ノイズ対策技術

22. EMIノイズ規制

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22.(1) 概   要

22.(1-A) EMC について

◆ ノイズは、どこかで発生し、どこかを伝わって、被害を受ける場所で信号に妨害を与えます(1.(3))。ノイズの発生源を野放しにすることはできませんから、法的な EMI 規制 があります。
昔は、被害者として、ラジオやテレビを想定し、それらに妨害を与える、非電子機器を対象とした規制が作られていました。しかし最近では、電子機器が相互に妨害し合う問題に対処して、電子機器に対する EMI 規制が作られています。
一方、ノイズを受ける側も、ある程度のノイズ耐性(イミュニティ)が、要求されます。これに対応して、イミュニティについても、法的に規制する方向にあります(1.(3-C))。
そして、EMI とイミュニティとを総合的に管理する、EMC が重要視されています。
法的な規制は、当然各国ごとの法律によりますが、それらを統一するための、国際規格化が進められています。
国際規格は、ISO (国際標準化機構)が ISO 規格を制定していますが、電気に関しては、IEC (国際電気標準会議)が中心となっています。
◆ EMC 関係は、IEC の分科会である TC77 が担当しています。また、IEC の下部機構である CISPR (国際無線障害特別委員会)、ITU -T (国際電気通信連合会・電気通信標準化セクタ)などが、EMC 関係の規格を制定しています。
ノイズの影響は、機器の種類によって異なります。この意味では、機種ごとに規格や規制を作る必要があります。しかし、次々と新製品が登場します。個別の製品に対する規格や規制が後追いになってしまいます。この問題に対処するために、IEC では、EMC 関係の規格を、図.1 のように、分類し、定義しています。

[図.1] IEC の EMC 規格の分類と定義

IECのEMC規格の分類と定義

◆ 新しい製品であっても、ある製品群に属するものとして、その規格を適用することができます。

22.(1-B) EMI について

◆ 日本、米国および EU (ヨーロッパ連合)における、EMI 規制図.2 に示します。

[図.2] 日本、米国および EU における EMI 規制、規格

日本、米国および EU における EMI 規制、規格

ISM 機器 : 工業用、科学用および医療用高周波機器

◆ 日本では、従来から電気用品取締法 によって、ラジオやテレビに妨害を与える機器の規制を行ってきました。その内容は国際規格 CISPR にしたがって改正されています。
電子機器に対する規制は、VCCI となっています。VCCI は、情報処理装置等電波障害自主規制協議会 です。したがって法律ではありません。しかし、だから軽視しても良いということではありません。内容は、ほとんど CISPR と同じです。

22.(1-C) VCCIについて

◆ VCCIでは、機器が使用される環境によって、2種類に分けて、規制値を変えています(図.3)。

[図.3] VCCI の規制

VCCI の規制

◆ 住宅地域(家庭用)は、妨害を与える機器から 10m 以内にラジオやテレビなどの、被害を受ける機器が設置されている環境です。業務用が家庭用よりも緩いのは、加害者も被害者も、同一事業所内あることを想定しているからです。必要なら自分で対策を立てることができます。
クラスBに適合した製品は、図.4 に示す、マークを付けます。

[図.4] VCCI のマーク

VCCI のマーク

◆ VCCI の規制内容は、妨害電界強度 (放射ノイズ)と、電源妨害電圧 (電源線に出すノイズ)の2種類を規定しています(図.5)。

[図.5] VCCI の規制

VCCI の規制

◆ 放射のイズは、空中を伝わって、他に妨害を及ぼします。
機器から電源線に出すノイズは、30MHz 以下のノイズは、電源線を伝わって、同じ電源に接続されている他の機器を妨害します。このノイズが、電源妨害電圧です。しかし、高周波(30MHz 以上)のノイズは、電源線を伝わらないで、電源線の機器に近いところから放射され、放射のイズの形で他を妨害します。VCCIでは、この放射のイズは、妨害電界強度として測定し、電源妨害電圧は、機器付属の電源線から外へ出てゆく電圧として測定します。

