データ伝送web講座

6. 符号化と変調

line

6.3. 変   調

6.3.(1) 変調の概要

6.3.(1-A) 変調の目的

◆ この講座の定義にしたがって、変調は、正弦波形をベースにした、アナログの変調を指します。
ある信号を、電気信号に変換したとき、この電気信号のことを、ベースバンド信号 と言います。この「ある信号」は、アナログの信号でも、ディジタルの信号でも差し支えありません。
ベースバンド信号が、そのままでは、長距離 高速の伝送に適さないとき、伝送に都合がよい、アナログ信号形式に変換するのが変調で、ディジタル信号形式に変換するのが符号化です。
◆ 変調は、有線 の伝送にも用いられていますが、無線 では、必須の機能です。無線は、電波によって信号を伝えます。電波は、所定の周波数数で送られます。そして、空中で電波が交じり合っていても、周波数の違いを利用して、所定の電波を選択的に取り出すことが可能です(図.38)。周波数多重化です。

[図.38] 周波数の差によって分離できる

周波数の差によって分離できる

◆ 分離には、フィルタ、または、狭帯域トランスが用いられます。
有線においても、1 回線を多重化する手段として、複数の信号を、互いの周波数を変えて伝送します。
この章では、有線の変調について解説します。無線は第 12 章で扱います。ただし、変調の技術は共通です。

6.3.(1-B) 概   要

◆ 電波は基本的には、正弦波形です。有線でも、変調の元になるのは、正弦波形です。変調は、その正弦波形を若干変形して、その変形によって信号を表わします。正弦波形を変形する方式によって、変調は、3 種類に大別されます。図.39 は、ディジタル信号を例として、その 3 種類を示したものです。

[図.39] 変調の種類

変調の種類

◆ 変調の元になる正弦波形を搬送波 (キャリア )と言います。そして、変調された信号が変調波 です。アナログ信号で編著した場合には、変調波の、振幅、周波数、位相は連続的に変化します。
振幅変調は、最も簡単ですが、伝送上の性質が劣るので、単純な用途以外には用いられません。また、周波数変調と、位相変調は、変調のやり方は異なりますが、変調波の性質は同じです。ディジタルの符号化で、f/2f 符号バイフェイズ符号とは、符号化された信号の波形は同じでした。このことからも類推できます。
◆ 符号化は、元々、アナログの変調を、ディジタル化してものですから、相互に類似性があります。
搬送波は、単一周波数の信号ですが、変調された変調波は、周波数帯域を持ちます。周波数変調が、周波数帯域を持つことは、直感的に分かります。振幅変調や位相変調は、一見、単一周波数のように見えますが、振幅や位相が遷移する部分に、搬送波と異なった周波数成分を含みます。
◆ 基本的な変調は、上記の 3 種類ですが、実際に使われているのは、これらを組み合わせたり、変形したものです。
変調は、アナログです。しかし、変調/復調を行う IC は、ほとんどがディジタル LSI です。専用の LSI を使用するほか、マイクロコンピュータや、シグナルプロセッサー と呼ばれる、信号処理専用のマイクロコンピュータが使用されます。

6.3.(2) 各種の変調

6.3.(2-A) 電話回線用モデム

◆ 昔は、電話回線が、手軽に利用できる、唯一のブロード回線でした。電話回線は、音声周波数帯域の信号しか通しません(2.2.(2-B))。ディジタルデータを送るためには、モデム (変復調装置)が必要です。
電話回線は、周波数帯域が狭いので、狭い周波数帯域で、如何に多くのデータを送るかに、工夫が施されてきました。
◆ 周波数帯域が狭いので、周波数多重化によって、実効伝送速度を上げることは、できません。電話回線では、搬送波として、1.2kHz が用いられています。この 1 つだけの搬送波に、多数の信号を載せることは容易ではありません。図.40 のようなことは、できません。

[図.40] 低い周波数の搬送波で、高速のデータを識別する

低い周波数の搬送波で、高速のデータを識別する

◆ これを解決する第一の手段が、多数の位相を識別することです(図.41)。

[図.41] 多数の位相を識別する

多数の位相を識別する

◆ 図の(a)は、単純な、2 値を識別する位相変調ですが、(b)は、90°異なった 4 値を識別することができます。この技術によって、8 つの位相を使用して、4.8kビット/秒の伝送が可能です。
さらに、高速化するには、位相変調に、振幅変調を組み合わせます。これを QAM と言います(図.42)。

[図.42] Q A M

Q A M

◆ 図の例では、位相が 8 相で、その各々に、振幅で 2 値があり、合計で 16 値が識別され、9.8kビット/秒に対応します。最近では、このQAM を利用した、56kビット/秒のモデムが多く使われています。
以上のように、搬送波の周波数が同じでも、伝送速度の異なったものがあります。搬送波の周波数を速度で表示したものを、変調速度 と呼び、その単位を ボー (BAUD )と言います。
◆ 変調速度が同じでも、伝送速度(単位は ビット/秒)は、変調方式によって異なります。変調状態が、2n個存在すれば、変調速度を VM、伝送速度を VT とすれば
     VT = n VM
です。
以上のように、伝送速度と、変調速度とは定義が異なり、変調方式によっては、値が異なります。また、変調しない場合には、変調速度自体が存在しません。
それにも関わらず、伝送速度のことを、ボーレート呼んだり、単位をボーで表現している例が、かなりあります。本来なら、これは誤りですが、既に慣用語になっています。

