトリガを掛けます。
印加電圧を上げて行くと、放電を開始します。トリガの回数の 1/2 の回数だけ放電が起こるときの印加電圧が、50% フラッシオーバー電圧です。フラッシオーバー電圧は、放電距離を変えると変化します。
◆ イミュニティの解析では、まず第 1 に、放電時の、グラウンドおよび電源の各部の電圧を調べます。それによって、インピーダンスが高いところが分かります。
電源・グラウンド系の対策の第 1 は、電源、グラウンドそれぞれのインピーダンスと、電源〜グラウンド間のインピーダンスを低くすることにあります。まず、その対策を講じます。
多くの問題は、それで解決するはずですが、なお問題が残る場合は、信号系の電圧を調べます。
◆ 放射無線周波電磁界シミュレータ は、放射ノイズ シミュレータ の名でも呼ばれています。構成例を、図.7 に示します。電波暗室で使用します。通常、コンピュータによって、自動測定を行います(22(2-B)図.7)。
◆ テスト方法は、2 種類あります。1 つは、アンテナを使用する方法で、供試体をターンテーブルに載せて使用します。
もう 1 つは、TEM セル(図では G-TEM セル)を使用します。TEM セル は、室内で容易に、平面波(TEM 波)に近い電磁波を作ることができます。TEM セルの中に供試体を入れ、電界の強さを設定して使用します。
G-TME セル は、TME セルを、さらに広帯域にしたものです。装置全体をシールドして、電波暗室を不要にした製品もあります。
◆ 電気的ファーストトランジェント ノイズシミュレータ は、開閉サージなどを模擬します。電気的ファーストトランジェント ノイズシミュレータは、AC 電源にノイズを加えることができるので、電源ノイズ シミュレータ とも呼ばれています。この名が付いていても、AC 電源線以外のところにノイズを注入して、汎用的に使用することができます。
印加する電圧は、開閉サージの波形ではなく、基本的には方形波です。図.8 は電気的ファーストトランジェント ノイズシミュレータの構成例です。
[図.8] 電気的ファーストトランジェント ノイズシミュレータの構成例
◆ 図.9 は、電気的ファーストトランジェント ノイズシミュレータによる、電源ノイズ試験方法の一例です。
◆ 図.8 において、マーキュリーリレーをオフにして、高抵抗 R1 を介して同軸ケーブルを充電しておきます。マーキュリーリレーをオンにすると、同軸ケーブルに蓄えられていた電荷が、、供試体に、ノイズとして印加されます。
インジェクション部にある L1、L2、C3、C4 は、のイズが、供試体側だけに流れ、電源入力側には、回りこまないようにするための、フィルタです。ノイズ電圧は、R 相への印加と、S 相への印加との、両方のデータを取ります。
同軸ケーブルが適正に終端されていれば、印加されるノイズの波形は、信号が同軸ケーブルを往復する時間(10ns/m)のパルス幅を持つ方形波となります。パルス幅は、同軸ケーブルの長さを、変えルことによって、行うことができます(50ns〜1μs程度)。
通常、パルス幅は、細いパルスと、太いパルスの両方で行います。細いパルスは大きな電圧変化に対する試験、太いパルスは大きなパワーに対する試験です。
◆ 終端が適正でなければ、反射が生じ、出力波形は変化します(図.10)。(a)は、適正に終端され、反射が無いときの波形です。適正終端でないときは、反射が発生し、(b)または(c)の、ような波形になります。
◆ 実際には、供試体には、電源コードによって接続され、供試体の電源入力インピーダンスは色々です。したがって、複雑な反射が起こり、供試体における入力波形は複雑な波形になります(図.11)。
◆ この供試体の入力波形は、電源コードの始末によって大幅に変わります。電源コードによる波形の鈍りが大きいと、供試体に印加される波形が鈍りますから、不当に良い結果が得られてしまいます。電源コードは、一定の条件にそろえて、試験を行うことが必要です。
電源コードは、図.9 のように、グラウンドから浮かせるか、または図.12 のように、グラウンドプレーンに、密着させるか、どちらかに統一して、試験を行います。
◆ 電源コードの長さが違うと、供試体に印加される波形が変わり、ノイズマージンが変化します。イミュニティの立場からは、最悪条件での値を保証する必要があります。
イミュニティの解析では、まず第一に、AC 電源系各部の放射のイズを調べ、対策を講じます。その後に、DC 系への回り込みを調べます。
◆ インターフェースケーブルに、ノイズを印加するときは、ノイズ注入プローブ を使用するのが便利です(図.13)
◆ プローブの使い方によって、ノーマルモード、コモンモード、の、どちらを印加することも、可能です(図.14)。
◆ インターフェースでは、上流/下流の、どちらが誤動作しているかを、調べたいことがあります。このときは、図.15のように、片側にフィルタを挿入すると、判定することができます。
◆ ノイズ注入プローブは、ちょっと変わった使い方もできます。図.16 のようにすれば、特定の場所に、放射ノイズを注入することができます。
◆ サージ シミュレータ は、誘導雷のシミュレータです。雷サージ シミュレータ の名でも呼ばれています。基本的には、静電気放電シミュレータと同じです(図.17)。
E : 直流可変電圧、R1 : 充電抵抗、R2 : 電流制限抵抗(2.5Ω)、
R3 : 発生源抵抗(50Ω)、R4 : 供試機器に対する限流抵抗(100Ω)、
C1 : 主放電コンデンサ(1.2μF)、C2 : 注入コンデンサ、
(V) : 放電電圧指示メータ、L : R2+R3と共に波形の立ち上がり 1.2μsを決定するコイル
S.B : 限流抵抗 100Ω が不要のときのショートバー、O1 : 静的破壊試験の出力
O2 : 動作状態試験用のインジェクション入力に接続する出力
G : 筐体と同じレベルの信号グラウンド、VR : メーター調整用の可変抵抗
◆ サージシミュレータは、静電気放電シミュレータと比べて、放電用コンデンサの容量が大きく、大きなパワーを発生します。このため、取り扱いを慎重にしないと、人体に危害を及ぼす恐れが、あります。
テストは、供試体に、破壊が発生するかどうかを調べる、静的破壊試験 と、破壊しない条件での、誤動作をチェックする、動作状態試験 とがあります。
雷サージは、電源線や信号線などを経由して伝わってきます。したがって、電源ノイズ シミュレータと同様に、電源線に、ノイズを印加することが、できるようになっています。
雷サージは、接地インピーダンス(接地に対するインピーダンス)が大きいときは、電圧が急速に立ち上がり、その後緩やかに電圧が減少します(図.18)。これを、電圧サージ といいます。
◆ 電圧サージの試験法を、図.19 に示します。
◆ これに対して、接地インピーダンスが低いときは、電圧は、あまり高くなりませんが、大電流が流れます。これを電流サージ と言います。電流サージの波形を図.20 に、電流サージの試験法を図.21 に示します。
◆ 電流サージの試験は、電圧サージの試験を先に行い、これに合格した後に行います。
◆ 電圧ディップ、瞬間停電シミュレータ は、AC 電源の各種の変動、すなわち、電圧ディップ (図.22)、電圧変動 (図.23)、短時間停電 (瞬間停電 、図.24)を作るシミュレータです。変動の大きさ、継続時間、繰り返し間隔、繰り返し回数、変動開始の位相などを、設定することができます。