22.(1-D) 人体への影響

◆ 電磁波は、人体への影響が懸念されます。とくに、携帯電話 は、顔に接して使用しますから、出力は小さくても、頭部への影響が考えられます。人体への影響は、有ると、確認されては、いません。しかし、安全のために、最近、携帯電話に対して、規制が実施されました。
SRA と呼ばれる測定を行い、規格に合致していることが義務付けられました(無線設備規則の一部改正)。人体頭部のモデルを使用して、携帯電話の使用状態で、頭部モデル内部での電波の吸収を測定し、規格内であることを確認します。
最近は、ワイヤレスLANなど、身近に無線機器が多く使用されるようになってきました。現在の規制は携帯電話だけですが、将来は、携帯電話のような、使われ方をする、可能性がある、ワイヤレス機器も規制の対象になるかも知れません。

22.(2) 妨害電界強度

22.(2-A) 規 制 値

◆ 放射ノイズですから、機器から一定距離離れたところの、電界強度を規制しています。テストは、距離によって、3m 法 10m 法 30m 法 の 3 種類が規定されており、VCCI の規制値は、クラス A が 30m 法、クラス B が 10m 法です(図.6)。

[図.6] VCCI の妨害電界強度規制値

VCCI の妨害電界強度規制値クラスA VCCI の妨害電界強度規制値クラスB_

[注] dB(μV)は、デシベル表示ですが、相対値ではなく、1μV を 0dB とする絶対値を表します。

第 1 種と第 2 種の、数値は同じですが、当然 10m 法の方が、厳しいわけです。

22.(2-B) 測定装置

◆ 測定方法が異なるために、同じものが合格したり、不合格になったりしたのでは困ります。法規制では、測定方法を規定しておくことが必要です。
規制値から分かるように、測定は広い周波数範囲にわたっています。また、放射は 3 次元に広がりますから、測定方向も多数になリます。したがって、測定は、自動化されていることが、必要です。
妨害電界強度測定装置 の1例を、図.7に示します。

[図.7] 妨害電界強度測定装置

妨害電界強度測定装置

◆ 供試機器ターンテーブルに載せ、ターンテーブルを 360°回転させます。これとアンテナの上下とを組み合わせて測定を行います。コンピュータで制御を行い、測定結果はプリンタおよびプロッタに出力します。
バイコニカル アンテナ は、電界強度を、30〜300MHz で、調整を必要としないで、簡単に測定できるアンテナです。さらに高周波では、ログペリオディック アンテナ(〜1GHz)を、さらにはホーン アンテナ(〜10GHz)を使用します。

22.(2-C) 電波無反射室

◆ 放射ノイズの測定を行うためには、他からの放射ノイズを防ぐ必要があります。従来は、都市から離れた山間地にある、露天のオープンサイト が利用されていました(図.8)。

[図.8] オープンサイトの例

オープンサイトの例


◆ しかし、山間部であっても、電波が飛び交っていない場所はありません。バックグラウンド ノイズを測定して差し引きますが、これでは、正確な測定は、期待できません。
最近では、電波無反射室 (電波暗室 電波無響室 シールドル−ム )を使用するようになってきました(図.9)。ただし、3m 法が多く、30m 法は、ほとんど無いと思われます。 通常は、3m 法で測定して、図.6(b)のように、10m 法、30m 法に換算します。
電波無反射室は、外部からの放射をシールドし、同時に内部を、電波吸収材で囲むことによて、無反射にしたものです。
ただし、床は金属板を敷いて、電波を反射させます。大地は、電波を反射しますから、実際の状態に合わせるためです。金属板を敷いた場合は、床からの反射がありますから、電波半無反射室 とも言います。