6.3.(2-B) A D S L

◆ ADSLモデムを使用しています。ADSL も電話回線を使用しますが、物理的な回線を利用するのであって、電話網とは、システムが、異なります。そして、周波数多重化によって、同一回線を、電話網と共用することが可能です(2.2.(2-C))。
ADSL は、電話よりも高い周波数を使用します。そして、高速の伝送を実現するのに、自身を周波数多重化しています(図.43)。

[図.43] ADSL のしくみ

ADSL のしくみ

◆ 図は、8/12/24 Mビット/秒の ADSL です。上り(ユーザー宅から送信する方向)は、138kHz までの周波数で、25 チャンネル(本)の搬送波を使用して、合計 1.5 Mビット/秒です。下り(ユーザー宅が受信する方向)は、8/12Mビット/秒のサービスでは、1.1MHz までの周波数で、223 チャンネル(本)の搬送波によって伝送します。24Mビット/秒のサービスでは、さらに高周波の帯域を使用します。
回線が引かれている場所や、そのときによって、伝送路のノイズ環境が異なります。ノイズによる誤動作が多いチャンネルは使用しないで、良好なチャンネルだけを使用して伝送を行います。すなわち、ノイズ環境が悪いと、伝送速度が低下します。
◆ ただし、逆に、よほど強烈なノイズで無い限り、全てのチャンネルが同時に死ぬことはありません。
ケーブルは周波数特性を持ち、高周波ほど、減衰が大きくなります。電話局からの距離が遠いと、高周波部分のチャンネルは、S/N が低下しますから、利用可能なチャンネル数が減少します。距離によって、伝送速度が低下する(2.2.(2-C 図.9)のは、この理由によります。
なお、ADSL には、各種の方式があります。方式によって、各チャンネルのフレーム構成が異なります。

6.3.(2-C) ケーブルテレビ

◆ ケーブルテレビ網は、元々は、同軸ケーブルによる、テレビの配信網です。テレビ自体が、各チャンネル当たりの周波数帯域が広く、それが多数チャンネルありますから、相当な広帯域です。同軸ケーブルを使用しても、かなり減衰してしまいます。したがって、トリー状の伝送路の要所要所に、増幅機能を持つ分岐器や中継器(TDA/BA)を設けています(図.44)。

[図.44] ケーブルテレビ網

ケーブルテレビ網

◆ 図で、タップは、各戸に引き込む分岐器です。
現在では、同軸ケーブルよりも、はるかに減衰が少ない光ファイバを、使用することができます。ケーブルテレビ網の幹線は、光ファイバに置き換えられ、末端部分だけが、同軸ケーブルのシステムが、多くなっています。
◆ テレビチャンネルの割付を、図.45 に示します。1 チャンネルは、6MHz です。

[図.45] テレビチャンネルの割り付け

テレビチャンネルの割り付け

◆ ケーブルテレビでは、多数のチャンネルを選択切替を行います。したがって、モデムは、この切替機構と一体化した、セットトップボックスにになっています。1 チャンネルの 6MHz は、テレビにとっては十分な帯域ですから、特別な方式の変調は、行っていません。
電波による、テレビ放送は、デジタル化されようとしています。このディジタル放送を、ケーブルテレビで伝送するためには、6MHz の帯域では不足します。ケーブルテレビでは、ディジタル放送を、64QAM 変調して、6MHz の 1 チャンネルに収めます。
◆ インターネットは、上記テレビチャンネルの空きチャンネルを利用します。テレビは、本来下りの単方向です。しかし、ケーブルテレビでは、有線であると言う特徴を利用して、双方向のサービスを行っている場合がありました(図.46)。

[図.46] 双方向伝送が可能

双方向伝送が可能

◆ この場合には、上り(図ではリバース)のチャンネルも用意されています(図のミッドスプリット リバース)。下り信号は、同じものを、タップで分岐するだけです。これに対して、上り信号は、異なる信号を、タップで混合することになります。この意味で、上りは下りよりも、品質が低下し、ノイズを拾う可能性が高くなります。
上りの信号は、必要なら中央のヘッドエンドで折り返すことができます。この機能を利用すれば、ステーション同士の交信も、可能です。これらが可能なシステムであれば、インターネットで必要な機能を具えています。
◆ インターネットは、セットトップボックスとは別の、ケーブルモデムを使用します。最近では、他のブロードバンドのサービスが高速になっています。これに対抗するために、ケーブルテレビでも、高速のサービスが必要になっています。
下りに、256QAM を使用することによって、約42Mビット/秒が、上りに、16QAM を使用することによって、約)9Mビット/秒が、可能です。なお、この伝送速度が得られえたとしても、これを多数で共用すれば、混雑時の実効速度は低下します。
◆ 幹線が光ファイバ化されたシステムであれは、幹線部分の帯域は、十分に広く取ることができます。実行速度の低下を、少なくすることが可能です。
なお、上りの機能は、全てのケーブルテレビ網が持っているわけではありません。インターネットのサービスを行っていないところは、上りの機能を持っていないところが多いと考えられます。



目次に戻る   前に戻る   次に進む