[図.9] 電波無反射室

電波無反射室

◆ 床には金属板を敷き、壁と天井は、電波吸収材を貼ってあります。壁と天井にある凹凸は、電波を乱反射させるためのものです。

22.(2-D) 対   策

◆ 妨害電界強度の測定では、全体的な、電界強度が分かります。しかし、規制値をオーバーした場合の対策のためには、具体的に、どの場所から強く放射されているのかを、知ることが必要です。
ケースをシールドする、あるいはシールドを強化するという、全体的な対策も、あります。しかし、放射発生個所での、放射を減らすことの方が、より正しい対策です。
局所的な放射を、簡便に測定する方法として、ノイズサーチ プローブ があります(図.10)。

[図.10] ノイズサーチ プローブ

ノイズサーチ プローブ

◆ ノイズサーチ プローブは、絶対値の測定はできませんが、放射が強い場所を探す目的には、十分です。
図のル-プは手作りします。ループの径 φ と巻数 N は、基本的には、波形が見易いように決めます。目安としては、径 φ が 10〜15cm 程度、巻数 N が数〜十数ターンです。
たとえば、配線から出るノイズは、図.11 のようにするなど、工夫すれば、かなり、きめ細かく状況を掴むことができます。

[図.11] ノイズサーチ プローブの使用例

ノイズサーチ プローブの使用例

◆ なお、ノイズサーチプローブは、非接触形および接触形の市販製品もあります。

プリント基板などからの放射のイズの、強度分布を測定して、パソコンのディスプレイに、2 次元または、3 次元的に表示する、電磁波妨害源探査装置、シミュレーションによって予め強度分布を求めるソフトウェアなどもあります。

22.(3) 電源妨害電圧

22.(3-A) 規 制 値

◆ VCCIEMI 規制で、妨害電界強度と並ぶ、もう 1 つの規制が、電源妨害電圧 です。機器からAC電源線に出て行き他を妨害するノイズに対する規制です。規制値を図.12に示します。妨害電界強度と同様、クラス A クラス B とがあります。

[図.12] VCCI 電源妨害電圧の規制値

VCCI 電源妨害電圧の規制値(クラスA) VCCI 電源妨害電圧の規制値(クラスB)

[注]  以前は、経過措置として、一部 CISPR より緩和されていましたが、2001年4月から、この緩和措置が無くなり、CISPR と同じになりました。

◆ 30MHz 以上の高周波ノイズは、電源線に出ても、機器のすぐ傍から放射ノイズとなって空中に伝わります。これを、妨害電力 といいます。VCCIでは、この妨害電力は、妨害電界強度に含めています。

22.(3-B) 測   定

◆ 電源妨害電圧の測定は、図.13 のように行います。

[図.13] 電源妨害電圧の測定

電源妨害電圧の測定

◆ 電源線は、長さもインピーダンスも、機器ごとに大きく異なります。このため、電源線に出力されるノイズも、大幅にばらつきます。測定条件を揃えることが必要です。
図に示すように、機器に付属している電源線を束ね、その先に擬似電源回路 (図.14)を接続し、擬似電源回路を介して電源を供給します。
なお、測定装置の下面は、金属板になっています。測定条件を一定にするために、ほとんどのノイズ測定では、下面に金属板を敷きます。この金属板は、大地を模擬します。

[図.14] 擬似電源回路

擬似電源回路

◆ 擬似電源回路は、測定条件を一定にすると共に、供給電源(図の電源)から供試機器、供試機器から供給電源へのノイズの漏れを防ぎます。
妨害電力の測定には、吸収クランプ法 があります(図.15)。

[図.15] 吸収クランプ法

吸収クランプ法

◆ 電源線を取り囲むように、吸収クランプ(妨害電力吸収装置)を設けます。これを移動させ、その吸収電力が最大になる位置を求め、このとき吸収された電力が、妨害電力です。

妨害電力に対する対策は、通常、電子機器は電源ラインフィルタを使用していますから、適切な電源ラインフィルタ製品の選定、およびおよび電子機器内部の電源配線グラウンド配線の検討、があります。


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